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2005年5月11日
丸紅経済研究所 今村 卓
前進を始めた新興市場大国インド
インドの政治経済の現状と展望 2005
http://www.marubeni.co.jp/research/3_pl_ec_world/050511imamura/index.html
インド経済が、新興市場大国BRICsの一角として世界の注目を集めています。日本国内でも、インドの最近の高成長や同国のITサービス産業の隆盛を受けて、中国に次ぐ有望投資先という見方が強まってきました。05年4月末には小泉首相がインドを公式訪問し、シン首相と日印交流の活発化を目指す共同声明に署名しました。そこで丸紅経済研究所は、インドの政治・経済・産業動向について現地調査を踏まえた分析を行い、現状評価と展望をまとめました。
−目次−
EXECUTIVE SUMMARY
はじめに
本調査の問題意識
前提として理解すべきカースト制
政治
内政
外交
経済
国内経済の現状と展望
財政金融政策の展開
対外ファイナンス
現状の総合評価と今後のシナリオ
〈参考〉産業・企業動向
農業部門
自動車
ITサービス業
企業グループの行方
担当:丸紅経済研究所 チーフ・エコノミスト 今村 卓
E-mail: Imamura-t@marubeni.com
Tel: 03 - 5446 - 2482 / Fax: 03 - 5446 - 2488
本稿最終ページの注記をご参照ください。
Executive Summary<政治・外交>
04年5月の総選挙では国民会議派が第一党に返り咲き、マンモハン・シン元財務相を首相とする政権が発足した。シン政権は、農民・貧困層に配慮しつつ、経済改革を推進するバランスのとれた政策運営を目指している。05/06年度の連邦予算案では財政再建計画が棚上げされたが、付加価値税の導入など前政権以上の改革もあり、海外機関投資家の政権に対する信認は保たれている。今後も改革と経済成長を両立し、農民・貧困層に気を配り、野党BJPに反撃の機会を与えない政策運営が求められる。
外交面では、南アジアの安定を求める米ブッシュ政権が、インド・パキスタン両国に強く歩み寄りを求めた結果、両国、そしてインドと米国の関係改善が進んでいる。今後も、米国の方針は変わらず層の安定を求めると思われること、インド・パキスタン双方で相互の実利を優先する機運が高まっていることから、米国、パキスタンとの関係改善は進むだろう。ただ、インド・パキスタン関係は、両国内にカシミール問題で譲歩を認めない急進派が存在するだけに注意は必要である。
最近では、仮想敵国だった中国との関係改善が目立つ。05年4月には温家宝首相が訪印、インドと中国が戦略的パートナーシップを構築し、両国の懸案であるエネルギー確保などで協力していくことで合意した。インドとASEANの関係も強化されつつある。中国、ASEANともにインドが将来のアジアの大国になるという確信を持ち、今から関係強化を進めることが国益になるとの判断で動いている。
<経済>
インド経済は03/04年度に15年ぶりの8%成長を達成、04/05年度も7%近い成長を実現した見込みである。ただ03/04年度の高成長は農業部門の豊作とITサービス業の急成長のおかげである。現在の農業への依存度が高く、製造業が脆弱な不安定な経済構造では、潜在成長率は6%程度にとどまる。ITサービス業など有望業種は散在するが、それだけで持続的成長のエンジンは担えない。今後、成長率を引き上げるには、労働集約型であり輸出指向の製造業を強化し、幅広い層が経済成長に貢献し、底辺から所得が増える構図を作り、総貯蓄率・投資率をともに3割台に押し上げる必要がある。
04年12月に発生したスマトラ沖地震・インド洋大津波は、インドに死者数が1万人を超える深刻な被害をもたらした。インド経済への短期的な悪影響はわずかにとどまったが、被災地域の経済発展や貧困撲滅に遅れが生じるなど機会損失は大きく、中期的に悪影響が拡大する恐れは残る。
足元では製造業・サービス業ともに好調な内需に支えられて、順調な成長を続けている。インフレ圧力は高まりつつあり、財政赤字は高水準だが、ともに緊急対応が必要な段階ではない。当面は緊縮政策を迫られる可能性は低いと見込まれる。対外ファイナンスも順調であることを踏まえれば、05/06・06/07年度ともに6%台の安定した経済成長は期待できる。
潜在成長率を6%から政府目標の8%に引き上げるには、04/05年度に中央・地方政府計でGDP比8%弱という高水準に達した財政赤字の削減が必要である。だが前政権が財政責任・予算管理法を制定して定めた数値目標は、シン政権が編成した05/06年度予算案で反故にされるなど、前途は多難である。今後、シン政権は徴税能力の引き上げによる歳入の拡大と地方政府の財政規律の強化という抜本的な改革に乗り出すと思われるが、いずれも国内の抵抗は大きく緩やかなペースで進展していくだろう。
次の問題は財政赤字のファイナンスと公的債務の管理であるが、これまで政府が金融システムを財政政策に従属させてきたために、公的債務のほとんどが国内債になり、国内銀行が法廷流動性比率を課されて最大の国債の引き受け先になってきた。最近では金融自由化が漸進的に進められ、同比率は段階的に引き下げられているが、自己資本規律を求められる銀行は安全で運用妙味のある国債に資金を集中させたままであり、結果的に財政赤字のファイナンスにこれまで問題は生じていない。
インフラ不足は、財政赤字以上に成長を制約している。過去、財政難の中でインフラ投資の削減に偏った緊縮政策が続いたことに加え、政府が活路を求めた民営化も、電力セクターに象徴される料金設定の失敗から停滞が続いた。さらに長期の投資抑制は設備の老朽化という質の問題も併発させた。政府は現在の5カ年計画の中で、再び民間資本の導入に期待を寄せているが、企業側は慎重なままである。また、低い識字率と中等教育進学率を見るかぎり、教育というソフトのインフラも不足している。
対外ファイナンスは概ね順調である。経常収支は、好調な財の輸出に加え、ソフトウェア輸出と海外労働者送金の拡大も重なって、01/02年度から03/04年度まで黒字が続いた。04/05年度は輸入が国債商品市況の上昇と内需拡大によって大幅に増え、経常赤字になった可能性が高いが、GDP比は1.6%程度であり、対外ファイナンスに与える影響は軽微である。その間、好調な証券投資に加え、直接投資も緩やかに拡大したことで安定的な資本流入が実現、外貨準備は順調に拡大し、為替レートは緩やかなルピア高基調で推移している。対外債務も最近はGDP比が2割弱と健全な状態にある。
<総合評価と展望>
財政赤字とインフラ不足という構造問題、カースト制という社会慣行が、現在のインドの経済発展の足かせである。だが、カースト制は徐々に風化し、対外ファイナンスなど他の構造問題は改革を通じて解決に向かっていることから、経済の総合的なファンダメンタルズは改善していると判断できる。最近の経済成長率が6〜8%というインドにとって歴史的に高い水準になったことが、その証左である。
現状では、外国企業・投資家のインド経済の現状に対する評価は積極派と消極派に分かれている。積極派は、10億超の人口を抱えるインドが、停滞から6〜8%の安定成長へ移行する結果、世界有数の巨大市場が出現することに関心を持っている。実際、新市場を確保しようとする企業・投資家は多く、最近のインド経済への注目やインド株人気につながっている。一方、消極派は、ピーク時の経済成長率が8%程度では、経済発展のペースと投資の収益性においてインドは中国に遠く及ばないという。
二つの見方はどちらも一理ある。成長率が6〜8%という微妙なレンジであるために、評価が分かれただけである。それでも、これまで改革を続けてファンダメンタルズを強化したインド経済を相当数の企業・投資家が評価しているからこそ、インドへの投資が着実に増え、成長率も上向いてきた。今後のインドに中国のような高成長や外国企業の進出ラッシュは期待できないが、世界有数の新興市場大国として、10〜20年後には世界の中で存在感を高めている可能性が高い。
当面(今後2〜3年)は、個人消費が高めの成長を続け、投資の拡大のペースも上がることで6〜8%のレンジ内の経済成長が続くだろう。米国・中国を中心とする世界的な景気拡大が続く中、ITサービス業の高成長と一次産品の需要拡大・市況回復による輸出の拡大も景気拡大に寄与するだろう。個人消費は、中間所得層が拡大し、二輪車や乗用車など耐久消費財の需要が大幅増加を続ける。それを受けて内需指向の外国企業の進出が拡大するだろう。
中期的にみても、財政赤字やインフラ不足などの構造問題と、遅いペースでの産業構造の高度化といった成長の制約要因が見込まれるため、これまで中国が達成してきたような高成長がインドで実現する可能性は低い。むしろ、経済成長率は当面の6〜8%のレンジから、6%前後へと落ち着いていく可能性の方が高いだろう。
財政改革は、貧困層対策の歳出削減が難しい以上、地方の財政規律を求めても限界がある。公的企業の改革も重要だが、就業者人口の多くが公共部門に属する以上、公企業・労組側の抵抗は激しくなり、民営化・効率化の先行きは不透明になるだろう。そうなると財政赤字の削減は中央政府にとどまる可能性が高く、一定の赤字が残ってしまう可能性が高い。また厳しい財政状況は、中期的にもインフラ整備を遅らせ、成長のボトルネックの発生を招くだろう。さらにソフトのインフラの問題もある。ITサービス業は当面の人材は豊富だが、成長を続けた場合、人材不足が問題になることも考えられよう。
産業構造の転換も加速は難しい。高い経済成長を実現するには、農業から生産性の高い業種への労働者と資金のシフトが必要であるが、受け皿となる業種が少ないからである。現状ではITサービス業に代表されるサービス業が有望に見えがちだが、ITサービス業は国内に安価で質の高い生産要素が豊富に存在した稀有な業種であり、同産業に続く有望なサービス輸出産業が多数控えているわけではない。雇用吸収力の高い製造業の育成も、短い期間では難しい。現時点では先進国の製造業企業の直接投資先としてインドの評価は低く、現在の中国のような直接投資による製造業の早期育成は無理である。
逆に言えば、時間をかければ産業構造の高度化は進む。世界経済の中で頭角をあらわしていくインドに対して先進国企業の投資は緩やかに増えていくと見込まれるし、国内企業の強化も段階的に進んでいくだろう。その間にカースト制の風化も徐々に進み、就労人口のシフトも起こりやすくなる。そうなると、製造業は安定的に成長を続け、やがてITサービス業とともにインド経済の両輪になると期待できる。インド経済全体で見ても安定成長の確率が高まるだろう。
もし、カースト制が十分に形骸化し、財政赤字の削減とインフラ投資の拡大が進むなど、経済成長の制約要因が克服されれば、技術革新、資本投入、安定的な人口増加に支えられた世界で有数の高い潜在成長力を持つ国になり、将来の経済大国化の確率が高まる。この場合、今後10年程度は8%近い成長を確保、その後も中国を上回る成長を続けられるだろう。このような楽観シナリオに進む可能性は、現時点では高くない。しかし、90年代からのITサービス業の急成長、最近のFIIの伸びと株式市場の好調さなど、インド経済が予想外の展開を見せていることも事実である。楽観シナリオが実現する場合のインド経済の具体像を検討しておくことも無駄とは言い切れない可能性がある。
<日印関係>
米国や中国などインドとの結びつきを強める国が増える中で、日本とインドの関係は、これまで停滞気味だった。だが日本にとって、アジアの潜在的な大国であるインドとの関係強化は重要なはずである。05年4月末の小泉首相のインド公式訪問と日印共同声明の発表は貴重な転機である。今後、日本は、国連安保理の常任理事国入りやエネルギー開発という共通の目的を活用して、インドとの連携強化を図るべきだ。
経済面では、日本はインドと補完的な関係、双方に利益が生じる関係を築ける能力を持っている。日本企業と政府は、日本の成熟した経済、高度な産業構造や製造業の高い技術力を、インドの発展途上の経済、労働集約型を中心とする産業構造、ITサービス業の高い競争力などと結びつけるという観点から、インド進出戦略や通商政策を組み立てていく必要がある。また企業進出に際しては、東アジアで一般的だった輸出指向ではなく、インドの内需をターゲットにした戦略を優先する必要があろう。
→ Executive Summaryは、IからIII第3章までの要旨である。本文にはIVに、参考として産業・企業動向をまとめた。
→ 90年代以降から2003年までのインドの政治経済情勢については、以下のレポートにまとめているので、ご参照願いたい。
インドの政治経済の現状と展望 (HTML) (PDF) (2004年6月3日発表)
HTML http://www.marubeni.co.jp/research/3_pl_ec_world/040603imamura/index.html
PDF http://www.marubeni.co.jp/research/3_pl_ec_world_pdf/040603imamura.pdf
I. はじめに
1. 本調査の問題意識
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