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安全確保のための技術投入がなぜおろそかになったのか。
JR西日本、三菱自動車、そのほか、これからも起こるかもしれない同じ体質の企業・・
TORAさんの紹介していたサイトにこんなのが載ってました。なるほどと思えたので、転載しておきます。
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr162.htm
(以下転載)
ベンチャー革命2005年5月8日
山本尚利
タイトル:高品質と隠蔽体質は表裏一体
1.トヨタとJR西日本はコインの表と裏
拙稿「品質大国日本」(2000年9月)(注1)によれば、トヨタに代表される日本の高品質企業と三菱自動車に代表される悪質な欠陥隠し企業は、本質的に、表裏一体であると喝破しています。
トヨタといえども、三菱自動車のように犯罪的な欠陥隠しに陥るリスクはゼロではないと思います。宇宙船、航空機、船舶、鉄道、自動車など輸送機器において、些細な欠陥がカタストロフィー的な大事故をもたらすことを関係者は肌で知っているからです。生きた人間を運ぶ輸送システムは完全でなければならない。そのためにあらゆる欠陥をゼロにしなければならない。輸送機器メーカーや公共輸送サービス企業において、製品やシステムに欠陥を出すことは絶対にあってはならないタブーです。つまり無謬(むびゅう)主義が組織の絶対的な統制原理なのです。このような統制原理の支配する組織は旧日本軍のように官僚化しやすい。トヨタのように統制原理が順調に機能する日本型組織からは、世界に冠たる高品質の製品が生まれ、品質のトヨタは今や、GMやフォードを凌ぐ世界ブランドを勝ち得たのです。ところが、リストラや業績悪化などで、この統制原理がわずかでも狂うと、些細なミスが発生しやすくなり、そこから、三菱自動車のような悪質な隠蔽が起こるのです。つまり高品質を追求するが故に、無謬主義が官僚化すると瞬く間に隠蔽体質が始まる。欠陥のもたらす大被害を熟知しているからこそ、欠陥に対する異常な恐怖心にとらわれるからです。その意味でトヨタとて三菱自動車は他山の石です。非常に怖いことですが・・・。
トヨタがもっとも恐れるのは、悪意の第三者に故意に何かを仕掛けられることでしょう。高品質を維持することは、ガラスのように美しいが、外力に脆い。わずかの傷が組織の破局をもたらす。わずかの手抜きでも、悪魔の落し穴が、ぱっくり口を開けて待っています。
2.世界一の技術、JR新幹線
上記、拙稿「品質大国日本」の末尾には、新幹線をつくった男、島秀雄のエピソードが出ています。JR新幹線はトヨタ車とならび、日本を世界一の高品質ブランド国家に押し上げた貢献者です。日本の宇宙開発事業団(現JAXA)の初代理事長は、日本の安全と高品質の神様、島秀雄でした。JR新幹線は、1964年10月1日に東京・大阪間で開業されました。40年以上も前の話です。同年、10月10日より24日まで東京オリンピックが開催されていますが、それに合わせた開業でした。それに先立つ1958年には、当時、世界最大級の国立競技場や東京タワーが完成しています。
東京オリンピック開催後、1968年には、日本発の高層ビル、36階建て霞ヶ関ビルが完成しています。また1966年には世界最大のマンモスタンカー「出光丸」(IHI建造)が完成しています。同年代の1968年には、世界最新鋭の新日鉄君津製鉄所も完成しています。
筆者は、1970年に東大を卒業し、高度成長の申し子である団塊世代のひとりとして、世界第二位の経済大国を目指してまっしぐらでした。卒業当時、日本の未来は前途洋々にみえました。当時の筆者は日本の技術は世界一と教え込まれて育っていました。流線型の新幹線はまさに、その象徴として世界中から注目されていました。確かに、JR新幹線の歴史は輝かしいものがあります。鉄道車両では、世界最高スピードを更新し続けました。開業以来40年経て、死亡事故はゼロ(飛び込み自殺は除く)です。品質大国日本の面目躍如といえます。
さて筆者の米国覇権産業論(注2)によれば、高度成長期、日本が世界一を誇った、上記の重厚長大産業(鉄道事業含む)は、実は米国覇権主義者が手を抜いた産業群でした。日本に世界一の座を譲ってもよいと考えられていました。しかしながら、今、米国覇権主義者は後悔しているわけです。自分たちが手を抜いたところで、日本に先を越されてしまったからです。現在、重工業覇権は日本に譲っても、許せないのは自動車と家電です。軍事、IT、金融、医科学を重視する米国覇権主義者は、セカンドチョイスとして自動車、家電分野に注目し始めました。米国市場で跳梁跋扈するトヨタ、ソニー、松下など、米国で稼ぎまくる日本発グローバル企業をどのように料理しようかと手薬煉を引いています。
ところで話しを戻すと、70年代当時の筆者を含めて、大半の日本人は新幹線をみて、日本の技術は世界一であると錯覚してしまった。しかしながら、70年代以来、今日に至るまで米国覇権主義者は覇権産業に関して、絶対に日本に技術覇権を渡すことはなかったのです。たとえば筆者の勤務したIHI(石川島播磨重工)のメインフレーム・コンピュータはそれまで東芝製でしたが、日本IBM製にチェンジされました。また上記、世界最新鋭の新日鉄君津製鉄所のコンピュータも日本IBM製でした。世界一の日本の重厚長大産業も、肝心のコンピュータは米国発技術に依存していたのです。
世界一の技術を誇った日本の重工業は、造船では世界一となったものの、米国技術覇権に該当する航空機や航空機エンジンではサッパリだめでした。IHIは防衛庁向けの艦艇を建造していましたが、搭載される兵器システムは高額品ほど米国製でした。当時から、米国覇権産業の重要な技術覇権はしっかり守られていたのです。その反動で造船や新幹線の技術は米国覇権主義者からマークされずに済んだのです。
3.JR技術陣の盲点を突いた福知山線脱線事故
上記のように、旧国鉄の新幹線技術や鉄道システム技術は米国覇権主義者からまったく、マークされなかったため、日本は今日まで、この分野では世界の技術リーダーとなれました。旧国鉄は鉄道総研をもっており、70年代、東大工学部学生のもっとも好む就職先のひとつでした。筆者の学生時代は、東大工学部でも成績トップクラスの秀才の行くところでした。当時の鉄研は確かに世界最先端を走っていました。日本の鉄道技術は米国覇権主義者の干渉も妨害もまったくなかったので、国鉄時代、日本の鉄道技術のR&Dは自由にのびのびと実施されたのです。また国鉄時代は企業収益を問題にされることもなかったので、経済性度外視で世界最高の技術を追求することができた。太平洋戦争末期、戦艦大和の技術が世界最高を極めたのと実によく似ています。戦争末期、世界戦争の技術は大艦巨砲主義から航空戦主義に移っていたのに、帝国海軍幹部も海軍技術将校も、その変化に極めて鈍感だった。決められた枠内(パラダイム)で最高を極めようとするわけです。イノベーションのジレンマや技術のパラダイムシフトには非常に弱いわけです。
1987年、国鉄からJRに民営化された後も、JR技術陣は新幹線技術のR&Dについては、依然として高性能化、高速化を唯我独尊の目標としています。これは工業化社会の価値観です。一方、民間企業として収益を挙げろという号令によって、JR在来線は、徹底的な経済性を求められました。古典的にみえる技術至上主義の美学にこだわるJR技術陣は新技術、リニアモータカーやマグレブ(Maglev)には関心をもっても、福知山線の通勤車両は興味の対象ではなくメーカーまかせにしたと想像されます。その結果、今回、大惨事をもたらした福知山線車両は完全に盲点となったと思われます。
今回の尼崎、JR福知山線脱線事故にて、世界一の安全神話を築いたJR技術陣への信頼がすっかり崩されてしまった。良心的なJR技術陣はさぞかし無念であろうと察せられます。
さて2003年2月1日に起きたNASAコロンビア号の空中分解事故は、耐熱用断熱材の剥離という基本的ミス(盲点)から起きています。NASA宇宙船は世界最先端技術のかたまりです。しかしながら、いかに高度のハイテクシステムも、そのカタストロフィー的事故は、些細な盲点から起きることが多い。構造物の破壊も腐食も、もっとも弱いところが発端となります。わずかの血管の欠陥で死に至る脳溢血や心筋梗塞も同じメカニズムです。
注1:テックベンチャー「品質大国日本」2000年9月13日
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/ATT00013.htm
注2:山本尚利「日米技術覇権戦争」光文社、2003年
山本尚利(ヤマモトヒサトシ)
hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm