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週刊エコノミスト 11月22日号
http://www.mainichi.co.jp/syuppan/economist/
【特集】輸入再開へ秒読み〜米国産牛肉は本当に安全か
米牛肉輸入再開の政治学 一致した日米畜産業界の利害
内田誠(ジャーナリスト)
あまりにも拙速に見える米国産牛肉の輸入再開。その背景には、米国の外圧だけでなく、国内畜産業を牛耳る「畜産一家」の暗躍があった。
米国産牛肉の輸入再開を巡る一連の動きのなかで、「日本は米国の外圧に屈した」と言われる。確かに、米国の交渉担当者たちは強硬な主張を繰り広げたし、畜産業を支持基盤とする上院議員たちは対日制裁法案をちらつかせた。米ブッシュ政権は世界貿易機関(WTO)提訴をほのめかし、ブッシュ大統領自ら、小泉純一郎首相に輸入解禁を迫った可能性も高い。日本側でも、食品安全委員会が唐突に全頭検査を「見直し」始め、米国産牛肉と国産牛肉との「リスクの差は非常に小さい」との結論を出したのは、米国の要求に応え、輸入再開条件を整えるための卑屈な策謀の結果と見られて当然だろう。
だが、米国が日本にのませようとした事柄が、日本側交渉当事者にとって全くの不利益だったかというと、そこには大きな疑問符が付く。米国の対日圧力は果たして抗い難いほどのものだったのか、その点も一見して明らかとは言えない。ここでは紙幅がないが、交渉そのものは「押し」や「突っ張り」だけでなく、「いなし」や「引き技」も駆使した、かなり激しいものだった。そして、この問題にかかわった日米双方の内情と論理を見ると、通常の見方とはかなり異なった様相が明らかになってくる。
市場の混乱回避を優先した 米国「回転ドア」の面々
米国内で1頭目の牛海綿状脳症(BSE)感染牛が発見されてからおよそ1カ月半後、私は米国食肉産業の中心地の一つ、テキサス州サンアントニオに向かっていた。当地で聞かれた「全米食肉協会」(NMA=National Meat Association)の総会を取材するためだった(『プレジデント』誌2004年3月29日号の拙稿「米国狂牛病・驚愕の実態」参照)。セッションに参加したのは、米国食肉輸出協会幹部、大手精肉企業経営者、畜産専門の研究者やジャーナリスト、そして農務省の現役官僚など。彼らの関心事は、どうやってBSE検査を行わずに牛肉の対日輸出を再開できるか、その一点だった。
ラウンドテーブル(円卓会議)と呼ばれる会議場は、まるで対日方針策定のための作戦会議の様相を呈していた。そこでは、日本の全頭検査を「非科学的」として退け、輸入禁止措置そのものを難じる意見が支配的だった。話は交渉術にも及んだ。
「日本に対しては官僚に恥をかかせないことが大切だ。どこで妥協してくるのか、譲れない条件がどこなのかが難しい」「7月の選挙(参院選)までは(妥結は)無理だろう。その間に他国との交渉を進めるべきだ」。日本の政治スケジュールまで勘案し、困難な交渉にかなりの時間がかかることを覚悟していた。
しかし、会場の参加者からの発言は意表を突いたものだった。牧場主らしきある男性が、「なぜ検査をしてはいけないのか分からない」と前置きし、こう質問した。「検査をしてもいいという人だけ、日本向けの牛肉を用意すればいいじゃないか?」。
パネラーの一人が反論した。「それはダメだ。検査済みの牛肉と検査していない牛肉という『2種類の牛肉『2つの市場』が国内にできてしまったら、米国の消費者から不信を買ってしまう。食肉業界が大混乱する」
パネラーたちが懸念していた国内市場の混乱とはこういう意味だ。検査済みの牛肉が国内市場で付加価値を得てしまうと、極限の低コストで牛肉を生産している巨大畜産業が競争刀を失う可能性がある。あるいは、日本のように全頭検査を強いられかねない。パネラーたちは、官界と業界を行き来する、いわゆる「回転ドア」の面々であり、最初から利害を共通にする範囲で「対日作戦」を議論していたとも言える。反対に、周囲の参加者の中には、日本の要求に従って検査をしてもよいと考えている人が意外に多かった。
検査の拡大にはもう一つ、大きな「危険」が伴う。調べる牛が多いほど、BSE感染牛が見つかる可能性は高まる。もしも次々にBSE牛が発見されるようであれば、国内向け9割といわれる米国畜産業の損害は壊滅的なものになる。国際的な勧告にもかかわらず、米国がなかなか検査態勢を拡充してこなかったことには、こんな背景がありそうだ。しかし、これでは、米国はBSE問題の抜本的な解決の代わりに、「隠蔽」という。i一層危険な道を選んだと言われても仕方がない。
巨額関税に目がくらんだ農水官僚
日本側、正確には農水省畜産部には、米国産牛肉の輸入を早期に.再開したい事情かあった(本誌11月15日号の『インサイド』参照)。輸入牛肉かもたらす関税収入は年に1000億〜1500円。牛肉関税は「輸入牛肉等関税財源」とされ、そのほとんどか、独立行政法人・農畜産業振興機構に交付され、「調整資金」となる。この「調整資金」は農水省畜産部の「隠れ予算」とも称され、例年、畜産部の一般予算を上回る規模となってきた。米国産牛肉輸入停止は、米国産が全輸入量の半量近くを占めていただけに関税収入の大きな落ち込みを招き、「調整資金」にも影響した。補助事業の縮小や打ち切りか相次いだといわれている。
「畜産一家」という言い方がある。畜産部(かつては畜産局)の現役官僚とOBの集合体と考えればよい。同部は畜産にかかわるすべての業務をその下に置き、組織編成上の強い一体性を保ってきた。在籍した官僚はOBとなっても「一家」のなかで枢要な地位を占め続けるという。牛肉関税財源と「調整資金」は、そうした一体性を保障し、OBを含めた「畜産族」の繁栄を担保するものだった。この「畜産一家」にとって、米国産牛肉の輸入解禁は焦眉の急だったといえる。
その「畜産一家」の.一員である農水省の熊沢英昭元事務次官がチェコ大使に任命されたのは今年3月15日。農木官僚か大使となったのは初めてで、驚天動地の入事だった。熊沢氏といえば、畜産局長時代に肉骨粉規制を行政指導にとどめ、その後の混乱を招いたとして、事実上次官を更迭されていた。ところか、満額の9000万円近い退職金を受け取った揚げ句、食肉関連団体への天下りを受諾していたことか発覚、天下りできない状態に追い込まれていた。
その熊沢氏が、国務大臣と並ぶ認証官の一つである特命全権大使に就任するためには、官邸と総理周辺および外務省の了解が絶対に必要だ。
この件については、熊沢氏をなんとか再就職させたい「畜産一家」が、国内畜産農家の熱望でもあった「全頭検査体制」を放棄することによって、米国との関係改善を望む官邸や 外務省に『貸し』をつくり、その見返りとして熊沢人事を実現したのではないか、という読みが成立する。
笑うのは「畜産一家」だけか
米国のブッシュ政権と巨大畜産業界は、対日牛肉輸出の再開に漕ぎ着けたものの、他方でBSE蔓延の疑念を国際的にも払拭できずにいる。EU(欧州連合)と日本が食品の履歴を生産段階まで遡る「トレーサピリティ」を含む畜産業の技術刷新に成功しつつあるのとは対照的に、弱点を抱えた古い体質の畜産業を温存し続けている。
日本の小泉政権は、「食の安全・安心」への関心がますます高まっていくなか、度し難い対米追随姿勢と消費者の利益に対する裏切りの印象を国民のなかに深く残してしまった。両政権とも、さらなる感染牛や変異型ヤコプ病患者の発見など、今後のBSE問題の展開次第では、深刻な政治的危機を招来する懸命を残してしまったわけだ。
皮肉なことに、日本国内にあって、米国産輸入牛肉がもたらす牛肉関税を取り戻すことに成功しただけでなく、懸案の人事問題まで見事に解決してしまった「畜産一家」だけが、「勝ち組」に名を連ねることができた
[写真]米国農家にも「良識派」存在する
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