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平成17(2005)年7月10日[日]
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【転機のチベット】(4)世界一高い“経済大動脈” 文化の希薄化加速、懸念
空路チベット自治区に入り、ラサ市(標高三千六百メートル)のホテルにたどり着いてから半日が経過した深夜のことだ。
後頭部の鈍痛がひどい。息ができない。ついに救急車を呼んだ。搬送先のチベット自治区人民病院では「血圧が高いが、大事ない」と診断されたものの、三時間ほど酸素吸入を受け、案内役として北京から同行してくれた国務院(内閣)スタッフら周囲にさんざん迷惑をかけた。翌朝にはなんとか回復したが、高山病の怖さを思い知った。
それにしても空気が薄い。地図を広げると、自治区の南側には八千メートル級のヒマラヤ山脈が切り立ち、北側には五千メートル級の青藏高原が北隣の青海省まで広がる。自然の大要害はそのまま人と物の流れを阻む巨大な障壁だ。
経済成長のらち外に取り置かれかねないチベットでは、しかし、大工事が着々と進行していた。鉄道が一本もない、というチベットの歴史に終止符を打つプロジェクトである。
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ラサから北へ、蛇行する川に沿った舗装路をマイクロバスに揺られていると、どんどん高度が上がっていくのが実感できる。百キロほど走ったヤンバージンという町で「青藏鉄道」の建設現場を見た。
標高は四千三百メートル。すでに敷設された鉄路が延びるはるかかなたに、雪を頂く山々が見えた。
青藏鉄道は青海省のゴルムド−ラサ間、千百四十二キロを結ぶ。経済発展から立ち遅れた内陸部を重点的に開発する中国政府の国家プロジェクト「西部大開発」の目玉の一つでもある。
何しろ、工事区間の標高平均が四千五百メートル、最も高い地点は五千七十二メートルに達する。われわれが足を踏み入れたヤンバージンからラサの間には、約四十キロの距離で高低差が千メートルにもなる区間があるという。列車の最高時速は百−百二十キロ。気圧の低い高地を走るため、飛行機同様の気密構造車体となる。
「三百億元(一元=約十三円)を上回る見込み」(チベット自治区発展改革委員会)という工費をつぎ込むことで、飛行機や自動車をはるかにしのぐ効率の大量輸送が可能な経済動脈が出来上がるわけだ。試運転開始は来年七月。
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チベット自治区は、青藏鉄道の開通で「観光客は年間九十万人増える」(旅行局)と見込み、豊富な鉱物資源やチベット医薬品、民族手工業品などの市場が拡大すると期待する。チベットへの玄関口となる青海省でもホテル建設が相次いでいる。
しかし、人と物の流れを飛躍的に拡大、加速する鉄道の完成がもたらす効果は、視点を変えて考察すると、まったく違ったものに見えてくる。
チベット独立を求めるダライ・ラマ亡命政権は輸送力の飛躍的拡大が「中国が進めるチベット文化の希薄化を加速させる」と危機感を募らせる。世界銀行などによる中国への貧困対策融資に厳しい姿勢を示す米議会にも同様の見方が根強い。
取材を終えてラサに戻る途中、軍用トラックが行き交う舗装道路わきで、老婦人が一心不乱に「五体投地」をしているのを見た。かなたの山すそには建設中の鉄路が見える。チベット仏教独特の礼拝との奇妙なコントラストだった。(鳥海美朗)=おわり
http://www.sankei.co.jp/news/morning/10int003.htm