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西武に群がるオール外資 あのジョージ・ソロスも参戦
(2005年6月13日号)
外資にとって西武鉄道・コクドグループは「宝の山」に見えるようだ。再建を進める同グループを巡り、水面下で激しい争奪戦が展開されている。
◇
都心の東京プリンスホテルに近い高層ビル。その27階に、ヘッジファンドの盟主、ジョージ・ソロス傘下の投資ファンド、グローブ・インターナショナル・パートナーズがオフィスを構えている。
「指揮をとっているのは、ソロス腹心の米国人。西武・コクドが保有する各地のプリンスホテルやリゾートを狙っているようです」
グローブから打診を受けた関係者は、そう打ち明けた。この関係者の元へは、グローブ側から北米のいくつかのスキー場運営会社と西武グループとの提携など、具体的な再建策が持ち込まれている。
兆円単位の運用資産があるとされるソロス・グループは近年、積極的に対日投資を進めてきた。グローブとは別のソロス系ファンドが傘下にもつイシン・ホテルズ・グループは、東京、北海道、沖縄など14のホテルをすでに買収している。産業再生機構が進めるダイエーの再建で、最終的には落選したものの、一時名乗りをあげた再生ファンドのキアコンも、ソロス系ファンドと深い提携関係にある、とみられてきた。
そして、ソロスが今、狙っているのが、西武なのである。しかも、西武の株式偽装事件が発覚する前から堤一族との関係構築を狙って、ひそかに接触を図っていたとされるのだから、驚く。
●「もう二度とない出物」
グローブの日本人幹部は、
「一切コメントできません」
と言うのみだが、すでにこの幹部や米国人幹部が活発に動いているようだ。国内の著名な投資ファンドがソロスマネーの神通力をあて込んで、グローブとの提携を模索する動きさえある。
一方、日本長期信用銀行(現新生銀行)の買収で一躍、日本に買収ファンドの存在を知らしめたリップルウッド(現RHJインターナショナル)は、昨年秋から西武を狙って動き始めた。
「宮崎のシーガイアを買収したものの、シーガイア単体だけでは、なかなか再建がはかどらない。西武グループのゴルフ場やホテルとの相乗効果を狙って、アジア各地から観光客を集める仕組みをつくる。そんな構想を温めています」
リップルウッド関係者はそう言う。今春にはベルギーで株式公開し、2000億円を調達。日本での株式公開も計画しており、運用難のジャパンマネーを数千億円規模で集めそうだ。これまで欧米のスーパーリッチや機関投資家など限られた層からしか資金を調達してこなかったが、上場すれば、市場を通じて薄く広く集めたマネーを手にでき、買収攻勢に拍車がかかるだろう。
自民党などに「ハゲタカ」視され、忌み嫌われる一群が西武に群がっている。銀行の不良債権処理が峠を越えるなか、西武が、ひょっとしたら最後の、そして最大規模の「宝の山」になりそうだからだ。赤坂、高輪、品川など都心一等地に構えるプリンスホテル、全国に約50カ所も展開するゴルフ場、再開発の余地のある豊島園、そしてハワイのリゾート……。
投資ファンドの主宰者は言う。
「西武は都心だけでも25万平方メートルもの土地を持つ。こんな出物はもう二度とないでしょう」
堤一族にも、外資からの「ご提案」がひっきりなしに舞い込んでいる。西武鉄道を傘下にもつコクドの株主が、本当はいったい誰なのかを巡って訴訟で争われているため、大株主になる潜在的可能性を秘める一族は、外資にとって大事な「切り札」になりうるのだ。
ある外資系投資銀行は、コクドが保有する西武鉄道株を担保にして資金を調達し、コクドを買収するレバレッジド・バイアウト(LBO)を一族のメンバーに持ちかけている。ライブドアがフジテレビの買収策として検討したことで話題になった手法だ。
●夢のような買収案
西武グループの個別事業に注目するところもある。交通インフラへの投資を専門とする外資系投資銀行は、西武グループが保有する群馬県の鬼押、万座の両ハイウェイを売ってもらえないか、と国土交通省などに打診して回っている。
西武ライオンズの二軍と、野球場の命名権を取得したインボイスの木村育生社長も、球団保有ファンドを設立し、そこがライオンズ一軍を取得する腹案を披露する。
「ファンドには、私個人のほか、ファンや金融機関に出資してもらい、いずれ株式公開すればいい」
西武争奪戦に参戦しているのは、判明しただけでも10社以上。前述した企業以外にも、投資ファンドではサーベラスやローンスター、コロニー・キャピタルなど。投資銀行ではゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザーズ、モルガン・スタンレー。さながらオールスターキャストだ。
ゴールドマンやモルガンは、1兆5000億〜2兆円で西武グループを買収する案を持ち歩いている。これだけの金額ならば、1兆4000億円という西武・コクドの銀行への借金は優に返せる。夢のような案である。
だが、こんな打ち上げ花火を、西武を担当する投資銀行マンは苦笑して言う。
「いざ交渉に入ると、様々な難癖をつけて減額するという、いつもの手ですよ。いまが絶好のチャンスと見て、彼らはふかしているだけ。安く買いたたいて、高く売り抜ける。大もうけが確実だから、外資が殺到しているのです」
●みずほコーポ内の確執
西武の再建策では、メーンバンクのみずほコーポレート銀行が主導した西武グループ経営改革委員会(委員長・諸井虔太平洋セメント相談役)が3月に答申をまとめ、銀行主導による立て直しが進むかに見られてきた。だが、2カ月余で事態は急変した。
「改革委の答申はたたき台です。外資系金融機関から正式な提案があれば検討し、最良の経営改革案を選択します」
みずほコーポから送り込まれた西武鉄道の後藤高志社長は5月24日の記者会見でそう語り、古巣のみずほと微妙な違いをうかがわせた。同じみずほ内でも、送り出した斎藤宏頭取(旧興銀出身)と、転出させられた後藤社長(旧一勧出身)とでは、肌合いも出身母体を含む人脈もかなり違う。
後藤社長の姿勢が柔軟な背景には、みずほ内の確執に加え、改革委の答申が、あまりに銀行の論理を優先しすぎていると自覚しているからでもあるだろう。
改革委の陣立ては、興銀OBの諸井氏をはじめ、みずほコーポ、東京三菱、三井住友のメーン3行出身者が占めていた。答申にある西武とコクドの合併案は、経営が悪化したコクドを優良資産を持つ西武に吸収させることで、銀行団が債権の保全を図った、と見られても仕方がない面がある。諸井氏自身「60点の出来」と、辛口の評価をつけざるをえなかった。
「軸足をみずほだけに置くと変なことになる。後藤さんは株主、銀行、地域経済、従業員などあらゆる利害を考慮した上で、公平で透明性のある判断をするでしょう」
旧一勧時代に後藤氏の下で働いた小説家の江上剛氏は、後藤社長の舵取に期待する。
●財務状況も不透明
改革委は、西武鉄道の株を約70%持つコクドグループの「オーナー」である堤義明元会長から「白紙委任」を得たことを正当性の旗印にしたが、コクドの真の株主をめぐって堤一族の争いは続いている。しかも、再建策の前提となる西武・コクドの詳細な財務状況も、改革委は明らかにしなかった。
「はたして西武鉄道が過去に発表してきた決算は本当に正しかったのか。過去の分を含めて、詳細に再検証する必要があります。さらに2006年3月期決算から強制適用される減損会計を厳格に実施した場合、不動産の含み損が表面化して、債務超過に陥る危険性がないとも言い切れない」
先述の西武担当の投資銀行マンは、そんな疑念を拭いきれない。
経営の不透明さが問われた西武事件で、その再建策の立案過程も不透明なまま。外資の提案は、こんな西武をめぐる銀行側の弱点をうまく突いている。
「何せ委員長自らが60点と言うできですからね。それを採用するわけにはいかないですよ」
西武鉄道のある中堅幹部は、そう打ち明けた。
事態を複雑にしているのは、銀行vs外資という単純な構図で収まりきらない点だ。メーンバンク3行の足並みは必ずしも一致しておらず、改革委の答申を強く推すみずほに対し、「あわよくば西武のメーンバンクになりたい」(ある外資系証券会社幹部)といわれる三井住友は、村上ファンドやゴールドマンに秋波を送ってきた節がある。前述した通り、みずほ内でも斎藤頭取周辺と、後藤氏を取り巻く旧一勧系とではスタンスが異なる。西武再建にはこうした複雑な関係が反映しそうだ。
●社長派にも提案攻勢
同床異夢を抱えたまま、西武は4月、銀行出身者ら約20人からなる再編統合チームをスタートさせ、独自の再建策の検討に入った。新日本監査法人など外部の監査機関に詳細な資産査定を依頼し、みずほ、三菱、大和SMBCの3証券会社をフィナンシャル・アドバイザーに起用した。
西武の役員を大幅に入れ替え、今後はコクドやプリンスホテルの役員一新も予定している。体制を刷新したうえで、西武は8月中に最終的な再建案を固め、秋に開く臨時株主総会で株主からの承認を得る心づもりでいる。
みずほコーポ関係者からは、
「改革委の答申を尊重すべきだ。何のために答申をつくったのか」
と、牽制する声があがるが、大もうけをたくらむ外資は、後藤社長と親密なみずほグループ幹部を探し当て、相次いで「ご提案」を持ち込んでいる。
(AERA編集部・大鹿靖明)
http://www.asahi.com/business/aera/TKY200506150379.html