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http://www.nhk.or.jp/bsdebate/0505/guest.html
◆谷垣 禎一(たにがき・さだかず)
財務大臣
1945年京都府福知山市生まれ
東京大学法学部卒業 司法試験合格 82年 4月 弁護士登録(第二東京弁護士会所属)
83年8月衆議院議員に初当選 以来、8期連続当選
郵政政務次官 防衛政務次官 科学技術庁長官 大蔵政務次官 金融再生委員会委員長 国家公安委員会委員長 産業再生機構担当大臣などを歴任し 2003年9月から現職。
なぜ財政再建が必要か
<借金の現状と待ったなしの状況について>
我が国財政は、平成17年度末の公債残高が538兆円程度にも達する見込みにあるなど非常に厳しい状況にあります。こうした状況が続きますと、財政の持続可能性が危ぶまれるだけでなく、経済の成長を阻害することになりかねません。
小泉内閣においては、「改革なくして成長なし」との方針の下、様々な構造改革を推進しており、財政構造改革もその重要なテーマであります。そして、21世紀にわたり持続可能な制度を構築していくことが、我が国が持続的に発展し、我が国の魅力を高め、世界に評価されるために極めて重要であると考えます。政府としては、まずは2010年代初頭の基礎的財政収支の黒字化を目指し、財政構造改革を強力に推進してまいります。
財政再建と景気回復
<財政再建はなぜ経済成長に必要なのか>
財政の健全化は、財政制度等審議会による御指摘にもあったように、以下のような視点から民需主導の持続的経済成長のために必要であると考えています。
国債残高の累増は、国民の間に財政の持続可能性に対する懸念や将来に対する不安を生み、消費を減少させるおそれがあること。
行財政改革の取組により、効率的でスリムな政府を実現し国民負担を抑制することで、経済の活性化が図られること。
高齢化に伴い家計貯蓄率が低下する中で、公的部門が主要な資金の取り手であり続けると、民間部門への資金の流れを妨げかねないこと。
財政の持続可能性に対する市場からの信認が低下すれば、金利の上昇等を通じて経済に悪影響を与えかねないこと。
<いま財政再建を優先すると景気回復の妨げになるか >
我が国経済は、政府・民間双方の構造改革の取組により長きにわたった低迷を脱し、財政出動に頼ることなく、国内民間需要を中心に回復を続けているところです。財政再建と景気回復とは、二律背反するものではありません。むしろ、この民需主導の持続的な経済成長を確実なものにしていくためにこそ、財政健全化に向けて強力に取り組んでいく必要があるのです。
財政健全化に向けた取組
<歳出削減の努力>
財政再建を進めるにあたっては、まずはムダな歳出を徹底的に削減するべきであると多くの方は考えていらっしゃると思います。政府としてはこれまでも聖域なき歳出改革に取り組んできました。例えば、10年前と比べて例えば公共事業関係費は4割減、文教及び科学振興費は1割減、ODAやエネルギー対策費等を含むその他の歳出で2割減としているところです。
また、平成17年度予算においても、聖域なき歳出改革を行い、社会保障関係費及び科学技術振興費を除いた全ての主要な経費について対前年度比マイナスとし、政策的な経費である一般歳出を3年ぶりに前年度の水準以下に抑制しました。
<増え続ける社会保障費>
社会保障関係費については毎年度多額の自然増があり、既に一般歳出の4割を超えています。少子・高齢化が急速に進展する中、社会保障の給付と負担は、このままでは経済の伸びを大きく上回って増大していくと見込まれます。将来にわたり持続可能な制度を構築するには、これを放置することなく、年金、医療、介護等を総合的に捉え、給付と負担の規模を国民経済の「身の丈」にあったものとすることを目指す必要があると考えています。あわせて、自助と公助の役割分担の見直しのほか、次世代の国民を育てていくことの大切さの再認識や高齢者を一律に弱者と捉える考え方の見直しといった意識改革も重要ではないでしょうか。
<あるべき税制の構築に向けて>
少子・高齢化やグローバル化等の大きな構造変化に対応し、社会共通の費用を広く公平に分かち合うとともに、持続的な経済社会の活性化を実現するため、税体系全体の見直しをしていく必要がありますが、中でも、
我が国の個人所得課税は、累次の減税の結果、主要国と比べても極めて低い水準となっており、今後、財源調達や所得再分配など、本来果たすべき機能の回復に取り組んでいく必要がある
消費税は、あらゆる世代が広く公平に負担を分かち合い、公的サービスを安定的に支える歳入構造を構築する上で極めて重要な税であり、今後、そのあり方について、国民的な議論を進めていく必要がある
と考えています。
このように、歳出を抑制するとともに負担のあり方を考える、歳出歳入両面からバランスのとれた財政構造改革を強力に推進していかなければならないと考えております。
どんな「クニ」をめざすのか
<高齢化社会と人口減少に直面して私たち日本人は、
どんな受益と負担のバランスを選択するのか>
我が国は他の先進諸国に比して速いスピードで高齢化に直面しております。現在3.6人で1人の高齢者を支えている状況ですが、2050年には1.4人で1人を支えることになると推計されており、将来世代には重い負担がのしかかることが予測されています。こうした中で、現在のような巨額の財政赤字や公債残高は将来世代への負担の上塗りに他ならず、将来世代は生まれながらにして巨額の負担に苦しむこととなってしまいます。従って、将来世代へのツケをできるだけ少なくするべく今こそ財政の健全化に取り組まねばなりません。
<どんな「クニ」をめざすのか>
政府としては、引き続き「改革なくして成長なし」の方針の下、デフレの克服と経済活性化を目指し、構造改革を強力に推進してまいります。その際、効率性を追求するに止まらず、人間一人一人が家族、地域社会、そして国民と国家という、我が国の伝統的な3つの絆を尊重し、再構築していくことが大切であると、私は強く感じておりますそして、この3つの絆がしっかりと結ばれ、人々が活力と創造力を発揮できるような国家、「活力と信頼の国家」の創造を目指し、一層の努力を続けてまいります。
◆井堀 利宏(いほり・としひろ)
東京大学大学院経済学研究科教授
1952年生まれ
東京大学経済学部卒業、ジョンズホプキンス大学大学院修了(PhD)
東京大学大学院経済学研究科教授 専門は財政学、公共経済学
著書「財政赤字の正しい考え方」「あなたが払った税金の使われ方」「財政再建は先送りできない」など。
「財政再建は先送りできない」
<財政再建は待ったなし>
わが国の財政状況は危機的である。政府の借金残高は対GDP比で160%を超えているし、フローの財政収支でも改善傾向はみられない。財政再建を先送りしても、景気回復による自然増収では財政赤字の解消は無理であるから、いずれは増税や歳出の削減は回避できない。その場合、将来の財政再建に必要とされる増税幅や公共事業、社会保障の削減幅は今以上に大きくなる。しかし、財政再建を先送りすることのメリットは大きくない。
民主主義による政治的圧力のもとでは、公債発行による財源調達は安易に用いられやすく、財政の放漫化を招く。財政赤字は拡大しやすいが、縮小しにくい。公共事業の増加や減税には多くの人が賛成する。財政赤字を財源として量的に総需要を刺激する政策では、その中身がいい加減になる。さらに、財政再建を先送りしつづけると、将来に財政再建を実施しようとしても、そのコストが大きくなりすぎる結果、それを実現することが政治的に困難になる。債券市場で国債の投資家がこうした危機感をもつと、その時点で国債は危険な資産になってしまう。国債価格が暴落すると、金融不安の引き金にもなり得る。
<財政再建のタイミング>
景気対策とのかねあいで、景気回復(潜在成長軌道への回復)をまって集中的に進めるという議論もある。しかし、いつ「回復」と認定するのかが厄介である。また、財政再建がマクロ経済の足を引っ張るのであれば、「回復」したあとでも、増税や歳出削減は景気の足を引っ張ることになる。そもそも、裁量政策は適切なタイミングで実施するのが困難であり、裁量的な景気対策自体が不安定化要因になるかもしれない。したがって、景気対策は金融政策や財政制度の自動安定化機能にゆだねて、財政再建は、中長期的な課税の平準化、負担の平準化という観点から、マクロ経済動向と独立に少しずつ進める方が望ましい。財政状況が危機的にあるとき、むしろ財政再建を着実に進めることが、民間の企業や家計に安心感を与えて、景気対策にも寄与する。制度改革の将来像を明示するという意味で、社会保障改革や地方分権などの財政構造改革はなるべく早急に実施する一方で、量的に引き締めを図る財政再建政策は、なるべく負担を平準化して実施するのが望ましい。
<歳出削減と増税>
2005年現在で160%の公債残高対GDP比率は、10年後には200%以上に上昇する。また、金利と成長率とのギャップは慎重に見積もって2%前後だろう。したがって、目標とすべきプライマリーバランスの黒字幅は4%程度となる。一方で、2005年現在のプライマリ‐バランスは、国と地方政府の合計でみて、ほぼ5%(対GDP比)の赤字である。したがって、今後10年程度で、GDP比10%ポイントほど量的に財政赤字を削減する必要がある。
歳出、税収両面での努力があってはじめて、財政赤字の削減目標は達成される。公共事業や補助金を大幅に削減する。さらに、抜本的な社会保障制度改革を行うことで、高齢化が進展しても社会保障関係費の伸び率をGDP成長率と同程度(2%)かそれ以下に抑制する。また、そのほかの歳出の無駄も徹底的に見直す。こうした歳出削減努力で、10年後の歳出規模を現在よりも対GDP比で5%ポイント程度削減する。
さらに、残りの5%ポイント(対GDP比)の削減を税収の増加でまかなう。たとえば、消費税率を毎年1%ずつ引き上げれば、毎年ほぼ2兆から3兆円の増収が期待できるから、15%まで10%ポイント引き上げる必要がある。あるいは、消費税率をそこまで引き上げないなら、所得課税の強化が必要になる。これらを併用することで、2010年代初頭に財政再建に量的に目処をつけることができる。もちろん、歳出削減をこれよりも大幅に実施すれば、必要とされる増税幅は小さくなる。必要最小限の増税規模を決めるのは、最終的には国民の選択である。
<財政再建を通して、どんな“国”をめざすのか>
財政赤字の削減も重要な政策課題であるが、財政赤字の削減のみを最優先するのは合理的ではない。歳入、歳出の中身を見直し、公平で効率的な財政制度を確立することがより重要である。納税者番号制度を導入するなどして、有権者あるいは納税者の理解と支持をきちんと確保する。公平で、より透明な財政運営につながり、国民全体にとって有益な形で税金が使われるように、財政構造改革が行われるべきである。また、有権者が税金の使い道についてコミットできる仕組みも有益である。
国のあり方も、大人の国民を前提として、透明なルールの設定へと重心を移していく。国民も安易に国に頼るのではなくて、受益と負担の両方をしっかりと評価して、国にどこまで期待するのかを考える。財政制度でも、中央政府が全面的に責任を持って全体をコントロールするのではなく、地方政府や民間の経済主体に大幅な裁量を認めて、それぞれの特性にあう形に変えていく。政府の財政が関与するのは、あくまでも民間の補完、調整の機能に徹するべきである。
◆金子 勝(かねこ・まさる)
慶應義塾大学経済学部教授
1952年東京都生まれ
東京大学経済学部卒 同大学院 経済学研究科博士課程修了
茨城大学人文学部講師 法政大学経済学部教授を経て
2000年10月より現職
専攻分野は、制度経済学 財政学 地方財政論
著書:「市場と制度の政治経済学」「反経済学」「セーフネットの政治経済学」「反グローバリズム」「市場」「長期停滞」など。
「財務省には、危機感がない」
<日本の財政は、穴のあいたバケツ>
日本が抱える774兆円もの借金は、もう返済不可能だと考えた方が良い。今のままでは、国債の下落のリスクをいかに回避するかで精一杯。GDPのおよそ1.6倍もの借金というのは、歴史上の統計を見ると、第二次大戦中くらいしかない。なぜこんなに借金が増えたのか。日本の財政は、バケツに穴があいた状態だ。道路公団をはじめとする特殊法人の債務超過や、補助金政治あるいは、厚生年金の赤字など表に出ない穴がたくさんあるので、いくら中にカネをたくさん入れても、出を減らそうとしても借金は増えるばかりだ。財務省は家計を守る主婦のように、入り(歳入)を増やして、出(歳出)を減らすことしか考えていないが、バケツの穴をしっかりふさがなくては、本当の解決にならない。
また、政府が財政再建の見通しについて、二つの異なる数字を使うのも相当怪しい。一つは経済財政諮問委員会が「構造改革と経済財政の中期展望」で掲げたプライマリーバランス黒字化の2012年達成可能という強気の見方。もう一つは、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会がまとめた試算で、現在の財政状況を放置すれば、2014年度にプライマリーバランスの均衡を達成するには、歳出の3割削減か、消費税を21%まで引き上げる必要があるという厳しい見方だ。どうして、二つの違う見方を二枚舌のように使い分けるのか、借金の実態を国民に正しく伝えているのか、疑いたくなる。
<景気低迷の陰にある二極化>
財政再建では、現行の枠組みを前提にして、ただ増税するだけでは景気の足を引っ張る可能性がある。しかし、今の消費低迷は、将来の不安、格差の拡大や二極化が背景にあることを忘れてはならない。厳しいリストラで、働く人たちの所得格差は広がり、大企業と中小企業、都市と地方の二極化が深刻だ。こういう問題にメスを入れずに、財政再建を名目にただ、歳出削減や増税を進めれば、地方経済はガタガタになり、国民の負担ばかりが増えて、格差はさらに開く。火事で消防車を呼んだら料金を取るとか、そんなバカな世の中になりかねない。財政再建というならば、まず、雇用のルール、年金制度や地方分権などの仕組みを安心できるように作り直すことが先決だ。
<“何でもかんでも消費税”はまちがい>
年金、健康保険、介護保険などの社会保障制度は、今のままではもたない。現行制度は人口が増えて経済が成長することを前提にしているが、2007年度から人口が減少し始めるので、人口減少や雇用の不安定化を前提にした抜本改革が必要だ。ところが、今は、雇用保険料、年金保険料や医療保険料などを引き上げて、なし崩し的な実質増税でお茶をにごそうとしている。国民には十分な説明もないまま、負担増だけが押し付けられている。また、中長期的には、増税は必要だが、何でもかんで消費税というのは反対だ。まずは、所得税や法人税を見直して、きちんと取ることが先決だ。
<財政再建は帳尻合わせではない>
日本の財政の最大のリスクは少子高齢化だ。2007年度から人口が減少し、経済は低成長に向かって行く。08年度には国債償還のピークが訪れる。財政再建とは、こうした変化に耐えるよう諸制度を抜本的に改革し、持続可能な社会、安心できる国を作ることだ。労働人口の減少、団塊の世代が大量退職などで、経済規模が縮小し、税収は減り、社会保障の支え手も減少する。過去に経験がない時代に入る。その中で、企業、雇用、地域の二極化が進む。その恐ろしさを財務省は理解していないのではないか。穴の開いたままのバケツに、消費税、消費税、消費税と騒いでも、水はどんどん漏れ出して、問題は解決しない。財政再建とは、持続可能な社会を作るため、国の形を考える哲学を持ち、まず、社会保障、税制、地方財政などを再構築することから始めるべきだ。それがないまま、「小さな政府だ」、「大きな政府だ」と言っても意味がない。
◆湯元 健治(ゆもと・けんじ)
株式会社日本総合研究所 調査部長
1957年福井県生まれ
京都大学経済学部卒 住友銀行入行
98年小渕内閣の経済戦略会議に出向し事務局主任調査官
2001年日本総合研究所に移り、04年2月から現職
専門分野は、内外マクロ経済、金融・財政・税制、社会保障制度など経済政策全般。著書「税制改革のグランドデザイン(編著)」、「税制・社会保障の基本構想(同)」、「図解 外形標準課税」、「金融を読む辞典(共著)」など。
財政破綻や国家破綻は起こらない
わが国の財政赤字の規模は、主要先進諸国の中で最悪の状況にあります。このままでは、遠からずわが国が財政破綻、ひいては国家破綻の道を歩むのではないかとの懸念が喧伝されています。確かに、現在のわが国の財政状況を放置することはできません。
しかし、私はわが国が財政破綻や国家破綻に陥るとは考えられないと思っています。1400兆円以上もの個人金融資産を有するわが国は、幸いにも外国人ではなく日本人から借金ができる状態にあります。かつてのブラジルやアルゼンチン、ロシアとは大きく違います。私は、日本の財政赤字問題は「赤字の量の大きさ」もさることながら、「非効率な分野に資金が投入されているという質の問題」の方が本質的により重要だと考えます。国の一般会計や地方の普通会計だけでなく、特別会計、財政投融資などを通じて必要性の低い分野に資金が自動的に流れる仕組みそのものを抜本的に変革することこそ、最優先に考えなければならない課題だと思います。小泉政権が行ってきた財政投融資・特殊法人改革は、その意味で決して十分とはいえません。赤字の量的削減を闇雲に急ぐ前に、まず歳出の中身が真に政府として行うに値するものかどうか、非効率・無駄な歳出があればもっとスリム化していく努力が不可欠です。そうした改革をせずして、財政再建の名の下に大幅な国民負担を求めようとしても、国民の理解を得ることは困難でしょう。
増税路線への舵の切り替えは時期尚早
財政再建を優先すべきか景気回復を優先すべきかという二者択一論は、水掛け論争に終わるだけです。財政と経済はコインの裏表の関係にあるからです。経済がデフレから脱却し完全に再生する前に、財政再建を急ぐ余り大幅な増税路線に急に舵を切り替えることは、景気腰折れを招きかねません。そうなれば財政再建も税収の減少から却って遅れることになります。現在の景気は、なお調整局面の途上にあります。日銀の量的緩和という非常時対応の金融政策でデフレからの脱却を何とか図っている段階です。増税のタイミングは直撃を受ける家計部門の所得・雇用環境を慎重に見極めつつ、増税規模も必要最小限に止める必要があります。家計の雇用者所得は1997年をピークに減少を続けました。昨年末にようやく下げ止まりが確認されましたが、それでも水準はピーク比20兆円も少ない状況なのです。現時点での増税路線への切り替えは時期尚早と言わねばなりません。
勿論、景気回復を待ってから財政再建だというのでは遅すぎるとの批判があることも事実です。したがって、財政再建そのものは非効率あるいは無駄な歳出を削減することを中心に着実に図っていく必要があります。17年度予算をみると、3年振りに一般歳出が前年度を下回り、国債発行額も4年振りの減少となるなど努力の跡は窺えます。確かに、公共事業費を始め、防衛費、ODAの削減など評価できるものもあります。しかし、「聖域なき歳出削減」と言われながら、整備新幹線や道路特定財源などは聖域化されたままです。地方交付税についても、地方が受け取る出口ベースでは5年ぶりの増加となっており、「三位一体改革」の成果が十分現れたとは言いがたい状況です。また「小さな政府」を目指すからには、公務員の人件費抑制などの問題にも真剣に取り組む必要があります。特殊法人、公益法人等への天下り、ファミリー企業との癒着の問題などメスを入れなければならない問題が多々残っています。これで増税をというのでは国民に納得感はありません。
高齢化に伴う社会保障のコスト負担をどう考えるか
歳出削減といっても、最も金額的に膨張しているのは年金・医療・介護等の社会保障費です。高齢化の進行に伴って、2025年時点で不足する税財源は33兆円に上ると試算されます。これは、消費税率換算で9.6%に相当します。昨年の年金改革は一元化等の問題を先送りしたとはいえ、15%程度のカットとなり、かなりスリムな年金制度となりました。他方、医療・介護制度の改革はむしろこれからが本番です。医療に関しては、@年金との重複給付の廃止や、Aサービス効率化、B混合診療など公的保険のカバー範囲の見直し、C終末医療の問題など考えなければならない問題が山積しています。しかも、そうした改革を行ってもなお、相当の財源不足は残ります。将来における消費税率の引き上げは不可避で、例えば2015年時点では消費税率は少なくとも10%を超える必要があるでしょう。
もっとも、私は社会保障のための増税は、所得が世代間で移転するだけであり、理論的にマクロ経済に大きな影響を及ぼすわけではないと考えています。これは、付加価値税率が15%〜25%と高い欧州・北欧諸国で経済が悪化しているわけではないことからも明らかです。ただ同じ増税といっても、財政赤字縮小のための増税は、「小さな政府」に結びつかないばかりか、家計部門から所得を政府が吸収するわけですから、タイミングや規模によっては、マクロ経済に大きなインパクトをもたらすわけです。したがって、赤字削減のための増税は極力控える一方で、社会保障のための増税については、徹底的な制度の効率化を行った上で、国民の理解を得ていく必要があります。
「小さな政府」と自己責任・自助努力の世界
超高齢社会と人口減少に直面して私たち日本人は、どのような経済社会を目指すべきでしょうか。おそらく、その答えは年齢・性別・居住地域などの違いで人によって大きく異なるかもしれません。私達が北欧型の高福祉・高負担を目指すべきなのか、米国・英国型の低福祉・低負担を目指すのか、或いは、その中間の中福祉・中負担を目指すのかは、国民の価値観に依存することです。それだけに、どのような社会を目指し、どのような負担を国民にお願いするのかを明確に示すことは政治の重要な責任だと思います。エコノミストとしての私の個人的立場で言えば、(1)「小さく効率的な政府」の下で受益と負担が明確になっている社会、(2)自己責任と自助努力がより重視される活力がある社会、(3)努力した人が報われる一方、真の弱者に対しては十分なセーフティーネット(安全網)が整備されている安心できる社会を目指すべきだと思います。そのためには、潜在的国民負担率(財政赤字を含めた国民の税・社会保障負担)を50%程度に抑制することが必要と思っています。