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インド洋大津波 自衛隊派遣=岩崎日出雄(ジャカルタ支局)
◇課題残った現地情報開示−−安全、国民が判断できぬ
2度にわたりインドネシア・スマトラ島沖で発生した大地震。最大の被災地である同国アチェ州(スマトラ島)で自衛隊は救援活動を終えた。医療や物資輸送などで、被災者の生活維持や道路・橋の復旧に貢献し、住民に惜しまれながら現地を離れた。しかし、今後の自衛隊の海外派遣を考える時、現地の安全に関する情報の収集・開示に、課題が残ったと感じている。
アチェ州では、インドネシア国軍が03年5月から独立派武装組織「自由アチェ運動(GAM)」を掃討する軍事作戦を展開し、GAMはゲリラ戦で対抗してきた。昨年末の大津波襲来後も銃撃戦が続き、数百人の死傷者が出ている。
こうした状況の中で、海上自衛隊はホーバークラフト2隻を使い、復旧工事のために国軍が使うショベルカーやトラックなどを州都バンダアチェ市郊外から南西海岸のチュナムプロンへ搬送した。しかし2月21日に2カ所で銃撃戦があり、国軍兵士9人が死傷したとの情報を受け、輸送を中止した。中止は妥当な判断だと思うが、この情報は公表されなかった。
防衛庁は救援活動の内容を広報してきたが、この日の海自の輸送活動については「陸自の支援」と説明するにとどまり、危険情報の入手や輸送中止には触れなかった。同庁広報課は「自衛隊が襲撃されたわけではないので広報の必要はないと判断した」と弁明した。海外に派遣される自衛隊は「危険な場所では活動しない」というのが原則だ。しかし活動を中止するほどの危険を察知したにもかかわらず、その情報を知らせなかったのは疑問だ。自衛隊は独自に「安全が戻った」と判断して3日後に輸送活動を再開したのだ。
派遣先の安全に関する重要情報が開示されなかった例はほかにもある。インドネシアとの暫定国境線である東ティモール・ボボナロ県の河川で03年、国連開発計画が日本の政府開発援助(ODA)でかんがい施設の復旧を実施した際、国連平和維持軍(PKF)に加わっていた自衛隊が設計や工事管理を指導した。自衛隊は同年5月から現地指導をしてきたが、8月になると原則的に宿営地での指導に切り替えた。国境付近で武装勢力の出没情報が相次いだためだ。不法入国者が国境警備隊との銃撃戦の末、射殺されたという情報があったが、これも公表されなかった。国連筋は「自衛隊が発砲する事態が起これば、国会審議に影響しかねず自衛隊も困っていたようだ」と話す。こうした情報が公表されないまま同年、自衛隊のイラク派遣法案が可決された。
政府は現在、自衛隊の国際平和協力活動の本来任務への格上げを目指している。今後、海外派遣が頻繁に行われる可能性が高いが、派遣先の安全状況についての情報公開は派遣への必要条件だと思う。仮に現場の情報が十分に開示されず、隊員が交戦に巻き込まれた場合、自衛隊は「事前の情報収集は十分であり、不測の事態だった」との言い逃れが可能になる。そしてそれが武器携行など「不測の事態」に対処する制度の改正を求める議論につながることを懸念する。現在の情報開示のレベルでは、自衛隊派遣が適切かどうか、国民は判断できないのではないか。
アチェ州のホーバークラフトによる輸送先一帯はGAM兵士が潜伏し南北約7キロ区間に4カ所の国軍詰め所がある激戦地。ここにホーバークラフトは1日3回、上陸した。その際、誘導の自衛隊員5人がヘリコプターで先着し、数時間滞在した。だが、数百メートル離れた詰め所に国軍兵士数人が待機するのみで荷降ろし時以外は隊員らのそばに警護する兵士はいなかった。
警備など隊員の安全確保について国軍と事前にどのような協議・取り決めを行ったのか。海上幕僚監部広報室は「国軍による警備や情報収集で隊員の安全は確保されている。警備の内容は言えない」と答えるのみだ。国軍詰め所には、周辺のGAM潜伏地や最近の戦闘記録について記した地図があった。複数の国軍兵士は「輸送先一帯は日常的に危険な場所だ」と話した。自衛隊はこうした情報をどの程度入手し、状況判断の材料にしたのだろうか。
自衛隊に「安全」の根拠を正確に示し入手した情報を国民に伝える姿勢がなければ、不測の事態が起きた場合、自衛隊の判断を検証するのは困難だ。海外派遣の自衛隊は「危険は事前に避ける」のが原則だ。この原則には異論も出ているが、都合の良い情報だけを流し既成事実を積み上げ、原則や制度の変更を訴えるとすれば、「国民不在」もはなはだしい。
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