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(人の時代に向けて:1)若年失業、社会に警告
若者の失業は各国共通の悩み
ドイツ・ベルリンの中心部。平日の昼間から若者たちが何をするでもなく路上に座り込み、たむろしていた
日本経済は回復しつつあるのに、職につけない若者があふれ、貧富や機会の格差が広がり続ける世の中は、どこかおかしい。「未来を選ぶ」シリーズの第3部は、人を育て、人を生かし、誰もが可能性を広げることのできる「人の時代」への道筋を探る。
「若年男性の失業率日本一」というありがたくない称号のある高知県が、今月から汚名返上に向けたプロジェクトを始動させた。
高校卒業後に仕事に就けない若者らに3カ月かけてパソコンや簿記を教え、合同就職面接会を開く。今年度は100人の参加を見込み、「少なくとも3割は就職させたい」(県雇用労働政策課)という。
総務省が02年末に初めて発表した都道府県別・年齢別の完全失業率で、高知県の15〜24歳男性は22%弱と全国最悪だった。女性を加えた19%弱も沖縄県に次ぐワースト2位。驚いた県は、本格的に対策の検討を始めた。
高知市もこの数字にショックを受け、昨年から30歳未満を対象にカウンセリングや合同就職面接会、職業紹介を無料で実施している。受講生の一人は「採用試験に落ち続けて自信をなくしていたが、実践的で役立ちそうだ」と市の試みを評価する。
昨年度の受講生は68人。これまでに3分の2が就職した。市の担当者は「おせっかいかもしれないが、これぐらいやらないと就職者を増やせない」という。
全国でも、全世代の完全失業率は4%台なのに、15〜24歳に限れば10%程度と高水準だ。多くの自治体が若年失業に悩み、就業対策を模索している。その際にモデルとされているのが、80年代から若年失業対策を迫られてきた欧州諸国の取り組みだ。
●スターも誕生
スキンヘッドに野球帽、黒い肌にひげで、軽快に語り、歌う。MCスキバディーさん(30)の曲が入ったアルバムが最近、英国のダンス音楽部門の売れ行き上位に食い込んだ。ブレア政権が98年から進めている「若者向けニューディール」という就労支援策から生まれたスターだ。
ニューディールは就職相談と職業訓練を組み合わせた施策で、半年以上失業している若者は参加しないと失業手当を減らされる。今年3月までに約129万人が参加し、約56万人が就職した。
その一環としてミュージシャン志望者への就労支援も99年に実験的に始まった。英国にとって音楽産業は主要な輸出産業だからだ。02年末に正式スタートするまでの3年間に約1万人が音楽コンサルタントと面談し、約2500人が就職した。
スキバディーさんは政府ホームページで「プログラムでの多くの助言は貴重だった」と振り返る。
●いまだ10%台
英国にはほかにも、学校や地域、民間企業が協力して、職業選択などについて未成年者の相談にのる「コネクションズ」という包括支援サービスもある。
これらの施策は一定の効果があったとの評価はあるものの、就職者の増加はたまたま好景気が後押ししただけ、との冷めた見方もある。16〜24歳の失業率はいまだに10%台だ。
やはり失業問題に苦しんできたドイツでは、長年採用してきた代表的な雇用対策がいま揺らいでいる。例えば、高等教育に進まない若者が職業学校に通いながら企業実習する「デュアルシステム」制度について、企業は「負担が重すぎる」と敬遠し始めている。
政府は非協力企業に課徴金をかける法案まで作って圧力をかけた末、昨夏、経営団体との間で07年まで毎年3万人の訓練枠を作るという協定を結んだ。
それでもドイツの若年失業率は03〜04年に悪化した。欧州連合(EU)という単一市場が中東欧へと拡大したのを受け、製造業が生産拠点を賃金の安い東側に移す動きを強めているためだ。
●技能教育に力
スウェーデンも若者の就労支援に熱心に取り組んできた。南西部のボロース市の若者対策本部に6月中旬、失業期間が100日以上に及ぶ若者8人が集まった。講師が白板に書き込んだ。「自信をもって。まず自分の長所を探そう」
市と政府機関が連携した取り組みで、履歴書の書き方まで細かく指導する基礎研修を手始めに、地元企業や公共機関での実習、コンピューター操作などの技能教育に1〜3カ月かける。低学歴だったり家庭に問題を抱えていたりする若者には、担当者がメールや電話で頻繁に連絡をとる。社会から疎外されないように目を配るため、という。
「自己責任だといって放置すれば、若い貴重な人材の可能性が失われる」と同本部のウストベリさんは言う。手厚い支援の背景には、高福祉国家を支える高負担の担い手が減れば、社会がもたなくなるという事情もある。
それでもスウェーデン最大の労働組合は政府の対策を「生ぬるい。若者の能力向上に、もっと力を入れるべきだ」と批判している。企業の合理化や生産拠点の国外移転によって、若者の失業率が3年連続で悪化しているからだ。
経営者団体は「職を増やす努力の方が重要」と官業の民間開放や起業を促す税制改革を求めており、問題解決に向けた方法論で労使の意見は異なっている。
技能教育などで若者の背中を押すことは重要だが、それだけで抜本的な解決にはならない。欧州の教訓は、日本にも当てはまる。求職中の20代女性は「若者だけの責任にされるのは納得できない」と話す。「アルバイトでも正社員と同じ仕事をさせられる。企業が若者を都合よく利用していることにも問題がある」
効率優先の度を強めつつある社会。若年失業問題は、その現代社会のあり方にも警告を発している。(稲田清英、小森敦司)
http://www.asahi.com/paper/business.html