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デジタルガバメント【電子政府情報】
欧州マンスリーニュース 2005年7月号
ベルギーにおける緊急事態管理対策:「緊急時指揮支援システムNoKeos®」を利用した緊急事態管理プロジェクト
http://e-public.nttdata.co.jp/f/repo/306_e0507/e0507.asp
「リスク文化」の欠如
ベルギーは、欧州諸国の中では比較的治安が良く、また天候が穏やかであるため、自然災害が少ない。しいて言えば、年に数回起こる運河の水のオーバーフローが主な自然災害であり、それもインフラに多少の損害を与える程度で、人命に関わるような深刻な事態に発展することはほとんどない。そのため、国民の間で危機管理意識が欠けており、リスク文化に乏しいといわれている。
ベルギー政府は、近代社会における様々な脅威(化学物質災害、テロ、原子力災害等)に対応するために、国民の危機管理意識を高めると同時に、十分な緊急事態管理体制を整えたいと考えている。実際、同国政府は、昨年7月に起こった、16人の死者を伴うガスパイプラインの爆発事故を深刻に受け止め、2005年度の内務省の防災対策を含めた市民保護の予算を、昨年度の8,000万ユーロを大きく上回る9,500万ユーロ(※注1)とした。
(※注1)内務省の市民保護担当長官マーク・ルーズ氏談。なお、この数値は、連邦政府内務省の市民保護予算のみである。同省以外にも、環境省や州政府がそれぞれ市民保護の予算を組んでいる。
同政府は、メディアを利用したキャンペーンを定期的に行い、国民に対して危機管理を身につけるように訴えている。しかしながら、キャンペーンや事故発生の直後は、国民の間での危険意識は高まるものの、平時に戻るとそのような心がけを忘れがちである。内務省の市民保護担当長官マーク・ルーズ氏は、長期的なリスク文化の形成には、学校教育のカリキュラムにリスク管理の科目を設けるなどして、市民を教育し、リスク文化を発展させる必要があるとしている。
ベルギーにおけるリスク
ベルギー政府は、以下に述べる同国の特徴のために、緊急事態が発生した場合、国内のみならず、近隣諸国に多大な影響を与える可能性が高く、そのためにも緊急事態管理能力を強化する必要性があると考えている。
【欧州の要】
ベルギーは、欧州委員会、欧州議会、NATO本部等を含む主要国際機関の本部を有しており、欧州の要としての重要な役割を果たしている。国際政治における重要性に加えて、世界でも有数の港であるアントワープ港を含め、欧州における海、空、陸路そしてガスパイプラインネットワークの主要ハブとしての同国の重要度は高い。
欧州では、2004年3月11日のマドリッドテロ事件、そして2005年7月7日のロンドン同時多発テロ事件を受けて、欧州域内におけるテロ対策のための国際協力体制を強化する動きがみられる。ベルギーは、主要建築物、空港、主要鉄道駅等の特定施設のテロ対策は整っているものの、事故を含むその他の非常事態に対応すべく国全体における緊急管理体制を強化する必要がある。
【原子力安全】
同国は、電力エネルギーに関して原子力発電に大きく依存しており、原子力大国であるフランスとも国境を有している。そのため、原子力安全体制を整え、綿密な災害対策プランを立てる必要がある。
【都市部の密集】
人口約1,000万人を有する同国の国土面積は、日本の九州の約80%程度であり、欧州でも最も人口密度が高い国の一つである。また、都市が互いに密接していると同時に、工業地帯が都市部に隣接している。そのため、以下のように、緊急事態が発生した際に、国内経済に大損害を及ぼす災害に発展する可能性が高いと考えられている。
原子力・化学物質事故が発生した際のリスク:都市部と工業地帯が隣接しているため、近隣住民への被害が大きい。
ドミノ効果による被害規模の拡大:化学物質災害や伝染病等が発生した際、被害を災害発生地域のみに隔離しておくのが難しく、国家規模の災害に発展する可能性が高い。
住民避難の困難性:人口密度が高く、交通網が複雑であるため、住民を安全な場所にスムーズに避難させることが容易ではない。
特有の防災対策体制と国際協力
ベルギーは、フランス語とオランダ語圏に分かれており、歴史的に、オランダ、フランス双方の文化の特質を併せ持っている。緊急事態管理を含む、防災対策の体制も例外ではない。ベルギーは、洪水対策を含む地理的な類似性に基づく防災対策においては、オランダを模倣しているが、実質的なオペレーション体制は、同国独自のものである。フランスの危機管理体制は、中央集権型であり、縦型の司令体制となっている。一方オランダは、各自治体が基本的に独立しており、横繋がりの体制が立てられている。表1に中央集権型・地方分散型それぞれの防災対策モデルの一般的な長所・短所を示す。
表1:中央集権型・地方分散型の防災対策モデル − 中央集権型モデル 地方分散型モデル
長所 ・責任の所在が明確である。 ・エリアごとのニーズに対応した防災対策プランをフレキシブルに立てることが可能である。
短所 ・上部に連絡してから対応を行う必要があるため、初期対応が遅れる可能性がある。
・上部の指導の下に対応を行うため、フレキシブルな対応が困難である。
・地元市民から離れた防災対策体制が敷かれている。 ・地方政府ごとにリソースが異なるため、各地域の防災対策にバラツキが生じる可能性がある。
・各機関が連携して対応するため、災害の全体像を把握できる機関・人材がいない。
・全体的な意思決定に時間がかかる。
ベルギーは、これらの長所・短所を理解した上で、独自の防災対策モデルを立てようとしている。同国では、災害発生時における初期対応は、各地方の消防局が行うが、災害の規模に応じて、州、連邦政府が介入する仕組みとなっている(図1参照)。ただし、原子力に関する災害が発生した場合は、国家レベルでの危機とみなされ、連邦政府が直ちに介入する。地方・州・連邦政府の縦の繋がりに加えて、地方・州政府間での横方向の連携・協力体制も敷かれており、近隣地域の緊急管理関係職員の合同訓練等も行われている。
図1:ベルギーにおける緊急事態管理体制
更に、国内における関連機関の連携のみならず、EU加盟国として、EUメカニズム(本マンスリーレポート2005年1月号 「リスクマネジメントの取り組み(下)−欧州市民保護メカニズムにおけるEU加盟国間のコラボレーション」参照)を通して、他の加盟国との緊急事態管理部隊との合同訓練も行っており、他国との防災対策の連携にも力を注いでいる。また、国境を越えた地方政府間の協力体制も整いつつある。例えば、アントワープ市は、オランダの地方政府と協定を結んでおり、災害が発生した場合には、近隣の地方政府のみならず、オランダ国内の地方政府にも初期警報を出すことになっている。
防災対策の近代化:アントワープ州の「緊急時指揮支援システムNoKeos®」を利用したパイロットプロジェクト
【プロジェクトの目的】
上述の通り、ベルギーにおける緊急事態管理体制では、縦と横の両方向にある機関との連携が要求されるため、関連機関間での情報交換を効率的に行うことが不可欠となっている。災害発生の初期対応において、最も重要な作業は、短時間のうちに、適切な情報を、適切な機関・人材に提供することである。アントワープ緊急管理長ブレイス氏は、このプロセスにおいて、ITをどう活用するかが、緊急事態管理の鍵である、としている。こうした背景の下、現在、内務省は、緊急事態管理体制の強化策の一環として、リソース、危険物質等のデータを管理するデータベースの近代化を目的とするプロジェクトと、危機管理をサポートするNoKeos®システムを利用した合計2つのパイロットプロジェクトを実施している。双方とも、アントワープ州で実施されており、プロジェクトが成功した場合、連邦機関で適用することが考えられている。
NoKeos®システムを利用したプロジェクトは、緊急事態管理体制を近代化し、強化することを目的としており、アントワープ州が中心となって、民間企業、連邦政府と連携して進めている。表2に本パイロットプロジェクトの参加機関を示す。
表2:NoKeos®プロジェクトパートナー 公共セクター 民間企業
・内務省(連邦レベル)
・防衛省(連邦レベル)
・アントワープ州庁(州レベル)
・アントワープ市消防局(地方レベル)
・アントワープ警察(地方レベル)
・アントワープ救急局(地方レベル) ・Fire Protection Consultants(NoKeos®のディベロッパー並びにプロジェクトコーディネーター)
・Soft Cell(ICTパートナー)
・Safety Center Europe(危機管理のコンサルタント)
【緊急時指揮支援システムNoKeos®の概要】
NoKeosRシステムは、サーバとクライアントPCにより構成されている。サーバには、想定される様々な緊急事態(インシデント)に対して、事前に作成したシナリオ、リソース、危険物、地図等の各種データが管理されている。インシデント発生時には、センサなどの観測機器から取り込まれるインシデントの状況変化を示すデータや、ユーザ間のやりとりのデータなどがサーバに取り込まれる。同システムは、これらのデータや情報を元に、適切な意思決定を促すシナリオをサーバで選出し、クライアントPCに表示することにより、意思決定をサポートする。表3にNoKeos®の機能を示す。
表3:インシデントの発生前、発生後の対応、終了のフェーズにおけるNoKeos®の機能 フェーズ 活動内容 NoKeos®の機能
発生前 ・計画・準備
・演習 ・エキスパートのチームや物資を含むリソース、危険物質、建物の図面・地図等の画像情報等のデータ管理
・インシデントごとのシナリオ管理:一連のプロセスをクライアントPCからフローチャート形式で見ることが可能。
対応 ・コマンド&コントロール
・情報伝達 ・全体像の表示:インシデントの種類、場所、規模、被害者の規模を含むインシデントの全体像に関する情報を提供する。
・意思決定のサポート:あらかじめ用意されているシナリオの項目は、対話形式で表示される。
・グラフィックナビゲーション:図面情報を提供し、避難の誘導、救助員の移動に関する意思決定をサポートする。
・外部機関への連絡手段(電子メール、携帯電話、ポケットベル等)の管理
・ログの管理:災害時における全ての行動、意思決定の内容を記録する。
・その他のシステムとのインテグレーション:外部機関の警報システムや気象情報システムとのデータの交換を行うことが可能である。
終了 ・分析・評価 ・災害時のログを分析・評価
【緊急時指揮支援システムNoKeos®の利用によりもたらされる便益】
NoKeos®の特徴は、発生する可能性がある出来事(インシデント)毎のシナリオを設定し、そのシナリオに応じて意思決定をサポートする機能である。様々なシナリオを設定することが可能であるため、近代社会における多様化するリスクに対応することが可能である。(NoKeos®の詳細については、本サイトの国内有識者インタビュー2005年7月号「日本における防災・危機管理への取り組みについて」を参照)。ユーザ機関は、既存のシステムとNoKeos®を組み合わせ、NoKeos®をカスタマイズし、それぞれの緊急事態対策を立てることが可能である。
現時点では、アントワープ州は、(1)緊急事態管理の一連の作業を、NoKeos®が充分にサポートできるか、(2)緊急管理関連の各機関が既存のシステム(警報システム、リソースや危険物のデータベース等)とNoKeos®を組み合わせ、各機関のニーズに合うようにNoKeos®をカスタマイズできるか、について、演習等を通してテストしている。現在は、プロジェクトの初期の段階であり、実際のインシデントには未だ適用されていない。NoKeos®には合計250を越えるインシデントごとのシナリオが設定されており、シナリオには、単純な交通事故から、火災、化学物質災害、テロ等様々なインシデントが想定されている。(連邦政府は、NoKeos®は原子力関連、そして鉄道事故に最も役立つであろうと考えている。)2006年からは、様々な機関が利用している既存のシステムとのインテグレーションが可能であることをテストする予定である。
内務省市民保護担当長官は、防災対策のIT活用において要となる点は、インタオペラビリティとカスタマイゼーションのバランスであるとしている。つまり、緊急事態管理関連機関は、それぞれの機関のニーズに応じてシステムをカスタマイズする必要があるものの、その他の機関が利用しているシステムとの相互運用性を確保する最低限の規格が必要である、ということある。NoKeos®のパイロットプロジェクトには、縦そして横のつながりの関係にある緊急事態管理に関する複数の行政機関が参加している。そのため、各参加機関がNoKeos®をカスタマイズし、自ら所有するデータを他機関と共有することを可能にするインタオペラビリティのバランスをテストする良い機会となっている。同プロジェクトが終了した際には、外部専門家、他の州の緊急事態管理職員等を含めたパネルによって、NoKeos®導入の便益が評価される予定である。NoKeos®が許すカスタマイゼーションとインタオペラビリティのバランスは、ベルギー政府が目指す、中央集権型・地方分散型混合のユニークな防災体制を可能にすると考えられる。
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※緊急時指揮支援システムNoKeos®について
NoKeos®システムは緊急事態発生前から発生後において組織の緊急時対応のトータルガイド・サポートを行うシステムでベルギーの安全コンサルティング会社FPC社の開発したシステムである。日本において弊社NTTDATAが独占販売代理店として本システムを日本語化して販売すると共に、日本のマーケット事情に合わせた機能追加等を検討し実施している。
http://e-public.nttdata.co.jp/f/repo/306_e0507/e0507.asp