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女川原発は宮城県沖地震に耐えられない
森と平和の会・仙台 野室拓人
http://www.bund.org/opinion/20060205-1.htm
2005年8月16日、宮城県沖を震源とするマグニチュード7・2の地震が発生し、女川町では「震度5弱」が観測された。この地震で東北電力女川原発では、稼動していた1〜3号機の全てが緊急自動停止した。今後さらに大きな地震がくると予測されているにもかかわらず、本年1月10日、2号機の運転再開が行われた。
想定していた地震の揺れが小さすぎた
当初、東北電力は緊急停止した女川原発について「約1ヵ月後には2号機の運転を再開したい」と希望を述べていたが、結局2005年中の運転再開は実現しなかった。
それは「8・16宮城地震」による地震動が、女川原発の耐震基準よりはるかに大きかったからだ。本来は原発を建設するにあたって必要な「安全審査」を1年以上かけて再度やり直すのがスジである。
にもかかわらず、11月25日東北電力が提出した報告書を受け、国の原子力安全・保安院は再開にゴーサインを出した。県や女川町・石巻市は国に追随。1月10日、2号機の運転の再開が強行された。
本当にこのまま動かしていいのか? 特に1号機は全国の原発でも指折りのひび割れ原発(シュラウドなどのひび)であり、このまま廃炉にすべきものだ。想定される宮城県沖地震(マグニチュード7・5〜8・0)は30年以内に99%の確率でおきるといわれている。まさに「そこにある危機」なのだ。テロ対策とか、防衛ミサイルとかという前に、巨大地震が原発を襲うことへの対策こそ、最も必要な「有事対策」だ。
耐震設計指針 S1とS2
東北電力は女川原発の耐震基準をどのように算定してきたのだろうか。
東北電力は「発電用原子炉施設に関する対震設計審査指針」に基づき、S1(将来起こりうる最強の地震動)を「250ガル」とし、S2(およそ現実的でない限界的な地震動)を「375ガル」として、国もこれを認めてきた。今回の「8・16宮城地震」で明らかになった問題は、S1を超えた284ガルもの地震動が観測され、さらに応答スペクトル(別記)の一部の周期ではS2を超えたということだ。
それではそもそもS1、S2とは何か? S1は「将来起こりうる最強の地震による基準地震動」のことだが、東北電力によれば、女川原発付近で過去おきた最大加速度(1897年におきた仙台沖地震)の187ガル(ガル=cm/秒2)を参考に、「さらに余裕をもって」250ガルに設定したという。
また、S2は「およそ現実的でないと考えられる限界的な地震動」のことだが、これはS2―D(プレート境界地震)とS2―N(直下地震)の2つがある。
東北電力では設備の重要度に応じてS1、S2などを設計基準にしている(たとえば原子炉圧力容器や格納容器はS2、原子炉建屋や排気塔などはS1など)。つまり今回の地震動がこのS1、S2をこえたということは、これまでの耐震設計で建設した原子炉圧力容器や原子炉建屋などの安全が確保されないという意味になる。
今問題となっているマンションの耐震偽装問題では、人為的な偽装により耐震能力に問題のあるマンションやホテルがあることが発覚した。女川原発では、偽装ということではなかったものの、耐震能力に問題があることは同じである。女川原発は「250ガル以上の地震で崩壊のおそれあり」と言っても過言ではないのだ。
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東北電力は安全だと言い張るが
地元住民は女川原発運転再開に強い不安を感じている。国も「8・16宮城地震」で耐震基準を上回る地震動が確認されたことに真っ青となった。
国の原子力安全・保安院は異例ともいえる以下のような指示を東北電力に出した。@詳細な解析評価を行い、耐震安全性を評価することAなぜ今回周期によって基準地震動を超えたのか詳細に分析すること。
これに対し、東北電力は11月25日、「データの分析・評価および耐震安全性評価に係る報告について」として、この地震による影響についての評価を原子力安全・保安院および宮城県等へ報告した。
報告によると、「周期によって基準地震動の応答スペクトルを超えることとなった要因について」は「今回の地震では、短周期成分の卓越が顕著である傾向が認められ、これは宮城県沖近海のプレート境界に発生する地震の地域的な特性によるもの」だという。近い将来高い確率で発生が予想される宮城県沖地震に対する女川原発の耐震安全性については「十分確保されることを確認」したと。
今回の地震は「日本ではあまり例のない、宮城県沖にのみ現れる特性をもった地震だったので、基準をこえたのはしょうがない」が、「解析した結果、建物や機器に影響はない」ということだ。
問題は東北電力の設定している地震動が、基準地震動ではなく「『同等なもの』と言える」としている点だ。これは現実の地震動がこれまでの想定していたものより大きかったので、新しく設定して計算しなおしたという意味である。
この報告書を保安院が認めたということは、女川原発建設にあたって安全審査を通った基準地震動が間違っていたことを国が認めたことになる。それなら安全審査を最初からやり直さなければならないはずだ。
だが東北電力が出した報告書に対し、国の原子力安全・保安院も12月22日、「妥当である」との結論を出し、宮城県も当然のようにこの結果に追随した。一方で、地元の女川町議会は「住民の不安の声を無視した地元説明会抜きの再開は、順序が逆ではないか」と説明に訪れた保安院に反発の声を上げた。
巨大な宮城県沖地震の脅威が語られ、最近では「耐震偽装」報道が過熱している。地元住民とすれば、原発運転再開についてきちんと説明を受けたいというのは至極当然のことだ。国が一刻も早く2号機の運転の再開を認めるのは、原発を運転しないと1日2億円の損失が出るという東北電力に配慮したもの以外ではない。国は地元住民の声を聞き、安全性が確保されていない原発の運転を認めるべきではない。
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地震の応答スペクトルと建物の固有周期
そもそも地震波というのは、様々な周期の波の集合体である。ものすごく単純にいえば、周期の短い波の地震は「グラグラ」と小刻みに揺れるのに対して、周期の長い波の地震は「ユーサユーサ」とゆっくり揺れる。現実の地震波はこのような短い周期・長い周期の波がいくつも合成している。この地震波を周期ごとに解析して、横に周期、縦に加速度のガルのグラフにしたものを「フーリエ・スペクトル」という。
一方、建物には「固有周期」というものがある。例えば低い建物や固い建物は、短い周期の波に揺れやすく、一方高い建物ややわらかい建物は、長い周期の波に揺れやすい。鉄筋コンクリート造り4階建てのアパートは0・24秒。40階建ての高層ビルは3・2秒とかなり違う。
実際の地震波は、それぞれの建物の固有周期にあたる周期の波が最もその建物に影響を与える。つまり、外部から与えられる振動の周期と、その物の固有周期が一致すれば、途方もない大きい振動が現出する。この現象を「共振」という。
次に「応答スペクトル」である。「応答」とは「地震動に応じた物(建物)の反応、応え方」のことである。つまり応答スペクトルは、その地震固有のものではなく、地震動に応じたそれぞれの建物によって異なるのである。
図1 固有周期を横に、そしてそれぞれの固有周期の物(建物)に地震動がどれだけの力(=加速度)をもたらしたのかを縦にしたグラフが「応答スペクトル」である(図1)。
フーリエ・スペクトルがあくまで地震動だけを単独に考えているのに対し、応答スペクトルは地震動に影響を受けた個々の建物(の固有周期)との関係性を表現している。
応答スペクトルによって、初めて地震動がそれぞれの建物にどれだけの影響を与えるのかが分かるのだ。実際、同じ地震でも全く被害のない建物と、大きな被害のある建物がでるのは、その耐震強度が十分かどうかというハード面だけではなく、発生した地震動がどのような応答スペクトルを描いているかにもよるのだ。
8・16宮城地震の応答スペクトル
東北電力が出してきた資料は読み取りづらいが、「8・16宮城地震」による応答スペクトルを読みとると次のようなことが分かる。
岩盤表面で観測された応答スペクトルをみると、周期0・02秒〜0・1秒付近の揺れの大きさが想定していたS1を超えていた。さらに0・035秒〜0・07秒の周期でもS2―Dを超えていた。特に0・05秒付近では888ガルと、S2の672ガルを200ガルも上回っていた。
しかし、問題は女川原発の建物・機器の固有周期がいくらかである。たとえ一部の地震動の周期の波が揺れの大きいものだとしても、建物の固有周期と異なればあまり影響はないからだ。
東北電力の資料では女川1号機・2号機の原子炉建屋固有周期は0・2秒〜0・25秒であり、その周期ではS1の揺れを超えていなかった。しかし標準的BWR(沸騰型軽水炉)の原子炉格納容器の0・444秒という周期では、明らかにS1応答スペクトルを超えてS2応答スペクトルに肉薄した揺れになっているのだ。
原発は剛構造のため重要な機器の固有周期が超短周期のものが多い。例えば圧力容器は0・085秒など、おしなべて0・01秒以下と超短周期だ。しかし公表されている応答スペクトルは0・02秒以上なので我々は耐震性を確認しようがない。
女川原発の全ての建物・機器について固有周期を公表するように求めているが、東北電力は「企業秘密」としてこれを拒否している。このためせっかく応答スペクトルが分かっても、建物・機器にどれだけの影響があったのかを全て確認することができない。
ただ、公表されたものだけでも地震波の一部が、想定した大きさを超えていたことは明らかだ。もはやこれまでの耐震基準では役に立たないことがはっきりしたのだ。
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地震のメカニズムは今だよく分からない
耐震基準をめぐる根本的な問題は、地震のメカニズムがいまだよく分かっていないことにある。地震に「プレート境界型」「プレート(スラブ)内」「直下型」があるというのはかなり知られるようになった。しかし個別の地震はそれぞれ特性があるため、同じマグニチュード・同じ震源の深さでも、宮城県沖と東海でおきるものとでは地震の起き方、伝わり方が違ってくるのだ。
さらに耐震設計にあたって想定する地震動(その応答スペクトル)は、その作成の方法が決定的なものがないという問題がある。
以前は大崎順彦の「大崎スペクトル」の方法が主流だった。それはマグニチュードと震央距離から速度を求めるというもので、今から見ると多少アバウトなものになってしまっている。今回問題になった女川原発のS1も、大崎の方法で計算されている。
現在ではもう少し精度の高いものが使われているが、それにしても決定的なものではない。東大地震研究所教授の纐纈(こうけつ)一起氏は、「地震の観測網の整備や研究は日進月歩で進んでおり、新しい知見が出た段階でその都度、安全性を確認することが重要だ」とのコメントを出しているが、全くそのとおりである。女川原発も新しい基準で見直すべきなのだ。
原子力委員会による安全審査はズサンだったと元浜岡原発の設計士だった林信夫氏が告発している。最低でも安全委員会による安全審査は必須だろう。
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原発依存から地域に根ざした産業への転換
原発は他のプラントよりはるかに大きなエネルギーを生み出す。現在では国内の電力需要の3割以上に達している。しかし、それ自体が「原発中心」に発電をしている結果である。実際、女川原発が3機とも止まっても、電力不足という声は聞かない。なによりも放射能汚染・核廃棄物問題というやっかいな原理的・根本的問題を抱えている。
環境リスク論で中西準子がいうような「原発はリスクよりベネフィットが大きい」かのような議論は、地域的・時間的倫理を無視しているといわざるを得ない。
宮城県沖地震が99%とほとんど確実にくることを考えると、まずは女川原発の運転を再開すべきではないだろう。また、20年以上運転してボロボロである1号機は即刻廃炉にすべきである。
長期的には、原発に頼らない小・省エネルギーの生活を志向していくことである。京大原子炉研究所の小出裕章さんは「これまで人類は地球のエネルギーを使いすぎてきた。代替エネルギーという前に、そのエネルギー大量消費の生活を見直すべきだ」と発言している。
便利さとエネルギー消費は必ずしも比例しない。ましてや「幸せ感」とエネルギー消費が比例しないのはいわずもがなである。
電源3法交付金や、固定資産税に頼った女川町の体質をどう変えていけばいいのかも大きな課題だ。 女川は先の国勢調査の結果、宮城県で最も人口減少率の高い市町村であることが明らかになった。女川高校も定員割れが続き、存亡の危機にある。原発は人口流出に歯止めをかけることはできなかった。町には、大きな御殿のような家がある一方、廃屋も結構多い。
六ヶ所村など、どこの原発・核燃施設の立地地域もそうだが、原発なしにもはや地域の経済がなりたたないところが多い。観光や農業なども含めていかに代替産業を育てていくのかが大きな課題だ。
エネルギーの大量消費によらない幸せをめざして、身の丈にあった暮らしを考えなくてはいけない。
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(2006年2月5日発行 『SENKI』 1202号3面から)
http://www.bund.org/opinion/20060205-1.htm
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