★阿修羅♪ > 国家破産41 > 225.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
(幸せ大国を目指して:13)広がるマネー至上主義 「長者」生む新興市場
それほど名前も知られていないベンチャー企業の時価総額が今春、約3800億円に膨らみ、川崎重工業や石川島播磨重工業などの売上高1兆円企業の時価総額を追い抜いた。
「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」。韓国の人気ゲームのライセンスを取得し、インターネットで流している。社員数は100人余り。サービスを始めてからまだ2年半だ。
3月に大阪証券取引所が運営するベンチャー企業の登竜門、ヘラクレス市場に上場した。初値は公開価格(1株120万円)の3・5倍の420万円。4月12日には19倍の2310万円にまで跳ね上がった。
同社の孫泰蔵会長(32)が得た含み益は、個人所有分と自らの事業持ち株会社分を合わせ約1400億円。兄・孫正義ソフトバンク社長や高校の同級生だった堀江貴文ライブドア社長に続いて「IT長者」の仲間入りを果たした。
ヘラクレスなどの新興市場には昨年151社、今年上半期に75社が上場し、IT長者たちを生み出し続けている。それを支えているのが、新しいタイプのマネーゲームの申し子だ。
●テレビゲーム
独身男性のAさん(29)は「デイトレード」と呼ばれる、インターネットを通じた株取引で2年弱で2億円を稼いだ。高校時代の友人らと5人で名古屋市内に部屋を借りて「トレーディングルーム」にしている。
17日朝、端末画面で売買の推移をじっと見ていたAさんは、寄りつきから値を下げていた銘柄が反転し始めた瞬間、動いた。素早く1万株買いの注文を入れ、2分後に売却した。利益は5万円。名前も事業内容も知らない会社だった。
「会社の成長を信じて買うなんてことはない」。値動きが激しい銘柄を狙い、株価が1%上がったら売り抜けて確実にサヤをとる。取引の波に巧みに乗りながらテレビゲームのように、「高速売買」を1日100〜150回繰り返す。
都内に住むBさん(32)は、公開初値が公募価格を上回るケースが多いことに目をつけ、主に新規公開株を狙う。ネットで新規上場を調べて購入予約を申し込む。抽選で当たれば、前受け金を払い、上場日に初値売りで利益を得る。
自動車工場の季節工、コンビニ店長と職を変え、いまは投資で生活する。「抽選に当たるかどうか、ばくちのようなもの」というが、大金を狙ってぎらぎらするわけでもない。妻の分と合わせ、4年間で800万円の利益を得た。
ネット取引は口座数約700万、年130兆円市場に膨張した。その資金を取り入れて急成長しているのがIT企業だ。ニッポン放送買収劇で名をはせたライブドアはその代表例である。
●「出来レース」
「上場翌日に売却益40億円がどんと口座に入ってきた時は市場のパワーを感じた。資本市場をうまく使った企業が勝者になると直感した」と、04年に長者番付入りしたGMOインターネットの熊谷正寿会長(41)は話す。
同社は6年前に上場、翌年には子会社も上場させ、得た資金で競争相手を買収してきた。グループ22社の半分以上は買収や資本参加で手に入れた。
通信料金を一括請求するサービスで最大手になったインボイス。04年の長者番付12位である木村育生社長(46)は「上場するだけでなく市場で目立たないと、投資家は買ってくれない」という。02年の上場後、3回にわたって1株を462株に分割し、手頃な株価に下げて買いやすくした。これで新株に移る際、一時的な品薄で株価は上がりやすくなり、その株高を背景に買収資金などを調達した。
カブドットコム証券の臼田琢美常務は「株分割や話題づくりで企業側が意図的に作った株高に、デイトレーダーが便乗してもうけを狙う。お互いがハッピーな出来レースだ」と錬金術の実態を解説する。
多くのIT企業がM&A(企業買収)で売り上げを膨らませ、成長神話のもとで高株価経営を維持する。それに投資家が乗せられ、乗って株価がさらに上がっていく構図だ。
●売り抜け去る
昨年、上場益8億円を稼いだIT企業の元経営者Cさん(40)は、いま未公開企業の上場益を狙った投資ファンドや不動産投資信託に資金をつぎ込んでいる。「年金制度は破綻(はたん)しかけており、将来を考えるとお金を寝かせていられない。人生ゲームのスロットを回し続けるしかない」という。
新興市場で増殖した資金はこうして再び株式市場や不動産市場へと流れ込み、別のマネーゲームを演出していく。
即席めん大手の明星食品。新製品開発に精力を注ぎ、リストラにも力を入れて内部留保も増えてきたところだった。その同社に昨年7月、「まとまった量の株を取得したので、今からうかがいたい」と敵対的な株買収で注目される投資ファンドを運営するM&Aコンサルティングの村上世彰代表から電話があった。
永野博信社長(66)を訪ねて来た村上氏は「株主への利益還元が必要」とまくしたてた。資産が寝ている、製造業が都心の一等地に本社はいらない……。
「1カ月余りしか株を持っていない株主に報いろと言われても」。永野社長は釈然としなかったが、結局、増配を決めた。果実を手にした村上ファンドは株主総会直前の12月中旬、保有株をすべて売り、あっさりと去っていった。
村上ファンドはその後、ライブドアのニッポン放送買収劇の陰でも、保有株を売り抜けて巨額の利益をあげた。
永野社長は思う。
「お金を動かすだけで莫大(ばくだい)な利益をあげる。そんなやり方が世の中でまかり通ったら、若い人が額に汗して働くのがバカらしくなるようなことにならないのだろうか」(編集委員・西井泰之)
◇ ◇
http://www.asahi.com/paper/business.html