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撤退表明イタリアの事情
イタリアのベルルスコーニ首相が初めて、イラク派遣のイタリア軍撤退について「9月から段階的に行う」と言及した。背景には、米軍によるイタリア人女性記者ら銃撃事件で、国民の反米感情の高まりがあるという。同国は約3000人の軍隊を派遣、米英韓に次ぐ「有志連合」の有力な一角だが、オランダ、ウクライナなどに続き、伊軍の撤退表明で「有志連合」は−。
同首相はこれまで、武装勢力による人質事件などが起きるたびに「テロには屈しない」と撤退否定発言を繰り返してきた。二〇〇三年十一月、十九人の犠牲者が出た伊警察軍司令部への自爆攻撃、昨年八月、拉致されたフリージャーナリストが殺害された際もイラク駐留継続を表明している。
今回は突然の“方針転換”とも言えるが、今月四日、武装勢力に拉致されたイタリア人女性記者ジュリアナ・スグレーナさんが解放直後、米軍兵士に銃撃され、護衛のイタリア情報機関員一人が死亡した事件が大きく影響したようだ。
スグレーナさんと同じ日刊紙「イル・マニフェスト」の極東特派員ピオ・デミリア記者は「銃撃事件で国民の反米感情がピークに達し、首相の支持率も低迷している」と指摘する。「イラク派兵のばかばかしさが、一番明確な形で国民にも示された。一カ月ぶりに人質が解放されたとホッとした後、米軍に銃撃されるなんて漫画でしかない」
先月、スグレーナさんの解放を求めるローマのデモには、AFPによると約五十万人が参加。国民の関心が高い分、銃撃事件による国内の反響は大きかった。
それでも、デミリア氏は「国民の意思と政府の政策は離反している。イタリア国民の八割は以前からイラク派兵に反対の立場で、銃撃事件で構図が変わったわけではない」と解説する。
世論を“無視”できる首相の力の背景には「イタリア国内のすべてのテレビ会社を直接・間接的に実効支配している」(デミリア氏)事実がある。「イタリアでは一日中テレビをつけっぱなしの人が多く、首相の意向を受けた報道が強い影響力を持っている」
それでもイタリアの反戦デモには、日本では考えられないほどの人数が参加している。昨年六月、ブッシュ大統領のローマ訪問では約十五万人が、〇三年三月、ミラノでのデモには約七十万人が参加。同年二月にはローマ中心部に約百万人が集結した。「野党の市民運動ネットワークの力」(デミリア氏)だという。
デミリア氏は今回の首相発言について、「政策の変化は、機を見るに敏で戦略家の首相が任期満了に伴い来年に実施される総選挙向けに打ち上げたものだ」として、こう解説する。「銃撃事件と、事件を受けたデモなどを利用して、米国に対しても『国民感情を抑えきれない』という言い訳が通用する時期を狙った」
その選挙だが、デミリア氏は「来月の地方選挙は時間がなく、挽回(ばんかい)は不可能だろうが、総選挙では『段階的撤退による派兵のスケールダウン』を口にするだけで勝利が見込める。残念だが、ベルルスコーニ体制は当分続く」と予想する。
今回のイタリア軍撤退表明は、「有志連合」に影響を与えるのだろうか。
現在イラクには、自衛隊員約八百人を含め、二十九カ国、約十七万六千人(三月一日現在、外務省まとめ)が駐留している。
だが、すでに撤退を始めているオランダ軍のほか、共同通信などによると、ウクライナ(千六百人)も年末までには撤退を終え、ルーマニア(七百四十人)は六月末、ポーランド(千七百人)も年内には撤退する意向だ。パトロール帰りの兵士が今月四日、撃たれて死亡したブルガリア(四百五十人)でも、米軍による銃撃の可能性が高まり、イタリア同様に撤退させる方針が国防相により明らかにされた。これまでにスペイン、タイなど九カ国が撤退を終え、「有志連合」の一角がすでに崩れてきている。
小泉首相は十六日、「イタリアはイタリア。日本は日本です」と記者団の質問に答えたが、軍事評論家、神浦元彰氏は指摘する。「この一年で事態が大きく動き、いまや撤退論が主流になった。段階的ながらイタリアが撤退すれば、英国でさえも米国につきあえなくなる。予定される総選挙でブレア首相の労働党が負ける可能性が高まるからだ」
一方で、イタリア軍が実際に撤退した場合、自衛隊への影響はどうなのか。イタリア軍が駐留の拠点とする南部ナシリヤは、自衛隊が駐留するサマワと約百キロと近い。ナシリヤ南西のタリル基地(飛行場)からサマワまでの陸路は、自衛隊員や物資を運ぶルートだ。
中東調査会上席研究員の大野元裕氏は「ナシリヤはイスラム教シーア派強硬指導者のサドル師派民兵の勢力が強いが、昨年八月、サドル氏とシーア派最高権威のシスタニ師が停戦合意し、武装勢力が各国の駐留部隊を標的にする可能性は少なくなった。撤退の影響は直接はない。とはいえ、撤退の動きが強まる中で、駐留を続ける自衛隊の存在感は強まり、潜在的な危険は増すだろう」と分析する。
神浦氏も「イラクで米国を孤立させたい勢力にとって、自衛隊はますます標的になる」とみる。
今回の撤退表明が、自衛隊の派遣論議に与える影響について、国際政治経済情報誌「インサイドライン」の歳川隆雄編集長は「影響は出る」と言い切る。
「七月には都議会議員選挙があるが、与党公明党の支持母体創価学会の青年部、婦人部は、本音では一日も早い撤退を望んでいるともいわれる。小泉首相も撤収議論に無関心ではいられないはず。現実性は低いが、イラクで多国籍軍統治が始まって一年になる『六月に自衛隊は撤退する』というサプライズ説も政界を中心に根強くある」
神浦氏は「陸自の制服組から『サマワに駐留して一年以上、一発の銃弾も撃っていないことが誇りだ』と聞いたが、裏返せば『自分たちが犠牲になるまで撤退できないのか』という怒りがある」としたうえで、提言する。「例えば、新たに自衛隊の宿営地に着弾すれば一時的にでも撤退すると決められないか。治安が不安定になる可能性が否定できない中で、小泉政権には、早急に出口を明らかにする責任があるはずだ」
前出のデミリア氏は、今回の撤退表明が米伊関係に与える影響について、「ベルルスコーニ首相は段階的撤退を明言しただけで、『完全撤退』ではないのがミソだ。親米路線は変わらないだろう。総選挙で勝ったあと、撤退計画を白紙に戻す可能性もある」と危ぐしたうえで、こう指摘した。
「イタリアが実際に段階的に撤退した場合、米国の日本への期待感がより高まる。自衛隊はイラクに縛り付けられ撤退しにくくなる。ベルルスコーニ首相は親米だが、小泉首相より米国からの“独立度”は高い」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050318/mng_____tokuho__000.shtml