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イラク開戦の根拠、アル中男性からの「ニセ情報」
【ワシントン=貞広貴志】イラク戦争の開戦に当たり、米政府がフセイン政権の脅威の具体例として挙げた「移動式生物兵器製造装置」の情報源が、イラク政府の研究機関をクビになったアルコール中毒症のイラク人男性だったことが31日、判明した。
米情報機関の能力について調べていた調査委員会報告で明らかにされたもので、米政府は全く根拠のないねつ造話に完全に踊らされた形だ。
報告書によると、この男性はコードネーム「カーブボール」と呼ばれる化学系の技術者。2000年春に仲介者を通じて、国防総省の情報機関である国防情報局(DIA)と接触し、「フセイン政権が、トレーラー型の移動式装置をつかって生物兵器を製造・保有している」との情報を提供した。
詳細にわたるカーブボール情報は、100通もの報告書にまとめられ、開戦1か月前にパウエル国務長官(当時)が国連安保理で行った説明でも、図解入りで取り上げられた。
だが、主要な戦闘が終わって検証したところ、飲酒癖などで本人の言動に問題があることが判明。現場に居合わせたと主張していた1998年の事故の際には、すでに解雇され、海外にいたことまで確認され、すべてが「ニセ情報」と結論付けられた。本人の動機は、“有力情報”を提供することで、亡命者として米国での永住権を得ることだったと見られている。
一方、イラク・フセイン政権の脅威を巡っては、政権打倒に傾く政府最高幹部が情報機関に圧力をかけて、開戦の根拠となるような報告を上げさせたとの観測も流れていた。この点について報告書は、情報の誤りが情報源不足や稚拙な分析といった技術的問題であり、「政治圧力によって分析結果がゆがめられたり、変えられたりした例は確認できなかった」としている。
報告書は、さらに、国際テロ組織「アル・カーイダ」が、米軍などによるアフガニスタン武力行使前の段階でかなり進んだ生物兵器計画を持っており、テロ攻撃に使用する準備を進めていたことも明らかにした。
報告書によると、アル・カーイダは1999年ごろからアフガニスタンで生物兵器の集中的な開発を進め、うち2か所の施設では、特別な訓練を積んだ人物が民生用の機器を用いて製造に入っていた。実際に生物兵器を使用する計画もあった。公開分の報告書では物質名は「X」として伏せられている。
米情報機関は、武力行使前の段階で一定の生物兵器計画の存在を突き止めてはいたが、アフガン進攻後に押収した書類や施設は予想をはるかに上回る開発の進展度を示しており、驚いたという。調査委の聴取に対し、ある情報員は「今まで大きな生物兵器攻撃を受けていないことを、幸運と思うべき」と脅威の大きさを表現した。
(2005/4/1/20:17 読売新聞 無断転載禁止)
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050401i212.htm