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週刊医学界新聞 第2638号 2005年6月20日
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2005dir/n2638dir/n2638_05.htm#00
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第 62回
ゼネラル・モータースの苦境と米医療保険制度
李 啓充 医師/作家(在ボストン)
まがりなりにも,うまく機能している「公」の医療保険制度があるのに,「『公』を減らして『民』を増やす(二階建ての医療保険制度)」ことをめざしているどこかの国とは違い,米国では,資本主義の権化ともいうべきGMが,「『民』をやめて『公』にしてほしい」と,まったく正反対のことを願っているのである。
以下全文引用
(2636号 http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2005dir/n2636dir/n2636_03.htm よりつづく)
5月5日,債券格付け会社のスタンダード&プアーズ社(S&P社)が,世界最大の自動車メーカー,ゼネラル・モータース(GM)の債券を格下げ,「ジャンク・ボンド」扱いとする決定を下した。債券が格下げされたからといってGMがすぐに倒産の危機を迎えるというわけではないが,当面の資金調達に今まで以上の利率が適用されるなど,ただでさえ苦しい経営が一層困難さを増すことになったのだった。
GM債券格下げの背景
そもそも,S&P社がGM債券の格下げを決定したのは,(1)トヨタ,ホンダなど外国企業に市場を侵食され,シェアが長期低落傾向にあること,(2)主力商品だったSUVの売り上げが,原油高騰のあおりをくって落ち込んでいること(SUVは利幅が大きい商品だっただけに経営に与えた影響は大きかった),そして,(3)従業員,元従業員,そしてその家族の医療費支出が企業経営を圧迫していること,の3つだったと言われている。
医療費支出がGMの経営を圧迫するようになった遠因は第二次大戦にさかのぼる。戦争の影響でどの企業も人手不足となった際,政府が「高給を餌にする求人」を規制,医療保険など「給与外福利厚生(ベネフィット)」の提供が求人対策の中心となったのである。現行の「民」(=雇用主ベース)を主流とする米国の医療保険制度が成立したきっかけは,このように第二次大戦にあったのだが,やがて,企業と組合との労使交渉の際に,「給与外ベネフィットの格上げ」が「賃上げ」に代わる取引材料として使われるようになった。特に,GMでは,組合との交渉に際し「医療保険の好条件化」を繰り返し,「GMの医療保険は米企業の中で一番条件がよい」と言われるまでになったのだった。
GMが医療費地獄から抜け出す方策
GMは,現在,一企業としては米国最大の保険者であり,現・元従業員およびその家族をあわせると,110万人の被保険者を擁している。特に,最近は,高齢化した元従業員およびその家族の医療コストが急増,05年度の医療費支出は56億ドルと,前年より10億ドル増が見込まれている。現在,GMが医療費にかけているコストは車1台当たり1500ドルといわれ,医療費負担が企業の存立を脅かすまでになっているのである(註1)。
医療費地獄から企業を救うために,GMはさまざまな方策を講じている。第一の方策は,医療費支出抑制のために,自己負担増などを組合と交渉することだが,当然のことながら,組合との交渉は難航が予想されている。
第二は,「健康教室」を開くなど,従業員の健康増進運動に力を入れることで医療費を減らす方策である。日本の自動車メーカーでは考えられないことだろうが,たとえば,GMでは,いまだに生産ラインで仕事中の従業員が喫煙することを認めている工場が多い。禁煙運動を進めることで健康増進・医療費抑制をめざすのだが,「健康増進」は支出抑制という観点からはもともと即席の効果が出にくい手段であるうえ,職場の禁煙などは組合との交渉も必要になるので,前途は遠い。
第三は,米国での生産を縮小してお隣のカナダに工場を開く方策である。カナダは,英国式に,政府が税で運営する「公」の医療保険制度を採用しているので,企業としては,定められた税を納めさえすれば,医療費の問題を心配する必要がないからである。
GMはじめ米大企業の医療保険制度に対する本音
実は,1970年の段階では,カナダもアメリカも,医療費支出はGDPの7%程度とほぼ同じだった。しかし,国家として「公」の医療保険制度を整えてきたカナダが,現在,GDPの約9%しか医療費に支出していない(註2)のに対し,頑迷に「民」の医療保険制度を保持し続けてきた米国は,GDPの約15%を支出するまでになった。しかも,カナダでは国民の医療へのアクセスが完全に保証されているのに対し,アメリカは国民の6人に1人が無保険者と,「公」と「民」の医療保険制度は,21世紀となったいま,完全に明暗を分けている。
GMのカナダ法人経営首脳は,「企業が進出する際に大きなプラス」と,カナダの医療保険制度を絶賛しているが,米国本社のGM経営首脳は,今のところ「公営医療保険には反対」と,保守派(共和党)に与する建前を崩していない。しかし,保守派の政治評論家,ジョージ・F・ウィルも看破するように,「GMなど,米国大企業の本音は,ヨーロッパ,カナダ,日本のような『公』の医療保険制度を米国にも作りたい,というところにある」と見る向きは多い。
まがりなりにも,うまく機能している「公」の医療保険制度があるのに,「『公』を減らして『民』を増やす(二階建ての医療保険制度)」ことをめざしているどこかの国とは違い,米国では,資本主義の権化ともいうべきGMが,「『民』をやめて『公』にしてほしい」と,まったく正反対のことを願っているのである。
(註1)米国で医療費負債を原因とする個人破産が増えている事情は拙著『市場原理が医療を亡ぼす』(医学書院刊)で紹介したが,いま,米国は,企業が医療費負担で倒産する時代になろうとしているのである。
(註2)日本の医療費支出はカナダより少なくGDPの約8%。
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