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『郵政民営化問題1:「資金の流れを官から民に変える」の検証』(http://www.asyura2.com/0505/dispute21/msg/755.html)の続きです。
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「郵政民営化」法案支持者は郵政民営化が「財政危機」の緩和に貢献すると説明しているが、実際はその逆で、郵政民営化は確実に政府債務を増加させることになる。
郵政民営化は財政健全化を主要な目的としていると説明されているのに、「郵政民営化」法案に反対する政治勢力がこの問題を取り上げないことが不思議である。
郵政民営化がなぜ政府債務を増加させることになるのかを簡単にみていきたい。
唯一つの重要な前提条件は、政府債務残高が減少する財政状況の到来が見えていないことである。
プライマリーバランスの達成は2013年度が目標になっているが、たとえそれが実現したとしても、国債償還費と国債利払い費は借り入れ(国債)によって賄われるのだから、政府債務は毎年増加していくことになる。
(2013年度の国債償還費と国債利払い費だけでおよそ26兆円の赤字国債が発行されるはずで、その金額は現在の利率が適用されるとしても年々7千億円ずつ増加していくことになる)
このことは、小泉連合が説明している「郵政資金の流れを官から民に変える」が実現したとしても、郵政の代わりに、他のどこか(誰か)が確実に増加していく政府債務残高(現在およそ800兆円:外為特別会計を除くと約700兆円)に相当する資産(国債)を保有していることを意味する。
(郵政民営化論議でよくダシに使われる特殊法人への新規資金貸し出しがゼロになったとしても、その分での政府債務が増えないだけで政府債務残高が減るわけではない)
郵政資金が官から民に流れを変えたとしても、これまでの政府債務が減ったりなくなったりするわけではない。逆に政府債務は政府自身が説明しているように増加するのだから、ほんとうに郵政資金が官から民に流れ出すと、銀行・保険会社・個人・一般企業がその穴埋めをしなければならなくなる。
(年金積立金も減少もしくは現状維持が見込まれるので、年金積立金が郵政資金をカバーすることはできない。それどころか、年金積立金が減少すれば、その穴埋めを銀行・保険会社・個人・一般企業がしなければならなくなる)
きちんと考えなければならないのは、郵政資金と他の資金では政府債務の負担度が違うということである。
結論的に言えば、同じ債務残高であっても、政府債務が郵政資金で賄われている場合は政府の負担は軽くなる。
例として、700兆円の政府債務がすべて郵政資金のときとすべて銀行資金のときとを比較する。
前提条件をシンプルに国債利率1.5%:預貯金利率0.3%とする。
政府が毎年支払う利息はいずれであっても10兆5千億円である。
郵政と銀行が預け入れ者に支払う利息が2兆1千億円であることも変わらない。
郵政も銀行も利鞘は8兆4千億円である。その利鞘がすべて利益(課税対象所得)になったと仮定する。
銀行が40%の法人税を納付するとしたら、政府は3兆3600億円の税収を得ることになる。
これは、政府は支払った利息10兆5千億円のうち3兆3600億円を税のかたちで回収したことを意味する。
一方、郵政公社(郵便貯金部門)の場合はどうであろうか。
郵政公社は法人税の課税対象ではないが、その所有権は全額を出資している政府にある。
いうならば、郵政公社の全資産・全負債は政府のもの(責任)であり、資産から負債を差し引いた純資産(資本の部)も政府のものということである。
郵政民営化論議で郵政公社の国庫納付金が取り上げられているが、そのような制度がないとしても、郵政公社の剰余金(内部留保)は他の誰のものでもなく政府のものなのである。
(公社制度やその国庫納付金制度は、その事業活動の独立性を保証しつつ利益を所有者である政府に毎年還元するための管理手法に過ぎない)
わかりやすく言えば、郵政公社が利益をまるまる内部留保したとしても、政府の資産(国有財産)がその分だけ増加するのである。
であるから、政府が郵政公社に利払いをして郵政公社が利鞘を稼ぐということは、利鞘分だけ政府債務が軽減されることを意味する。
政府債務すべてが銀行に依存しているとき支払った利息10兆5千億円のうち3兆3600億円を回収するが、郵政資金に依存しているときは支払った利息10兆5千億円のうち8兆4千億円を回収できるという違いは、「財政危機」が叫ばれている現状では決定的とも言えるものである。
これまでの説明を端的にまとめると、郵政が国有公社ないし国有株式会社であれば利益の100%は政府のものになるが、郵政が全部株式を民間が保有する株式会社になれば利益の40%が政府に戻ってくるだけになる。
昨年度の郵政公社の利益は2兆3千億円である。郵便事業はいいところ収支とんとんなので、その利益は金融事業で上げたものと推測できるから、政府や地方公共団体から支払われた利息が原資になっているはずである。
郵政公社の利益2兆3千億円は実質的にすべて政府のものだが、それが完全民営化されると、9千2百億円しか政府のものにならなくなる。
郵政公社の内部留保(剰余金)は手をつけずに国庫納付金だけを考えるとしても、1兆1千5百億円−9千2百億円=2千3百億円の歳入差が生じることになる。
このことは、財政規模に関わらず、2千3百億円だけは余計に赤字国債を発行しなければならない事態につながるから、タイトルに掲げたように、郵政民営化は確実に政府債務を増加させることになる。
自民党や公明党の幹部は、政党討論会や街頭演説で、郵政民営化が実現すれば法人税も支払うことになるから財政健全化に貢献すると語っているが、それは真っ赤なウソである。
※ 財政的にみて愚策である郵政民営化をなぜ財務省官僚が容認ないし提示したのかについてはいくつかの推測ができるが、それについては機会を改めたい。
暫定的には、『「郵政民営化」法案と財務省キャリア官僚の“思い”』( http://www.asyura2.com/0505/dispute21/msg/672.html )を参照していただきたい。
小泉連合は、郵政民営化で郵政事業が税金を納めるようになれば民間金融機関との競争が公平になるとも言っている。
それ自体は認めることもできるが、郵政金融事業の活動範囲や利率を制限すれば民間金融機関との“棲み分け”が可能であり、わざわざ競争の公平化のために大きな財政的損失につながる郵政金融事業民営化を行う必要はない。
● 固定資産税問題
小泉連合は、郵政が民営化されると法人税だけではなく固定資産税も支払うことになると説明して支持を増やそうとしている。
固定資産税は地方税なので、中央政府から地方公共団体にお金が移転する効果があるとは考えている。
現在の制度なら利益のある割合が国庫に納められるだけだから、利益がなくても納付義務が生じる固定資産税の適用は地方財政に貢献するだろう。
しかし、固定資産税は、民営化しなくとも法律の制定により郵政公社に適用することができるはずである。公社に固定資産税の納付義務を課すことが他の法律との整合性を欠くと言うのなら、相当分を別のかたちで政府が徴収し地方公共団体に無条件で配分する方法を採ればいいだろう。(100%政府所有の株式会社にして、固定資産税を納付させるという方法もある)
● 株式売却代金
小泉連合は、郵政民営化に伴いその株式売却代金が入ってくるので財政健全化に貢献すると説明している。
この問題は、果実をたわわに実らせる木を売ってしまうのと、果実を売るために木を持ち続けることとではどちらが利益になるかという判断を要請するものである。
仮に、郵政民営化を通じて20兆円の株式売却代金が国庫に入ったとする。
(130年間かけて築いてきた郵政資産を20兆円で売り払う愚はここでは問わない)
しかし、郵政事業は2兆3千億円の利益を計上しているから、20兆円は9年足らずの利益にしか相当しない。
このような売却は、当座のお金に困って果実をたわわに実らせる木を売ってしまうのと同じ愚である。
※ 郵政公社は、持ち株会社である「日本郵政会社」を頂点に、「郵便事業会社」・「郵便局会社」・「郵便貯金銀行」・「郵便保険会社」の4つに分社化される。
それは、郵政公社の資本金である12兆6880億円が株式化され形式的に4社に割り当てられ、「日本郵政会社」がそれをすべて保有することを意味する。(郵政公社の純資産は46兆円ほど)
問題は資本金と資産・負債が4つの会社にどのように割り振られるかであるが、それは見えない。
それによって、「郵便貯金銀行」と「郵便保険会社」の株式売却代金がいくらになるかが決まる。