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定礎板
扁額は、建物の頭上に目を向けるものであった。もうひとつ、こんどは足元に目を
向けてみよう。
たいてい、ビルの玄関回りで足元を見渡してみると、周囲の壁から浮きあがった
大きいプレートがあるはずだ。これを「定礎板(ていそばん)」という。下の写真のように、
いかめしい隷書の書体もあれば、ゴシック体のもの、草書体のもの、いろいろなものが
ある。
とはいえ、重い建物を下でグッと支えているいかめしさからだろうか。扁額ほどのび
のびと表情豊かなものは、あまりない。
文字を読み下せば、「礎を定める」ということである。礎(いしずえ)というのは、建築
物の柱を支えるために、地中に埋め込まれる土台の石である。ふつうは、礎石(そせ
き)と呼んでいる。定礎板は、この礎石をすえつける儀式 「定礎式」が行なわれる際に
据え付けられる。
元来、定礎式は工事の開始にあたって行なわれていた。なぜなら、柱が立たなけれ
ば木造建築は始まらないからだ。
しかし、現在のビル建築においては、コンクリート工事が終わって外装工事に入ると
きに行なわれる。実際に、地中に礎石を埋めるまで行なうものもあれば、単に定礎板
を壁にはめ込むだけの場合もある。
そのため、本来の意味とは少しはなれ、中締めの儀式としての意味合いが強いかも
しれない。
定礎式では、礎石とともに、関係者の記した「定礎の辞」・工事の沿革・当日の新聞な
どを埋めることが多い。建物に託す気持ちを、礎石と一緒に埋めこんでいくという行為
が、どこか呪術的な雰囲気をかもし出していていて面白い。 表立って見えないところで、
関係者の意思が、建物の中に染み込んでいく。
定礎板が多くを語ろうとしないのは、その意思を、むやみと外部に漏らすまいという
使命感からだろうか。
大学4年の時、わたしは、ある建物を見るために、港区芝に行った。東京タワーに向
かう坂道を登りきったところに、1階よりも2階のほうが大きい「T」字型の奇妙な建物が
ある。これこそ、日本でのフリーメーソンの活動拠点、東京メソニックセンターである。私
が見たかったのは、この建物の定礎板であった。目指す定礎板は、建物の正面玄関、
向かって左隅にあった。
センターの玄関には、ここから先へは行かないようにという旨の立て札があり、ロープ
で通せんぼがしてあった。仕方なく、私は首を伸ばし、目をこらして見た。
それは、見なれた「定礎」の文字だけではなかった。
名高い「コンパスと定規」のマーク。その下に「A.L.5981-5-23」 「 KIYISHI TAKANO
GRAND MASTER」の銘文があった。「A.L.」とは、「Anno Lucis(光の年)」というメーソン歴
であり、西暦では1981年にあたる。まさに、この建物にふさわしすぎるデザインの定礎
板であった。帰り道、私はこの発見に興奮がさめなかった。
後日、東京メソニックセンターの資料をあたり、さらに驚く内容を知った。英文での建
物の概要案内の一文を、ここに訳す。
The stone was procured from a site near King Solomon's quarries, with
the kindly assistance of the Grand Lodge of Israel.
("Description of The New Tokyo Masonic Center" edited 24 June 1999 by Grand Lodge of Japan)
この石は、イスラエル・グランド・ロッヂの援助によって、ソロモン王の石切り
場跡にほど近い所で、入手されたものである。
ソロモン王の神殿建築に携わった建築士ヒラムを起源伝説に持つフリーメーソンに、
なんとふさわしい石であろうか。「自由な石工」たちの建物の意思を、その奥にひそめて、
定礎板は据えられていた。
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http://www5a.biglobe.ne.jp/~pedantry/pedantry/teisoban.htm
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