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対アジアFTAがこう着・タイとの「7月合意」困難に
http://www.asyura2.com/0505/asia2/msg/114.html
投稿者 ワヤクチャ 日時 2005 年 6 月 19 日 21:46:30: YdRawkln5F9XQ
 

日本とアジア諸国との自由貿易協定(FTA)を核とする経済連携協定締結交渉が再び膠着(こうちゃく)している。昨年末からフィリピン、マレーシアと合意が続いたが、タイとは鉱工業品分野などで溝が埋まらず、両政府が目指す7月中の決着はずれ込む見通し。韓国との交渉も停滞している。中国など他のFTA推進国と比べ貿易交渉で後れを取る構図が鮮明になってきた。

 中川昭一経済産業相は16日、来日したタイのFTA交渉責任者であるソムキット副首相と会談したものの、関税引き下げ交渉などで実質的な進展はなかった。鉄鋼製品、自動車について日本側は2010年までの段階的な関税撤廃などを要求。タイは自国産業保護のため鉄鋼や自動車製品の90%以上を自由化の例外扱いするとの立場を崩していない。 (07:01)

http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20050619AT1F1800B18062005.html

日タイFTA:
7月中の決着困難に 工業品分野で協議難航
 7月中の合意を目指していた日本とタイの自由貿易協定(FTA)交渉は、決着がずれ込む可能性が出てきた。自動車など工業品分野の市場開放をめぐって協議が難航している。さらなる譲歩を迫るタイ側の駆け引きの側面はあるが、7月中の決着は難しく、秋以降になるとの観測も出ている。

 タイのソムキット副首相と中川昭一経済産業相は16日に会談し、7月決着を再確認した。だが、経産省によると、6月末の事務レベル協議で大幅に進展する展望は今のところないという。

 日タイFTA交渉は、3月末に農業品分野で大筋合意した。一方、工業品分野では、日本は自動車や自動車部品、鉄鋼製品の3分野の関税撤廃や、投資・サービス分野の自由化を求めている。5月には中川経産相がタイでタクシン首相と会談し、タイの国内事情に配慮して、中小企業育成を目指した産業協力などの譲歩案を示していた。

 しかし、タイは、鉄鋼製品の関税撤廃率を10%以下と回答し、実質的に例外措置の継続を求めている。また、車の生産に不可欠な熱延鋼板では15年後の関税撤廃を主張し、自動車や自動車部品の関税撤廃も10年以内で十数%と消極的で、日本の主張に歩み寄る姿勢が見られない。【小島昇】

毎日新聞 2005年6月17日 20時07分

http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050618k0000m020067000c.html

自工会会長「FTA早期締結を」、タイの副首相に要望書



FujiSankei Business i. 2005/6/18


 日本自動車工業会(自工会)の小枝至会長は17日の定例記者会見で、難航している日本とタイの自由貿易協定(FTA)に関する政府間交渉を側面から支援するため、タイのソムキット副首相あてにFTAの早期締結を要望する文書を会長名で送ったことを明らかにした。

 また、道路特定財源を一般財源や環境保全の財源にするという論議に、強く反対していく姿勢を改めて示した。

 小枝会長は「タイ側は、自動車部品の関税がなくなるとタイ国内の日系自動車メーカーが部品を現地生産しないで、輸入部品を採用することを恐れているが、そんなことはない」と説明。

 「すでに自動車部品企業もタイに投資をしている。タイで生産できない電子部品は今でも輸入しているが、そうした部品コストが下がるので、タイの完成車の輸出競争力が向上する」と日本とタイの自動車産業が共存共栄できると強調した。

 小枝会長は4月11日に、日本自動車部品工業会の岡部弘会長とともにタイを訪問し、タクシン首相にFTAのメリットを説明しており、今回、FTAの早期実現に向け、直接の交渉相手のソムキット副首相にも日本の自動車業界としての考え方を示したことになる。

 道路特定財源の一般財源化については、「道路整備のために支払っている自動車重量税などを、他の目的に充当するのはユーザーの理解を得られない」として、自工会として国会議員などへの要望活動を積極化していく姿勢を改めて強調した。

http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/art-20050617214633-PXEXEOKILM.nwc

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■日伯FTAの可能性打診か=ルーラ大統領訪日=アジア通商外交は優先課題
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5月25日(水)

 【エスタード・デ・サンパウロ紙二十日】ブラジル人は、ルーラ大統領の訪日をどう見ているのか。伯字紙の論評では、世界第二の経済大国日本への期待は貿易と投資の拡大であって、大統領得意の地政学講義はないという。
 日本はブラジルが最も期待する投資計画のパートナーだったが、過去二十年間、日本の対伯投資は後退の一途をたどっている。しかし、通商面での日本の存在は大きい。
 日本は二〇〇四年、ブラジルから二七億七〇〇〇万ドル分のブラジル産品を輸入した。〇五年一月から四月までに、一〇億二〇〇〇万ドルを輸入した。アジアでは、中国に次ぐ重要な顧客である。中国は四月までに一六億三〇〇〇万ドル分を輸入した。
 ブラジルからの日本の輸入は原料と中間財に集中している。今回の訪日目的は、それを多種品目へ広げること。さらに反日デモのない親密な日伯関係から、リスク分散のために積極的な対伯投資を期待している。
 大統領一行は本音をいうなら、日墨通商協定並みの日伯自由貿易協定の可能性を打診するはずだ。北米自由貿易連合(NAFTA)をモデルにした日墨協定と同様の協定を日伯間に締結したいと考えている。それは画期的であるが、容易でないことも重々承知だ。
 恐らく日本側の南米に対する要求には、数々の難問がある。日墨間のサービス基準ではNAFTA基準を採り、世界貿易機関(WTO)基準を採らなかった。ブラジルはNAFTA基準の拒否ばかりでなく、メキシコが容認した砂糖や植物油、肉、繊維、靴などの輸出規制にも反対である。
 韓国はブラジルから一四億三〇〇〇万ドル分を輸入し、ブラジルとの門戸を開こうとする意志がわずかだが伺える。日伯間は通商面で大きな進展の余地はないようだ。これまでの経緯から、対伯投資は新しい分野への投資を説得する必要がある。
 対アジア経済パートナーシップは消極的で、ブラジル側の努力不足が痛感される。日本は対伯投資にやぶさかではないが、日本語に流暢なブラジル大使の派遣を要請しても、伯政府は全く耳を貸さない。
 ブラジルは中東諸国との接近よりも、日本を中心とするダイナミックなアジア通商外交を緊急課題として優先すべきだ。米国やカナダ、メキシコは、既に緊密な対アジア通商関係を結んで着々と発展している。
 PT外交特有のイデオロギーの押し売りは、幻想だからやめるべきだ。欧米流のほうが現実的といえそうだ。中国は繊維問題についてWTOでEUと争うらしい。中国の現実的経済政策と為替政策のお手並みも拝見させてもらおうではないか。

http://www.nikkeyshimbun.com.br/050525-32brasil.html

対アジア、日本が主導


RIETIファカルティフェロー
小寺 彰
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日本はメキシコとの自由貿易協定(FTA)の締結で合意し、次はアジア4カ国との交渉が焦点になる。各国ともFTAの経験に乏しく、交渉で大きな役割を担う日本は、東アジアの将来もにらんだ戦略を求められる。また農業は「直接支払い政策」に転換できるか正念場を迎える。

■メキシコはFTA先進国
メキシコとのFTA交渉が実質的に妥結した。昨年の10月を目指していたのだから、予定より5カ月遅れた。これで日本が締結したFTAは、対シンガポールと合わせて2つになり、現在交渉中のタイ、マレーシア、フィリピン、韓国とのFTA交渉にはずみがつくと期待が高まっている。
シンガポールとのFTAは、経済的な効果よりも、日本がFTAを結ぶということを内外に示す政治的な意味の方が大きかった。メキシコとのFTAは、農業問題でいったん交渉決裂さえ危惧されたように、関税の撤廃・引き下げや政府調達市場の開放などによって両国の市場を開く、正真正銘のFTAである。
一説では日本企業にとって年間4000億円の経済効果があると言われる。また日本のFTA政策のアキレス腱と言われてきた農業分野で、豚やオレンジについて実質的な譲歩を行った点も評価されよう。それでは、日本はこれを踏み台として一挙にタイなどとのFTA交渉を妥結できるだろうか。
メキシコとのFTAを評価するうえで忘れてはならないことは、すでにメキシコは米国をはじめ30余りの諸国・地域とFTAを結んでいる、「FTA先進国」だということである。今回の交渉では、日本が足元を見られた感があったが、メキシコが豊富なFTA締結経験を持っていることを考えれば当然だろう。
メキシコが多くの国とFTAを結んでいるために、FTAなしの日本企業は、米国や欧州連合(EU)などFTAを結んでいる国の企業と、対等に競争できない状態だった。メキシコでの日本企業の活動を考えると、FTAを結ぶ以外に選択肢はなかった。また、こういう状態ゆえにFTAのお手本が数多くあったことも事実である。メキシコとのFTAは、メキシコと強い経済的なきずなを結ぶためというより、諸外国と対等になるためのものだ。
メキシコとの協定は「経済連携協定」とよばれるが、焦点は、日本については農産品の、またメキシコについては、自動車や鉄鋼など鉱工業品の関税上の扱いだった。経済連携協定では幅広い経済上の関係構築を目指すとはいえ、その核心が関税の撤廃や引き下げなどの市場開放にあることもはっきり示された。

またFTA締結の障害と言われた、日本の農業分野に目を転じると、焦点となった豚肉やオレンジでは関税撤廃までは進まず、低率関税枠の設定で妥協にこぎ着けた。日本の農業政策を大きく変えることなく交渉妥結が可能になった。
タイなどの東南アジア3カ国は、メキシコとは違って、まだFTAを結んだことがない。韓国もようやくチリと初めてのFTAを締結した。東南アジア諸国連合(ASEAN)が域内に設定しているASEAN自由貿易地域(AFTA)は、ASEAN諸国が途上国のため、日本が結ぶような本格的なFTAではなく、関税貿易一般協定の決議(授権条項、途上国が許される保護特例)に基づく準FTAである。またASEAN諸国が現在、中国と交渉しているものも、同様に準FTAになる可能性が高い。準FTAなら関税を撤廃する必要はない。

■関係深化で反日感情も
タイなど3カ国や韓国にとっては、ちょうどメキシコが1994年に米国・カナダと北米自由貿易協定(NAFTA)を結成して、今日のFTA政策に大きく舵を切り始めた状況と似ている。当時のメキシコ国内では、NAFTA結成によって経済体制の自由化を進めることの是非、引いては米国の影響力増大への恐れが盛んに主張された。タイなども日本とFTAを結べば大きな影響を受けることが予想される。
つまり、メキシコとのFTAとは違い、日本がこれらの諸国とFTAを締結すれば、日本とこれら諸国との関係は格段に強まり(特別な関係の設定)、またその産業政策を大きく枠づける可能性がある(戦略的FTA)。特別な関係の設定は、ときに反日感情をあおる可能性をもつ。
韓国では、過去の経緯から、相当に強い反対論が出てくることを覚悟する必要がある。さらにマレーシアはFTAの目的を自由化とはとらえず、協力の重要性を説いていると伝えられる。メキシコとは、お互いに自由化要求をぶつけて妥協点を探るという、普通のFTA交渉が行われた。タイなどとも同じ態度で臨めるのだろうか。
マレーシアの言い方は、FTAによってマレーシアの自動車市場を開放させないぞというけん制であろうが、タイ、マレーシア、フィリピン3国は自国市場はあまり開放せず、日本市場だけの開放を求めているような気がしてならない。日本はこのような諸国にどう対応するのか。友好関係の増進の名のもとに日本からの自由化要求を自発的に抑えるのか。
日本とASEAN諸国の将来のあり方がかかわるだけに、メキシコとの交渉のように単純に経済的な利害だけに目を据えて交渉することはできない。これら諸国の将来の経済体制をどのような方向に向けていくのかという哲学・構想力が、日本の側に必要だ。
この点の扱いが難しいのは、FTAの独特の性格のためである。世界貿易機関(WTO)では、大国がある国から勝ち得た自由化は、その他の国にも等しく適用される。あとに米国の交渉が控えていると思えば、適当な線で妥結させて米国の交渉を見守り、そこで得られた果実をともに味わうことが可能だ(中国とのWTO加盟交渉は好例)。
FTAでは、特定国が得た条件が他国に適用される保証はない。日本が交渉を急ぐあまり不利なFTAを結び、その後に米国がその国と、日本より良い条件でFTAを結ぶと、日本製品・日本企業は、米国製品・米国企業より当該国で不利な扱いを受けることになる。
メキシコとのFTAでは、NAFTAがあるために、日本はそれを基準にしてNAFTA並を主張できた。しかし、タイなどとのFTAでは、そのような基準はなく、いわば日本が基準を作る役割を担う。タイなどとのFTAにおいて経済協力を強く打ち出しても、自由化の国際基準を設定できるのだろうか。難しい選択を迫られることになろう。

■農産品自由化要求は必至
またタイなどとの交渉では、幅広い農産品の自由化要求が日本に突きつけられよう。メキシコFTAにおける豚やオレンジのように、重要品目について低率関税枠の設定というびほう策では乗り切れまい(メキシコとのFTAでは日本の関税撤廃率が9割に達せず、WTO適合性が問題になる可能性がある)。生産性の低い日本の農産品について、関税による水際の保護が効果を失うことへの対応を考えなければならない。
欧米の農業保護は農家への直接支払いによる所得保障によって行われ、水際保護は補完的な役割を果たすにすぎない。このような体制ゆえに、米国やEUは、FTAを数多く結んで農産品の関税を原則撤廃しても農業を保護できる。
日本がFTAを多くの国と迅速に結んでいくためには、農家への直接支払いによる農業保護に転換する必要があることは、専門家の間では一致している。農家が直接政府から現金を受け取ることを、当の農家を含めて国民感情が許すか。また直接払いが望ましいという方向性が生まれたとして、緊縮財政のもとで財源をどう捻出するか。日本の農政は正念場を迎えよう。
メキシコとのFTAが妥結したからといって、すぐにタイなどと年内に合意する道筋が見えたとは言えない。ただし、メキシコの例を持ち出すまでもなく、FTAを結ぶごとに、その締結のノウハウが蓄積されることは間違いない。
実質のほとんどないシンガポールとの経済連携協定は、本当の意味でFTAを結んだとは言えなかった。メキシコとのFTAが、実質的には初めてのFTAである。将来を見渡せば、メキシコとのFTAによって、より戦略的な役割を持つFTA締結という、次のステージへの足がかりができたというのが適切な評価と言えようか。

2004年3月16日 日本経済新聞「経済教室」に掲載
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構想は地域大、行動は2国間 東アジア「FTA競争」の行方


RIETI上席研究員
宗像直子
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今月4日に、カンボジアのプノンペンで第8回東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、第6回ASEAN日中韓(ASEANプラス3)首脳会議、ASEANと日中韓各(ASEANプラス1)との首脳会議、日中韓首脳会議など東アジア首脳間の一連の会議が開催され、そこで、東アジア経済統合にかかわる進展が幾つかあった。
第1は、中国とASEANとの自由貿易協定(FTA)交渉の本格化だ。両者は昨年11月の首脳会議で、10年間でFTA交渉を完了させる旨合意していたが、今回はこれを一歩進め、交渉の枠組を定める中・ASEAN包括的経済協力枠組み協定が署名された。
第2は、日本とASEANとの包括的経済連携構想の進展だ。首脳の共同宣言によると、10年以内のできるだけ早期の連携措置(FTAを含む)の実施完了が目指され、高級実務者の委員会がその枠組みの案を来年の首脳会議に提出する。
第3は、東アジアFTA構想の認知だ。昨年11月の東アジアビジョングループ報告書の提案を検討していた東アジアスタディグループの報告もまとまり、東アジアFTAについて経済閣僚が検討することが正式に合意された。
第4に、日中韓首脳会議で、朱鎔基中国首相が日中韓FTAのフィージビリティースタディーを提案した。しかし小泉純一郎首相は中国とのFTAは中長期的課題と考えているとし、それ以上の進展はなかった。
他方、域外国の米国は、カンボジアでの一連の首脳会談に先立ち、10月26日にメキシコのロスカボスにおけるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際に開催された米ASEAN首脳会議で、ASEAN諸国とのFTA締結推進の意向と手順を示す「ASEAN行動計画(Enterprise for ASEAN Initiative)」を発表。アジア通貨危機前までFTA空白地帯であった北東アジアで、今や、各国とASEAN(ないしその加盟国)とのFTA締結が同時並行的に進められている。
また、12年前のマハティール・マレイシア首相の東アジア経済協議体(EAEC)構想に米国が強く反発した後、東アジア地域構想は一種のタブーだったが、通貨危機後にASEANプラス3首脳会議が開催され、今や東アジア・コミュニティが語られ、東アジアFTAが検討されるまでになった。
しかし、域内両大国である日中を直接結ぶFTAの議論は盛り上がらない。構想は地域大で語られるが、行動はあくまで二国間(ないしASEANプラス1)という状況だ。東アジアには、実態としての経済統合が進展し、求心力が高まる一方で、遠心力も根強いのだ。
その中で、北東アジアにおいて韓国とともに先陣を切ってFTAの検討を開始し、シンガポールとの協定締結も果たした日本は、ASEANをめぐる「FTA競争」において、中国の後塵を排し、さらには「高水準のFTA」を強調する米国の参入を受けて、存在感がない、という批判も強い。日本は、東アジアの経済統合において、どのような役割を果たすことができるのであろうか。まず、「FTA競争」の当事者たちの事情を概観する。

■自信深める中国
中国は、1989年創設のAPECに91年から遅れて参加、「アジア通貨基金」構想に反対するなど、97年ごろまでは地域協力に消極的だった。しかし、米中関係が緊張した99年夏ごろから、中国は「多極化戦略」の一環として近隣諸国との関係強化に力を入れ始めた。また、世界貿易機関(WTO)加盟交渉中の中国は、98年以降のアジア二国間FTAの活発化を苦々しく見ており、自ら参画する必要性を感じていた。そして、域内に根強い「中国脅威論」を払拭するうえで、中国市場への特別のアクセスを認めるFTAが有効だと認識するようになった。
こうして、中国は、WTO加盟の目途がつくや、2000年11月にASEANとのFTAの研究を提案した。早期の関税引き下げによる農産物輸入拡大の展望を示してASEAN諸国を説得し、翌2001年には10年以内の交渉完了合意にこぎつけるなど、急ピッチでASEANとのFTA交渉を準備してきた。
さらに、アジア諸国を束ねることによって欧米に対抗できる勢力となることを目指す中国は、東アジア全体の地域統合にも積極的だ。しかし、その足元は磐石ではない。
まず、中国はWTO加盟後、日が浅く、ルール実施のために、広い国土で抜本的な制度とその運用の変革が行われている最中だ。また、中国は、競争力の低い国有企業を抱え、日本に対しては直ちに製造業の関税撤廃をする用意がない。中・ASEANのFTA研究に携わった中国政府関係者は、「ASEANに対しては競争に勝つ自信があるからFTAを提案できたが、日本とはそうはいかない」と率直に述べている。
その日本が、大胆な貿易自由化に動けないことから、中国は、安心して日中韓FTAや東アジアFTAを呼びかけられるという状況にある。そして、中国には、日本が国内経済を再生し、農業保護から脱却できる日が仮に来たとしても、そのときには中国の競争力は今よりずっと強くなっている、という自信があるようだ。

■ASEANのジレンマ、米国の回帰
90年代半ばまで東アジアの地域協力に構想力を発揮してきたASEANは、通貨危機を契機にその求心力が低下。かねてよりASEAN域内経済統合の遅れに不満だったシンガポールは、ニュージーランド、そして日本とのFTA交渉を単独で行うようになった。シンガポールの単独行動は、他のASEAN諸国を刺激し、タイやフィリピンも域外国に二国間FTA締結を働き掛けるようになった。日・シンガポール経済連携協定の進展は中国も刺激した。
中国はASEANとのFTAに熱心になり、ASEANは中国の影響力とのバランス上、日本、インド、米国とのFTAにも期待している。シンガポールのジョージ・ヨー貿易産業相は、9月にブルネイで開催された日・ASEAN経済閣僚会議後の記者会見で、「中国とのFTAが10年でできるなら、日本とはもっと短くできる。」と述べ、日本の対応の加速を促している。
しかし皮肉なことに、ASEAN(各国あるいは全体)と域外国とのFTAが活発化する一方、ASEAN域内統合は必ずしも順調ではない。マレイシアの自動車やフィリピンの石油化学等の関税撤廃が困難である上、各国の基準の違いや非効率な税関手続きにより域内の取引コストがなお高い。このまま域外国とのFTAが進めば、ASEANは国家連合としての交渉力を失うおそれもある。
東アジア地域協力の枠組は、米国の対アジア政策関心の消長により、大きく左右されてきた。米国は、日本の経済パワーを懸念した80年代末から90年代初頭には、EAEC構想に猛反発し、APECの枠組を強化してアジアの貿易自由化推進の道具として活用しようとした。その半面、米国は、94年に北米自由貿易協定(NAFTA)を発効させ、米州自由貿易協定構想を打ち出し、APECメンバーに米州とそれ以外の非対称性を意識させた。
アジア通貨危機の際には、国際通貨基金(IMF)の伝統的緊縮政策が経済危機を深め、米国が中南米向けとは異なり二国間支援に消極的だったことが、アジア諸国の間にいわゆる「ワシントン・コンセンサス」に対する反発を生んだ。APECでは、米国は自らの関心事項である早期自主的分野別自由化(EVSL)に固執し、通貨危機への対応は議論されず、危機に翻弄される国々のAPECへの関心が決定的に低下。同時に、経済危機はアジア市場の魅力を減じ、米国の対アジア関心も退潮した。その中で、ASEANプラス3がEAECとは異なり、米国の大きな反対もないまま初の首脳会議を開催し、そして米国は中国のWTO加盟交渉に政策関心を集中した。
しかし、その中国WTO加盟交渉の妥結後、米国もまた、アジアの二国間FTAの進展にくさびを打とうとするようになった。2001年秋、クリントン政権の残りもあとわずかという時に突然合意した米シンガポールFTA交渉開始がその端緒だ。さらに、その後の中国の積極化を受けて、ASEAN行動計画が発表された。
「太平洋国家」米国には、東アジアへの関心を常時、域内各国と同等に維持するだけの政策資源を持たない半面、東アジアの経済統合が米国抜きのまま制度化していくことを牽制したい衝動がある。

■今後は競争的、重層的に展開
このように、中国とASEANは、中国のWTO適応、ASEAN域内統合といった課題を抱え、また、中国の影響力拡大に対するASEANの懸念もあり、どこまで内実の伴ったFTAができるかよく見極める必要がある。ただし、日本は、最速の進捗を想定して、対ASEAN政策を立案すべきだ。また、米国も、地政学的考慮から順次FTAを締結していくだろう。
東アジアには求心力と遠心力の双方が働いており、今後も一気に東アジア諸国を束ねた統合が進むのではなく、二国間FTA等がアジア域内外で同時並行的に締結されるだろう。そして、二国間、地域、グローバルの各レベルが相互に影響し合うという、競争的、重層的な協力のパターンが続くだろう。東アジア協力の単位としてはASEANプラス3の枠組みが定着しつつあるが、そのメンバーが拡大する可能性もあろうし、それが柔軟に拡大しなければ他のフォーラムが浮上する可能性もある。

■日本はわが道を走れ
既述のとおり、東アジア経済統合における日本の対応の遅さを批判する声は強い。日本はどうすべきか。
確かに日本は、長引く国内経済停滞に加え、保護主義的勢力の抵抗によって大胆な貿易自由化に動けずにいる。しかし、よく見ると、日本は、一歩一歩着実にFTA交渉を進めている。まず、農産品の輸出が殆どないシンガポールから始め、次に、農産品が対日輸出の2割を占める一方、NAFTAやEUとのFTAにより日本の輸出が受ける関税差別が大きく、FTAの利益が明確なメキシコと交渉を開始し、その次には経済発展段階が高く地政学的利益の明確な韓国との交渉開始を目指す、というように、相手国を慎重に選んで、成功の確率を高める工夫をしている。
比較的実現可能性の高い改革の成功体験は、より困難な改革への道を開く。日本は、着実な取り組みを重ね、アジア経済統合に向けた議論を成熟させていく必要がある。「FTA競争」に不用意に参画し、着実な努力をくじくことは賢明でない。そして、交渉の決断をしたFTAの1つ1つにおいて、相手国を特定した集中的検討により、将来他国にも採用されるような優れたルールを作ることに努力を傾注すべきだ。それは、今直ちにアジアの多数の国々と一挙にFTA交渉に入れない日本が、少しでも将来の交渉力を高めるうえでも重要だ。
また、そもそも、FTAは自己目的化されるべきでなく、あくまで手段だ。発展段階の低い国には、当面は、自由化を迫るFTAより、特恵関税と開発援助の組み合わせの方が発展の近道かもしれない。競うべきはFTAの締結速度ではなく、相手国との経済関係を緊密にし、政治資源も蓄積するうえで、効果的な政策(FTAに限らず)の中身だ。日本は中国と同じ次元の競争をしているわけではない。ただ、FTAという形はとらなくても、域内先進国たる日本の、非効率セクターも含めた市場開放が求められることに変わりない。
そして、日本もゆっくりしてはいられない。それは、中国との「FTA競争」を強調し日本を促すASEANの期待への配慮もさることながら、中国をはじめとするアジア諸国経済が発展し、日本との競合分野が増えていく中で、日本自身が経済構造を高度化し、活力を取り戻すために残された時間があまりないからだ。
他方、日本の急務は国内経済の建て直しであって、FTAなどにうつつを抜かしている場合ではない、という議論もある。確かに、日本経済が強くなければ、対外交渉力も保護主義を克服する力も弱まる。しかし、人口が高齢化し、内需の高成長を期待できない日本の将来は、発展するアジアの新たな機会をいかに享受できるかに左右される。日本は、競争力ある日本企業が活動しやすいよう海外の事業環境の改善を求めると同時に、非効率セクターに競争を導入して生産性を高め、海外の人材や資本を惹きつける魅力ある事業環境を作り出し、国内のイノベーションを活発にしなければならない。アジアとの経済統合は、日本の経済構造改革の一環であり、金融セクターやマクロ経済の対策と同時に進めていかなければならない。
なお、中国とのFTAについては、農業等の自由化困難のためできないとの議論があるが、WTO上もある程度の除外は許容されており、交渉で解決可能だ。むしろ、両国国民が経済・政治関係強化を歓迎する機運が高まるような環境づくりこそが必要だ。日本がアジア諸国との経済連携に取り組む過程で、早期に改革への政治的機運が高まり、アジアの繁栄と安定に対し、より整合的な役割を果たすことができるように変わっていくことを期待したい。

2002年11月29日発行 『時事トップ・コンフィデンシャル』に掲載
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対アジアFTA
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