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『旧日本兵』報道を検証
伝聞情報 『振り回された』
フィリピンのミンダナオ島ジェネラルサントス付近に、旧日本兵二人が生存しているとの情報の確認作業を進めていたマニラの日本大使館は先月三十日、二人との面会が実現せず、あらためて仲介者の連絡を待つことになった。口コミで伝わる「残留旧日本兵」の情報。今回、記者ら多数を現地に派遣、報道した事情について各紙に聞いた。
「フィリピンにいると現地の人や日本人から『旧日本兵が生存している』といった話を何度か聞かされたことがあるはず。可能性はあるが、雲をつかむような伝聞ばかり。そうした情報の裏取りは難しい」
一九八〇年代からフィリピン取材を行ってきた元マニラ特派員はこう話す。
だが、今回は様子が違った。各紙が旧日本兵に関する記事を掲載した先月二十七日、町村信孝外相は「前から情報が寄せられたりしているが、確認するすべがなかった。今回は確認できそうだということなので大使館員が行くわけだ」と語った。「二人をジェネラルサントスに連れて来る」と話す日本人仲介者がいた。
旧日本兵の生存情報はこれまでもあったが、今回、報道することにした根拠について、東京新聞の安藤徹外報部長は「早い段階から慎重に情報収集を進めていた」として、「何も根拠のない情報で大使館が動くことはあるまい、との判断はあった」と、大使館員の派遣が一つの契機と話す。本紙は特派員二人、派遣記者二人、写真部記者一人の計五人が現地入りした。
朝日新聞広報部も「大使館員の派遣が一つのきっかけになった」とし「大使館員派遣の方針を知った(先月)二十六日夜には、もし小野田(寛郎)さんのようなケースになれば大きな紙面展開が予想されると思った」と言う。「しかし、取材を進めるにつれ、慎重な扱いが求められると考え、紙面も『旧日本兵生存情報』の流れを見極める方向で組み立てた」とも。同社は特派員三人と、派遣記者二人、カメラマン二人の計七人で取材にあたった。
読売新聞東京本社広報部は「過去の元日本兵に関する情報に比べ、今回は元日本兵の氏名など情報が具体的だったうえ、日本の外務省が現地に在比大使館員を派遣するなど政府も積極的に動きだしたことなどから、当社も現地に取材陣を送った」と話す。同社は十人前後の取材陣を送った。
産経新聞東京本社広報部は「部隊名、個人名、地名など、内容がきわめて具体的で、しかも、それらが複数の国内関係者の話と一致した。大使館員が現地に派遣する動きも補強材料になった」と説明した。現地に派遣されたのはカメラマン含め三人だった。
「旧日本兵」のニュース価値について、本紙の安藤部長は(1)戦後六十年にあたる(2)事実なら、横井庄一さん、小野田さんに匹敵する話題になり得る(3)現地大使館が確認に動いていた−との三点を挙げて、「事実であった場合に備え取材を続けた」と説明した。
産経新聞は「小野田氏、横井氏のケースとは事情が異なるにしても、戦後六十年の節目に、確度の高い『旧日本兵生存情報』のニュース価値は高いと判断した」とした。
こうして現地に約百人の日本メディアの記者らがつめかけた。だが、面会は実現せず、「ヤマカワ」「ナカウチ」という二人に直接会った人は、仲介者を含めいないことが明らかに。旧日本兵が漢字で名前を書いたとされるメモについても、日本大使館員は「何ですか、それは」と苦笑しており、二人の生存を示すとして報じられた物証は確認されていない。
各社の報道内容は錯綜(さくそう)していく。これに関し、安藤部長は「いち早く仲介者と電話で接触したが、話の内容に金銭要求がからんだほか、信じるに足る確たる事実に乏しいことから、信ぴょう性に疑問があると判断、終始疑問を投げかけつつ慎重に報道を続けた」と説明。「一般論だが、今回のような場合、各社とも、取材した素材をなんとか生かしたいとするもう一つのメディア側の心理が影響したとも考えられるのではないか」とした。
朝日新聞は「情報提供者の発言の信頼性には疑問があったが、その確認に手間取った」とする。産経新聞は「仲介者に限らず、国内関係者を含め、思い込み、記憶違いなどが少なからずあったことが、情報が錯綜した一因」との見方だ。
結局、仲介者は報道陣殺到をあげ、大使館員に「日をあらためて静かなところで面会をセットできるようになった段階で、大使館に連絡する」とし、確認作業は、結論が出ないまま三十日、中断される。
マスコミの取材態勢に問題はなかったか。
安藤部長は「今回のメディアの殺到は問題なしとはしないが、一方で、取材規制が前提とされるケースとも思われない」と話す。
朝日新聞は「情報提供者が言うような意味では問題はなかった」と言う。産経新聞は「仲介者とゲリラ側との交渉がうまくいかなかった原因の一つに、マスコミの取材攻勢があったことは否定できない」とした。
政府は、仲介者からの連絡を待つ姿勢だが、一時的にせよ、大使館員が引き揚げる結果となった。
伝聞情報に振り回されたとの認識について、安藤部長は「結果としてなかったとは言えない」。朝日新聞は「情報提供者の情報が伝聞であり、物証がないことが判明した時点で、振り回されたと思った」と話す。
産経新聞も「結果的に、そうした側面はなかったとはいえません」としながらも「生存情報そのものについては否定されたわけではなく、今後も取材を継続していきます」と話す。
読売新聞は「大使館員は引き揚げたが、情報の真偽は三十一日現在も不明のまま。このため引き続き取材を続け、新しい事実が確認できれば紙面で報道していく」としている。
なお、毎日新聞社長室広報担当は今回の本紙の取材に対し、「当社としても、事態の推移を見ながら検証取材を進めているところなので、回答は控えさせていただきます」とのコメントを寄せた。NHK広報局は「現時点では、事実関係が確定しておらず、また取材内容には、取材や放送のノウハウに関する事柄が含まれているので、具体的な回答は差し控えたい。NHKとしては、そのつど、情報を確認しながら、適切な報道を行ったと考えています」と回答した。
◇ ◇
ジェネラルサントスからは先月三十一日、大使館員が引き揚げると同時に、メディア記者らもほとんどが去った。今回、メディアが現地に殺到したことについて、ジャーナリストの嶌信彦氏は「六十年間も山中に隠れていた旧日本兵が生存していた、と聞かされたら、私でも取材に行っただろうし、行かない方がむしろおかしい」と、ある程度やむを得ないとの見方を示し、「日本政府のセッティングのあり方に多くの課題を残した」と指摘している。
旧日本兵の情報を各紙が報じた同二十七日、町村外相が会見で「今回は確認できそうだということなので大使館員が行くわけだ」と言及したことに関し、嶌氏は「政府がこう言えば、メディアは知った以上、現地に行かざるを得ない。最初のボタンの掛け違いがあった。静かな環境で迎えるという意味で、当然、生存の可能性がある旧日本兵について配慮があってしかるべきだ」と話した。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050601/mng_____tokuho__000.shtml