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まず、郵政問題でよく使われる「資金の流れを官から民に変える」という表現は、“資金の流れを民間金融機関を通じたものに変える”と言い換えなければならない。
供給活動主体ではない官=政府部門に入ったお金は、必ずや財政支出を通じて民間供給活動主体(企業)に流れているからである。※参考1
“資金の流れを民間金融機関を通じたものに変える”政策は、1980年代前半までの日本で掲げられたものならそれなりの妥当性を認めることもできる。
郵政資金や年金資金は、民間に流れるとしても、政府・国会が採択した政策・予算(特別会計)に従って流れる先が決まるものだから、国民生活に必要なところや成長性のあるところには流れず実績主義的惰性で流れてしまう可能性がある。
郵貯・簡保の巨額資金は民間に流れるけれども、具体的に流れる先(分野)は政府が決めるという性格を有しているのである。
もちろん、民間が資金の流れを決めたとしても、それが国民多数派の生活向上に資するものになったり、それが成長性のある分野(企業)に流れるという保証はない。
民間(商業銀行や保険会社)に資金が流れたからといって必ずしも有効に使われるわけではないという現実は、80年代後半の“バブル”で如実に示された。
プラザ合意に基づく円高傾向への対策として“民”(商業銀行)にお金が追加的にじゃぶじゃぶ流れたが、そのお金の多くは不動産投機と株式投機に使われ“バブル崩壊”へとつながっていった。
この一大バブル事象が、現在に至るデフレ不況をもたらし、10兆円もの国庫金を銀行業界に注ぎ込む結果にもつながったのである。
右肩上がりの土地神話や株価神話が“心の支え”だったが、都市銀行が貸し出すような大手企業は市場を通じてより有利な条件で資金調達ができるようになっていたことも、銀行が不動産投機や株式投機に積極的に貸し込むようになった一因である。
悔やみごとを言っても詮無いので、“バブル”は過去の話だとしよう。
では、現在の日本で民間(銀行)が豊富な資金を持つようになったら、成長性のある分野(企業)に流れると言えるのだろうか。
それは銀行の資金運用状況を見れば推測できる。
日本の商業銀行は、この5、6年で保有国債残高を32兆円ほどから100兆円ほどに急増大させてきた。その一方で、貸し出し残高は80ヶ月も連続して減少している。
日本の銀行は、貸し出し資金が不足しているわけではなく運用難に陥っているのである。だからこそ、郵政資金と同じように国債を買い増しているのである。
郵政民営化が「資金の流れを官から民に変える」と信じている人は、民営化された郵政金融関連会社が政府系銀行のように貸し倒れも承知で政策的に貸し出すことを除いて、どのような“民”にどのようなかたちで資金が流れるのかを概略でも示さなければならない。
(念のため、郵政資金が、米国など外国の政府機関が発行する債券に流れるのなら、「資金の流れが日本の官から外国の官に変わる」だけの話である)
朝日新聞は、「郵政改革の最大の眼目は「資金の流れを官から民に変えること」である。郵便貯金や簡易保険の資金で国債を大量に買うことが、無駄な公共事業や特殊法人の温存につながっているからだ。」(朝日新聞8月24日付け社説「郵政改革 公社のままの危うさ」より)と主張している。※ 参考2
銀行も100兆円もの国債を買っているのだから、“民”である銀行の資金も「無駄な公共事業や特殊法人の温存につながっている」ことになるが、それをとやかくは言うまい。
きちんと確認しなければならなのは、郵政公社が、国債を発行したり、公共事業や特殊法人の存続を決めているわけではないということだ。
それらをこの間決定してきたのは、小泉内閣であり自民党−公明党の与党である。
新規国債発行30兆円以内を公約に掲げて自民党総裁になっていながら、小泉首相は、35兆円を超える新規国債発行を続けても「公約違反なんて、たいしたことではない」と叫んだ。
朝日新聞社は、まさか、郵政資金に余裕があるから、小泉政権は無駄な公共事業や特殊法人の温存という歪んだ政策をいやいやながら実行していると主張したいわけではないだろう。
郵政資金に毎年30兆円を超える新しい資金が流入し続けているのなら、建前としてはそう言わないとしても、そうだからではないかと邪推することはできる。
しかし、郵政資金はこの間減少傾向にあった。今後も、ハイパーインフレでも起きない限り、郵政資金に、たとえ公約どおりの30兆円であっても、赤字国債発行額に匹敵するお金が毎年流入することはない。
無駄な公共事業や特殊法人の温存という朝日新聞的主張が事実であるなら、小泉政権は、公約を破ったのみならず郵政資金にさえ余裕がないのに国債を発行して、無駄な公共事業や特殊法人の温存を続けている“国家財政破壊者”ということになる。
(自民党政権は、1991年には金融機関が運用先がないと申し出たことで発行の必要がない国債まで発行してそれに応えている)
郵政金融事業が民営化されるのなら、次に待っているのは「年金」資金の民営化であろう。
既に日本版401kにその端緒が見えているが、家計の資金循環が赤字に近い現状では郵政資金より確実に毎年政府部門に入ってくるお金は「年金」である。
(「健康保険」は保険料の受け入れと医療機関への支払いが時間的に密着しているのでそれほどの意味がないが、それでも民間保険会社に委ねるべきという論が出てこないことも限らない)
郵政民営化が“正しい”という判断が多数派になるのなら、「年金」の民営化が“悪い”と判断され続ける保証はない。
郵便貯金は民営化されても現在の限度額である1千万円までは保証されるが、「年金」はエンロン騒動でもわかるようにスッカラカンに近い損失を被る可能性がある。
次は、郵政金融事業の民営化は財政をさらに悪化させるというテーマを予定している。
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※ 参考1
『郵貯・簡保の巨額資金は民間に流れ続けています。』
( http://www.asyura2.com/0505/dispute21/msg/732.html )
※ 参考2
2005年08月24日付朝日新聞社説「郵政改革 公社のままの危うさ」
( http://www.asahi.com/paper/editorial.html )