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アメリカのバブルが崩壊した場合、日本とドイツは、内需に頼れない。
六月七日午後六時半、カリフォルニア州トーランス市中心部のレストラン「シーズラー」。月一回の会合に地元の老若男女が集まった。医者、弁護士のほか食品店店員など顔ぶれは多彩だが、共通する関心事は不動産。地元の個人投資家がつくる「不動産投資クラブ」だ。
この日のテーマは「レバレッジのかけ方」。手持ちの住宅を担保に新たに二軒の住宅を購入する資金を調達する。純投資が目的だ。夕食をしながら、経験を踏まえた細かなノウハウを互いに交換した。
不動産に興味さえあれば、だれでも会員になれる。会費は無料。クラブの主催者は地元で不動産業を営むルー・マクグロー氏だ。「投資対象として不動産をとらえる考え方を説いている」。
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トーランス市はロサンゼルスにほど近い都市。不動産価格は過去一年間で二二―二七%上昇した。クラブの会員数は今や百人。個人の投資クラブといえば、かつては株式だったが、今は不動産が主役だ。「バブルの可能性? 我々の話には出てないね」(マクグロー氏)
一般個人にまで広がる投資熱に冷める気配はない。同種のクラブは全米に五百あるともいわれる。一方で市場関係者は、どこまでがバブルといえるのかと判定に躍起だ。
ベア・スターンズのストラテジスト、フランシス・トラハン氏は過去に起きたバブルの事例を総ざらいするリポートをまとめた。タイトルは「落とし穴を避け、次のバブルでもうけよう」。
十七世紀オランダのチューリップから九〇年代のネット株までを検証し、どういう経済環境がバブルを生み出すかを探った。同氏によれば、バブルを形成しつつあると特徴づけられる主要項目は十。現在に重ねると、すでに八・五項目で符合するという。
バブルを示す要件は、(1)金融資産の投機的な高騰(2)卸売物価指数の上昇が示す需要超過(3)短期金利が上昇を開始(4)イールドカーブの平たん化による流動性の縮小(5)経済成長の減速――など。これらがそろうとバブルは頂点で、やがて崩壊が始まるという。「今はかなりバブルが熟してきたといえる」(トラハン氏)。
バブルを警戒すべき市場は四つ。第一が住宅。そして中国、ヘッジファンド、ナノテクの順という。
住宅の過熱を示す指標は多い。未着工なのに販売済みの住宅戸数は現在九万戸に迫り、過去最高だった七〇年代を上回る。家計に占める住宅ローン残高も跳ね上がり、限界が近いと指摘される。
「住宅は需給が崩れる日が近い」というのがトラハン氏の見立てで、「まだバブルには上昇余地がある」としてナノテクなどへ乗り換えるよう勧めている。
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「八〇年代以降の米国はどこかでバブルを生んできた」(モルガン・スタンレーのエコノミスト、スティーブン・ローチ氏)。ネット株、新興市場、商品、住宅――。どれかがはじけても、別の受け皿にマネーが流れ込んだ。
どこかで常に資産価値が上昇し、もうかる状態をつくってきたわけだ。これが米国の実体経済が深刻な打撃を受けずにきた一因だ。株安と土地安が同時に起き、資産デフレが景気を長期に冷え込ませた日本との決定的な違いでもある。
しかし、米国版の「バブル転がし」はどこまで続くゲームなのか。
UBSのシニア・アナリストの一人は言う。「住宅バブルがはじけた次に転がる先を見つけるのは、相当難しいだろう」。住宅はいったん調整期に入ると短くとも二―三年は反転しない。株式のようにすぐ手放せるわけでもなく、住宅価値の下落は個人消費にすぐマイナスの影響が出る。しかも貯蓄率は極めて低く、家計はぜい弱だ。ほかのバブルが現れるより前に、実体経済を急失速させる恐れが大きいという。
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米国の住宅資産価値は米国内総生産(GDP)の一四五%に相当する。これに対し、米株式市場は八〇%強。ネット株バブル当時でも一三〇%だった。住宅バブルが崩れた後を多少のナノテク株ブームなどで食い止められるのか。
「住宅バブルをつぶす金融政策? 否。価格が上がる繁栄こそ、経済の多くの問題を解決してくれるのだ」(オーク・アソシエーツのエド・ヤルデニ氏)。裏返せば、今回バブルをつぶせば問題が一気に吹き出しかねないと警戒している。バブルを制御する手綱さばきは、いよいよ難しい局面を迎えているようだ。
(ニューヨーク=藤田和明)