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第2節 ヨーロッパの住宅ブーム
1.1990年代後半から上昇が続く住宅価格
1990年代後半以降、アメリカ、オーストラリア等世界の先進国等で住宅価格が上昇し、住宅ブームが注目されている。ヨーロッパでも、90年代後半から住宅価格が上昇し始め、この2、3年には住宅市場の活動は一層活発になっている。2004年の住宅価格上昇率(前年比)をみると、スペイン、フランスでは約14〜15%、ついでアイルランド、英国が約12%と2桁台の上昇となっている(第2-2-1図)。スペイン、フランス、アイルランドでは住宅価格の高い伸びが続いている。
また、住宅購入のしやすさを示す指標として個人可処分所得に対する住宅価格の比率をみると、2003年の比率は85年に比べて、スペインでは約3倍、アイルランドでは約2倍まで高まっており、一部の国で住宅価格がファンダメンタルを上回り、過大評価されている可能性がある(第2-2-2図)。オランダでは、可処分所得に対する住宅価格の比率は約2.5倍と高い状態であるが、これは90年代後半からの住宅ブームによるものである。しかし、景気が低迷し住宅ブームが終了した2001年以降は、住宅価格も緩やかな伸びにとどまっている。
ヨーロッパの住宅ブームは、2004年のユーロ圏経済の回復にプラスの影響を与えた。住宅価格の上昇が高い国では、強い住宅需要により建設投資が堅調に増加している。また、住宅価格の上昇に伴う資産効果等を背景に、特にフランス、スペインでは個人消費の増加が続いている。
2.住宅ブームの要因
以下で、ヨーロッパの一部の地域で住宅ブームとなっている要因を幾つか述べる。
●低金利
ECB(欧州中央銀行)の政策金利は2003年6月以降、ユーロ圏で戦後最低の2.00%に据え置かれており、それに伴い住宅ローン金利も低下している(第2-2-3図)。英国では2003年11月から2004年8月までの間に5回政策金利が引き上げられ、2004年8月以降4.75%に据え置かれているが、金利水準は依然として低い状態にある。現在は低金利により住宅ローンが利用しやすくなっており、住宅購入の活発化に貢献している。特にスペインでは、名目金利の低下とインフレの加速で実質住宅ローン金利は1%程度となっており、住宅ローンコストの低下が続いている。一方、フランスでも低金利による恩恵もさることながら、政府による様々な住宅ローン優遇政策も影響し、両国で住宅ローン残高の増加が続いている(第2-2-4図)。
●金融市場の規制緩和と金融機関間の競争激化
長引く低金利により過剰流動性を抱える金融機関は、運用先として民間部門への貸出を拡大するため貸出基準の緩和を行っている。貸出基準の緩和傾向は、企業向け貸出だけでなく個人向け住宅ローンにも共通している。ECBではユーロ圏内の金融機関に対し住宅ローンの貸出基準アンケート調査を行っており、それによると、2004年4〜6月以降、貸出基準の引締めよりも緩和を行った金融機関が多くなっている。また、住宅ローンの貸出基準が緩和された主な理由について、住宅市況や景気の見通しが好調であることよりも、他の金融機関との競争激化によるものが挙げられている。金融機関の間の競争激化による貸出基準の緩和が住宅ローン残高の伸びにつながっている。
●旺盛な住宅需要と需給のミスマッチ
ユーロ圏の人口は高齢化や移民の増加で1992〜2002年までの間に3.3%増となり増加が続いている。65歳以上の人口は92〜2002年で19.0%増と大幅に増加しており、移民もスペイン、アイルランドを中心に増加が続いている。一方で、一世帯人口の減少から世帯数が増加している。97〜2001年までの世帯数の増加は3.4%となっている。人口及び世帯数の増加により、旺盛な住宅需要が存在する。
しかし、市場では力強い住宅需要に見合うだけの供給がされておらず、住宅需給にミスマッチが生じている。フランスでは、良好な住宅供給が政府の重点政策となっているのに対して、2003年4月から導入されている賃貸目的の住宅購入に対する優遇税制は、賃貸住宅への需要を高め家賃や住宅価格の上昇を招き、かえって家計にとって手が届かないものとなり、住宅不足につながっているとされている。一方、スペインでは、政府の住宅政策は持ち家促進を優遇しているため、持ち家比率は約85%と非常に高く、住宅需要に柔軟に対応できる賃貸市場の整備が不十分である。また、実際に住宅ストックがあるにもかかわらず、高額なため空き家率が高いことも需給ミスマッチにつながっている。
3.住宅市場の今後の見通しとリスク
今後のヨーロッパの住宅市場の見通しとしては、引き続き強い住宅需要や、低金利、住宅ローン市場の競争圧力の増加等を背景に、2005年も住宅市場は活発な活動が続くと見込まれる。住宅市場が鎮静化しつつある英国に関しては、住宅価格の上昇はより緩やかになり、2005年の上昇率は2〜5%にまで落ち着く見通しとなっている。
一方、住宅価格高騰を懸念する声も出始めた。ECBは、月報(2005年4月号)のなかで、「貨幣及び銀行与信が力強く伸びていることから、ユーロ圏の幾つかの地域において住宅価格が力強く上昇している状況下でリスクが発生しつつあるのかどうか、注意深く監視する必要がある」と述べている。また、同月報の中で、「資産価格バブルと金融政策」という論文を掲載し、資産バブルについての関心を強めている。
家計の負債が増加するなか、今後、住宅市場の急激な調整が起こった場合、消費に悪影響を与える可能性が考えられるが、住宅価格急落のリスクは低いと見込まれる。その理由として、(1)2005年のユーロ圏経済は緩やかな回復が続くと見込まれること、(2)ユーロ圏の政策金利については、2005年のユーロ圏の成長率見通しの下方修正や、景況感の悪化等により、ユーロ圏の景気先行きへの不安が広がっていることを背景に、市場では2005年内の利上げは難しい状況にあるとの見方が強いこと、また利上げが行われるとしても水準自体は依然として低いこと、 (3)GDPに対する住宅ローン残高の比率に関しては70%前後の米英に対し、スペイン40%台、フランス20%台にとどまっており、また、利払い費も低金利のため低下していることから、家計の負債は米英に比べ低い水準であること、等が考えられる。また、住宅市場の急激な調整が起こった場合、金融市場に悪影響を与える可能性があるものの、今のところ銀行のバランスシートは健全であり、不良債権比率も低いことから、そのリスクは低いと考える。英国については、住宅価格上昇率(前年比)が2002年には約25%、2003年には約15%と住宅市場の活発な状態が続いたが、2003年11月からの5回にわたる政策金利引上げの影響等から、住宅価格の伸びも穏やかになっており、住宅ブームは落ち着きつつある。しかしながら、スペイン等、住宅価格の過大評価幅が大きいとみられる国については特に、今後の住宅市場の動向に引き続き注意していく必要がある。
コラム ヨーロッパにおけるセカンドハウスブーム
ヨーロッパでは主な住居に対する需要だけでなく、セカンドハウス需要も高まっている。穏やかな気候と新鮮な空気を求め、国内外にセカンドハウスを購入することが人気となっている。セカンドハウスはレジャー目的だけでなく、投資目的で購入することもあり、保有する住居を貸出すことや住宅市場で販売を行うことで、賃料及びキャピタルゲインを得ることができる。フランスやスペインを含むヨーロッパ南部では全ての住居の10〜15%がセカンドハウスとなっており、オランダやアイルランドなどヨーロッパ北部でも長い海岸を持つ地域においてセカンドハウスは増加している。
セカンドハウス市場が拡大している要因は幾つかあるが、その一つとして、ヨーロッパの家計の所得が高まっていることがあり、生活水準の向上からレジャーを重視する傾向となっている。また、航空運賃を始めとする移動コストの低下や交通網の整備が遠方のセカンドハウスへ向かう動機となっており、英国を始め北ヨーロッパの人々を中心にスペイン、フランスでのセカンドハウス需要が高くなっている。その他にも、住宅ローンがEU域内の他国でも利用できること、更に地域によっては住宅ローンに関する優遇措置があることなども、国内外のセカンドハウス需要が高まる要因の一つとなっている。
(参考文献)
RICS [2005] “RICS European Housing Review 2005”