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2005年版「原子力政策大綱」  再処理・プルサーマルへの道を開こうとしている 【多賀 実】
http://www.asyura2.com/0505/genpatu3/msg/386.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 4 月 23 日 09:18:42: ogcGl0q1DMbpk
 

2005年版「原子力政策大綱」

再処理・プルサーマルへの道を開こうとしている

新規原発計画は後退

多賀 実

 昨年10月に「原子力政策大綱」が閣議決定された。1956年に発足した原子力委員会がほぼ5年ごとに策定してきた「原子力長期計画」を改定し、「今後10年程度の期間を一つの目安とした、新たな計画」として決定したものだ。大綱をまとめる策定会議委員の中には吉岡斉九州大学教授や原子力資料情報室の伴英幸氏など、脱原発の立場で臨む人もいて反対意見が付けられたものの、国は核燃料サイクル堅持を変えることはなかった。

国内の原発は飽和状態

 2005年版「原子力政策大綱」の主な中身は次のようなものだ。  

@原子力発電がエネルギーの安定供給及び地球温暖化対策に引き続き有意に貢献していくために、2030年以降も現在の30〜40%程度という原子力発電の割合か、それ以上を目指す。それを実現するために2030年前後から始まるとみられる原発廃止に際しては、大型炉を中心に代替原発を建設する。  

A核燃料サイクルの柱となる高速増殖炉の開発については、2050年頃から商業ベースでの導入を目指す。ただし「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故で停止しているなど、導入条件が整う時期が前後することも予想される。それまでの間はウランとプルトニウムの混合燃料(MOX燃料)を原発で燃やすプルサーマル計画を推進する。  

B海外において、1979年のスリーマイル島原発事故、1986年のチェルノブイリ原発事故を契機に、原発の建設は停滞し、ドイツやスウェーデン等では段階的に原子力発電所を廃止する原子力政策が採用されている。しかし地球温暖化対策やエネルギー安定供給等の視点から、米国、フィンランド等で原発の新増設の動きが始まっている。特に電力需要が急増している中国やインドでは原発建設計画の着実な進展がみられ、こうした原発導入拡大期にある国に対して、国は法的整備など側面支援とともに資機材の提供など国際展開をはかっていく。

 脱原発を目指す立場から、一つ一つ反論していきたい。

 まず@についてだが、大綱の資料によれば原発の設備容量は2030年から2100年まで5800万KWで増え続ける「中長期の方向性」が示されている。1994年に決められた「長期計画」では、2030年に1億KWと大幅に増えると予想していたので、それに比べると原発推進の意気込みは明らかに後退している。1998年の「長期計画」では、今後20基の原発を新規に設置するという具体的数値まで盛り込まれていたが、今回はそれもない。

 原発の新規建設に関して具体的数値を盛り込むことができなかったのは、もはや新規原発を受け入れる住民・自治体などがなくなってきているからだ。現在原発を抱える自治体の中には、受け入れの見返りとしての補助金に依存した財政構造からの脱却を目指す動きも出はじめている。

 10基計909・6万KWの原発を有する福島県は、2030年までに全原子炉が運転開始後40年を超えて廃炉となることを想定し、原発のお金に頼らない県づくりをめざすと宣言している。3号炉誘致の声が聞こえ始めた茨城県東海村でも、村上達也村長は「従来の原子力による金づけの政策では村の将来はない」「原子力施設そのものに恩恵を求める高度成長的な発想を展開させたい」(朝日新聞でのインタビュー)と、原発補助金依存からの脱却の必要を語っている。もはや相次ぐ事故やトラブル発覚で、原発を積極的に誘致しようという自治体など、ほとんど存在しないのだ。

 自治体だけではない。電力会社も新規の原発建設には消極的になっている。2003年3月から始まった電力小売り自由化によってコスト的に原発は割りにあわなくなった上に、電力需要の伸びそのものが90年代末から横ばい状態だからだ。

使用済み核燃料が原発からあふれる

 こうした状況の中で、今回の大綱は、新規の原発建設にかわって、Aにあるように、プルサーマルや高速増殖炉を推進し、過剰に蓄積されているプルトニウムの使用に本格的に踏み出すことを打ち出している。

 すでに昨年から各電力会社は、プルサーマルに本腰をいれ始めており、2010年度からの実施にむけて候補地選び「工作」を強めている。このままでは、「再処理しないと、使用済み核燃料が原発からあふれ、発電をとめなければならなくなる」(東京電力の勝俣社長)からだ。

 各地の原発の使用済み燃料貯蔵施設の貯蔵容量は1万7000トンだが、すでに貯蔵されている総量は約1万1000トン(2004年3月現在)に達しており、満杯になるのは時間の問題だ。「トイレのないマンション」という原発の現実に、国・電力会社は追いつめられているのだ。

 日本のプルトニウム保有量は、2004年末現在で国内外合わせて43・1トン(海外37・4トン、国内5・7トン)に達している。六ヶ所再処理工場を動かせば、余剰プルトニウムがさらに増大する。日本は非核保有国であるにもかかわらず、大量に原爆の原料を生み出し続けているという国際的にも奇異な国なのである。これを放置することは、核不拡散体制からいっても問題だ。

 原子力委員会は1991年に余剰プルトニウムを持たない原則を発表し、日本政府は1997年には、国際原子力機関(IAEA)に通知する形でこれを国際的に宣言した。その国際公約を担保するため、2003年8月5日付原子力委員会決定の中で、「電気事業者はプルトニウム利用計画を毎年度プルトニウムの分離前に公表」し「原子力委員会は、その利用目的の妥当性について確認」し「電気事業者は、プルトニウムの所有者、所有量及び利用目的(利用量、利用場所、利用開始時期、利用に要する期間のめど)を記載した利用計画を毎年度プルトニウムを分離する前に公表する」と定めた。

 さらに昨年、ノーベル平和賞を受賞した国際原子力機関のエルバラダイ事務局長も、2003年の同機関の総会以来、安全保障上の視点からウラン濃縮と再処理の規制の必要性を訴えている。ウラン濃縮及びプルトニウム分離施設の新設を5年間凍結するとともに、凍結期間に施設を多国間管理するなどを内容とするものである。

 こうした経緯を踏まえ、電気事業連合会は年明けの1月6日に、初めて再処理工場から出るプルトニウムの利用計画を発表した。それによれば「私ども電気事業者は、平成22年度(2010年度)までに16〜18基でプルサーマルを実施することを目指して取り組んでいるところであり、プルサーマル実施の当初は海外で所有しているプルトニウムを原料として海外で加工したMOX燃料を利用することとしておりますが、国内MOX燃料加工工場竣工後は、同工場で製造したMOX燃料も順次利用していくことになります」(電事連HPより)とある。

 核燃料サイクルの基幹となる高速増殖炉は技術的にも行き詰まっている。にもかかわらず、原発を推進するために満杯になった使用済燃料を再処理し、そこで抽出された余剰プルトニウムを消費するためにプルサーマルは実施されようとしているのである。

原発輸出に乗りだす電力会社

 大綱のBで触れられている、欧米諸国およびアジアで原発建設が拡張しつつあるという点について。

 アメリカは過去25年以上、原発の新設を中止してきた。ところがここにきてブッシュ政権は、増大するエネルギー需要に対応するため原発建設推進への転換を打ち出した。欧州でも、温暖化対策を理由に原発建設再開の動きが強まっている。

 こうした動きに関し、長谷川公一東北大教授は、論文「廃炉時代に『原子力の亡霊』が徘徊する」(『技術と人間』、2005年7月号所収)の中で次のように結論している。

 「延命に懸命な原子力産業側の狙いは、ヨーロッパやアメリカで『原子力待望論』をかきたてておいて、東欧や第三世界で新規受注することだろう。とりわけ京都議定書では除外された原発を、2013年以降の温暖化対策のためのCDM(クリーン開発メカニズム)の技術として公認させることこそが大きな狙いなのではないか」

 こうした指摘は、日本の原発を取り巻く状況にもあてはまる。昨年12月、誘致から40年目にして東通原発(青森県)が運転を開始、3月15日には志賀原発2号機(石川県)が国内55基目として稼動し始めたものの、大きな流れとして国内での原発新設は頭打ちになっている。そうした中、原子力産業界は国際的競争力を持つための企業買収や、原発の輸出など、海外に活路を見出そうとしているのである。

 2月6日、東芝は加圧水型軽水炉に強い原発システムメーカーの名門「米ウェスチングハウス(WH)」を54億ドル(約6408億円)という破格の高値で買収すると発表した。国際的に主流の原発である加圧水型軽水炉(世界の原発の4分の3)を獲得し、海外での展開を有利にするのが目的だ。

 すでに東芝は、2004年、台湾への原発輸出を行っている。現在建設中の台湾第4原発の施行主はGE(ゼネラル・エレクトリック)社だが、その下請けという立場で原子炉を輸出している。

 中国では急激な経済発展によって不足がちなエネルギー問題に対処するために、2020年までに約30基の原発を新設し、発電設備容量を4000万キロワットにする計画がある。日本の原子力メーカーはこれへの参入にも必死である。

 こうしたアジアや途上国への原発輸出は、「温暖化対策」を口実に行われている。大綱本文中にも「二酸化炭素排出については、発電過程で排出せず、ライフサイクル全体でみても太陽光や風力と同レベルであり、二酸化炭素排出が石油・石炭よりも少ない天然ガスによる発電に比べても1桁小さい」などと、原発が温暖化対策の切札であるかのように主張している。その狙いは長谷川公一教授も指摘するように、2013年以降の温暖化対策の次期枠組み構築の過程で、原発を公認のCDMにしていくことにあるのだ。

 CDM(クリーン開発メカニズム)とは、先進国の資金・技術支援により開発途上国において温室効果ガスの排出削減事業を実施し、そこから生じる削減量を先進国の削減約束の達成に利用できる制度である。現在までにCDMプロジェクトとして政府承認になっているものには、風力発電プロジェクト、メタンガス回収プロジェクト、コジェネレーション・プロジェクトなどがある。原子力メーカーは、国内では見出せないビジネスチャンスに代わって、こうしたプロジェクトの一つとして途上国での原発建設を承認させようとしているのだ。

廃炉技術の開発こそ最優先

 以上みてきたように核燃料サイクルの実現をめざしてきた日本の原子力政策は、今だに技術的に完成されていないばかりか、なし崩し的にプルサーマル計画を実施しようとしているレベルだ。そうした技術を途上国に転嫁して事故などによる大惨事が起きた時、誰が責任をとるのか。

 原発設備の輸出申請が行なわれていた2002年12月、北川れん子衆議院議員(当時)からの質問主意書に対し、小泉首相は「『事故発生が、輸出国の原子力発電施設の設計、使用された資機材、製造ミスなどに起因していて、保有・運転国が責任を負えない場合、損害賠償義務は当然輸出国にある』という趣旨の規定はないものと承知しています」と回答し、原子力設備の輸出にあたっては安全性は審査の対象ではないと述べた。

 台湾の原発推進は、1980年代に国民党による独裁政治の下で、核拡散防止条約違反の疑いや事故発生時の責任問題、地震が多い地域という立地条件の問題、地元住民の意向無視の問題など山積のまま強行された。

 中国やインドへの原発協力も同じような危険性を内包している。チェルノブイリ原発事故の情報を当初ひた隠しにした、旧ソ連と同じような惨劇を繰り返す可能性もあるのだ。国内原子力産業を打開するために活路を海外に見出すという安易な発想は、その危険性が地球的規模に及ぶとともに、世代を超えた問題である以上撤回すべきなのである。

 今後、日本では運転から30年を迎える老朽化した原発が増えていく。98年に運転を停止した東海発電所では廃止措置が始まっている。その計画によれば、2011年から原子炉と建家などの解体撤去を開始し、2018年にすべての工程を終える。処分にかかる費用の見積もりは約885億円だ。1基を廃炉にするだけでも、これだけ膨大な費用と年月が費やされるのである。

 排出される放射性廃棄物、国内原発の余剰プルトニウムの管理などを合わせて考えれば、核燃料リサイクルという原発の拡大再生産ではなく、漸次減らしていくことこそが最善の解決策だ。同じビジネスチャンスなら日本は廃炉技術で勝負をした方が、国際的な貢献になると私は思う。

(シビック・アクションみと)


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(2006年4月25日発行 『SENKI』 1210号3面から)


http://www.bund.org/opinion/20060425-1.htm

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