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中国・韓国の危機意識に無自覚な日本
対米追随にアジアの不信感がつのる
愛知大学教授 加々美光行さんに聞く
http://www.bund.org/interview/20050605-1.htm
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かがみ・みつゆき
1944年大阪生まれ。愛知大学現代中国学部教授。現代中国政治専攻。著書に『現代中国の黎明 天安門事件と新しい知性の台頭』『市場経済化する中国』『アジアと出会うこと』など。
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ブッシュ政権に対する危機感
―日中関係は急速に冷え込んでいますが、大きく言って何が問題となっているのでしょうか。
★結論から言うと日本の対米追随の姿勢が問題なのです。中国の対日政策と対台湾、対北朝鮮、対米政策は深く連関しています。特にアメリカのブッシュ政権が2期目を迎えたことが、中国の対日政策に大きく影響しています。
中国の外交原則は1975年以来一貫してアメリカとことを構えないことでした。第1期ブッシュ政権に対しても、非常に強い警戒感を持ちながら対米融和策をとっていました。パウエル国務長官を始め政権内にある良心的な部分に期待していたからです。しかし2002年9月の米国家安全保障戦略報告で先制攻撃論が現れ、2003年3月イラク戦争が勃発した時点でブッシュ政権に対する警戒感が急速に強くなります。
さらにブッシュ政権が2期目にはいって、パウエルが退任し、代わってライスが国務長官に就任するなどネオコンの力が強くなったことで決定的になりました。ブッシュ政権が台湾海峡問題と朝鮮半島問題に対して、いつ強攻策に出てくるか分からない状態となったからです。
このようなブッシュ政権にひたすら付いていく日本を、中国は非常に懸念しています。日本政府はイラク戦争も容認し、対米一辺倒の姿勢を続け、しかも日米同盟を強化するために集団的自衛権の容認にまで踏み込もうとしています。
今自衛隊は専守防衛という一線がまだ残っていますから、領海を越えて合法的に戦闘行動に参加することはできません。イラク派遣にしても「後方支援である」という建前が残っている。でも集団的自衛権が認められれば、領海を越えて戦闘行動がとれるようになってきます。
台湾海峡にいったんことが起きた時、米軍第7艦隊の艦船が日本海、南シナ海から殺到します。その時日本が集団的自衛権を行使すればどうなるか。日本列島は、かつて中曽根がいったようにアメリカの前線基地として不沈空母になるわけです。日本が持っているF15戦闘機も空中給油機を随伴し、日本の領海を越えて戦闘に参加できるようになります。
対米追随の日本が集団的自衛権を行使することで、東アジア全域で日米合同の軍事行動がフリーハンドをもつことにもなります。このような事態は、アジアにとって非常な脅威です。
このような中国の危機意識に対して日本は全く無自覚です。日本では「日本がオリンピックをボイコットすれば、中国にとっては強い圧力になる」という議論も聞かれます。しかしそのような日本の見方自身が逆に中国に強い警戒感を起こさせることにもなっているのです。
中国は北京オリンピック・上海万博があるから強硬な姿勢に出ないだろうと見られることを危惧しています。中国が強気に出ず何の手もうたないで受け身で応じているならば、ブッシュ政権の極東政策、対中国政策は、中国にとって極めて危険なものとなると考えているのです。中国はアメリカの出方しだいでは、オリンピックや万博を捨てても妥協しないところは妥協しないという姿勢を打ち出す可能性もあります。
北朝鮮問題で米に従属する日本
★日本の集団的自衛権拡大の理由の一つとなっているのが、北朝鮮のミサイル問題です。今日本は集団的自衛権がないために、仮に北朝鮮がミサイルを公海上の日本海までとばしたとしても、領海を超えたところへ邀撃ミサイルを撃つことができません。
北朝鮮はアメリカへの挑発としてミサイルを発射しているのですが、当然日本に対する挑発にもなります。日本への挑発を繰り返すことになって日本の世論が集団的自衛権への道を歩んでゆく。9条を守るか守らないかにかかわらず、集団的自衛権による軍事行動が可能となる法的措置をとる可能性も出てきます。
もともと自衛隊のイラク派兵も、北朝鮮の脅威ということが前提となっていました。北朝鮮が日本に対して攻撃をしかけた時に、アメリカは守ってくれるはずだという議論です。日本は常に北朝鮮の「脅威」を持ち出して、日米同盟の拡大化を進めようとしているのです。
北朝鮮の挑発はますます日本をアメリカ寄りにさせ、さらには日本が自衛隊を国防軍に変えていく方向に道を開くことになります。このため中国は北朝鮮がアメリカを挑発するやり方を非常に懸念しています。
日本の対米追随姿勢に対しては韓国も警戒しています。北朝鮮問題でブッシュが強攻策に出た場合、日米が一緒になって北朝鮮を攻撃することになるからです。しかし韓国は日米とともに北朝鮮を攻撃する気は全くありません。
同胞相打つ第2の朝鮮戦争を迫られるぐらいだったら、金正日を臨時大統領にしてでも南北統一をはかろうと考える人もいると聞きます。アメリカは非常に強力だから韓国の人も本音はなかなか言いません。しかし韓国政府に近いブレーンの人には、日米と一緒になって北朝鮮と戦うなんて馬鹿なことは金輪際絶対やらないと決意している人がいるのです。
日本では拉致事件があったことで、誰も北朝鮮に対する冷静な見方を表明し難くなっています。「金正日は異常な独裁者だ、何をするか分からない」と言うのみで、対米無条件追随の姿勢から脱却できない限りは、危機を突破する出口は見いだせず、朝鮮半島情勢を危機に陥れていくことになります。
韓国にはアメリカと一緒になって北朝鮮制裁を言い続ける日本への警戒感・不信感が強くあります。4月に起きた今回の反日運動は竹島問題が火付けとなったのですが、実はいつ枯れ木に火が付いてもおかしくない状態になっていたのです。
靖国参拝問題は最悪の選択
―この間の反日運動を見ていると、日本の政府と国民が同じように批判されているように思えます。
★日本人は外からどのように見られているか、自分自身の姿が全然見えなくなってきているのです。実際には中国や韓国の国民の目には、日本政府と日本国民はますます一体化して見え、区別しようにもできなくなって来ています。
一昨年秋から昨年にかけてイラク戦争発動の口実ともなった「大量殺戮兵器」の存在が、米イラク調査団の報告によって否定された時には、世界各国で数十万規模の反戦デモが起こりました。日本でも小規模の反戦デモはありましたが世界で報じられるような大規模のデモはついに起きませんでした。日本人は外から見ると、国家だけでなく国民も一緒に国をあげてイラク戦争を容認し、対米無条件追随で集団的自衛権の容認に向かっていると思われているのです。小泉首相の靖国参拝問題も同じです。
故周恩来首相は対日戦争賠償請求の放棄に際し、日本政府指導者と日本国民を分けて論じていました。日中戦争においても日本国民は被害者であったという区別論が働いていたのです。靖国に祀られているA級戦犯と、赤紙一枚で徴兵され戦死を遂げた兵士とを同じには扱えないという論法だったのです。
この論法は現実には戦後、1970年代初期まで日本国内に間断なく生じた安保闘争を初めとする一連の国民運動のうねりを高く評価するところから現れたものでした。つまり岸内閣、佐藤内閣を典型として日本政府指導者は常に日本国家の軍事強化を目指すような信用のできない行動をとることがあるが、日本国民は常に平和を愛し、日本国家の軍事化を許さない信頼に足る勢力であると、周恩来たちは考えたのです。ですから対日戦争賠償請求の放棄は中国人民から日本人民に対する友誼の証として、大切な贈り物であると語ったのです。
日本国民は本来平和を希求し、戦争に反対する感情を持っている。けれども首に鎖をかけられて奴隷のように日中戦争の戦線に引きずり出された。だから戦争責任に関しても、日本政府の戦争指導者と一般の日本国民は分けて考えなければいけないとしたのです。
ところが小泉首相は靖国参拝で合祀されているA級戦犯をも参拝してしまう。それはA級戦犯と一般の兵士とを区別しないものだと言うわけです。今日の日本政府とりわけ小泉首相の態度は、どう考えても日中国交回復時の田中角栄政権との合意をくつがえすものと判断するのです。
しかも対米無条件追随を続ける小泉内閣に対し国民的規模での異議申し立てが起きていない事実が、小泉首相の靖国参拝と二重写しになっています。中国からみれば日本国民は小泉内閣を支持し、戦争にも反対していないと映るのです。
今後の最大の懸念は、小泉首相がもう一度靖国参拝を行うことです。この点に関する小泉首相の選択肢には次の3つが考えられます。第1に参拝しないという声明は出さないが、実際上参拝を取りやめるという選択です。第2の選択は声明を出して参拝をしないことです。最悪の選択は参拝を実施することですが、第2の選択を小泉首相がとれば日中・日韓の矛盾はそうとう緩和するのは間違いありません。
日本の中には、小泉首相が靖国参拝しなくなれば中国側の要求はさらにエスカレートすると主張する人がいます。小泉首相が一歩譲ると、中国は教科書問題や歴史認識の問題でもっと細かいことを次々に要求してきて際限がなくなるというのです。しかし、このような認識は非常に馬鹿げています。
中国が靖国参拝に反対しているのは、戦争賠償請求を放棄したのはあくまでも日本国民に対してなのだという論理を崩したくないからです。このポイントが日中関係全体の流れに大きな影響を持っていることを忘れるべきではありません。
靖国参拝問題は、中国にとって日本がはたして信頼に足る国家・国民となるのかという文字通り一線を画する問題です。他の教科書などのささいな問題と全く違うということを小泉首相はむろんのこと日本の世論はもっと自覚する必要があります。
対日新思考からの転換
―中国はかつては対日新思考という姿勢をとっていましたが。
★このまま日本が対米無条件追随を続けていくと、台湾海峡をめぐって日中間の紛争を強いられていく可能性が高まります。そうした危機感が中国に強くあります。だから中国は何とかして日本をアメリカから一定程度切り離したいと考えている。
別に日本がアメリカに代わって中国と同盟を結んで欲しいということを求めているわけではない。中国は、無条件追随とみられる日本の在り方を何とか方向転換するよう促したいと思っているわけです。日本に対して2002年から2004年にかけて対日新思考を提案したのも日本の方向転換を促すためです。
対日新思考というのは戦略的に日中の友好をもっと固めようという主張です。人民日報評論員の馬立誠に至ってはもう歴史認識も教科書問題も言わないから、日中間で強い絆を作ろうと主張しました。馬立誠ほど無条件の日中友好は言わなかったけれど、中国人民大学の時殷弘も対日新思考を言った。
ところが日本はイラク戦争も含めて、対米追随を決してやめようとしなかった。しかも対米追随の度合いがどんどん高まるばかりであって、中国側に顔を向けるための具体的な提言は全く現れなかった。
イラク戦争に関していえば、戦争の根拠となった大量破壊兵器が発見されなかったと最終調査報告で出されたにも関わらず、日本は何一つアメリカに言わなかった。大量殺戮兵器の存在を根拠に先制攻撃でイラク戦争を発動したアメリカの行為に対し、世界各国の多くの首脳が「遺憾の意」を表明したのに対して、何のクレームもつけずにブッシュ政権を支持したのはブレア英首相と小泉首相だけでした。むしろ小泉首相はブッシュ以上にイラク戦争の根拠について正当性を主張し、戦争擁護論を強弁したのです。
当初胡錦涛、温家宝は馬立誠や時殷弘の意見を取り入れ、対日新思考の方向で日本政府に影響を与えようとしていました。しかし中国側がそうしたソフトなシグナル、サインを送ろうとしたにも関わらず、日本政府と小泉首相はこれを歓迎するとのリップサービスのみで、具体的には何の対応もしなかったのです。
日本に対し柔和の手をさしのべた馬立誠や時殷弘に対して、日本の新聞、雑誌、また中国問題専門家を含めて「うい奴だ、うい奴だ」と言って褒め称えました。しかしいくら「うい奴だ」と褒められても対米、対中を軸とした安全保障上の観点で日本が前進してくれなければ、中国にとっては対価がないことになります。しかも日本人の中で「うい奴だ」と言っているのが、中国から見ると右翼的な人々に見えるのです。
結果として、中国国内では馬立誠や時殷弘の議論は日本の右翼を助けただけと見られた。その結果、馬立誠、時殷弘は売国奴ということで一日で数千通ものメールによる脅迫を受けたと言われています。僕は時殷弘さんと親しいので分かるのですが、その後彼らは一時的に完璧に中国政府への諮問の影響力を失い、政府部内から排除されたのです。
馬立誠や時殷弘が主張した対日新思考の意図を日本人は全然理解せず、彼らが中国国内でどんなに攻撃されたかも知らない。日本国民も日本政府も彼らに対し非常にむごい仕打ちをしたわけです。
反日運動は日本へのメッセージ
―中国で起きた反日デモに対し色々な分析がされています。
★中国で起きた反日運動に対し、あれは中国政府のやらせだと言う人がいます。政府や社会に対する中国民衆の不満が、最終的に共産党支配をくつがえす脅威となることを恐れ、ナショナリズムの方向に民衆のエネルギーをそらそうと反日運動を扇動したというのです。しかしこうした扇動説は本当に中国の実状に無知な馬鹿げた話です。
かつて1989年の天安門事件では大量の労働者、出稼ぎ農民が学生のデモ隊に加わり、一気に100万を超える規模のデモ隊となりました。そうなれば中国政府にとっては政権の危機となります。だからケ小平はデモ隊を動乱と決めつけて、武力を行使してでも鎮圧を行ったわけです。
反日であろうと何であろうと、失業労働者や困窮化している出稼ぎ農民達に政治的エネルギーを与えるのは中国の政治権力にとってはとんでもなく危険な選択肢なのです。そんなことをすれば本当に収拾のつかない政権危機を招来し、文字通り虐殺でもしなければ抑えきれない大事件に発展してしまいます。
今回の反日運動を中国政府が大目にみていたのは、あくまで相対的に裕福な階層の学生と一部の市民が行ったデモだからです。中国政府にしてみればせいぜい10万にも及ばない、万規模のデモですから抑え込むことも難しくはない。
中国政府が反日運動を扇動したのではないことは明らかです。ただ中国政府には、自然発生的に起きてきた中国社会の反日運動を日本政府と日本国民に対する強いメッセージとして出そうという意図があったのだと思います。
と言うのは過去これまで中国政府の公式の発言、たとえば胡錦涛や温家宝自身の発言や外交部スポークスマンの発言によって、小泉首相の靖国参拝について何度これを批判しても、まったく暖簾に腕押しでその効果はゼロだったからです。このままでは日中関係の改善は全く見通しが立たず、しかも2期目に入ってネオコン化への傾斜を強めたブッシュ政権の極東政策がいつ強硬なものに変化するかわからない情勢です。中国政府は対日新思考のようなソフトなメッセージでは何らの効力も持たないと判断した。とすれば政府公式の発言ではない、しかもソフトなものにかわる強烈なメッセージ、場合によっては毒をも含むメッセージを日本に送る必要があったのです。その毒はむろん中国政府自身にもふりかかる可能性があるけれども外に選択肢はなかったということです。それが中国の国民レベルの声を日本政府と日本国民に聞かせるということだったと僕は判断しています。
中国の政府も国民も、「もう日本国民も日本政府も信頼しなくなってきているのだぞ」というメッセージを、反日運動を利用して日本に送ろうとしたのではないかと思います。
イラク戦争の時に小泉が対米追随の姿勢であったとしても、日本国民が10万人規模の反戦デモをやっていたら今回の中国の反日デモは全く違う形になっていたはずです。日本政府だけではなく、日本国民までもが対米追随の小泉内閣と同じだと見られている。このことが大きな問題だと思います。私たちの課題は何よりも日中両国民間の信頼を取り戻すこと、他に解決の道はないと思います。
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(2005年6月5日発行 『SENKI』 1180号4面から)
http://www.bund.org/interview/20050605-1.htm