現在地 HOME > 国家破産40 > 190.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
http://www.nikkei-ad.com/kinyu/
【パネリスト】
住友生命保険年金運用事業部部長 栗原 健氏
損保ジャパンDC証券(旧損保ジャパン・シグナ証券)数理・設計室室長 鈴木 孝征氏
三菱信託銀行年金コンサルティング部部長 佐野 邦明氏
【司会】
格付投資情報センター年金コンサルティンググループチーフアナリスト 金子 強氏
環境変化にどう対応するか?
金子 確定拠出年金(DC)やキャッシュバランスプラン(CBP)など年金を巡る環境は大きく変化したが、何をしたらいいのかという声を聞くことも多い。
佐野 年金や退職金も企業の一つの事業部門ととらえ、その事業戦略をどうするか考えるというのが適当ではないだろうか。コンサルティングの場などでも人事、労務、財務、経営企画などでプロジェクトチームを作り、人事戦略を考えるのと同時に財務戦略も含めて退職給付について考えてもらうということが多い。自社の戦略上最適なものをあぶり出し、認識することだ。
金子 成果主義を盛り込むという点では、ポイント制がいいのか。
栗原 グループ内での出向・転籍に加え、会社分割や営業譲渡、持株会社の傘下に入るといったことも増えている。その場合など、互いにポイント制になっている方が通算しやすい。つまり、過去と将来を分割しやすいという点で優れているのではと考えている。
鈴木 ポイント制はわかりやすさの点では優れているが、メリハリという点では差がつきにくいケースもあり注意が必要だ。たとえば退職時の給与もしくはポイントに2倍の差がついたケースを考えてみると、最終給与比例ではそのまま二倍の差がつくが、ポイント制は若いころのあまり差がない期間も反映されるのでそこまで差がつかない。個人的には給与制度が最も能力や成果を反映したものであるはずで、給与制度のメリハリを退職金制度に反映するのが良いと考えている。もしそうでなければ給与制度こそ見直すべきではないか。
鈴木氏
佐野 成果主義とは従業員が毎年達成した成果に毎年報いるのが本質だと考える。私どもが担当した事例だが、年収の3割がボーナスで、それが会社業績連動、部門業績連動、個人業績連動の組み合わせとなっており、その年収比例の形で単年度積み上げ方式によるCBPを導入した。これは能力成果主義を反映した給与制度に平仄(ひょうそく)を合わせた退職給付制度の変更事例といえるだろう。
金利上昇も考慮して想定金利を
金子 年金制度改革でもう一つの問題といえるのが、想定金利をどう決定するかにある。
鈴木 企業側から見ればたとえば3%であっても現行の企業年金予定利率より下がれば当面のキャッシュ負担が増える可能性がある。一方、3%で従業員の納得が得られるかという問題もあり、企業が負担できる水準と従業員の納得感とのバランスの問題ではないだろうかと思う。私どもの扱った事例に、退職金の30%をDCに入れるというケースがある。仮に1000万円とすれば、300万円を入れるわけだが、想定金利を3%とすると掛け金200万円・利息100万円という計算になる。これを組合に打診すると「組合員を説得する自信がない」と言って逆提案を受けた。それは退職金を10%減額して900万円にし、想定金利ゼロで200万円のDCを入れてほしいというものだった。想定金利3%で給付維持というのは説明しにくい。10%減額で想定金利ゼロの方が説得しやすいという理由だった。
栗原 日本独特だが、確定拠出に移る時に過去の確定給付の資産を持って移るというケースがある。過去の分を移行して相当な頭金を抱える人もあるわけだが、過去と将来を一緒にしていいのかという議論もあると思う。また、想定金利については厚生年金基金解散のバーターとして、ゼロ金利を検討されているような企業も確かにある。
栗原氏
佐野 CBPの場合、退職給付の実質価値が維持される制度といえる。現在のデフレ環境化で、20年国債をベースに1.5%ぐらいの想定金利を設定し、現在の退職給付の名目価値を維持する設計とした場合、日本経済が回復したときには退職給付の名目価値が増加することになる。つまり退職給付の名目価値がどのような経済環境のもとでのものなのかという点を十分に検討することがポイントである。経済が通常の状態を想定するのであれば、金利の反転上昇を考慮したうえで設計することが必要だ。その結果、現状のPBO(退職給付債務)は削減され、経済が巡航速度に戻った時には退職給付の名目価値が本来の水準になる。コンサルティングする時には、デフレ環境を反映した足元の金利で想定金利を決めないように薦めている。デフレと巡航速度のギャップは技術的に調整できるので、退職給付の実質価値とPBOの水準を通常の経済環境におけるものに固定させるべきであると提案している。また、指標金利についても同じであり、基本的にはCBPに何を求めるかによって変わる。PBOを強く意識するなら、割引率も設定基準に合わせることになるし、ある程度安定的な給付を支給したければ一定年数の移動平均といったものになるだろう。
金子 制度改革に合わせて、給付減額ということも問題になるが。
佐野 これまで加入期間中の現役世代が中心だったが、受給者の減額まで踏み込む企業も出てきている。これは現役世代とOB世代の公平感という問題であり、現役からも今後はOBにも応分の負担を求めたいという要望もある。この場合に問題となるのは現役社員なら会社の苦しい状況に理解があるが、OBの場合は一体感が薄れており、訴訟に発展するようなリスクもあるため、十分な準備が必要であると思う。
総合型基金解散の受け皿としてのDC
金子 総合型基金も厳しい環境の中におかれている。
金子氏
栗原 当社が総幹事の総合型基金が約30あるが、7割がCBPへの移行完了または途上にある。しかし、総合型基金の場合、掛け金を引き上げると脱退が起こるなど制約があるのも事実。日ごろから十分な情報が末端まで行き渡っていないので不満がたまっている場合も多く、代議員会ではCBP移行を決定しておきながら、その後中心的な企業が脱退して混乱したケースもある。しかし、すでに移行したところでは、このところの株価上昇もあり、移行して良かったと実感されている。財政改善に向けて、まず動いてみるということが大事だと思う。
鈴木 当社でも、基金解散の受け皿としてDCを導入する事例が進行中だ。あくまで任意加入だが、単に解散するだけでは同意を取るのも難しいし、もともと拠出=費用なので掛け金が従来と同等程度以下であれば、事業主にとってのデメリットにはならない。
金子 さまざまな手法が可能になったわけだが、制度面で改善の余地があるかどうか。
栗原 まだ固まっていないという背景もあるが、細かいところではCBPの規約の作り方などについて、行政が口をはさみ過ぎるかなという感じはしている。一方で、減額変更については条件さえ整えば、従来より弾力的になったようだと思う。
組み合わせには割り切りも必要
金子 制度改正にあたっては、やはり組み合わせが有効といえるのか。
佐野 CBPとDC、前払いという三点セットが、最近では必然といえるのではないだろうか。事例を紹介すると、退職金と適年、厚生年金基金をしていた会社があり、適年は従業員と会社の折半拠出だったが、従業員拠出を廃止して、会社拠出分をDCに持っていった。さらに基金の加算部分は、CBPに移行した。もう一社の場合は、基金と退職金があり、退職金の一部をCBPに移し、PBO対策を行ったうえで、ボーナスの一部を削り、それを毎月の給与に振り替え、本人の希望する金額をDCに移した。税制上で有利ということもあるが、老後の生活の意識付け効果を狙ったものだ。退職金をDCに移すのは難しいという場合などには、一つの方法ではないかと思う。
佐野氏
栗原 DCには税制上の限度額があり、設計上既存のDB(給付利率変動型の確定給付年金)を無視することはできず、DBが主、DCが従という関係になる。退職金全体でみても、DCは2〜3割という相場観があり、つなぎ年金機能を果たすということが考えられる。成果主義を標榜している企業が、DCを導入するにあたって、そこには成果主義を持ち込まないという事例があった。DCには税制の枠一杯を与え、残った部分はCBPとしたうえで成果主義を反映させるという仕組みだ。DCとDBの両方に成果主義を持ち込むと中途半端になる可能性があり、紹介したような割り切りも必要ではないかと思う。
金子 制度改革にあたって、気をつけるべきことは何か。
栗原 厚生年金基金の代行部分についてみると、今後はパート労働者の適用範囲が広がる可能性が指摘されている。年収130万円が65万円にまで引き下がるかも知れない。代行返上をしていない単独、連合型基金も結構あるが、適用拡大前に考え直すところも出てくるだろう。また、DCについて使い勝手の悪さも目立ってきており、税制改正でのDC拠出限度額アップやマッチング拠出なども早く実現していただきたい。
鈴木 制度の安心性やポータビリティについて、巷間さまざまなことが言われている。しかし、そうした指摘が本当に正しいのかを見極めるのは非常に難しい部分もある。企業自身がよく考え、新しい方向性を見つけていくのがよいと思う。
佐野 退職給付制度を見直すにあたっては、最初の段階では企業風土というものの固定観念にとらわれない方がいいと思う。極端にいうと退職金や年金制度を全部廃止してみたらどうか、というような大胆な発想で考えてみることが必要だろう。選択肢は増えており、その中から自分の会社の風土に合ったものがおのずと見えてくるはずだ。また、「とにかくPBOから逃れたい」といった財務的な発想だけ、あるいは「退職給付制度を充実させたい」といった人事的な発想だけで変えてしまうのもまずい。間違いなく、将来に禍根を残す結果になる。初めにも述べたが、退職給付という事業部門を戦略的に運営するという視点で選択肢を選ぶことが重要だ。
金子 今日の議論が、皆さまの年金改革のお役に立てればと思っている。本日はありがとうございました。