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ブッシュに米朝交渉促すのが日本の役目
http://www.bund.org/interview/20050625-1.htm
大阪経済法科大学教授 吉田康彦さんに聞く
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よしだ・やすひこ
大阪経済法科大学教授(国連・核拡散問題・朝鮮半島研究)。1936年生まれ。1982年国連職員に。1986年から3年間、IAEA(国際原子力機関)広報部長。著書『動き出した朝鮮半島』『国連改革』『21世紀の平和学』など。
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北朝鮮情勢に詳しい吉田康彦さんに北朝鮮の核問題について聞いた。吉田さんは今年5月の連休中に北朝鮮を訪れ、抗生剤やビタミン剤などの医療援助を行い、平壌・開城・新義州・竜川列車事故現場などを視察、要人とも会談した。
北朝鮮の核実験説は間違い
―北朝鮮が核実験を行うと報道されていますが、実際はどうなのでしょうか。
★今年2月の核保有宣言も、最近の核実験説も、アメリカに向けたメッセージの一つです。核実験説はアメリカからの情報ですが、北朝鮮側も坑道を掘るなどで実験準備を進めているかのようなシグナルをアメリカに送っている。一連の北朝鮮の行動は、アメリカに交渉のテーブルに就いて欲しい、米朝対話を再開したいという意志表示なのです。
しかし私が帰国した時、日本では北朝鮮の核実験が近いという米国の情報に振り回され、メディアは例によって節操のない報道をして騒ぎ立てていました。
私は平壌を訪問した際に北朝鮮・軍縮平和研究所の朴賢在(パク・ヒョンジェ)副所長と懇談したのですが、その時の話も全く誤って報道された。彼は核実験すると言ったわけじゃない。にも関わらず日本のメディアは、あたかも北朝鮮は核実験を行うつもりがあるかのように誤った報道をしたわけです。
私が「プルトニウムを材料とする核弾頭を製造する場合、実験してみないと抑止力は証明されない。核実験なしに保有宣言だけで核保有国になった例はない」と言ったことに対し、朴賢在副所長は後でわざわざホテルに電話をかけてきて「その通りだ」と認めたのです。
北朝鮮の高官がはじめて、核保有宣言だけでは抑止力にならないということを認めた。これがニュースです。日本のメディアはもっと冷静沈着に核開発の意図はどこにあるのかをさぐる必要があります。
もし本当に北朝鮮が核実験を行えば、ブッシュ政権にとっても失策です。ブッシュ政権にとっては核の拡散を未然に阻止できなかった、北朝鮮という核保有国を作ってしまったことになるからです。そうなればブッシュ政権も北朝鮮の核保有を黙認するわけにはいかないでしょう。
安保理で制裁発動を起こす。あるいは北朝鮮を直接爆撃しないまでも、経済制裁をさらに強化した形のPSI(拡散安全保障構想)によって海上封鎖や船舶の臨検を行い、北朝鮮の港に出入りする船を片っ端から捜索する。このような事態になれば北東アジアに緊張が高まるのは明らかです。
同時に北朝鮮が核実験によって核保有を証明するとなれば韓国にとっても脅威です。将来、統一コリアが核保有国になることは韓国にとっても喜ばしいことかもしれないけれど、今の段階では北朝鮮の核保有を認めることはできない。現在、韓国は原発が19基も動いているが、ウラン濃縮もプルトニウム再処理も認められていない。韓国は対抗上、ウラン濃縮、プルトニウム再処理を当然の権利として主張するでしょう。さらに日本に波及して、核武装を誘発するということになりかねない。
ただ日本の核武装論は2年前からアメリカで言われていますが、これは中国を牽制するためのものです。そもそもブッシュ政権が日本の核武装を容認するはずがない。したがってブッシュ政権としては北朝鮮の核実験はくい止めたいのです。中国もできることなら事前にくい止めたいと思っている。
国交正常化目指したクリントン
―かつてのクリントン政権の時にも核危機がありました。
★クリントン政権の時には米朝国交正常化実現一歩手前までいったのです。1994年の「米朝枠組み合意」にもとづいてKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が発足、軽水炉が完成するまで北朝鮮に重油を毎年10万トン提供することになっていた。北朝鮮は重油の提供が遅れているとか不満を言っていましたが、より重視していたのは経済制裁の解除と国交正常化をうたった項目でした。
「枠組み合意」には金融・貿易の障害を除去して3ヶ月以内に連絡事務所を平壌とワシントンに設けて、将来、大使館級に格上げすると書いてある。KEDOを通じ米国との国交正常化につながることを北朝鮮は期待していた。ところがアメリカはそれを全然やらなかった。何故か。
アメリカは、金正日体制はいずれ崩壊するからほっとけばいいと考えていたわけです。これは94年の米朝交渉で米国側首席代表を務めたロバート・ガルーチ氏からも直接聞いたことがあります。アメリカとしては核開発計画が凍結されて核危機は去った、一件落着したと考えたのです。
このアメリカの態度に対し北朝鮮は〈崩壊するとは何だ。馬鹿にするな〉ということで98年にテポドンを打ち上げ、金倉里の坑道を掘り抗議の意志表示をした。日本人はテポドンが日本に向けて発射されたと騒いでいたけれど、北朝鮮が狙ったのはアメリカに対する揺さぶりだったのです。
クリントン政権はそこではじめて反省し、北朝鮮と真面目に交渉するほかないと考えた。ウィリアム・ペリー元国防長官が朝鮮半島問題担当調整官に任命され、平壌に派遣され、見聞したことを報告書として提出しました。この報告書の提言内容が「ペリー・プロセス」で、いかに困難であろうとも、朝鮮半島の非核化・核危機の解決は金正日体制との交渉によって実現するほかないと主張しています。クリントン政権はそこで改めて、ミサイルの廃棄交渉やKEDOの建設も含めた包括的な米朝の話し合いを99年から再開します。
その結果として北朝鮮の趙明禄(チョ・ミョンロク)国防委員会第一副委員長が2000年9月にワシントンを訪問します。クリントン大統領と会談して、国際テロに反対する声明を出したりした。その後10月になってオルブライト国務長官が平壌を訪問、金正日総書記と会談し、米朝国交正常化一歩手前という状況になった。
ところが2000年11月の大統領選挙で、フロリダ州の票をごまかしたブッシュが当選してしまった。ブッシュ政権が最初にやったことはクリントン政権の政策を全部ひっくりかえすことでした。北朝鮮との交渉も、2国間の米朝交渉では朝鮮半島の非核化なんか実現できないと考えた。北朝鮮をテロ支援国家、イラン、イラクともに「悪の枢軸」であると名指しで批判し、そういう国家に対しては厳しい鉄槌をくださなければならない、力で抑え込む方針に転換したわけです。
その後ブッシュ政権は大量破壊兵器を隠匿しているという口実の下、イラク戦争を開始してフセイン政権を倒しました。北朝鮮はイラク戦争を見て「フセインは核を持っていなかったから倒された。断固核を持たなきゃいかん」と考え、NPTから脱退し、プルトニウムを再処理し、核弾頭製造に本格的に乗り出したわけです。
2国間交渉拒むブッシュ
―ブッシュ政権は6者協議をどのように考えているのでしょうか。
★北朝鮮に対するブッシュ政権の基本政策は時間かせぎです。現実にはイラクと同じように、北朝鮮を力でおさえつけることはできない。周辺の中国も韓国も武力行使には反対しています。もし核保有が事実であれば、1発でも2発でも北朝鮮が反撃してくる可能性がある。被害を考えれば米国もうっかり手を出せない。だからブッシュ大統領も外交的に話し合いで解決をはかると言っているわけです。
しかしブッシュ政権は、金正日体制に対する不信感が強く、2国間交渉で北朝鮮にだまされたくないとも思っています。特に核開発凍結中も、こっそりウラン濃縮を進めていたらしいことが暴露されてクリントン前政権は北朝鮮に一杯食わされた、騙されたと思っているのです。ブッシュ政権の政策判断の根拠にあるのは〈クリントンは北朝鮮を甘やかし、さんざん振り回された揚げ句に、裏をかかれて核開発を阻止できなかった〉という認識なのです。
そのためチェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官は、米朝2国間対話にそうやすやすとは乗らない方がいいぞと思っている。コンドリーザ・ライス国務長官も北朝鮮との交渉には懐疑的です。ブッシュ政権の2期目の特徴は、北朝鮮のことを理解し、話し合いで真剣に問題を解決しなければならないと思っている閣僚・高官がいないということです。
一方で2国間の対話を一切拒否して、北朝鮮問題を放っておくと米国に対する国際的批判も高まります。そこでアメリカは中国に議長役・仲介役を頼み、周辺諸国を集めた6者協議の開催を提案したのです。アメリカにとって6者協議は、時間稼ぎと、大きな枠組みの中で一方的に北朝鮮の核開発廃棄を迫ることが目的です。そもそも力で抑え込んで一方的な核廃棄に持ち込もうというのがブッシュ政権の基本政策だから、6者協議で北朝鮮と本気で交渉をするつもりはないのです。
北朝鮮は一応中国に説得されて、6者協議に3回出てきたけれどもアメリカが要求するのは核開発の一方的廃棄でした。アメリカは「検証可能で後戻りできない核の廃棄(CVID)」を一貫して要求してきた。北朝鮮の体制存続を保証する前提として北朝鮮が核を全面的に廃棄せよということです。しかし自らが先に丸裸になるような提案を北朝鮮はのめない。
よく北朝鮮の核廃棄のモデルとしてリビア方式が言われています。体制の存続とひきかえの核廃棄というのがリビア方式ですが、北朝鮮の場合はリビアのようにはいきません。リビアの場合は周辺諸国がカダフィ政権の存続を何ら脅威とは思っていませんでした。
ところが北朝鮮を取り巻く韓国や日本には金正日政権を打倒したいという勢力がいっぱいいます。もちろんアメリカにも金正日政権打倒を訴える勢力がいる。脱北者も大勢出てきている。脱北者は韓国に1万人以上いて、元朝鮮労働党書記の黄長Y(ファン・ジョンヨップ)氏などは金正日体制打倒運動の先頭に立っている。核を全部廃棄して丸裸になったら、体制がもたないと北朝鮮自身が分かっているわけです。だからリビア方式というのは朝鮮半島には通用しない。
しかもアメリカ自身はなんら核軍縮の措置をとらず、小型核の研究開発も続けており、場合によってはテロ国家、テロ支援国家に対して先制攻撃すると公言している。そのようなアメリカを相手に北朝鮮だけが一方的に核を廃棄することはあり得ない。
私は米朝交渉以外に北朝鮮問題を解決する道はないと思います。そもそも北朝鮮の危機が何故に始まっているのかといえば、朝鮮戦争がいまだに休戦状態にあるからです。休戦協定は国連軍としての米軍と朝鮮人民軍つまり米朝2国間で結ばれたものだからです。
だから米朝交渉で肝心なところをつめて、それを全体の枠組みとして保障する場として6者協議を位置づけるしかない。もともと6者協議をお膳立てさせたのはアメリカだから6者協議は絶対に場として確保しようとするでしょう。しかし6者協議で北朝鮮に対し核の一方的廃棄を迫るだけでは何も解決しません。
米朝の休戦協定を平和協定に移すということを、6者協議で周辺諸国が歓迎し支持する。その後の北朝鮮に対する経済援助は周辺諸国が引き受ける。それ以外に北朝鮮問題の解決方法は考えられない。
北朝鮮としてはブッシュ政権が2国間協議をどうしても受け入れないならば政権が交替するまで待つ決意です。アメリカが真剣になって休戦協定を平和協定に代え、法的拘束力のある米朝条約を締結しないならばブッシュ政権との交渉は諦めて、次の政権まで何年でも耐え抜くというのが北朝鮮の態度です。
中華経済圏にある北朝鮮
―日本では北朝鮮に対して経済制裁せよとの声が高まっていますが、逆に中国、韓国は北朝鮮との経済的つながりをより一層強めていると聞きました。
★今度の訪朝で確信したのは、もはや北朝鮮は中国の東北省の一部で、中華経済圏の中に組み込まれているということです。平壌の街にも新義州という国境の町にも中国人があふれている。中国人のビジネスマン、観光客、政府関係者が国境をこえてやってきている。中朝関係が極めて密接であることを目の当たりにしました。
北朝鮮滞在中、平壌の郊外にできた公認の自由市場に行ったのですが、1500軒もの店がある巨大なマーケットでは市場原理が取り入れられて物品が売り買いされていました。農民が自分の産物を持ってきて適当に値段を付けて、買い手がつけばどんどん売れる。価格は消費者と生産者の需給関係で決まっているわけです。
市場はにぎわっていて中国製品があふれている。中国人も売りに来ている。ただ一方で年金生活者とか、平壌からはるか彼方の僻地に住んでいる農民たちの生活は悲惨な状況だと思います。国内では貧富の格差が広がっている、そういう意味で今や北朝鮮はミニ中国だと言えます。
今後は貧富の格差是正が問題となるでしょうが、金正日が北朝鮮式「改革開放」を実施し、進めていることは確かです。そうした北朝鮮の「改革開放」を中国が肩入れし、経済的援助をしている。
貿易だけみても中朝貿易は著しく増大している。去年は12億ドルくらいだった貿易額は、今年は15億ドルをこえて20億ドルぐらいになると推定されている。韓国との南北貿易も今までは7〜8億ドルくらいだけど、今年は10億ドルを超えるという。
逆に日朝間の貿易額は一昨年は2億5千万ドル、去年2億ドル、今年は1億ドルにも満たないだろうと予想されている。日本は100トン以上の船の損害賠償保険加入を強制的に義務づけるなど、事実上の経済制裁を発動しており、日朝貿易は減る一方です。
中韓との貿易額が増える中で、日本だけが拉致問題の徹底解明のために単独で経済制裁をしても何の意味もない。じゃあ拉致問題はどうしたら良いのか。これは、国交正常化を実現してそのプロセスで解決する以外にない。
2002年9月に小泉首相が平壌を訪問して平壌共同宣言に署名して、その時に拉致を金正日総書記が認めて謝罪した。日本はショックを受けて、拉致の徹底解明を叫んでいるわけだけど、北朝鮮からすれば拉致だけを問題にするんだったら、日本が植民地にした時の36年間、特に太平洋戦争が始まってからの強制連行、強制労働をどうしてくれるのだとなる。
日本は強制連行についていまだに何の補償もしていない。北朝鮮側は800万以上が強制連行されたと言っている。日本の学者が検証した限りでは70万前後ですが、それでも万単位です。
平壌共同宣言で、小泉首相は「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人びとに多大の苦痛と損害を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛烈な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」し、経済協力を約束している。
日朝国交正常化交渉を行い、経済協力を行うことによって、はじめて日本政府は謝罪の意志を実行したことになる。拉致問題も「日朝間に存在する諸問題」のひとつとして、正常化の過程で解決することで合意しているはずです。日本が謝罪を実行せず、拉致だけ騒いでも北朝鮮は聞く耳を持たないのが現状です。
独自外交できない日本
★ブッシュ政権が振り向いてくれなくとも日朝国交正常化が実現すれば、朝鮮戦争の平和条約締結が先延ばしになっても大丈夫だと北朝鮮は考えていた。日本の経済協力によって100億ドル以上の資本と技術が北朝鮮に入ってくるとなれば、それは事実上の経済制裁解除になるからです。
日朝ががっちり組んで、韓国が北朝鮮の体制を支えていけばアメリカが何を言っても盤石の構えとなる。北朝鮮は、日本はアメリカの属国であると見ています。その日本が北朝鮮と国交を結ぶということは、事実上アメリカを動かすことになるわけです。しかし日本が拉致問題だけにこだわるので、北朝鮮は日朝交渉を当分あきらめたのです。
去年11月の日朝実務者協議で日本の外務省の藪中団長(当時・アジア大洋州局長)は、拉致問題に関して「北朝鮮の誠意と努力に感謝する。北朝鮮は誠心誠意協力してくれた」と謝意を述べて、感謝の気持ちを表して帰国の途に就きました。しかし帰国するや横田めぐみさんの遺骨はニセものだったという鑑定結果が出て、安倍晋三氏が「北朝鮮はウソにウソを重ね、ウソの上塗りをしている」と発言すると、外務省はとたんに黙ってしまった。
北朝鮮はこうした外務省の態度の豹変に対し「裏切りだ。だまされた」と激怒している。日朝国交正常化を阻害しぶち壊そうという右翼勢力の方が強くて外務省は完全に飲み込まれたと見ている。それで北朝鮮はもう日本は相手にしないということで、原点の米朝交渉に戻ったのです。私は、日本はこのままでいいのかと思います。
私が描く最悪のシナリオは次のようなものです。ある日ブッシュが直接話し合いをしようと平壌に飛んでいって金正日と握手し、米朝国交正常化が実現。その後、「いつまで拉致にこだわっているのだ」とアメリカに急かされて、日朝国交正常化に至るというプロセスです。こうなれば日本はまさにアメリカの属国であって、独立国とはいえません。
小泉首相が在任中に日朝国交正常化を実現したいのであれば、やはりブッシュ大統領を説得して、クリントン政権がやったように直接対話で米朝交渉を真剣に行うよう促すべきなのです。
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(2005年6月25日発行 『SENKI』 1182号4面から)
http://www.bund.org/interview/20050625-1.htm