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中国全土で吹き荒れる反日の嵐
日中関係埋まらぬ溝
反日=愛国教育のせい、その分析に問題がある
北海道大学大学院教授 高井潔司さんに聞く
http://www.bund.org/interview/20050505-1.htm
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たかい・きよし
1948年生まれ。東京外語大学卒業後、読売新聞社に入社。テヘラン特派員、上海特派員、北京支局長、論説委員を歴任。99年北海道大学に就任。現在、北海道大学大学院国際広報メディア研究科教授。主な著書は『中国報道の読み方』『21世紀中国の読み方』『甦る自由都市上海』『「対日新思考」論議の批判的検討』など
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現在、中国国内では反日デモが頻発している。北京・上海などの大都市から始まったデモは地方都市にも飛び火し、収拾のつかない有様だ。反日感情の背景には何があるのか。日中間の事情に詳しい北海道大学大学院教授の高井潔司さんに聞いた
反日デモは思考停止のあらわれ
――中国における若者達の反日行動の背景にあるものはなんでしょうか。
★日本の報道では、中国の反日教育が問題だというような指摘がよくあります。しかし背景には歴史認識の問題とか、領土の問題、エネルギーの問題、開発の問題といった複合的な要素が絡み合っています。
中国側の要因としては、第1に中国のメディアがこの10年間でものすごく変わってきたことがあげられます。かつては政府がメディアをすべて管理していた。「人民日報」だけではなく、紙の類のメディアやテレビを使いながら世論の操作ができました。
しかし今は、商業主義が急速に発展してきて、ともかく読者の感情をかきたてて売るという新聞が主流になってきています。その結果反日を煽った方がよく売れる。それが政府の予想以上に若者の反日感情に火を着けたといえます。
インターネットの普及も重要な要素です。今までは大衆が自由に意見を言えなかったのが、インターネットを利用していろんな言論を書き込むことができるようになった。以前なら中国政府は世論をコントロールしながら外交をやることができたが、もう制御不可能なところまできていますね。
中国のいろいろなサイトを見てみますと、対日関係の研究者や学者、ジャーナリストが「胡錦涛政権は民衆を大事にする政権である。だからわれわれの民意をもっと大きく掲げなきゃいけない。そうすれば外交にも反映できる」というような、政府を逆に動かそうという議論までインターネットで書き込まれています。そういった意見に多くの国民が煽られているわけです。
第2の要因は、明確なイニシアチブをとって外交なり政治をやっていこうという統治能力が、中国政府自身非常に弱くなってきているということでしょう。89年の天安門事件の時のように、党の最高指導部内でも意見の違いがあるのかもしれませんが。とにかく今回の事件についても、デモにきちっと対応するという姿勢が非常に弱い。今になっていろんな形で問題がふくれてきたので一応押さえようとしてますけどね。もっと明確なメッセージとして出さなきゃいけないのですが、未だに今回の事態について中国側には責任がないと言って、デモを黙認するような姿勢を出しています。外交問題としてきちんと自分達がやっていくという姿勢を示せば、大衆の声を利用して日本に圧力をかける必要はないんです。中国政府の力が弱っているから、大衆の圧力を使って日本に圧力を加えようという二段構えになっている。それで、どうしても過激な行動を押さえきれないという状況があります。
――日本製品の不買運動などもおこっているようですが。
★中国では市場経済によって、いろんな利害関係が生じていると見ることができます。民衆レベル中で階層差別だとか地域格差が広がっていますし、日本の進出によってつぶれていく中国企業もあります。そういう人たちの不満は当然ある。彼らがスローガンにしている安保理常任理事国反対や歴史教科書批判といった問題だけではなく、それぞれのいろんな意図が働いて反日運動が起こっているわけです。政府に対する不満も反日にすりかえれば許されるという情況があるんですね。
中国政府に対する不満を直接行動として表すと、これは完全に抑圧されます。それで反日を利用しながら反政府をやっている人もいるし、様々な不満を抱えた野次馬の人がいっぱいいる。
不買運動に関して言えば、大半の中国人もナンセンスだと思っていると思います。私はインターネットで中国の人たちとも、様々な意見交換の場を作っているのですが、「あんなデモは恥ずかしくて見るに耐えない」という中国の人たちもいっぱいいます。上海に住む貿易の仕事をしている中国人女性からも相談のメールが来ました。日本人の彼が働いている会社で、クビにした中国人がこの騒動を利用して何人も連れて乗り込んできたと。自分が悪いんじゃなくて、日本が悪いんだと言っていろんな要求を突きつけてきた。警察も相手にしてくれないし、どうしたらいいんでしょうと困っていました。
今の中国は非常に大きな国になってきて、「別に日本に頭を下げる必要などない」という、自信やおごりに繋がっているところもあります。中国の経済力がこんなに発展してきたのだから、もし我々が日本製品を不買すれば日本は失業者がいっぱいでるだろうなんていう、馬鹿げた言論がインターネットで書かれているわけです。そんなことになっていけば失業するのは中国の人達も同じなんですけどね。
不買運動といっても、例えばユニクロは日本企業だけど、そこで販売されている商品はメイド・イン・チャイナです。電気製品ボイコットといっても、その部品は誰が組んだのかというと中国の労働者です。襲われた日本レストランの多くは中国人が経営していて、お客さんも殆ど中国人だそうです。つまり経済の面では、何が、どこまでが中国で、どこまでが日本なのかなんて境界線は引けないのです。五・四運動の時代だったらまだわかりますけれど、グローバル化の時代に不買運動なんていうこと自体が話にならないわけです。それなのに中国政府はデモを黙認している。つまり政府の側も、まともな状況判断ができなくなっている証拠だと思います。
――反日行動を行っている若者の中には日本に対する憧れもあると聞きますが。
★それはあると思います。ただ一方では、日本は中国からあらゆるものを学んだ国でありながら我が国を侵略してきて、更に開き直ろうとしていると、そういう反発は強いですよ。
中国では、車でいえば日本車が一番人気があります。中国の車やドイツと合弁で作っていた車なんてのは、ほんとうにみすぼらしいものですから。でもそれは、一方ではあこがれと同時に反発も生み出します。車に対する反発というのは、所有する人間に対する反発にもつながります。そうした点も、日本側は理解しないといけない。
反日教育が政府批判に飛び火する可能性
―― 年代以降の反日愛国教育の影響が強いと言われていますが
★中国の人達が、純粋に愛国心だけでデモをしているとは思えないですね。もともとそんなに中国の人は愛国心があるのかどうか。非常に個人主義的な側面も大きいですから。
しかし基本的には、日本側に刺激している要素がいっぱいあることを日本人は自覚するべきです。 そもそも「反日愛国教育の影響だ」という日本側の分析が、もう既に中国側を刺激しているわけです。愛国主義や反日は90年代から勃興してきたかのようにいわれているがそうではない。以前からあったが、ただそれが押さえられてきた。あるいは刺激されないできたのです。
先にも言ったように中国のメディアは商業化してきて、売るために反日を利用している部分があります。かなり自由になってきてはいるが、まだまだ中国には言論の自由、報道の自由があるとはいえない。反日の自由はあるけど、報道の自由はないわけです。
それで例えば日本の世論や主張を紹介する際、読売や産経といった保守派のメディアばかりを、まるで日本を代表する意見であるかのように紹介しています。日本が全体的に右傾化しているように紹介することで、それでまた危機感を募らせている傾向があるのです。
ただしこれは中国だけではない。日本でも中国人は皆反日感情を持っていると報道しています。それらは、お互いの国の一面を全体であるかのように単純に紹介しているに過ぎないのです。そうしたメディアの責任は大きいと思います。
――若者の不満が共産党に対する不満に転嫁していくことはないのですか。
★そういう可能性も充分あると思います。我々がデモをしても成果があがらないのは、中央政府がだらしないからだという話になった場合です。安保理の問題についても、中国は賛成するのか反対するのかをはっきりと言わなければいけない。曖昧な態度をとったら、早速中国政府は反対するべきだという意見がインターネットで出てきます。中途半端な態度をとれば、大衆の不満は今度は中国政府に向くでしょう。
天安門事件では、当時リベラルで学生から人気のあった胡耀邦総書記がなくなったとき、学生が追悼集会をやったことから始まっています。その結果どんどん集会が大きくなり、やがてはデモに発展して押さえきれなくなってしまった。
以前では、反日運動をしているのは戦後賠償裁判をやっている人達が中心でした。これだって、賠償を取らないと決めてしまった中国政府に対する不満が根底にはあるわけです。1972年の日中国交正常化の際に、周恩来首相は戦後賠償を放棄した。日本で個人賠償という形で裁判をやってもなかなか勝てない。賠償を放棄した中国政府に問題はあるんだという議論に発展していく可能性はもちろんあります。
日本の歴史認識に大きな問題がある
――小泉首相は靖国神社への公式参拝を強行していますが。
★日本側の説明としては、A級戦犯であっても、日本人は死後は皆お祀りするんだ、それが日本人の先祖に対する考え方だと言って正当化しています。でもそれは中国人にとっては説得力がないのです。
中国の文化では、悪人は死後も悪人であって許されるべきではない。既に多くの裁判で首相の公式参拝は違憲であると判断されています。靖国神社自体が大東亜戦争を美化するために、わざわざA級戦犯合祀している側面もあります。その考え方自体が間違っているわけです。かつての戦争を本当に反省しているのかしていないのかは、参拝しないことによって示されると思います。
その点中国側から見たら、日本政府は二枚舌を使っていることになります。一方では日本政府は戦争を反省していますと、日中共同声明の中でも述べておきながら、もう一方では、A級戦犯を合祀して戦争を肯定するという姿勢がある。そこに問題があります。
それへの批判を内政干渉だと捉えるのではなく、我々の問題として靖国参拝はおかしいんだと、もっと国民的な声をあげていかなくてはならない。
日本人の多くは小泉首相の靖国参拝に違和感を感じています。それなのに右翼の圧力だとかで文句を言えないような状況になっている。
日中間の指導者がイニシアチブをとって、日中間だけではなくアジアの中で、世界の中で、なにが必要かと言うことを示す必要があるのです。外交が成り行き任せになっていることが問題です。「戦後政治の総決算」を掲げ、1985年に参拝を強行した中曽根首相でさえも、国内外での厳しい批判にさらされて翌年以降は断念せざるをえなかったのです。当時の中国の胡耀邦総書記に宛てた中曽根首相の書簡の中では、靖国参拝は内政問題ではなく国際問題として捉えるとの認識を明らかにしています。
もっとも最近になって、中曽根元首相は失脚の恐れがあった胡耀邦総書記を窮地に落とし入れないための方策だったと、当時の事情を明らかにしていますが。いずれにしてもこういった国際的な視点が、今の小泉首相には欠けているわけですね。
――日本人として関係改善のためにやれるべきことはなんでしょうか
★今回のデモに関して、中国側が「日本に責任がある」という言い方をしている限りにおいては、日本が先に「日本が悪かった」と言える状況にはないと思います。その点においては日本政府は比較的冷静に動いていると思います。
しかし歴史問題、靖国問題については、きちんとした対応をしないとずっと尾を引いてしまう。反日デモが暴動化するのは間違った行動だと思いますが、反日感情には根拠が無いのかというと、日本側にそれを作っている部分があるのです。そこを日本人の側が解決しないと、中国側の感情的な不満の解消に至らないでしょう。
今、多くの日本人が旅行やビジネスのためにどんどん中国に行っています。中国に工場を建設して、今まで中国と関係も興味もない生活をしていた人が、何百人もドーッと中国に行く。そのときに日本人が中国の歴史や文化を知らないというのは困るのです。その結果起こったのが、西安の寸劇事件や集団買春事件です。それは怒って当然です。今アジアはどうなのか、中国はどうなのかっていうことを、これを機会に日本人は考えていかなきゃいけないのです。
目先で発生した暴力行為の責任を明らかにすることも大事だし、その背景になっている不満を解消していく努力も大切です。両方の問題を並行して解決していくことが両国の政府に求められている。それをしないと、政治も経済も日中関係はだめになりますね。
(4月16日)
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http://www.bund.org/interview/20050505-1.htm