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原子力・石油依存の時代は終わった
2010年 自然エネルギー依存22%目指すEU
湯川真一
http://www.bund.org/opinion/20050615-2.htm
先日、埼玉県小川町のバイオガスプラントを訪れた。小川町バイオガスプラントでは、町内の家庭から出る生ゴミをバイオガス・肥料として利用し、生ゴミを提供してくれた家庭にできた有機野菜を分配する。農家と地域住民との協力で作り上げられた循環型のエネルギー・システムだ。ヨーロッパでは、こうした地域コミュニティーによる分散型自然エネルギー開発の取り組みが自然エネルギー普及に大きな役割を果たしている。
@風力発電大国デンマークの風力協同組合
地域分散型の自然エネルギー開発としては、風力発電大国デンマークの風力協同組合が有名だ。デンマークの風力発電設備容量は2003年末で311万kWで、世界4位。総量では1位のドイツ(同1461万kW)の5分の1強程度だが、国内の発電総量に占める風力の比率は20%に達する。
居住者ルールの原則
デンマークが世界有数の風力発電国となるにあたって「風力協同組合」が果たした役割は大きかった。97年末時点でデンマークの風力発電機の8割以上(4784基のうち4112基)が民間所有であり、そのうちの半分以上を風力協同組合が所有している。
風力協同組合というのは、自治体や住民有志が資金を出し合って風力発電施設を建設し、発電量や出資金に応じて出資者に配当を分配するシステムだ。風力協同組合のように地域コミュニティーを担い手とする小規模風力発電は、デンマークだけでなくドイツでも全風力発電の4分の3を占め、ヨーロッパでは主流になっている。
デンマークでは1978年にデンマーク風力発電所有者協会(DV)が設立され、80年にはオーフスで初めての風力協同組合が生まれた。この当時は、アメリカのスリーマイル島原発が事故を起した時期であり、デンマークでは反原発の運動が高揚。デンマーク議会の過半数を占めていた左派・中道政党は、風力発電開発の支援をはじめる。
しかし、風力発電機の建設に対して各省庁から反対の声が上がった。森林自然行政省は風力発電開発が自然保護と対立すると主張。地方議会は、都市計画を盾に発電機建設に規制を課そうとした。またデンマーク自然保護協会は、動物保護と景観保護の観点から風力発電開発に反対した。
こうした情勢のなかで、「地域のエネルギーは地域で作る」という風力協同組合のルールが社会的に合意されていく。ルールはいくつかあるが、一番重要なものは「居住基準」だ。風力協同組合に出資できるのは、同じコミューン内の同じ電力供給エリアに住んでおり、かつ風力発電機から3キロ以内に住んでいる者に制限された。
居住者ルールは、風力発電の普及を規制するために作られたものだったが、むしろこうした規制によって「地域のエネルギーは地域で作る」という協同組合のコンセプトが確立していくことになった。風力発電の正の影響(電力)と負の影響(騒音・景観)とを地域住民が共に分かち合う。そうすることで都市住民が遠方の風力発電に出資して、正の影響は受けるが負の影響は受けないという不公平を回避しようというわけだ。
洋上ウインドファーム
しかし、こうした風力発電機建設への規制は、発電機の大型化・効率化に伴い、風力発電普及の足かせになっていく。デンマーク風力発電所有者協会は、規制を緩和させるよう活動を開始。92年に「風力発電法」が制定されて「居住基準」が緩和され、隣接するコミューンの居住者も風力発電に出資できるようになった。
さらに96年には、その土地に何らかの関わりを持っていれば、必ずしも居住していなくても良いとされた。そのかわり自治体に、土地利用計画の作成に際して、風力発電の受け入れ不可地域=ゾーンT、慎重な精査が必要な地域=ゾーンU、受け入れ可能地域=ゾーンVという土地区分を行うことが義務づけられた(図1)。
実際のところ、大規模なウインドファーム(風力発電機群)建設には、洋上(つまり海)が一番適している。デンマーク政府が96年に発表したエネルギー計画「エネルギー21」では、2030年までに550万kWの風力発電建設を目標にしているが、そのうち400万kWを洋上風力発電で賄うことが目指されている。
現在、デンマークでは、大規模な洋上ウインドファーム(風力発電機群)の建設ラッシュとなっている。2001年には、首都コペンハーゲンの沖合に20基4万kWのウインドファームが建設された。2002年から2003年にかけては、ユトランド半島西部の沖合に80基・16万kWのウインドファームが、デンマーク南東部のロラン島には72基・15万kWのウインドファームが建設されている。
このような大規模なウインドファーム建設には膨大な予算が必要だ。しかし従来のような規制があっては出資金が集まりにくい。そこで99年には規制が緩和され、18歳以上のデンマーク国民であれば誰でも出資できるようになった。ただ結果的には、コペンハーゲン沖のミドルグロン・ウインドファームの場合、8552組の出資者のうち9割近くがコペンハーゲンやその近郊の住民・団体だった。
デンマークでは、規制緩和によって風力発電の急速な普及が実現した。しかし規制緩和に伴い、地域活性化や環境保全よりも投資活動に目標が向かうようになってきてしまったとの批判の声もあがっている。自然エネルギーの普及と地域活性化・環境保全との両立をいかに図っていくのか。これからのヨーロッパの重要なテーマだ。
A 電気を作る自由のない日本
ヨーロッパにおける自然エネルギーの普及は住民によるボトムアップ方式で実現されてきた。では日本はどうか。
大企業主導の風力発電
近年、日本でも自然エネルギーに注目が集まるようになり、風の強い北海道や東北地方を中心に風力発電の建設が進められている。主な事業を列挙すると、稚内17基1万9355kW、幌延30基2万1480kW、苫前42基5万2800kWなどとなっている(2001年現在)。
日本でも風力発電が建設されはじめたこと自体は、歓迎すべきことだ。しかし、ヨーロッパのような市民共同出資の風力発電は、北海道で3基、東北で2基の合計5基しかない。日本の風力発電機の管理者は、電力会社や大企業が圧倒的シェアを占めている。そこが地域コミュニティ主体のヨーロッパの風力発電開発との大きな違いだ。
例えば、国内有数の風力発電業者にユーラスエナジージャパンとJ―POWERがある。ユーラスエナジージャパンは東京電力とトーメンが株主となって運営している会社だ。アメリカやヨーロッパにも風力発電機を建設していて、運転中の風力発電だけでも18万4390kWの設備容量を持つ大企業だ。
J―POWERも、運転中のものだけで国内に13万2550kWの設備容量を持っている。J―POWERと聞くとなにか新しい会社のように聞こえるが、元々の名称は電源開発株式会社、1952年に設立された通産省傘下の国策会社だ。2004年10月に完全民営化されたが、66年に操業開始した日本初の原発=東海発電所の受け入れ主体としていち早く名乗りをあげた会社であり、その後は新型転換炉の研究開発を引き受けていた。その電源開発がJ―POWERと名前を変えて、90年代後半から風力発電市場に進出してきたわけだ。
風は地元の資源
大企業主導の風力発電がはじまると、住民の間から「地域の資源を大企業が持っていく。果たしてこれで良いのか」という声があがる。疑問を抱いた住民たちは、デンマークの風力協同組合と同じような考え方で「市民風車」の試みをはじめている。市民風車では、NPOやNPOが設立した企業が住民から出資金を集めてファンド(基金)をつくり、風力発電機を建設。出資者には発電量に応じた配当金を支払う。
2001年9月、日本初の市民風車「はまかぜちゃん」(1000kW)が北海道浜頓別町に建設された。その後、2003年2月には青森県鯵ヶ沢町、3月には秋田県天王町、2005年3月には北海道石狩市に2基の市民風車が次々と建設されている。これらの市民風車建設には1基当たり2億円前後が必要だったが、すべて全国からの出資によって賄われた。自然エネルギーに投資したいと思っている人は、日本にもたくさんいるのだ。
市民風車は、「風は地域の資源である」というコンセプトで運営されている。大都市の大企業が地域の風を使って金儲けをするのではなく、市民参加を通じて地域の資源を地域のために使おうというのである。
鯵ヶ沢町に建設された市民風車では、そうしたコンセプトが配当利回りも反映されている。年平均の配当利回りは鰺ヶ沢町民の場合3・0%、青森県民の場合2・0%、その他は1・5%だ。地元ほど配当利回りを高く設定することで、風力発電による収益を地元に返還しようというのだ。
しかしこうした市民風車は、先述したように今のところ全国で5基しか建設されていない。原因の一つは電力会社との契約にある。北海道電力は風力発電で作られた電力購入の買い取り枠を25万kWに制限している。その結果、北海道苫前町の市民風車は、北海道電力と契約を結ぶことができなかった(コラム参照)。日本には、住民が電気を作り、利用し、売る「自由」がない。発電をめぐる日本の法制度が市民発電の発達を妨げているのだ。
B 電力独占続ける十大電力会社
2003年4月、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」(以下、新エネ法)が施行された。新エネ法は、各電力会社に自然エネルギーの導入枠を義務付けている。これを固定枠制(RPS)という。この枠は本来、自然エネルギー買い取りの最低ラインを義務づけたものだ。ところが電力会社は、その枠をクリアしていればそれ以上を買い取る義務はないと解釈している。
固定価格制の必要
新エネ法施行と同時に、北海道電力は風力発電からの電気分の買い取り価格をkW時当たり3・3円と、以前までの価格の3分の1以下に引き下げると発表した。北海道電力はすでに新エネ法で義務づけられている固定枠分は買い取っているから、これ以上買い取る義務はないというのである。
北海道電力のように買い取り価格を安くされてしまったり、買い取りを拒否されたりすれば、風力発電は採算がとれなくなってしまう。実際、今年1月、北海道・東北・九州の各電力会社は、風力発電に対する「解列ルール」(解説)を発表。風力発電からの電力買い取りに制限をかけると言い出している。
自然エネルギーを普及させていくためには、固定枠制ではなく固定価格制(FIT)を導入する必要がある。RPSを導入している国とFITを導入している国とを比較した図2を見れば一目瞭然、FIT導入こそ自然エネルギー普及の切り札なのだ。
エネルギーを選択する権利
環境破壊や資源枯渇対策として有効な自然エネルギー発電によって生み出された電力は、優先的に買い取られるべきだ。実際、欧米では、自然エネルギーに様々な優遇措置がとられている。ところが日本の場合、10電力会社による独占体制が根強く、原発や火力発電が優遇される一方、自然エネルギーからの電力買い取りは優先順位が最も低く位置づけられてしまっている。
そもそも日本の場合、自然エネルギー導入の目標値自体が低すぎる。2010年の目標値が日本は1・35%、一方EUは22%である。中国はFITを導入して2010年までに6000万kW(原発60基分)の発電を自然エネルギーで行うとしている。日本は石油産出量ゼロのエネルギー小国でありながら、自然エネルギーへの取り組みがあまりにも遅れている。
ヨーロッパの原発反対派は、「エネルギーを選択する権利」を掲げ、地域で自然エネルギー開発を実現することで、原発に依存しないエネルギー体系を自ら作り出そうとしてきた。そうした脱原発住民運動の取り組みが、ヨーロッパにおける自然エネルギー普及の大きな牽引軸となってきた。日本も、危険な原発や石油大量消費に依拠した一極集中的なエネルギー・システムからの脱却を決断するべきだ。
石油枯渇の21世紀は、「地域のエネルギーは地域で作る」という地方分権と結びついた分散型自然エネルギーの時代となる。市民風車や小川町でのバイオガスプラントは、そうした試みの一つだ。いまや私たち一人一人がエネルギーを選択する時代がやってきている。
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風力エネルギーは誰のもの?
「風車の町」北海道苫前町の場合
北海道の苫前町は42基の風力発電機が林立する日本有数の「風車の町」だ。内訳は、ユーラスエナジージャパンが20基、J―POWERが19基、苫前町(自治体)が3基。
そもそも苫前町は「町おこし」の観点から地元の強い風を利用して何かできないかと考えていた。そこで注目したのが、ヨーロッパでの普及が話題を集めていた風力発電だった。町は94年ごろから町職員・町議員・町民を組織して調査に乗り出した。ところが、そうこうするうちに、99年にユーラスエナジージャパンが20基の発電機を建設して営業を開始。2000年にはJ―POWERも19基の発電機の営業を開始した。
苫前町は「風車の町」として有名になり、ウインドファームからの税収も入るようになった。しかし、大企業が建設した風車は、当初、苫前町が目的とした「町おこし」にはほとんど役立たなかった。
現地を取材した環境教育コーディネーターの小澤祥司さんは、『コミュニティエネルギーの時代へ』(岩波書店2003年)で、「ウインドファームの計画から建設そして運営まで、自分たちが関わることはなかった。結局気がつくと、『風車の町』といいながら、自分たちの町に吹く風が内地(本州)の企業によって利用され、電力会社に売られていたのだった」と指摘している。
そこで苫前町は、「苫前グリーン風土」をつくり、市民風車建設を計画。風力発電で発電した電力の買い取りを北海道電力に申し込んだ。ところが、2003年度分の「買い取り枠」の抽選会で、なんと落選してしまった。抽選会では応募した件数分だけくじが引けることになっていて、あらかじめ多数の応募をしていたユーラスエナジージャパンに電力買い取り枠を軒並みおさえられてしまったのだ。
前掲書で小澤さんは、「風は誰にでも吹く。太陽はすべての人の上に注ぐ。その風も、太陽光も生かすすべ(技術)を、少なくとも私たちは手に入れている。だが、ごく普通の市民がそこ(自然エネルギー利用)に至る道は狭く険しい」と嘆いている。地元の風で発電した電力なのに、地元を素通りして電力会社に売られていく。これが自然エネルギー後進国日本の現実なのだ。
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解説 解列ルール
「解列」とは電力業界用語で発電機と送電系統を切り離すこと。北海道電力などの電力会社は、「風力発電は、自然条件により出力が変動する」との理由から、「当該地域内の電力需給バランス」を安定させるために「出力変動に対応する調整力が不足する時間帯」には風力発電からの送電(買い入れ)をストップすることを風力発電からの電力買い取りの「条件」にしようとしている。これが解列ルールだ。要するに、「電力の需給バランスの安定」を理由に、風力発電からの電力買い取りを制限しようというのだ。
しかし、こうした問題は技術的に解決できない問題ではない。「自然エネルギー促進法」推進ネットワークは、「日本の風力発電導入量は、わずかに68万kWであり日本全体の系統容量の0・5%程度にすぎない。風力発電導入比率のもっとも高い北海道電力の場合でも5%程度にとどまっており、周波数変動への影響が懸念される水準ではない」(同HPより)と反論している。実際、日本より風力発電がはるかに普及しているデンマークやドイツでは、そうした技術的問題はすでにクリアされている。日本でできないはずがない。
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(2005年6月15日発行 『SENKI』 1181号4面から)
http://www.bund.org/opinion/20050615-2.htm