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ものづくりの仕事は… カイゼン競争の先は 【朝日新聞】
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投稿者 愚民党 日時 2005 年 6 月 12 日 06:58:36: ogcGl0q1DMbpk
 

(幸せ大国を目指して:11)カイゼン競争の先は

ものづくりの仕事は…


現場の力が日本の製造業の強さを支えている

 1千点の部品があるキヤノンの最高級デジタル一眼レフカメラを3時間強で、一人で組み立てられる女性がいる。大分キヤノン(大分県安岐町)の金林さおりさん(33)。キヤノングループの組立工として最高の技術をもつ「S級マイスター」の一人だ。

●「仕事に自信」

 もともとはベルトコンベヤーに沿って単純作業をこなす組立工の一人だった。6年前、ベルトコンベヤーが撤去され、一人が複数工程を受け持つ「セル生産方式」が導入され、「すべて自分で組み立てたい」という気持ちが芽生えた。全26工程を少しずつ覚え、完成品を作れるようになった。特別手当はないが、「働きがいや仕事の自信につながっている」と言う。

 コンベヤーの流れに合わせて組立工がロボットのように同じ作業を繰り返す「分業生産方式」は、20世紀初頭に米自動車メーカー、フォードが生み出した。トヨタ自動車がそれを「カンバン方式」に発展させて一層効率を上げた。そのトヨタ式が多くの日本企業のお手本となった。

 ルポライターの鎌田慧氏は73年、著書「自動車絶望工場」で、とことんまで効率を追求したトヨタの工場を「(従業員が)極端に細分化された作業の繰り返しに追いまくられる」と批判した。

 その工場の光景を一変させたのがセル方式だ。単調な作業でなく、複数の作業を受け持たせ、工夫の余地を与えようという発想で生まれた。各集団が細胞(セル)のように自律的に動くことから名付けられた。大分キヤノンでは同方式の導入で一人当たり生産量が5割増えた。

 生みの親の生産コンサルタント、山田日登志・PEC産業教育センター所長(65)はトヨタ方式の申し子だ。70年代初め、カンバン方式を生んだ故・大野耐一氏(元トヨタ自動車工業副社長)の講演に感銘し、直接指導を受けた。その後、トヨタ式の「カイゼン」を重ね、進化させ、セル方式にたどり着いた。

 同方式は、92年にソニーの工場に初めて導入され、その後も山田氏の指導で数百カ所の工場に導入されている。

 メーカーは果てしなき効率競争に血道をあげる。それも、生産コストの安い中国などでの生産増で国内工場が空洞化しかねない、という危機感からだ。

●400万人以上減

 日本企業の03年度の売上高に占める海外生産比率は15・5%と過去最高で、10年前のほぼ2倍。一方、国内の製造業の就業者数はピークだった92年から400万人以上減り、04年は1150万人となっている。

 その流れにあらがって、何とか国内工場を残そうとしている企業も少なくない。シャープが三重県亀山市で04年に操業した液晶パネルの最新鋭工場はその代表例だ。

 ただし、同社の主眼は、先端技術の海外への流出防止や研究開発と生産との連携にある。必ずしも雇用の維持を目的としておらず、工場の2600人のうち正社員は800人にとどまる。あとは削減対象とされやすい請負会社の社員だ。

 請負会社の求人には当初、地元から応募者が殺到したが、雇用が不安定だとわかると急減した。いまは日系ブラジル人や東北地方での求人に頼っており、地元と企業が濃密に結びつく企業城下町の光景はない。

 生産現場の研究に取り組む藤本隆宏・東大教授は非正社員の増加は「効率化が労働者にしわ寄せされていることを示すものだ」と指摘する。「非正社員が熟練を増してもそれに見合う待遇を受けていない」

 効率主義の徹底はさらに工場の「無人化」へと進みつつある。キヤノンは07年末までに国内生産額の4分の1をロボットにゆだねる。組立工5千人が必要なくなり、正社員は配置転換、過半を占める非正社員は契約打ち切りとなる。

●技術流出防ぐ

 デジカメのような複雑な製品は、まだ人手に頼らざるをえない。ただ、そこにもロボットの能力は少しずつ及びつつある。

 制御機器製造の和泉電気(大阪市)の兵庫県滝野町にある生産現場。2台のアーム型ロボットと作業台を組み合わせた「ロボットセル」20台が24時間休みなしで稼働している。最大45個の部品を器用につかんでは組み立て、140種類の継電器を完成させる。

 ロボットセル導入には技術流出を防ぐ狙いもあった。同社の中国工場で生産すると、すぐに精巧なコピー製品が出回るからだ。

 藤田俊弘執行役員常務は「いずれ一眼レフデジカメを組み立てられるロボットもできますよ」と自信を見せる。

 生産現場で、人間はロボットから追い出され、いずれ姿を消すのだろうか。

 佐藤博樹・東大社会科学研究所教授は、それでも製造業の未来に人間は欠かせないとみる。「人はマニュアル通りに動くだけでなく、不良品を見分け、その原因を追及し、改善できる」

 日本を世界第2位の経済大国に引き上げたのは「ものづくり」の力だった。それを支えたのが下請けの中小企業群だ。東京都大田区で40年以上、精密機械を作ってきた零細企業の社長(66)はものづくりの魅力を「苦労してやっと完成したときの喜び」と語る。

 ただ、中小・零細工場にそれを享受する余裕はなくなっている。同区の工場数はここ20年、受注減と後継者不足で半減した。別の経営者は「生き残りたいとがんばっているが、苦しみの方が多い」と嘆く。

 果てしなく続く効率化競争については、セル方式の伝道師、山田氏でさえ「キリがない」と話す。現場の作る喜び、やりがい、創造力――。そうした働き手の視点を置き去りにすれば、ものづくりの強さを支える土台は揺らぐ。(田中孝文)


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