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『反日デモ』 経済への影響は?
中国の反日デモの動きは、日系企業が多数稼働する上海や香港、さらに、日系企業での労働者のデモへと拡大した。中国での経済活動は、しばしば「反日」という潜在的なチャイナリスクを抱えていると言われ続けてきた。一方で、日中関係は、経済的には互いに“運命共同体”の状態に入っているとも言われる。反日運動の長期化は、双方の首を絞めかねないが、打開策は−。
中国広東省の東莞(とうかん)市にある電子部品メーカー、「太陽誘電」(本社・東京都台東区)の現地法人工場で十六日、労働者約二千人がデモを起こした。太陽誘電の広報担当者は「最初は数百人だったのに人数が膨らんだ。賃金などの待遇改善を求める声と、日本製品ボイコットを訴える声が入り交じったと聞いている」と戸惑いを隠せない。
従業員は、隣接する二工場で計七千人。多くが農村から三年ほどの単位で出稼ぎに来て、工場で寮生活する若者たちで、北京や上海でのデモの中心になったとされる大学生らとは明らかに顔ぶれが異なる。
東莞市には日系企業が約三百社進出、パソコン、複写機、自動車などの電子部品の製造工場が集中する。デモには前兆もあった。現地の別の工場では待遇をめぐって、「食堂の味が落ちた」ことに従業員らが暴れ、日系企業の間で話題になった。進出した企業は地元の「対日感情」に神経質にならざるをえない。
中国は昨年、モノの輸出で日本を抜いて世界第三位になり、輸出入合わせて「アジア最大の貿易国」となった。「世界の工場」であると同時に「世界の市場」としても急成長を続ける。財務省の二〇〇四年の貿易統計によると、中国と香港とを合わせた貿易総額は二十二兆円を超え、戦後初めて米国を上回り、日本の最大の貿易相手国となっている。
中国進出で歴史を重ねてきたのが松下電器産業だ。創業者の故・松下幸之助氏が、一九七八年に来日した故・〓小平氏に請われたのがきっかけだった。八七年に北京でブラウン管の合弁会社を設立したのを皮切りに、家電やAV機器などの事業や関連会社が進出した。八九年、天安門事件の際にも北京に従業員が残り、生産を続けたことが「中国にとって真の友人であると言われた。対中ビジネスの難しさとやりがいを同時に感じた」(当時のOB)。
改革開放政策から二十年以上、日中の経済的な相互依存関係は年々深まる。
中国製の携帯電話やデジカメには、日本製チップやCCD(電荷結合素子)が使われ、車には日本製のエンジンが搭載されている。「日系企業は技術的、品質的に地元企業と差別化を図っており、互いになくてはならない関係にある」と富士通総研の朱炎・上席主任研究員は指摘する。
今回の日本製品不買運動でも対象は消費財が中心で、中間財や部品などは含まれていない。投石などの被害を受けたのも商店で、現地工場や事務所では大きな被害は出ていない。
「デモの元来の目的は歴史教科書や国連安保理入りについて日本政府にメッセージを伝えることであり、そのためにデモ参加者は身近の日系企業を攻撃対象に選んだ」と朱氏は見る。中国製品の生産に必要な中間財やその工場にまで対象を拡大すれば、即座に自分の首を絞めることになると承知しているようだ。
一定の自制が利いていたとみることもできるが、反日デモがこれ以上、長期化すれば企業にとってのチャイナリスクはいや応なく高まる。とりわけ「これから新たに中国進出を果たそうと計画したり、投資拡大を目指している企業には計画の再検討を迫られる可能性がある」(朱氏)。いったん再検討に入れば、日本企業の対中進出の動きは最低でも二、三カ月は停滞することは避けられない。
かつて北京や香港に駐在、東京三菱銀行の駐華総代表も務めた、大久保勲・福山大学教授(中国経済)は案じる。
「中国の高度成長は外資頼みだ。モノの輸出で日本を抜いて世界第三位といっても、その半分は進出した外資が担っている。世界の工場と賞されても安い労働力を提供し、モノを組み立てているだけで、中核的な技術の開発は遅れていることを中国人も十分に知っている。今の状況が続けば、日本企業が対中ビジネスを見直す動きが出る恐れがあり、中国の経済成長にも影響が出てしまうので、デモ自体は収束すると思うが」
日本製品への不買運動について、上海市に駐在経験のある家電メーカー社員はこう指摘する。
「家電製品が一通りそろうと、中国人の豊かな家庭は優秀な日本製品を求める。これまでは、低価格を売り物に『日本製品はもう要らない』と業績を伸ばしてきた中国の国内資本の家電メーカーだが、市場が高級志向になると売り上げが伸びなくなり、従業員は解雇される。クビになった従業員は、日本企業や日本製品憎しとなるだろう」
中国の文化大革命、八九年の天安門事件の当時、商社マンとして駐在していた藤野文晤・藤野中国研究所代表は「日中関係は過去の状況の中で、かなり悪い部分に入っている。中国の高度成長に応じて日中の経済関係の動きが目立ったから、政冷が表に出ていなかっただけではないか。その政冷が経済に悪影響を及ぼし始めている」と指摘する。
■デモ参加者は海外の目意識
一方で、メディアを通じて、世界中が中国の動向を注視している。上海のデモ参加者が「過激な行動はやめよう。ほかの国に野蛮人だと思われるぞ」と叫んでいたのが放映されたが、「外の目」を気にしていることもうかがわれる。
「騒動が長引けば日本だけでなく、ほかの国も対中投資する際のカントリーリスクと認識するようになる」と朱氏は懸念する。カントリーリスクとは外国との貿易、投資で、相手国の政策変更や社会情勢などで投資回収が不能になるような危険のことだ。「中国にとってカントリーリスクを高めてしまう活動には、外資を積極的に導入することで経済発展を促進してきた中国の改革開放政策の基本に抵触しかねない」(朱氏)危うさが潜んでいる。
今後、基本的には中国側の“沈静化”を待つしかなさそうだが、前出の藤野氏は「かつては、日中関係に黄色い信号がともったら、だれかが動いた。いまや、赤信号がともっているのに、だれも動かないし、経済界が動くのは難しい状況だ」と指摘。日中関係の「井戸を掘った」松村謙三、田中角栄各氏といった政治家に代わる人がいなくなったとして、こう訴える。
「アジアにおける日本はどういう国なのか、日本側も常に考えるべきだろう。政治家も知恵を出し、お互いの立場に立ってモノを考えるべきだ。米中間でもしばしば緊張が高まるが、復元力もある。中国とのパイプづくりを絶やさないよう、元大統領が何度も足は運ぶといった努力が見られる。日本と中国というアジアの二つの大国が恩讐(おんしゅう)を乗り越えなければ、アジアに平和は築けないし、ビジネスもできない」
(〓は登におおざと)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050419/mng_____tokuho__000.shtml