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成果主義で月給2万円 損保会社社員の給与明細
(2005年8月1日号)
勤続23年の中年サラリーマンの今年6月分の手取り月給が「2万2632円」。成果主義とはいえ、これには本人も驚いた。
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「通帳を見た妻から『間違いではないか』と連絡があって確認したら6月の月給が2万円でした。ショックだった。妻はもっとショックを受けたようだ。これじゃあ生活できないですよ」
と、話すのは、中堅損害保険会社の富士火災海上保険(本社・大阪市)の首都圏本部に勤めている営業社員、サトウさん(仮名、52)。
「2万円では生きていけない。生存権を保障した憲法25条や労働基準法に違反する」 と7月15日、東京地裁に賃金仮払いの仮処分を申し立てた。今年3〜5月の平均給与額約22万円の支払いなどを求めている。
●年収1000万円あった
成果主義とはいえ月給2万円は極端だ。サトウさんの6月分の月給は額面では約11万5000円。ここから社会保険料や所得税などが引かれ、手取りが2万円になった。
勤続23年の正社員で、景気の良かったバブルの頃には年収1000万円を超えていた。妻と子2人の4人家族だ。
富士火災海上保険の正社員は歩合給の営業と、固定給の内勤の二つの職種がある。サトウさんのような営業職は、契約の実績に応じて額が決まる完全歩合制だ。年齢や勤続年数は関係がない。
同社は2000年、新しい「増加手当繰り越し清算」制度を導入。営業成績が上がれば、その分の「増加手当」が支給される。逆に、前年度に比べて悪化した場合、その翌年度の毎月の給与から一定額が引かれることになった。退職する場合もマイナス分が退職金から引かれる。さらに04年には、家族手当や住宅手当が廃止された。
「成績が下がったからといって、後からその分を会社に戻せというのは制度としておかしい。歩合制ということはわかって働いてきた。でも、途中で制度を変える一方的な不利益変更は認められない」
とサトウさんは主張する。サトウさんは実績をだせなかったため、この分も引かれている。この制度や手当の廃止がなければ、6月分の額面給与は21万4000円だったはずとの計算だ。
これに対して、富士火災海上保険の広報グループは、
「申立書はまだ届いてないので見ていないが、制度の改定の際には、法的に問題がないか顧問弁護士がチェックしている。多数派の労働組合も改定に同意した」
と反論する。
●理論上はマイナスも
社内には二つの労働組合があり、多数派の富士火災労働組合は会社側の新制度に事前に同意した。一方、サトウさんが副委員長を務める全日本損害保険労働組合富士火災支部は少数派。「一方的な制度変更の中止」を一貫して求め続けているのだ。
ところで、理論上は給与がマイナスにもなるこの給与制度。東京都の場合、時給710円を下回ると、最低賃金法違反になるが、同社広報グループは、
「日に7時間、22日間の労働で計算すると最低賃金は月額約10万9000円。営業成績が悪くてもこの額は払います」
サトウさんの11万5000円という額は辛うじて最低賃金を上回っていることにはなる。
労働法に詳しい早稲田大学の島田陽一教授は、こう指摘する。
「会社側は就業規則を一方的に変えることはできるが、制度に合理性がなければいけない。最低賃金には違反していなくても、労働基準法27条は、出来高払い制の場合の労働時間に応じた一定額の賃金の保障を定めている。この一定額は一般に平均賃金の6割程度とされており、今回のケースは微妙なラインだ」
(AERA編集部・有吉由香)
http://www.asahi.com/business/aera/TKY200508040252.html