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盗聴テープ
韓国メディアが久々に熱気を帯びているようだ。問題の震源は悪名高き情報・治安機関、国家安全企画部(安企部、現在の国家情報院)が運営した極秘盗聴組織の存在発覚だが、波紋は報道の意義や有り様を問う議論にまで発展しており、しばらく目がはなせそうもない。
「悪名高き」と記した通り、中央情報部(KCIA)から改称した安企部とは朴正煕、全斗煥ら軍事政権下では泣く子も黙る圧倒的な権勢を誇り、盗聴はおろか拷問や誘拐、殺人等々、ありとあらゆる不法行為に手を染めた極悪機関だ。盗聴組織の存在くらいでは驚くに値しないのだが、今回の極秘盗聴組織は「文民政府」を掲げて誕生した民主化後の金泳三政権期(93ー98年)に運営されていたことから衝撃を呼んだ。
金泳三といえば金大中と並び称される民主化運動の闘士。紆余曲折を経ながらも軍事政権に抵抗を続け、大統領就任後は情報機関による不法行為を認めない姿勢を鮮明にしていたのだから、事実なら大問題だ。もっとも、金泳三側は今回の疑惑を受けて「在任中に盗聴情報の報告を受けたこともなければ、盗聴を行わせたこともない」と完全否定しているのだが。
それはともかく、韓国メディアによれば、安企部が運営していた極秘盗聴組織のコードネームは「ミリム(美林)」。女性協力者を暗喩する命名ではないかと囁かれているが、書記官級のチーム長を筆頭とする4人の精鋭部隊が大物政治家、官僚、財界首脳、マスコミ幹部らを標的とし、高級レストランや高級クラブに盗聴器を設置、会食や酒席での会話盗聴を繰り返していたのだという。
精鋭とはいえ4人とはささやかな組織という感もあるが、8000本以上の録音テープを残したというから活動は極めて活発だったのだろう。組織の存在は安企部内でも最高機密とされ、盗聴結果は「ミリム報告」として安企部でもごく一部の幹部のみが把握、重要情報に関しては青瓦台(大統領官邸)にも報告されていたもようだ、と韓国メディアは伝えている。
こうした疑惑は一部で早くから囁かれていたが、大手メディアとしていち早くスッパ抜いたのは保守系最有力紙の朝鮮日報(21日付朝刊)。しかし、この疑惑が面白いのはここから先だ。実は「ミリム」が残した録音テープの一部を有力テレビのMBCが朝鮮日報の報道より早い段階で入手していたのだ。
いわばMBCがグズグズしているうちに朝鮮日報に先を越されてしまった形なのだが、MBCが報道をためらうのも無理がないところもある。テープには韓国最大財閥のサムスングループ幹部と最有力紙、中央日報会長の生々しい会話が録音されていたのだ。それも98年大統領選をめぐり、途轍もない額の違法政治資金をサムスングループが与党候補に流したことを裏付けるような密談内容、である。
かつてサムスングループ系列だった中央日報は朝鮮日報、東亜日報と並んで韓国メディア界に君臨する保守メディアの代表格だが、朝鮮、東亜に比べれば比較的穏健な保守路線を唱え、問題の会長氏が米国に豊富な人脈を持つこともあって進歩派の盧武鉉政権が駐米大使という要職に抜擢、今まさ元会長氏が現役の駐米大使を務めているのだ。保守メディアと対立を続ける盧政権が元会長氏を抜擢したのは保守メディア切り崩し策だ、との指摘もあるが、これは蛇足。とにかくMBCとしてもサムスンと中央日報、さらには現役の駐米大使が絡むとあっては軽々しく報じるわけにもいかない。
加えてMBCが盗聴テープを入手し、朝鮮日報報道を受けてテープ内容の暴露の構えを見せていることに危機感を覚えたサムスン幹部と駐米大使は報道禁止の仮処分を申請。司法当局が21日、テープ自体の報道を禁ずる決定を下してしまった。
MBC側は「報道の自由を侵害する」と反発したが、21日夜のニュースは司法当局の決定に従ってテープ自体の報道は控えた。ところがライバル局のKBSは盗聴テープを持っているMBCより詳細に内容を報道、他の韓国メディアも集中報道に乗り出し、むしろMBCが出遅れた形になってしまった。
おさまらないのがMBCだ。22日には司法当局の決定に逆らってテープ内容の報道に踏み切ると宣言、同日夜のメインニュースの扱いは凄まじかった。約1時間の番組の半分を裂いて盗聴内容とその分析、関連疑惑を徹底暴露し、久々に怒りに震えるジャーナリズムの神髄を見た思いがした。
それにしても、MBCが伝えた盗聴テープは驚愕の内容だ。日本円で10億円もの不法選挙資金を与党に流すばかりか、保守メディア幹部が政治資金の供与へ主導的に関与し、果ては検察幹部への饗応等々の密談まで盛り込まれていたのである。MBCニュースのアンカーが「マスコミと権力の癒着を物語る」と言い切ったのも無理はない。これほどの内容を不法盗聴という手段で把握していた韓国情報機関の暗部には慄然とするほかないが、政官財とマスコミの癒着という病理は韓国に限らないだけに、徹底追及の構えのMBCを筆頭とする韓国メディアの現場記者へは心からの声援を送りつつ、推移を見つめたい。
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