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66年大会ベスト8『奇蹟のイレブン』は厚遇
W杯予選 北朝鮮負けられないワケ
サッカー・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の日本−北朝鮮戦は今夜、タイで行われる。日本は、勝つか引き分けで本大会出場を世界で最初に決める。一方、四連敗中の北朝鮮も勝たなくては本大会への夢は断たれる。しかも「宿敵」日本に二敗すれば、メンツも丸つぶれだ。それでもボイコットをせず、国際大会出場にはこだわりがみえる。北朝鮮にも負けられないワケがあるようだ。
「不当な決定によって有利になった日本チーム」
三日付朝鮮中央通信は、こんな見出しを掲げた北朝鮮体育指導委員会(体育省)の機関紙「体育新聞」の記事を引用、配信した。
記事は三月末に平壌で行われた北朝鮮−イラン戦で、観客がピッチに物を投げ入れるなどしたことに対し、国際サッカー連盟(FIFA)が第三国での無観客試合とする処分を下したことをあらためて批判。さらにユン・ジョンス監督の「これまでの成績(四戦全敗)を受けてやる気が下がることはない。(日本戦では)選手たちは発奮し人民の期待に応えるだろう」との必勝決意を伝えている。
メンツにこだわるお国柄ゆえ、FIFAの処分が出た当初、これを不服とする北朝鮮は対日戦をボイコットするのではとの観測も流れた。不満を表明しながらも結果的に受け入れた背景には、国際舞台に懸ける北朝鮮の並々ならぬ意欲があるようだ。
「北朝鮮にとってスポーツは国威発揚の手段であると同時に、選手を外国に進出させることで多額の外貨を稼ぐ手段でもある。国際試合をボイコットすれば、世界にPRするチャンスを自ら捨ててしまうことになる」とコリア・レポートの辺真一編集長は話す。
■外貨獲得
「北朝鮮は、選手を国外リーグに出すことで、開かれた国とのイメージをつくろうとしている。そのためには、国外でも活躍できる選手だと実力を認められなければ話にならない」。サッカージャーナリスト大住良之氏も、国際大会出場にこだわる理由をこう指摘する。
これまで北朝鮮は中近東やロシアなどに労働者を輸出し、伐採作業やウエーターなど単純労働に従事させて外貨を稼いできた。しかしこうしたこまごましたやり方に比べるとスポーツによって手にする金額はけた違いだ。ここに目をつけたのが金正日総書記だ。
「国際試合に出場すれば、外国のプロチームのスカウトからも注目され、移籍するチャンスも生まれる。北朝鮮のサッカー選手はステートアマであり、契約金や年俸のかなりの部分を国家がピンハネして外貨を稼ぐことができる」(辺氏)
もし今回、日本戦をボイコットすればFIFAからW杯予選以外の国際試合も一定期間、出場停止になる恐れもある。背に腹は代えられないというわけだ。
■女子は日本より上の世界8位
北朝鮮サッカーの実力はどうか。一九九〇年代に国際舞台から一時姿を消したため、FIFAランキングは百位台に落ちたものの、最新の順位は八十八位(日本は十七位)まで上がった。既にスウェーデン女子一部リーグで二選手が活躍する女子のランキングは八位で、日本の十二位を上回っている。
朝鮮系選手は、スピードと持久力を兼ね備えるのが特長とされる。韓国勢ながら、オランダ一部リーグの強豪PSVアイントホーフェンの韓国人コンビ、朴智星(パクチソン)と李栄杓(イヨンピョ)両選手は今年、最高峰の欧州チャンピオンズリーグ準決勝で先発し、目の肥えた欧州ファンの前で大活躍した。
北朝鮮代表の実力をサッカージャーナリスト後藤健生氏は「北朝鮮には、Jリーグで活躍できる選手はいる。今の日本代表に入るまでの水準ではないかもしれないが、北朝鮮の女子選手に続いて男子の選手も国外リーグに移る可能性はある。政治的な判断になるだろう」とみる。
最終予選で目立った選手として、大住氏は「背番号15のMFキム・ヨンジュン選手。中盤で長短織り交ぜたパスを出してチームの攻撃を展開する力がある。(在日コリアンで北朝鮮代表に選ばれた)Jリーグ名古屋のMF安英学(アンヨンハッ)選手も実力が伝わってきた」と例に挙げた。
今回初めて、在日Jリーガーが北朝鮮代表に入ったことが、Jリーグとのパイプとなり、北朝鮮の選手輸出の布石となる可能性も出てきた。
■生活防衛
選手にしても負けられない理由がある。
北朝鮮は六六年W杯イングランド大会でベスト8入りした。その時のメンバーたちは「奇蹟(きせき)のイレブン」として英雄だ。後藤氏は「『奇蹟のイレブン』は今も語り継がれ、若い選手の誇りになっている」と話す。平壌市内に朝鮮労働党幹部クラスの住宅を与えられ厚遇されているという。
もし今回敗北し、日本から一勝も挙げられなかった場合は、これとは正反対に「待遇が悪くなり、生活水準が落ちるだろう」と早稲田大学の重村智計教授(朝鮮半島情勢)は指摘する。具体的には「配給食料が減ったり、住宅のランクが落とされる可能性がある。さらに監督更迭、代表選手の入れ替えが行われ、平壌から地方に追いやられることも考えられる」。
後藤氏は「歴史的にみて朝鮮半島のサッカーは『日本に勝てる』ことが大事で、日本に勝てるスポーツがサッカーだった。W杯出場を逃しても、日本に勝てば国内では許されるだろう。だから負けられない」というが、「ただし、今は日本が明らかに戦力が上だ。北朝鮮代表は、明らかに経験不足で、平壌でのイラン戦で審判の判定をめぐって騒ぎを起こしてしまうのも、アジアの審判はレベルが低いことに対処できなかった経験不足からだ」と説明する。
負けて冷遇される事態を避けるために「監督たちは負けたときの言い訳を考えるのが常だ」と重村教授はいう。ただ「将軍さま」をも納得させる言い訳をするのは容易ではない。イラン戦で観客たちが起こした騒ぎがそうで、「『負けたのは審判のせいだ』という言い訳にしたかったが、騒ぎが大きくなりすぎて言い訳にならなくなってしまった」とみる。
二月に埼玉スタジアムで行われた日本戦では、北朝鮮代表は宿舎を出発するのが遅れた。警察の先導で失格直前に会場入りしたが、「試合で負ければ言い訳ができないが、『日本の警察の妨害のせいで失格になった』ということなら言い訳が立った」(重村氏)。
北朝鮮は日本に勝てばグループ三位になる可能性を残し、プレーオフで本大会出場権を争うことになる。しかも日本に負けると選手自身の生活にも影響があるとすれば、勝利への執着は日本以上かもしれない。
タイ・バンコク入りした北朝鮮代表は、準備運動を除いて練習を非公開で進めている。最終予選前に「謎」といわれた同代表のチーム力は、これまで四連敗、勝ち点なしの現状から徐々に見えてきたが、大住氏はこうくぎを刺す。「北朝鮮はW杯出場の希望をまだ捨てていない。日本戦も集中して真剣に勝ちにくるだろうから、日本にとって簡単な試合にはならない」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050608/mng_____tokuho__000.shtml