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(幸せ大国を目指して:15)デフレ教訓、今こそ 功罪経て私流の価値
勤労者世帯の消費と所得は…
東京・白金にある西欧建築風の白亜の邸宅。休日には盛装した若い男女で華やいだ雰囲気に包まれる。
「ゲストハウス・ウエディング」形式の結婚式場「アートグレイスクラブ」は若いカップルに人気があり、8カ月先まで予約で埋まる。
もともとは98年に破綻(はたん)した旧日本債券信用銀行の接客施設だった。90年代半ばまで、大企業の多くは一等地に会社の専用施設をたくさん保有していた。抱え続ける余裕がなくなった企業が放出した土地・建物がいま、一般の人々に新しいサービスを提供する空間として生まれ変わりつつある。
●皮肉なゆとり
日本経済は90年代後半、地価と物価の下落が続くデフレ経済に本格的に突入した。有力企業が相次いで破綻し、多くの人が職を失った。生じたひずみは大きかった。ただ一方で、デフレが私たちの暮らしにもたらした「プラス」もある。
かつては企業の接待需要で黒塗りの高級車が列を連ねた東京・銀座。最近は数千円で利用できるバーやレストランが増え、夜遅くまで若いサラリーマンやOLでにぎわう。
大通り沿いの銀行の支店跡地はパソコンのショールームや海外ブランド店に姿を変えた。「午後3時でシャッターがおりる銀行が、若者を引き付ける店へ新陳代謝し、新しい魅力が加わった」と銀座通連合会の国平与四雄事務局長は言う。
先月下旬、東京湾岸部で超高層マンションのモデルルームが相次いでオープンした。その一つ、三井不動産などの芝浦アイランドプロジェクトは70平方メートルで5千万円前後からの物件がある。
家族連れで訪れた自営業の男性(52)は賃貸マンションからの住み替えを考えている。「一時より買いやすく、いくつもの物件から選べる時代になってきた」
男性会社員(31)は将来の結婚を考えて物件を探しており、「頭金の一部を親に支援してもらえば、都心部でも買える」と話す。
バブル崩壊直後の92年、当時の宮沢内閣は、個人が豊かさとゆとりを実感できる「生活大国」をめざす中期計画を掲げた。目標期限内の達成は難しいと見られていたが、その後のデフレ経済が数値目標の達成を後押しするという皮肉な結果になった。
たとえば年収の7倍以上だった大都市圏のマンション価格を「5倍程度」にするという数値目標。いま、東京圏の新築マンション価格はバブル期の最高値の3分の2程度に落ち込んだ。郊外のマンションなら2千万〜3千万円台の物件も少なくない。多くのサラリーマンが年収の5倍以内で買える水準だ。
通勤電車のラッシュ時の混雑率を文庫本がようやく読める200%から「新聞が読める180%」に、という目標も、03年度の首都圏の混雑率は171%とクリアした。年間総労働時間を2千時間余りから「1800時間」へと引き下げる目標も数字ではほぼ達成している。
●二度の転換点
もちろん、デフレがもたらしたマイナスは決して少なくない。不動産会社の大正ハウジング(東京)には、ローン支払いが滞っている住宅を売却したいという依頼が、住宅金融公庫の保証協会や都市銀行から毎週のように舞い込む。住宅ローンを支払うために、消費者金融に手を出し、月30万円の収入に、返済額が35万円に膨らんだ家庭もあった。
「右肩上がりの成長の前提が崩れ、失業や所得減によってローンが払えなくなったケースが目立つ」と両角修社長は話す。
家計経済研究所は、93年当時に24〜34歳だった女性1500人の暮らしぶりを追跡調査してきた。結婚や出産、再就職、夫の転職など暮らしが移り変わるなかで、それぞれの家計の所得格差は拡大し、しかもその格差が固定化する傾向が強まっていた。
調査のまとめ役となった樋口美雄・慶応大教授は、バブル崩壊後の15年で暮らしを変えた転換点が2度あった、と指摘する。
新卒市場が冬の時代に突入した92年。雇用条件が不安定なフリーターと、正社員との二極分化が進んだ。山一証券や北海道拓殖銀行の破綻をきっかけに企業のリストラが本格化し始めた97年を境に男性の雇用が減らされ、女性より男性の失業率が高くなる傾向が強まった。正社員を絞りこみ、女性パートを中心とした非正規社員に置き換える流れが影響している。
家計調査によると、勤労者世帯の実収入は97年にピークをつけたあと減少を続け、04年にようやく上昇に転じた。この間、労働者派遣法などの改正は、派遣期間の延長や対象業務の拡大など、企業の使い勝手の改善に力点が置かれてきた。
「これからは働き方の違いが所得格差の固定化や階層化につながらないように改めていくことが必要だ」と樋口教授は説く。
●熱狂時代に幕
「あなたの夢はなんですか?」。家計の生活設計を助言するファイナンシャルプランナー(FP)の団体、日本FP協会の無料相談で、井田光洋氏は窓口を訪ねてくる人に、まずこう問いかける。
「昔はカローラをマーク2に買い替えるとか、多くの人が同じような夢を抱いていた」。ところが今は、夫が単身赴任をしているので安全な家を買いたい、年に1度は海外に旅行したい、高齢だが海外にホームステイしたい、など価値観も夢もさまざまだという。
バブル時代までの私たちは、ひたすら所得を増やし、たくさんのモノを持つことに熱狂してきた。その欲求がなくなることは、これからもないだろう。ただ、熱狂の時代へと後戻りすることが本当の「生活大国」への近道とは言えない、という教訓だけは学びとっている。(田中郁也)
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「未来を選ぶ」シリーズの第2部「幸せ大国をめざして」編は終わります。
http://www.asahi.com/paper/business.html