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http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/news/20050714ddm004070032000c.html
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記者の目:郵政民営化の、そもそも論=岩崎誠(経済部)
参院本会議 郵政民営化 趣旨説明に向かう竹中郵政民営化担当相と議場を見つめる小泉首相 ◇「官から民へ」は、まやかし−−政府は誠実に説明せよ
1年半以上、郵政民営化問題を取材してきたが、「なぜ民営化か」のそもそも論で政府の説明がいまだ腑(ふ)に落ちない。郵政民営化関連法案の論戦は13日に参院本会議での趣旨説明と質疑を終え、14日に特別委審議が始まる。衆院通過が僅差(きんさ)だったことから権力闘争に目を奪われがちだが、参院論戦を国民によく分かる実りあるものにするため、政府に誠実な説明をしてもらいたい。
先日、ある民間エコノミストが、民営化には意味が無いというような発言はできないと言っていた。民間エコノミスト諸氏が所属するのは、大半が証券会社や銀行系のシンクタンク。証券会社なら民営化会社の上場時に膨大な手数料ビジネスが発生するし、メガバンクは郵便局網に代理店の魅力を感じているからだ。
このエコノミスト氏は匿名を条件に「民営化それ自体で、資金の流れは官から民へとは変わらない」と、政府の説明を批判した。私の解説も加味すると、理由は以下のようになる。
政府が説明する民営化の目的のポイントは「資金の流れを非効率な官から成長力のある民に変えて経済を活性化させる」だ。
これは具体的には、郵便貯金や簡易保険で集めた資金が、第2の予算と言われる財政投融資の原資になっているという財投資金の「入り口」問題を意味する。
確かに、かつては郵貯・簡保で集めたお金が、旧大蔵省の資金運用部を通じて自動的に財投機関(特殊法人)に流れていた。ただ、それは高速道路など社会資本整備の資金が不足していた時代のことだ。
しかし、01年4月に郵貯・簡保資金は「自主運用」となり、自動的に財投機関には流れなくなった。特殊法人の資金は「財投債」(国債の一種)で賄うことになり、経過措置として、財投債の5割余りを郵貯・簡保が引き受けてはいるが、毎年の財投計画額はピーク時から半減している。財投改革で必要なのは、政府系金融機関など特殊法人のさらなる事業見直し・縮小、整理・統合といった金の使い方(財投の「出口」)改革の加速だ。
また、実際に郵貯・簡保が民営化されれば、運用先が国債や財投債から民間企業向けに変わり、経済が活性化するのだろうか。
日銀が8日発表した貸出・資金吸収動向によると、6月の銀行・信用金庫合計の貸出残高は、前年同月比2・3%減の437兆3454億円で、実に4年6カ月連続の減少。民間企業で資金がだぶつく中、財政赤字のための国債大量発行が続いていることを考えると、民営化で自動的に資金の流れが大きく変わるとは思えない。
ついでに言うと、郵貯の優位性も変わった。93年6月以降の定額貯金の金利は民間を下回っており、今は必ずしも有利な条件で金をかき集めているとは言えない。
7月4日の衆院特別委の締めくくり質疑で、五十嵐文彦氏(民主)が「官から民へのお金の流れは経営形態と関係ないのではないか」と質問したのに対し、竹中平蔵郵政民営化担当相は直接答えず、「経営形態はいろいろな工夫がありうる」とかわしただけだった。
本当に今すぐ郵貯・簡保資金の流れを官から民へ変えたいのなら、資金が完全に郵政グループ外に出る「郵貯・簡保の廃止」がいいはずだ。実際、経済評論家の田中直毅氏が座長を務めた小泉純一郎首相の私的懇談会が02年9月に提示した3案の一つがそれだった。しかし国債市場の動揺や26万職員の生活を思えば郵貯・簡保の廃止は現実的ではないだろう。
そうした問題を踏まえ、あえて私は、現実的な判断として今回の法案で民営化した方がいいと思う。政府の言うように民営化で年間数千億円が納税され、7兆〜8兆円の持ち株会社株売却益が国庫に入れば、国民の負担はその分だけ軽減される。
民営化されれば株主の圧力で組織効率化も避けられなくなるだろうし、民間との競争が進めば郵便料金の一部が値下げされたり、取り扱う金融商品の品ぞろえ強化など消費者利便が増す期待もある。また、小泉首相以外に民営化を進める首相は現れないだろう。
だからこそ、政府は誠実に説明責任を果たす必要がある。「官から民へ」と空疎なスローガンを繰り返して押し切れるはずはない。参院で法案が否決され「官から民への資金の流れは、民営化をPRする政府広報費6億円だけだった」というブラックユーモアで終わらせてはならない。
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毎日新聞 2005年7月14日 東京朝刊