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3月22日 05年45号 ◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その1) ◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その2) ◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その3)
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◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その1)
◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その2)
◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その3)
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◇◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その1) ◆◇
私は外務省にいた頃の自らの経験から、安保理事会常任理事国入りに必死になっているわが外務省の独り相撲が、どれだけ馬鹿げたことかを指摘し続けてきた。それは要するに、米国の顔色ばかりを見て世界の期待を裏切り続けてきた日本が、大きな財政負担をしているからといって権限拡大を主張したところで、誰も心から歓迎しない。そんな自明な事もわからずに自ら旗を振って大騒ぎしている勘違い外交ということである。そんな暇があれば世界に尊敬される外交に専念しろということである。世界に評価され、敬愛されれば無理をしなくても常任理事国の地位に恵まれるのである。
もうこれ以上この問題について意見を述べるつもりはなかった。しかしアナン国連事務総長が21日、国連改革に関する「勧告」を国連総会に提出し、これについて22日の各紙がこぞって取り上げているものであるから、どうしてももう一回だけ意見を言わざるを得なくなったのだ。
まず指摘したいのは、この報告書になんら目新しい内容がないにもかかわらず日本の政府関係者がこぞって評価している不思議さである。町村外相は、「わが国の立場に沿った改革の実現に向けて弾みとなるものであり、歓迎し、支持する」という談話を発表した。外務省筋は「期限が切られたことで、改革の流れは後戻りできなくなった」と述べている(3月22日東京新聞)。これはアナン報告書の中で、「9月の(国連)特別首脳会合までに決断する事を合意すべきだ。全会一致による決定が非常に望ましいが、それが出来ない場合でも、決定先延ばしの言い訳にしてはならない」と書かれている箇所を見つけて評価しているのだ。細田官房長官も22日夕の記者会見で、「全般的に歓迎し、支持する。(9月までに結論を出すとされたことについて)事務総長の問題意識として評価する」と述べている。
大手新聞の中にも、「常任理事国入りをめぐる交渉の年内決着を目指す日本には大きな後押し」(3月22日産経新聞)、「政府、多数派工作を加速」(22日東京新聞)、などと楽観的な見出しをつけたりしている。NHKに至っては22日の正午のニュースでアナン事務総長が記者会見で、「(常任理事国の拡大が合意された場合)一つは勿論日本だ」と具体的な国名を挙げたことについて、異例の発言であるとして日本の安保理入りは決まったものであるかのように報じていた。
果たしてアナン報告書はそれほどのニュースなのだろうか。
◇◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その2) ◆◇
私はアナン事務総長に失望されっぱなしだ。2年前の米国の単独イラク攻撃によって、国連の尊厳があれほど足蹴にされたにもかかわらず、事務総長としての責任を感じないかのようにその職にとどまり続ける人間を私は信用しない。見せ掛けの対米批判をしてみてもその裏で完全に米国の意向に従っているアナン事務総長のしたたかさに狡猾さを感じるのだ。
そのような私の個人的なアナン事務総長の評価は差し引いても、このアナン報告書は日本にとって決して評価できるものではない。その理由はいくつかある。
まず、日本が希望しているA案(註:日本は常任理事国を拡大するA案を支持しており準常任理事国の新設を提案するB案に反対している)の支持について明確せず、具体案は加盟国の判断に委ねるとしたことは、日本を失望させるものだ。町村外相も22日の記者会見で「本当はモデルAと明示してほしかったが、そこまで集約していなかったことのあらわれだろう」(22日朝日新聞夕刊)と失望感を表した。
そして日本が最も評価している期限付きの合意そのものがかえって日本に重圧をかけているといえる。これにより日本としては何があっても9月までに合意を実現しなくてはならなくなった。もし9月までに合意が出来なければ国連改革の熱意は一気に冷めて、日本の安保理常任理事国入りも実現できなくなる。おまけに報告書は「全会一致による決定が望ましいが、それが出来ない場合でも、決定先延ばしの口実にしてはならない」として加盟国の三分の二の賛成(128カ国)を得て成立させよと迫っているのである。外務省は必死の工作を続けるしかない。日頃関心のないアジア・アフリカ会議(4月)に小泉首相を出席させたり、5月にバハマで日本・カリブ閣僚会議を4年ぶりに開いて見たり、5月に全大使を東京に集めて作戦会議を開いたり、アフリカ諸国に援助をばら撒いたり、担当大使をカリブ諸国に「島巡り」させたりと、莫大な人的、物的資源を使うつもりである。
しかもそれだけ必死になっても三分の二の票(128カ国)を取れる見通しはない。今のところやっと50−60カ国程度であるという(22日日経新聞)。大半の国は争いに関わりたくない無関心派である(朝日新聞)。改革決議案の共同提出国であるドイツ、インド、ブラジルにはそれぞれイタリア、パキスタン、メキシコという強力な反対国が立ちはだかるし日本についても中国、韓国の反日感情が立ちふさがる。米国はイラク戦争に反対したドイツを許さないし、反米政策をとるブラジルの常任理事国入りを認めないであろう。アフリカに至ってはどの国をアフリカの代表とするかで喧嘩している状態だ。そして肝心の米国そのものが安保理メンバーを増やす事自体に消極的なのだ。
事実米国務省当局者は21日、アナン改革案について、「提案を十分に検討したい」と述べるにとどまり賛否を示さなかった(22日日経新聞夕刊)。
まったく気の遠くなるような国連改革である。
◇◆ 国連改革に関するアナン報告書に思う(その3) ◆◇
このように決議案の成立はまったく不透明であるが、万一決議案が通って安保理改革のめどが立ったとしても、日本の常任理事国入りがどれほど日本にとって意味のあるものなのかという根本的な疑問が残るのである。
最大の問題は、どのような形での改革がなされようと、拒否権はあくまでも5大国に限られ新しい常任理事国には与えられないということだ。この点については既にアナン事務総長の諮問委員会の提言で、「いかなる安保理改革案においても拒否権の拡大は行わない」としていたが、アナン事務総長は21日の記者会見で、「拒否権を持つべきではないというのが一般的な受け止め方だ」として拒否権付与の可能性を強く否定したのである。新たな安保理常任理事国は二流の安保理常任理事国にとどまるのだ。何のための常任理事国入りなのか。
アナン事務総長の報告書で注目すべきは、むしろ日本にとって不利な提案がなされている事だ。その一つは常任理事国に入る条件として「先進国はODAのGNP比0.7%を達成するか、実現に向けた進展があるか」を尺度とするとしていることである。日本やドイツに極端に大きい援助を求めるものであり衡平を失する。
もう一つ不透明な点がある。それは武力行使に際する新基準を示す決議を採択するよう勧告している事である。これは一見すると安保理の承認を得ずにイラク攻撃に踏み切った米国への牽制とも取れるが、他方において基準作りを安保理に委ねている。結局ブッシュ政権の「先制攻撃」論を阻止できないのだ。ブッシュ政権の超タカ派であるボルトン国務次官が新国連大使になったことで、アナン事務総長は「米好みの国連」に従属しかねない危うさをはらんでいるのである。
このようにみてくるとこれから9月までに繰り広げられる日本の国連常任理事国入り外交が、とんでもないピントはずれの外交であることに誰しも気づくであろう。その通りなのだ。労多くして益少ない、壮大な茶番劇が半年間の間、繰り広げられるのである。
それでも外務官僚は省をあげて国連常任理事国入りに取り組むであろう。なぜならば、八方ふさがりの停滞した外交にあって、「前向きな外交活動ができる数少ないテーマ」(外務省幹部―22日日経新聞)であると自ら認めているからである。もはや今の日本外交には前向きな明るい外交が完全になくなってしまっているのだ。
それにしても悲しいのは小泉首相の無関心さである。22日の朝日新聞のつぎの記事読んで、私は天を仰いでかつての同僚を哀れに思った。
「・・・小泉首相は昨年の国連総会で常任理事国に手を上げたが、以後は具体的な指示をしている形跡はない。外務省の谷内正太郎事務次官は毎週、首相官邸で進捗状況を報告するが、首相は表情を変えず無言でうなずいている・・・」
http://amaki.cocolog-nifty.com/amaki/2005/03/3220545.html