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小説 結城純一郎の演説   (4)
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投稿者 愚民党 日時 2005 年 8 月 25 日 23:01:58: ogcGl0q1DMbpk
 

(回答先: 小説  結城純一郎の演説  (3) 投稿者 愚民党 日時 2005 年 8 月 25 日 03:16:10)

         小説 結城純一郎の演説  (4)

 飯田勲首相秘書官のオフイスはもちろん首相官邸にあった。あらゆる国会議員の情報は内閣情報調査室と東京地検、
警視庁公安部から飯田勲のデスクに上がってくるシステムは確立されていた。飯田勲は警視庁公安部を自民党議員の動向調査に
差し向けていた。自民党議員の弱みや恥ずかしい情報を握り、それで自民党議員が首相官邸の奴隷になるべく恫喝をするためである。

 さらに自民党議員の24時間動向は女性秘書によって、メールで首相官邸の飯田勲デスクにあるコンピュータに報告される
システムも確立していた。自民党議員の女性秘書はほとんど統一教会信者であった。飯田勲は情報収集の多重化システムを採用
していた。すなわち警視庁公安部からの情報と女性秘書からの報告である。そのふたつの情報源を付き合わせることによって
情報の裏がとれると飯田勲は確信していた。議員を叩き落すときは、メディアにリークするのである。

 そのリークほしさに飯田勲のところには、政治家のスキャンダルを売り物にしている週刊誌記者が群がってくる。
飯田勲は議員たちの女性秘書に命じて、全自民党国会議員が使用するパソコンにメールスパイソフトをわからないように
インストロールさせておいた。議員がメールを送信すれば、その内容はただちに飯田勲のコンピュータに送信されるという
システムが成立していた。議員たちは自分が打ったメールが相手の他に、まさか飯田勲のパソコンにまで送信されているとは
誰も思っていなかった。自民党国会議員は飯田勲に丸裸にされていた。もはや誰も首相官邸には逆らえなくなっていた・・・

 しかしこれでも不十分だった。携帯メールをどうスパイするかの課題が残っていた。多くの国会議員は携帯メールで連絡を
とっているからである。飯田勲はNECに携帯メールスパイソフトの開発を急がせていた。

 深夜0時が過ぎていた。飯田勲はデスクでうとうとと疲れから眠っていた。「おまえを殺してやる」声が聞こえた。
首相官邸には幽霊が出るとの噂は第2次世界大戦終了後からあった。兵隊の幽霊が出現するのである。時の首相を金縛りにして
「おまえを殺してやる」と兵隊の声が首相の寝室に木霊するのである。1945年から60年間・・・何人もの総理大臣が
兵隊の幽霊に悩まされた・・・新しい首相官邸が建設され、しばらく兵隊の幽霊は出なくなったのだが・・・

 「おまえを殺してやる」声のみの幽霊が最近出るようになった。ついに首相は最近、「おれは殺されるかもしれない」
などと口走るようになってしまった。飯田勲は声のみの幽霊に覚醒した。また・・・兵隊が出たか・・・そうため息を
ついた。飯田勲は戸棚からスコッチを取り出した。そしてグラスにとくとくとついだ。自分でも飲みすぎだと思っている。
からだも肥満度を増している。首相官邸を仕切る飯田勲は影の総理大臣と命名されていた。酒の力をかりて眠らなくては
ならない。しかし・・・と飯田勲は思った・・・権力の味は最高だな・・・手放すことはない・・・できるだけ権力の
座を保守しなければなあ・・・そのためにおれは横須賀のあの男を総理大臣の位置に押し上げた・・・永久権力は可能なのだろうか
・・・飯田勲はスコッチを飲みながら仕掛けのアイデアを考えていた。

 デスクの上にはアンダーグランド小説が置いてあった・・・飯田勲は睡眠誘導のために読みはじめた・・・


 隊長は舞台袖から再開された結城純一郎総裁の演説をしばらくながめていた。防衛隊員にあとをたのむと任せ、袖から楽屋口へ
歩いていった。防衛隊の控え室には、政治少年山口音矢が椅子に縛られていた。「これから打ち合わせをする、ヤツは別の部屋
に移動させ監視しておけ」そう防衛隊員に指示を出した。ふたりの防衛隊員が椅子に縛った音矢を持ち上げ、部屋から移動する。

 控え室にはそれぞれの防衛部署からキャップが続々と集結してきた。防衛隊員の制服はズボンはとび職が着る七部、
上はジャンパーだった。それぞれが野球帽をかぶっていた。上から下まで黒衣装だった。情報担当の副隊長が切り出した。

 「靖国神社境内には続々と旧右翼が集結しています。国家生活党大会撲滅集会が午後1時から開催されています。午後4時から
デモ隊が出発します。コースは靖国通りから駿河台に向かいお茶の水駅で流れ解散となっておりますが、旧右翼過激派はわれわれ
の大会会場である九段会館に突入してくると推測されます。九段会館の入り口がある道路は機動隊が阻止線をはっていますが
機動隊は旧右翼過激派が突入できるように阻止線を開けると推測します。靖国神社で定点観測しているルポからの報告によります
と、現在の集会参加者は約2000人、デモ隊が出発する頃には3500人にふくれあがると推測されます。
 
 他方、左翼ですが駿河台明治大学構内において午後1時からファシズム国家生活党粉砕集会が開催されています。ルポ報告に
よりますと全国大学全共闘、全国反戦委員会、全国反ファシズム高校生共闘による主催です。
その数およそ5000人。デモ出発は午後5時です。コースは駿河台から靖国通り、新宿駅解散です。
新宿駅において暴動をたくらんでいると推測されます。左翼過激派は靖国通りから九段会館に突入してくる推測されます。以上」

 いよいよ首都決戦の激突がはじまると控え室には緊張が走った。

「武道館の現状を報告しろ」と隊長は臣民軍担当の副隊長に促した。

 「全国から結集した国家生活党臣民軍兵士は現在1万名が武道館で待機しております。大会をなんとしても防衛するという
戦闘意欲に兵士ひとりがひとりが燃え上がっております。いつでも動けます」

「よし、臣民軍を午後3時に武道館から出発させろ。5千の部隊で靖国神社の旧右翼に襲い掛かれ。火炎ビンを武器につかうと
靖国神社を燃やしてしまう危険性がある。武器はゴキブリ退治のバルサンをつかえ。目潰しの煙を一斉に投げ込み
ナチス棒と木刀で殲滅しろ。デモ隊が出発する瞬間に一挙に襲え。戦場は靖国神社だ。

 左翼の定点観測ルポも靖国神社にいるはずだ。わが臣民軍が旧右翼部隊を壊滅すれば、その情報はすぐさま明治大学で集会を
開いている左翼どもに伝わるはずだ。駿河台方面5千の部隊は明治大学を封鎖しろ。戦場は駿河台の坂だ。左翼は火炎ビンを
武器として使用するだろう。高圧水銃のドラゴンを出動させ、水攻めにしろ。 敵は烏合の衆として逃げ惑う。そこを襲い
掛かれ。駿河台で壊滅しろ。靖国方面部隊は旧右翼を殲滅した後、駿河台戦場への応援に向かえ。駿河台で決着がついたら
臣民軍全部隊は再び武道館へと撤収を開始しろ。警視庁機動隊が騒乱罪を適用し、武道館を包囲するだろうが、ここで
長期持久戦として対峙しろ。

 この戦争は臣民軍の長征への出発としてある。思想戦争として戦え。ふたつの戦場での勝利をもって、われわれは日本臣民軍
創設に向けて、自衛隊に乗り込む。自衛隊を日本臣民軍として再編するためである。今日の戦争は国家生活党臣民軍から
日本臣民軍への飛躍をかけた戦争であることを肝に銘じよ。イデオロギー戦争としての実践訓練だと思え」

 隊長はもはや将軍であると防衛隊のキャップたちは思った。ふたつの戦場、首都決戦に誰もが武者ぶるいした。
膝がガクガクと自動的に動いている。大会を成功させ、同時一体として、ふたつの戦場で勝利する。今日の戦争の後も
警視庁機動隊との長期持久戦の対峙は、突撃隊である国家青年同盟が占拠する自民党本部ビルと武道館というふたつの
場所となる。指導主体が問われていた・・・

 将軍である隊長は報告することがあるとさらに軍事方針を伝えた。
「東京には今、30万の臣民軍兵士が結集しつつある。演説の最後で結城純一郎総裁は本日をもって文化大革命の宣言を
することになっている。そして国家社会主義革命の起動を宣言する。30万の臣民軍兵士は警視庁を占拠し、防衛庁を
占拠する。最高裁判所、東京地検、霞ヶ関国家機関すべてを占拠する。民主党本部ビルを占拠する。
公明党本部ビルを占拠する。共産党本部ビルを占拠する。社民党本部ビルを占拠する。勝利の女神はわれわれに微笑むだろう」

 将軍である隊長の名前は飯田勲。黒い衣装の防衛隊キャップたちは、控え室からそれぞれの部署へと戻っていった。


  上野駅と東京駅には列車が着くたび、続々と全国から若い国家生活党の闘志が降り立っていた。列車はもはや臣民列車だった。
年配のJRの職員はつぶやいた。まるで毛沢東語録を手にして北京に結集した紅衛兵みたいだ・・・


 

 

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