★阿修羅♪ > Ψ空耳の丘Ψ41 > 747.html
 ★阿修羅♪
島木健作  【文学者掃苔録図書館】
http://www.asyura2.com/0505/bd41/msg/747.html
投稿者 愚民党 日時 2005 年 11 月 01 日 18:54:52: ogcGl0q1DMbpk
 

(回答先: Re: わが敬愛する島木健作の墓はここ(北鎌倉・浄智寺)にあったのか 投稿者 gataro 日時 2005 年 11 月 01 日 10:13:10)

島木健作

朝倉菊雄(1903-1945・明治36年-昭和20年)
昭和20年8月17日歿 42歳 (克文院純道義健居士)鎌倉・浄智寺


--------------------------------------------------------------------------------

私はあたりが急に死んだやうに静かになつたのを感じた。事実にはかに薄暗くなつても来てゐた。私は歩きながらさつきからのことを考へつづけた。秋のタベ、不可解な格闘を演じたあげく、精魂尽きて波間に没し去つた赤蛙の運命は、滑稽といふよりは悲劇的なものに思へた。彼を駆り立ててゐたあの執念の原動力は一体何であつたのだらう。それは依然わからない。わかる筈もない。しかし私には本能的な生の衝動以上のものがあるとしか思へなかつた。活動にはひる前にぢつとうづくまつてゐた姿、急流に無二無三に突つ込んで行つた姿、洲の端につかまつてぽつとしてゐた姿、−−すべてそこには表情があつた。心理さへあつた。それらは人間の場合のやうにこつちに伝はつて来た。明確な目的意志にもとづいて行動してゐるものからでなくてはあの感じは来ない。ましてや、あの波間に没し去つた最後の瞬間に至つては。そこには刀折れ、矢尽きた感じがあつた。力の限り戦つて来、最後に運命に従順なものの姿があつた。さういふものだけが持つ静けささへあつた。馬とか犬とか猫とかいふやうな人間生活のなかにゐるああいつた動物ではないのだ。蛙なのだ。蛙からさへこの感じが来る、といふこの事実が私を強く打つた。

(赤蛙)


--------------------------------------------------------------------------------


終戦の翌々日、宿阿のため老母・夫人・川端康成・小林秀雄・中山義秀・久米正雄・高見順等に見守られ鎌倉養生院で死んだ島木健作はストイックな作家であった。「文学的自叙伝」に「私のなかの坊主的名性質、享楽的なものを罪悪視してしりぞけ、欠乏に堪え、身を苦しめて励むといった、聖道門的なものへの憧れれみたいなものは早くから顕著であり、それは一般に小説というものの雰囲気とは一致しないところがあるのだった。」と書いたように、その特異な時代でしか生まれなかったであろう作家であった。


--------------------------------------------------------------------------------


蜜柑の木の下、紫陽花の葉影に埋もれて苔蒸したちいさな墓碑があった。「島木健作之墓」、「昭和二十年八月十七日歿」と刻まれたこの墓の主は「これからやり直しだ」といって死んだ。陽当たりの悪い塋域の空間に、求道的な精神で生涯を送った作家の姿が、幽淡と偲び上がってくるような時がたった。

--------------------------------------------------------------------------------


http://www.asahi-net.or.jp/~pb5h-ootk/pages/S/simakikensaku.html



TOP
文学者掃苔録図書館   http://www.jah.ne.jp/~viento/soutairoku.html

 次へ  前へ

  拍手はせず、拍手一覧を見る

▲このページのTOPへ       HOME > Ψ空耳の丘Ψ41掲示板



  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。