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山県有朋と長州暗流－未完の維新論⑤
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日本の近代史はしんどいので、今回で区切りをつけます。
このシリーズでは、「横井小楠－勝海舟－西郷南洲」の思想つながりを軸として書いてみました。彼らには〈反侵略主義〉のヴィジョンがあり、もし勝の望んだ「横井の思想を西郷が行う」ことが現実になっていれば、日本さらにアジアの未来は、今あるものとは全く違っていたはずです。すなわち「日清韓」が同盟し、「西洋列強」に対抗する…というかたちです。
ロシアの南下侵略は、日本が朝鮮・清を伐って弱体化させたことで加速されました。もし日本が朝鮮・清を攻め崩すことがなければ、ロシアの急な南下は無理で、従って日露戦争もあのかたちでは起こらなかった。
すでに日清戦争のとき勝海舟は、
「アジア同胞の清・韓を伐てば、ロシアほか列強の介入を招いて、結局は東洋崩壊を招くだけだ」
と警告をしていました。事実その通りになったのです。
勝は日清戦争に反対だったが、実は明治天皇も反対でした。明治天皇は戦勝後にも大いにムクレて、「よくも勝手なことを！」と伊藤博文らを責めています。ところでなんと首相の伊藤もまた戦争には反対でした。つまりは外相・陸奥宗光らが暴走したということらしいが、天皇も首相も反対なのに「勅令」が出て戦争になるのだから、面妖きわまりない話です。しかも陸奥は処罰もされない。
実は陸奥らのバックには山県有朋がついていて、彼は伊藤も天皇をもすでに圧倒する権力を確立していたのです。今編①でも述べたよう、明治帝国はその後期には、実質「長州＝陸軍＝山県王国」となっていたのです。
今編④では、維新政府の背後には始めから英国がついていた－という事実を見ました。日本のアジア侵略も、日本国益のためというより、「長州閥の支配利益」と「英・米のアジア権益」の野合によって仕組まれたのです。
前者の証拠を挙げましょう。もともとアジア侵略は、長州・吉田松陰の構想だが、はたして歴代の朝鮮総督また台湾統監は全て長州人でした。また満州を経営した「満鉄」も、その幹部トリオ、松岡洋右・鮎川義助・岸信介は血のつながったファミリーで、やはり長州人でした。
日本のアジア侵略は、労多くして益少なく、何のための植民地支配だったかわからない…といわれます。だがこの結果を見るならば、これは長州閥が権益を吸い上げるための戦争であったと言ってよい。じっさい満州移民らはきわめて悲惨な目に遭ったのに、鮎川はここから得た利益で日産コンツェルンを築いたのです。岸については後述します。
後者の証拠も挙げましょう。日露戦争で、東郷提督の乗っていた「三笠」らは英国製の軍艦でした。またポーツマス条約は、日本陸軍がボロボロになっていたにも関わらず日本有利に決着されたが、これは仲介役・米国大統領ルーズベルトの国際戦略に拠ったものです。つまり英＝米が、日本を利用してロシアを伐たせ、アジアにおける彼らの権益拡大を図ったわけです。これが日露戦争は英露の「代理戦争」だったといわれる理由です。
それゆえ日本が満州を握ってしまうと、これが邪魔になった英米は、今度は日本叩きに転じました。その結果が太平洋戦争となったわけです。
決着をつけたいので、続けます。
明治帝国は、ついには山県有朋という「見えない独裁者」によって呑まれました。山県は軍部統帥権を確立し、治安警察法を定め、自由民権を弾圧し、韓国併合→日清日露戦争をプログラムし、教育勅語・軍人勅諭を公布しました。最後の二つは明治天皇のおコトバと思われているが、やはり山県製作です。明治天皇は山県を嫌悪してたが、逆らうことができませんでした。詳しくは半藤利一『山県有朋－幕末維新の群像⑨』（ＰＨＰ）を参照ください。
また山県には伊藤暗殺を仕組んだとの説もあります。これは上垣外憲一『暗殺・伊藤博文』（中公新書）を参照ください。これによって山県は「無敵」となり、かつはその報復として、韓国侵略に邁進することができたのです。
…日本が米英に敗戦すると、戦争指導者として東条英機（本籍岩手県）らは処刑されたが、奇妙にも、その片腕であった岸信介は放免されました。米国は、日本を「反共の砦」とするためには、旧体制の軸であった長州閥を利用すべきだと策したのです。
はたして岸信介は戦後に首相となり、日米安保体制を固めました。そして実弟・佐藤栄作とともに「自民党」天下を築き上げます。今の自民また民主右派の政治家はほとんどこの系列から出ています。（ちなみに共産党の宮本顕治も長州人…それも岸・佐藤と同郷、田布施の出身です）
岸の娘婿が安部晋太郎（これも長州）で、その子が次期首相を噂される安部晋三（つまり岸の孫）です。
長州暗流は過去の話でなく、今も生きているのです。
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