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村上ファンドを裸にする 「勝負師」村上世彰の全貌  【AERA編集部・大鹿靖明】
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投稿者 愚民党 日時 2005 年 7 月 13 日 08:11:33: ogcGl0q1DMbpk
 

村上ファンドを裸にする 「勝負師」村上世彰の全貌
(2005年7月4日号)

 今年の株主総会に、「ムラカミ旋風」が吹き荒れている。ニッポン資本主義の後進性を突く村上世彰は、いかにして形づくられたのか。

    ◇

 ライブドア騒動が激しかった今年春のことである。堀江貴文ライブドア社長の「陰の軍師」とみられてきた元通産官僚、村上世彰は、主宰するM&Aコンサルティング(村上ファンド)の次なる標的として、ひそかにTBSに照準を合わせていた。

 TBSは、株価が割安なのに、東京・赤坂の一等地をはじめ、世界的な半導体製造装置メーカー、東京エレクトロン(時価総額約1兆円)の株式を5.6%保有するなど優良資産を数多く持つ。しかも、新聞社による株式支配が色濃い放送界にあって、TBSには特定の大株主が存在しない。

 村上本人に問いただすと、

 「個別の投資案件についての質問は受けられない」

 としつつも、

 「そのころ、いくつかの放送局のトップにお会いしました」

 と、「最後の護送船団」業種といわれる民放に、深い関心を持っていたことを認める。

 ●TBS買収策を検討

 村上をよく知る関係者が、こんな打ち明け話をしてくれた。

 「村上さんが用意する資金で、TBS経営陣がTBSを買収するマネジメント・バイアウトを検討していました。でも、堀江さんが4月、投資家セミナーで『次はTBSが狙い目』とぺらぺら話し、一般に知れ渡るようになったこともあって、断念したようです」

 TBSは5月、日興プリンシパル・インベストメンツに最大800億円の新株予約権を発行するという、買収防衛策を発表した。

 TBS広報部は「ライブドア問題以前から検討していた」と強調するが、この防衛策づくりに携わった日興グループ幹部は、

 「TBSから話があった時点で、村上さんの噂を聞いていました」

 と、「村上対抗策」の一面があったことを示唆する。

 村上ファンドは、いまや「モノ言う株主」を超えた「行動する株主」として、日本の企業社会に恐れられている。

 昨年夏には、株を保有していた明星食品(チャルメラ)に、サンヨー食品(サッポロ一番)や東洋水産(マルちゃん)などとの合併・提携を提唱し、インスタント・ラーメン業界の大再編を仕掛けたこともある。

 ●「必要な『ワル役』」

 製薬業界では、第一製薬との経営統合を決めた三共に対し、「格上」の武田薬品工業やアステラス製薬と合併し、世界トップ10を狙うことが最良の選択肢、と考えて動き出した。事前に、厚生労働省の担当課長から、国際競争に耐え得るような製薬業界再編が必要と聞き出してのことだ。

 極め付きは西武鉄道だろう。西武株を取得するやいなや、東急電鉄に西武との大再編を提案した。その後、メーンバンクのみずほコーポレート銀行主導の再建策に寄り切られるかに見えたが、村上は銀行主導に異論を唱え続け、再建策の行方は微妙になっている。

 「最終的にボクらの案は採用されないかもしれません。でも、みずほ主導の流れを変え、透明性のある再建策にできそうなのは、ボクらの力があったと思います」

 村上は、そう自負する。

 企業の資本効率の改善、透明性や公平性の確立、株式を上場することの意義と覚悟。村上は、この国の企業社会がほっかむりしてきた問題に刃を突きつけ、ときにアッと驚く大再編を提言する。

 村上と同じ通産OBである作家の堺屋太一は、こう評価する。

 「戦後の日本では、会社は株主のモノという考え方が忘れられ、経営者や従業員、監督官庁の役人のモノであることが強調されてきました。村上さんは、日本が真の資本主義となるときに、欠けていた機能を取り戻すための、いわば必要な『ワル役』でしょう」

 村上と7、8年の付き合いになるUSENの宇野康秀社長は、

 「言いっぱなしの評論家と違い、村上さんは企業に経営改善を促す手法を独自に編み出した」

 と、村上の先駆性を買う。

 ●小4から株式投資

 オピニオン・リーダーの顔を持つ村上だが、周囲からは「経済人と事件屋の二つの顔を持つ」(堺屋)といった声も上がる。

 「正論を吐くように見えても、実は株を高く買い取らせる『グリーンメーラー』のようだ」

 村上からよく相談を受ける大学教授は、そう漏らす。知人の金融機関幹部も、こうたとえた。

 「まるで二つの顔を持つローマの神、ヤヌスを思わせる」

 大阪・道頓堀近くに、村上が幼少期を過ごした家が残っている。街並みは変わったが、明治から昭和初期の町家が点在し、往時の大阪商人の栄華をしのばせる。小さい頃、村上が遊んだお寺には、実家が持つ奈良の竹林で採れたタケノコを手土産に、毎年、参詣を欠かさない。

 「彰ちゃんは小さい時から口がたつ子やったよ。身体が小さかったから、よういじめられたけど、大人でもあの子の口にはかなわへんかったなあ」

 近所のおばさんがそう語った。

 戦後の縮図の下町で、村上は世の矛盾、生きる知恵と商人根性を学び取っていったのだろう。

 実家には、父が経営した貿易商六本木ヒルズに爛熟の気配を感じるのか、村上本人は住宅棟から引っ越す予定だの看板が今もかかる。小学校4年の時、仕事でめったに家にいない父から「小遣いを自分で稼いでみい」と100万円を渡され、株式投資を始めた。

 「上がり始めてでも買う。下がり始めた時に、下値を追ってでも買う。安い時に買えると思うな、高い時に売れると思うな」

 村上は、父から教え込まれた投資哲学を今もそらんじてみせる。

 「中学で株をしていたのは彼しかおらんかった」

 「村上君というと、株好きで文句言い、という印象や。いまも変わらんな(苦笑)」

 灘中・高の同級生はそう言う。いまの村上の原型はこのときに作られていった。

 勝負師の側面は、東大に進んでも変わらなかった。同級生の林芳正自民党参院議員は、村上との麻雀(マージャン)をよく覚えている。

 「負けそうになると、いつの間にか降りちゃうんだよ」

 オリックス社長(当時)の宮内義彦らを後ろ盾に、40億円で始まった村上ファンドの運用資産はいまや2000億円近い。一声かければ、米国の大学運営基金や年金基金のグローバル・マネーが、1日で5000億円も集まる、と豪語する。運用成績も市場の平均をはるかに上回る。

 「空売りやデリバティブをしない買い持ち一本のファンドとしては驚異的です。最初の100万円で儲けた原体験があるうえ、子供の時から愛読書は『四季報』。私どもプロもかないません」

 と金融機関幹部は舌を巻く。

 通産省で後輩の西村康稔自民党衆院議員は入省してまもなく、村上からパーティーに招かれて驚いた。会場は、芸能人や財界人が多く住む高輪や広尾の高級マンションにある村上の自宅。

 「弁護士や経済人らいろんな人を呼んで議論していました。村上さんは今でもベンチャー経営者を集めていますが、ネットワーク作りが上手ですよ」

 日銀総裁になる前の福井俊彦を、かすかな関西人脈を通じて、「顧問」に引き入れたのも、そんなネットワーク力のたまものだろう。

 ●参謀2人は同級生

 入省同期の井内摂男リサイクル推進課長は、各局の筆頭課長補佐を集めた会議での、村上の堂々とした議論をよく覚えている。

 「当時から規制を緩めて、市場に委ねるという考えでした。在職中に、痛烈な役所批判を含んだ近未来小説を出版しようとして、上から止められたこともありました」

 利に聡いナニワ商人の感覚と、エリートコースで培った論理的思考と多彩な人脈。村上の中には、大阪のホンネ主義と東京の権威主義が奇妙に同居する。

 もっとも出世街道一直線ではなかったようだ。経産省幹部は苦々しげに言う。

 「役人としての仕事をせず、人脈づくりばかりしていたな」

 役所に見切りをつけた村上が99年にM&Aコンサルティングを起こした際、パートナーに選んだのは、学生時代からの仲間だった。灘中以来の友人の丸木強は野村証券の法人営業部門で、次代を担うエースとされてきた人物。2度の証券不祥事で野村社内の管理体制が強まるなか、村上の誘いに応じた。村上が「投資実務に長けている」と買う丸木は、野村出身らしからぬ温和な人柄で、人望が厚い。

 もう一人のパートナーが警察庁官僚を経て、在日米国大使館の政治顧問を務めていた滝沢建也。村上が東大で出会って「こいつは天才や」と驚いた逸材である。一時在籍したボストン・コンサルティング・グループの幹部はこう言う。

 「手堅くきっちり仕事をし、英語もうまい。大企業むけのプレゼンはそつなく見事だった」

 温和と手堅さ。村上に欠ける面を補う2人を中心に、村上ファンドの総勢はいま約30人。人の移り変わりが激しい投資ファンドの中で異例の結束を誇るのは、友人という信頼関係のお陰だろう。

 もっとも、最終的な投資判断は常に村上が下している。

 「カネのにおいをかぎ取る能力は、どんな秀才よりボクが上だよ」

 そう、自身を露悪的に語る。

 ●「ボクは時代の徒花」

 順風満帆に見える村上ファンドだが、村上は昨年春、アエラ記者にふと、こう漏らした。

 「日本経済が復調しつつあり、市場の歪が減ってきた。市場がまともになってきた」

 割安株を探し出してひそかに投資し、経営改善を実現させて高値で売り抜ける――こんな手法が次第に知れ渡った。一時は上場企業の50%が解散価値を下回る株価だったが、株価向上への機運が広がり、投資の妙味は次第に失われてきたのだ。

 昭栄を手がけた2000年初め、村上のもとへ2人の米国人が教えを請いに訪ねてきた。トム・ニーダーマイヤーとウォレン・リヒテンシュタイン。後にユシロ化学工業やソトーへの敵対的TOB(株式公開買い付け)で知られるスティール・パートナーズを旗揚げする人物だ。

 教えを伝授した本家の村上が最近、後発のスティールやダルトンなど外資系ファンドと競合する場面が増えてきた。明星食品ではラーメン再編をあきらめて市場で保有株を放出し、最終的にはスティールが持ち株を増やしたと見られている。村上出動を予見して先回りされ、株価をつり上げられるケースも出てきている。

 三共の案件では、信用して買収資金の調達先に選んだ米系証券会社の日本人トップに三共側に寝返られ、ハシゴを外されもした。

 村上を買う全国社外取締役ネットワークの田村達也代表理事は、

 「彼が突くのは、どうしても規模が小さい会社ばかりになる。東京電力など経団連を代表する大企業にこそ、コーポレート・ガバナンスの問題があるのに、なかなか、そこに挑戦できていない」

 と指摘する。1社あたり投資額は数百億円どまり。時価総額が兆円規模の大企業を攻めきれない。

 東大で同級生だった産業再生機構の冨山和彦専務は、こうも言う。

 「村上君の主張は、資本政策の技術的な問題ばかり。もう一歩進化して会社をどうマネジメントし、経営改善させていくかまで踏み込めていない」

 西武・東急の合併やラーメン大再編など、村上の着想はユニークだが、結局やり遂げられない。

 そんな批判を予想してか、村上は「ボクは時代の徒花です」とことあるごとに自嘲気味に語る。市場の歪みが残るのは、恐らく来年まで。それが消滅するのは、市場が健全化され、国が良くなること。そのときボクらの役目は終わる――と早口でまくし立てた。西武や三共の大企業案件は結局やりきれないかもしれない。

 「でも、ずるく言えば、小金を儲けられればいいんです」

 ●次に狙うは政界再編?

 村上は最近、一等地に約170坪の自宅敷地を買った。手じまいしても、何不自由なく暮らせる。その時、村上は何を狙うのか。

 村上はかつて西村の前で「政治家を志す」と語ったことがある。市場で失われつつある「歪み」は政界には、たくさんある。

 「5万〜10万円のパーティー券でオレを頼るな。本当に必要なら、その100倍でも1000倍でも出してやる」

 親しい国会議員にそう語ったことがある村上が狙う次のステップは、案外、政界再編のスポンサーかもしれない。(文中敬称略)

(AERA編集部・大鹿靖明)

http://www.asahi.com/business/aera/TKY200507070145.html



TOP   朝日新聞   http://www.asahi.com/home.htm

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