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NJさんの『“財政均衡”の重要性』( http://www.asyura2.com/0505/dispute21/msg/821.html )へのレスです。
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NJさん、どうもです。
いただいたレスの構成順序を変えて順次説明させていただきたいと思います。
【NJさん】
「ところで、なんで、デフレになるんですか?」
[あっしら]
デフレやインフレといった物価水準(CPI:消費者物価指数)の変動は、総需要金額の増加率と総供給量の増加率の関係で規定されます。
総需要や総供給量の絶対値ではなく、それぞれの変化率に意味があることを理解してください。
総需要金額が5%増加し、総供給量が3%増加すると、105/103=1.019で物価水準は1.9%上昇します。(これがインフレです)
日本はここ10年間1%〜2%のデフレが続いています。
総供給量が同じ条件で2%のデフレが起きたとすると、X/100=0.98ですから、X=98で総需要金額が2%減少したことを意味します。
デフレは、総供給量の増加率よりも総需要金額の増加率が小さい(低い)ときに起きる経済事象です。
ここまでだけだと抽象的すぎるので、持っているお金の視点からデフレとインフレを考えてみます。
物価水準が上昇するインフレは同じ金額の通貨で買える財やサービスが減ることを意味しますから、保有通貨の実質価値は劣化します。
一方、物価水準が下落するデフレは同じ金額の通貨で買える財やサービスが増えることを意味しますから、保有通貨の実質価値は増加します。
このような通貨の実質価値変動は、現金だけでなく、金融資産や金融債務にもそのまま適用できます。
現金を含む金融資産保有者は、インフレによって保有資産の実質価値を減らしていくことになります。預貯金の利率がインフレ率よりも小さければ、預貯金をしていても目減りしていくことになります。
その一方で、金融債務を抱える企業や人は、インフレによって借金の実質負担が軽減します。インフレは、借金をして購入した工場設備や不動産の価額も押し上げ、それらを利用して供給する財やサービスの価格も上昇させるので、ダブルで債務負担を軽減します。
このように、インフレは、現金預貯金保有者にとって不利に働き、債務者にとって有利に働きます。
デフレは、現金預貯金保有者にとって有利に働き、債務者にとって不利に働きます。
デフレ下においてはことさら預貯金をしていなくても、ただ通貨を保有し続けるだけで、デフレ率だけ実質価値が増加します。(10年間2%のデフレが続けば、10年前の1万円札は1万2200円の実質価値を持つようになります)
一方、この現金保有者の有利さは、そのまま債務者の不利を意味します。
10年前の1億円の借金は1億2200万円の実質負担に増加します。
それと同時に、借金して購入した工場設備や不動産の価額も下落し、それらを利用して供給する財やサービスの価格も下落するので、債務者は債務の履行に喘ぐことになります。
デフレはこのような論理を内包しているので、借り入れをして新たに事業を展開しようとしたり事業を拡大しようと動きを抑制することになります。
自分のお金で事業をやる場合も、何もしなくてもデフレ率分だけは保有通貨の実質価値が増加するわけですから、否応なくリスクがある事業になかなか踏み出せないことになります。
インフレの場合は、逆に、通貨を持っているだけでは目減りするので、価格の上昇が見込める供給活動に投資したり、不動産の購入に振り向ける動きを促進します。
日本におけるこの10年間のデフレは、
1)固定資本形成の縮小:バブルの崩壊でビル建設・住宅建設・設備投資などが縮小したり、銀行の貸し出し抑制(貸し出し債権縮小)により設備投資が縮小したことで、それらの固定資本形成に従事することで得られていた可処分所得が減少した。固定資本形成は消費財を生産するわけではないので、そこで支払われる給与は、上述の総供給量を増やすことなく総需要金額だけを増加させます。(固定資本形成は“インフレ貢献”が高い供給活動と言えます)
2)失業者の増加=就業者の減少:1)の固定資本形成の縮小が当初の失業者増大の主要因でしたが、それが総需要の減少となって波及するなかで、消費財供給活動主体でも失業者の増加を招きました。失業者の増加は、雇用保険の給付は給与の60%程度ですし、将来への不安も増大させるので、総需要金額を大きく減少させます。
3)消費税の引き上げ:可処分所得が増加しない状況で消費税がアップされれば、同じ消費性向(可処分所得のうち消費に回す割合)であっても、供給活動主体(企業)に渡る金額=総需要金額は減少する。
4)公的負担の増大:年金や健保の負担増大は総需要金額のベースである可処分所得の減少に直結します。
5)給与水準の切り下げ:企業は「デフレ不況」下での生き残りを賭けて人件費の圧縮に動きました。高水準の利益を上げている企業も、そのような動きを幸いとベースアップを行わなくなりました。仕事が忙しくて残業をしても、無償(サービス残業)という割合も増加しています。給与水準の切り下げと3)・4)が重なり合うことで、総需要金額はじりじりと減少してきました。
これらの条件が絡み合いながら、日本のデフレは進んできたと言えます。
ということは、「デフレ不況」の克服を考えるのなら、それらと逆の動きになる政策を実行しなければならないことを意味します。
政府が直接関与できるのは、3)・4)と1)のある部分だけです。
残りの2)・5)及び1)のある部分は民間企業の動きに依存しています。
とは言え、経済は連関的に影響しあっているものですから、政府が3)・4)と1)のある部分に働きかけをすれば、民間企業が負うべき2)・5)及び1)のある部分も変化を見せるようになります。
現状においては、「郵政問題」を考えるより、デフレをどうやって克服していくかが、国民生活・財政・年金のすべてに関わる最重要で緊急のテーマなのです。