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2005年11月12日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.348 Saturday Edition
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▼INDEX▼
■ 『from 911/USAレポート』第224回
「日米関係と世論のマトリックス」
■ 冷泉彰彦 :作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』第224回
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「日米関係と世論のマトリックス」
ブッシュ政権と共和党の退潮は止まりません。今週も8日の火曜日に一部の地方選
挙があり、私の住むニュージャージー州とバージニア州の知事選挙は、どちらも民主
党の勝利に終わりました。またカリフォルニアでも、歳出を機械的に抑制する法案な
どシュワルツネッガー知事の提出したレファレンダム(住民投票)4案が全て葬り去
られました。
中でも、バージニアは、投票日前日にブッシュ大統領が応援に駆けつけた上での敗
北であり、またそのことを誰も驚かないという象徴的な選挙になりました。ニュー
ジャージーにしても、同性愛不倫疑惑で辞任した元マクリビー知事(民主)の出直し
選挙的なムードを利用できなかったというのは、やはり共和党には痛手です。NY市
長選は共和党が勝利しましたが、現職の実績が評価されただけでなく、ブルームバー
グ市長は4年間の市政を通じてワシントンとは一線を画してきましたから、ここも
ブッシュ政権の得点にカウントはできないと思います。
そんな中「年末」と思っていた、京都会談がもう来週に迫ってきています。紅葉の
季節に京都で行われるブッシュ=小泉会談は16日と発表されました。普天間移転を
中心に難題の山積している中、早くも統治能力に翳りが明らかなブッシュ政権に対し
て、無意味な譲歩をする理由は益々消えてきていると言って良いでしょう。ですが、
事態はそう簡単ではありません。例えば、任期の後半にイラン大使館人質事件で求心
力を失っていたカーター大統領、同じくレーガン大統領に対して日本は強気な外交が
できたかと言えばそうではありませんでした。自動車摩擦にしても、市場開放にして
も「弱い大統領」に対して譲歩を重ねてきたのが日本外交だとも言えるのでしょう。
どうして、日本はアメリカに対して外交が苦手なのでしょうか。まず考えられるの
は英語の問題です。決定権を持った政治家が英語でコミュニケーションができず、し
かも胸を張って通訳を使いこなすこともできずに、漠然と相手の雰囲気に呑まれてし
まう、そんな感覚があるのかもしれません。日本国内の権力闘争の中で、ワシントン
の外圧をパワーの一つとして悪用する政治家が後を絶たず、結局ワシントンに頭が上
がらなくなる、そんな側面も全く否定はできないと思います。何よりも、相手を研究
して政治的、戦略的に「勝ちに行く」外交ができないとうこともあるのでしょう。
ですが、問題はそれだけではないと思います。日米関係がどこか不自然な本質を抱
え続け、軍事外交の問題、とりわけ在日米軍の問題で対立が起きるたびに、この「不
自然さ」が噴出してしまう、その背景には日米の世論の複雑な「愛憎のマトリックス」
があるように思えます。一言で言えば、日本とアメリカの間には、お互いに対する
「親しみ(支持)と反目」、「愛と憎しみ」の2×2の四通りの世論が存在するとい
うことです。
まず日本側から見ますと、現在の小泉政権の支持母体となっているのは「親米愛米」
とでも言って良いでしょう。既得権益集団に反対して、アメリカ流の機会の平等を好
み、それこそアメリカに留学して米国資本の証券会社に勤務していた女性エコノミス
トというような人や、アメリカ流(ただし一流ではないですが)のM&A戦略を好む
経営者や投資家がもてはやされる時代です。更には野球や映画などアメリカの文化に
価値を見いだす人もこのカテゴリーになるのでしょう。
これに対して、政財界の中には「親米嫌米」というようなムードも否定できません。
貿易のパートナー、軍事外交のパートナーとしてはアメリカにほぼ100%依存して
いながら、心の底では「バカにしやがって」という屈折した心理を抱いて、常に短期
的な権益のゲームを続けているのがこの層です。
反米意識の中にも二通りあります。例えば「反米愛米」という人たちは確実に存在
します。団塊の世代を中心にベトナム戦争は反対だが、脱走米兵とは友情を結んだ、
とか、ジョーン・バエズやボブ・ディランは大好きという層はこれでしょう。今でも、
ブッシュは嫌いだが、マイケル・ムーアは好きという人は相当数に上るでしょう。保
守的な人でも、例えば亡くなった文芸評論家の江藤淳などは、占領下のアメリカの言
論統制を批判していましたが、批判の材料としてのアメリカの情報公開制度は深く尊
敬していたのですから、これに似ています。
「反米嫌米」という人もいます。第二次大戦の敗北を潔しとしない、あるいはとにか
く小さな日本がアメリカ相手に戦ったのは、それだけで偉い、というような心情で
あったり、既得権益の代弁をするに当たって、アメリカ流の競争社会の苛烈を声高に
非難するような心情にも、この「反米嫌米」があるようです。
アメリカの側は日本の裏返しではありません。心理的な事情が全く違います。まず
「親日愛日」というような層ですが、外交や通商という観点から日本のパートナーに
なりつつ、日本を「異文化」として愛してしまってる人々がこれに当たります。元来
が日本は異文化として割り切っているので「日本女性は慎ましいから妻として最高だ」
とか「イチローは寡黙なサムライ」と言ったピントはずれの賞賛をしてしまうことが
多くあります。若い世代になると、自分のアイデンティティの中に日本の影響が濃く
なっていて、本当に日本のカラオケ接待を喜んだり、日本人と一緒に夜遅くまで残業
しても平気というような層もあるようです。
ですが「親日嫌日」という人もあります。アジアで最大の「自由主義の大国」だか
ら仕方なしに付き合っているが、宗教や女性差別、閉鎖社会、というような問題で、
日本に対しての違和感を捨てられないのがこの層です。何か日本との不公平感が明ら
かになるような問題が生ずると、そのたびに強硬論が出てくるのは、こうした世論を
背景にしていると言って良いでしょう。
では「反日」のほうはどうでしょう。まず「反日愛日」という層ですが、こちらも
確実にいます。第二次大戦における旧日本軍を心の底から憎んでいて、新聞記事など
で知った小泉政権のイラク派兵などにも不快感を隠さない一方で、日本のアニメ文化
やサンリオのキャラクターを愛している層です。若い人中心ですが、日本車マニア、
日本食の好きな健康志向の人などにも多く見られると言って良いでしょう。
「反日嫌日」というのはまだ少数ですが、経済や軍事外交などで日本との利害が対立
する中で、例えば日本人が「個の尊厳や女性の人権を認めていない」から理解不能だ
と思い詰めてしまう層です。80年代の通商摩擦の際に噴出した「異質論」が典型で
す。
荒っぽい整理の仕方ですが、それでも日米双方に四通りのマトリックスがあるとい
うのは複雑です。ですが、問題は日米の間に横たわる軍事外交の問題、とりわけ在日
米軍の問題になると、こうした世論のマトリックスが更に複雑に作用するということ
です。
まず日本側から見てみましょう。「親米愛米」の人たちは、基本的にはノンポリで
す。漠然と「日米関係は良好なのが良い」と思っていたり、「何があってもアメリカ
の民主主義と自由経済は崩れないだろう」という思いこみがあるだけで、イラクの問
題やテロの問題に関しては中立だと思います。中にはアメリカ流の派手な「M&A」
や「女性の社会進出」を支持していながら、イラク戦争には反対だったりする人も多
いのでしょう。こうした人々は、基地問題に関しては「中立やや反基地」というとこ
ろでしょうか。
次に「親米嫌米」の人たちにとっては、在日米軍というのは政治や軍事、そして利
権のパワーゲームなのでしょう。とにかく丸く収めたい、経済的な利権の調整をした
いということなのでしょう。古くは吉田茂の言った「在日米軍は傭兵をタダで雇って
いるようなもの」とか、宏池会の伝統的な政策である「軽武装、民需シフト経済」と
いうのもそれです。ただ、漠然とした心情として「湾岸戦争の際にカネだけ出すのか
と非難された心の傷」を持っているなど、条件が整えば「自主防衛」的な方向に動く
こともある層です。
「反米愛米」の人たちにとっては、基地は憎悪の対象です。基地の全てが許せないと
いう心情で停止してしまっています。自衛隊にも同じように反対しています。例えば
振興策の問題、あるいは在日米軍のプレゼンスが減った場合に隣国と日本の緊張が
「直接的」なものになるリスク、などについては考える余裕がないようです。
「反米嫌米」の人は、自主防衛が理想です。自分の国を自分で守れないのは(隣国か
ら敵として認めてもらえないのは)恥だと考えている層です。その理想のためには、
アメリカの傘の下に隠れていることも手段としては平気でいて、ゆっくりと機会をう
かがっているような感覚を持っているのでしょう。在日米軍の基地問題に関しては、
以前は基地反対派の敵でしたが、今は少しずつ自衛隊のプレゼンスが上がるのなら、
米軍が出て行っても良いと考えているようです。
では、アメリカ側はどうでしょうか。まず最初にお断りしておかねばならないのは、
アメリカの一般的な世論は、自国の在外基地にはあまり関心がないのです。せいぜい
が「友人のお兄さんが遠くのオキナワに勤務していて大変」というような感覚でしょ
うか。何か大きなトラブルでもない限り、話題にはなりません。例えば、2002年
の中学生轢死事件が火をつけた韓国の駐留米軍への反対運動も、ニュースにはなりま
したが、大きな話題にはなりませんでした。
関心がないとはいえ、とりあえず日本側と同様の整理をしてみましょう。まず「親
日愛日」という人々は、日本に疑念はありません。ですから、改憲にも、自主防衛に
も抵抗はないでしょう。むしろ、「経費負担から逃げている」という批判に対して
「心配のない、そして経済力のある日本だからカネを出すべきだ」と答える層だと言
えるでしょう。
「親日嫌日」という人たちの心情には、複雑なものがあります。まず「カネは払って
欲しい」という心情があり、それから「瓶のふた」つまり、在日米軍で押さえておか
ないと日本の軍国主義が復活してしまうのでは、という懸念もゼロではないでしょう。
また、在日米軍を置く「権利」は第二次大戦の際の、戦死者の犠牲の上に立った「戦
利品」という意識も残っています。日本が極端な自主防衛に走った場合は、一気に反
日に変わることもあり得る層です。
「反日愛日」の層はどうでしょうか。この人たちは、日本が平和国家で、日本のポッ
プカルチャーも無害だから好きなのです。ただ、日本での反米軍基地というような動
きに同調できるほど、反戦反軍の意識が固まっているかというと、そうではないよう
です。いわば、ノンポリであって、基地問題などには関心は薄いのでしょう。ただ、
こうした層であっても「ただ乗りは悪い」というような議論には、同調してしまう傾
向もあるように思います。
「反日嫌日」の人たちは、「瓶のふた」として日本を押さえつつ、仮に中国が更に民
主化したらアジアのパートナーを中国に乗り換えるかもしれません。「ただ乗り」論
には反対で、日本はカネを出せという主張には賛成、その一方で日本の自主防衛には
疑念を持つのではないでしょうか。
日米関係は、文化的歴史的背景の全く異なる大国間の二国間関係としては、例外的
に安定した関係です。ですが、こうしたお互いの愛憎の行き違いというのは、時とし
て問題解決の大きな障害になるように思います。例えば、外交問題です。私の経験と
勘で申し上げるのですが、現在実務レベル、あるいは政治のレベルで日本とアメリカ
の外交の責任を担っている人々には、「親米嫌米」と「親日嫌日」という色彩が濃い
のです。心の中では「異質な価値観の相手」と思いながら、打算で協調している、そ
んな雰囲気が匂うのです。
また、「親米愛米」と「親日愛日」のグループに関しては価値観が全く違います。
日本の「愛米」は広い意味での「欧米へのあこがれ」を背景にしている一方で、アメ
リカの「愛米」は欧米の、とりわけキリスト教文明への絶望を持っているからです。
お互いを愛していながら、この二つのグループ自体は価値観を共有化していないので
す。その結果として、「積極的な親日、親米」の人々が太平洋の両側にいながら、価
値観を共有して心からの友人になっているというケースは極めて少ないのではないで
しょうか。
考えてみれば、小泉首相の「イラク自衛隊派兵」は、三重の意味を持っていたよう
に思います。表層には「自衛隊の海外派兵の実績作り、つまり多国籍軍方式での派兵
とアジア以外への地上軍派兵の前例をつくる」という狙いがあり、その下には「大義
も怪しければ、成果も怪しいブッシュの戦略を支持することで、かえってホワイトハ
ウスからの信頼を強固にしたい」という意図があり、更にその深層には「心からアメ
リカの外交に賛成するのではなく、打算で行っているのだから魂を売ったことにはな
らない」というような政治心理があったのではないでしょうか。
胸を張って賛成したり実行した人はホンネの部分では皆無で、誰しもが「必要悪と
しての行動」と位置づけていた、それは一種病んだ政治に他なりません。そのイラク
派兵も、英豪軍の撤退が具体的になるにつれて、撤退が具体化し始めましたが、この
間、派兵を続行したことは日米関係としては、長期的に見れば良くなかったのではな
いか、そんな風に見えてなりません。
これからの日米関係は、ブッシュ後、そして小泉後を探りながらの展開になります。
そして、それはアメリカにとって「ポスト・イラクの日米関係」であり、日本にとっ
ては「ポスト・構造改革の日米関係」になるのでしょう。その「ポスト」なるものが、
いったい何なのか、それが全く見えないところに大きな問題があります。そしてこの
間の実に打算的な「ブッシュ=小泉蜜月」がかえって、お互いにねじれのない価値の
共有という点から見ればマイナスが多かったことを考えると、不安を感じるのです。
文化の現象面でも少し不安があります。アニメや漫画のブームは良いのですが、今
年の暮れには『メモワール・オブ・ゲイシャ』という日本の芸者さんの自伝(邦題は
『さゆり』)が映画になります。しかも、その主役が、中国人のチャン・ツィイーと、
マレーシア人のミッシェル・ヨーというのですから、奇妙なことになりました。日本
人の嫌う「女性の社会的地位に関してのアメリカ風お説教」に「ゲイシャガールへの
ステレオタイプな視線」が混ざっている(と予想されます)、しかも役者さんは中国
系で英語の映画、ということで、日米双方に色々な波紋が予想されます。
すでにアメリカでは「ゲイシャブーム」を仕掛けようというようなマーケティング
活動も始まっていますから、ブッシュの京都訪問の際の報道なども、気をつけて見て
ゆく必要があるように思います。意外なところで、勘違いの「フジヤマ・ゲイシャ」
的な日本観が顔を出しかねないからです。
軍事外交に関しては、日米関係、アジア集団安保、国連の三重構造での「安全保
障=紛争の回避」を考えるべきなのでしょう。憲法論議の中にある「集団安保問題」
というのは、「他を敵に回した上で最後は負けるような同盟を禁止する」のが趣旨な
のですから、安易に現状を追認した「容認論」ではなく、複数もしくは三重構造、四
重構造により「いかなる関係国とも戦争にならない」安保体制が必要、そのように議
論を持ってゆくのが筋ではないでしょうか。
経済の問題に関して言えば、食の安全という問題で、共通の価値観、共同での研究
体制を達成することを中心に、他でもない日米の間でのFTAを考える時期に来てい
るように思います。日米関係を、米加関係ぐらいにアップグレードはできないもので
しょうか。逆に日米にとってFTAを行う場合に問題となる点は、今でも日米の障害
になっているのだと言って良いのでしょう。BSEしかり、米の輸入しかり、遺伝子
組み換え作物しかり、ということです。日本として保護政策を諦める代わりに、安全
への考え方は日本式を受け入れさせる、そんな形で合意ができれば良い、難しくても
その辺りをターゲットにできないものでしょうか。
沖縄の問題について言えば、そのようなアジアの安全保障、つまり在沖米軍のプレ
ゼンスに変化が生じることが「より紛争のレベルを下げ、戦争の可能性を下げる」よ
うな判断を中心に調整を進めるべきだと思います。いずれにしても、「ジョージ」と
「純一郎」の奇妙な芝居は、今度の京都と、そして次のワシントンで終幕となるので
しょう。次の時代の日米関係へ向けて、現状をいったんクリアーにして、一から組み
立て直す時期に来た、そんな風に思います。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。米ラトガース大学講師。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア
大学大学院(修士)卒。著書に『9・11(セプテンバー・イレブンス) あの日か
らアメリカ人の心はどう変わったか』、訳書に『プレイグラウンド』(共に小学館)
などがある。最新刊『メジャーリーグの愛され方』(NHK出版生活人新書)。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140881496/jmm05-22
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JMM [Japan Mail Media] No.348 Saturday Edition
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独自配信:104,755部
まぐまぐ: 15,221部
melma! : 8,677部
発行部数:128,653部(8月1日現在)
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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【WEB】 http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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