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スーダンPKOは必要か(東京新聞 こちら特報部)
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投稿者 天木ファン 日時 2005 年 4 月 03 日 11:18:20: 2nLReFHhGZ7P6

◇スーダンPKOは必要か

  自衛隊の参加に疑問符  理事国入り 鼻先にニンジン
 
 アフリカのスーダン。日本人には、なじみの薄い国だ。国連安全保障理事会は先月二十四日、この国へ国連平和維持活動(PKO)部隊の派遣を決めた。国連は日本にも参加を要請し、今月中にも政府方針が明らかになる。政府にとって無視し難いのは「安保理常任理事国入り」というニンジンだ。しかし、最近も現地を訪れた千葉大学の栗田禎子教授は派遣の必要性に疑問を呈する。 (田原拓治)

 先月八日。政府は外務省の中前隆博国際平和協力室長や内閣府国際平和協力本部の職員ら三人をスーダンに派遣した。PKO派遣の判断に向けた現地視察だ。

 同じ日、ゲエノ国連事務次長は首相官邸に細田官房長官を訪ね、「(日本の常任理事国入りの前提となる)安保理拡大には議論はあるものの、PKO協力は良いメッセージになる」と日本に対し、参加を促した。

 にわかにクローズアップされてきた今回のPKOの任務とは何か。スーダン情勢は複雑だが、同国は二つの内戦を抱えてきた。

 一つは一九八三年から始まり、二百万人が犠牲になった南部紛争で、ことし一月に終結した。もう一つは政府系民兵と反政府派が戦闘を繰り広げる西部ダルフール地方の紛争で、十数万人の死亡説が流れる中、これは現在も続いている。

 このうち、今回の対象は前者の南部紛争だ。主要任務は緩衝地帯の駐留や武装解除の監視で、自衛隊が派遣された場合、初の国連平和維持軍(PKF)本体業務への参加が予想される。

 防衛庁は慎重だが、積極派はPKO派遣が常任理事国入りへプラスになると読む。アフリカは国連で五十三カ国を抱える大票田だ。先の国連事務次長の言葉は暗に「取引」にすら映る。

■最大の問題は地域間の格差

 しかし、そうした政治的動機から離れ、現地からみた場合、一万人規模とされる外国軍部隊の派遣は実際に必要なのだろうか。

 スーダンの南部紛争は一般には、イスラム教の中央政府と南部のキリスト教住民の対立とみられてきた。だが、日本では数少ないスーダンの研究者である千葉大の栗田禎子教授(中東北アフリカ現代史)は「英国植民地時代の傷を引きずった地域的な開発格差が紛争の主因だ」と語る。

 「植民地時代の開発政策の結果、首都と青・白の両ナイル川に挟まれた中央地域のみが突出して発展し、独立後の各政権もその基盤を受け継いできた。この中央と地方という地域格差が最大の問題だ。さらに南部紛争は(南部を中心とする武装勢力)スーダン人民解放運動(SPLM)と政府の対立と単純化できない。なぜなら、SPLMは南部以外の野党、民主化勢力と一体となり独裁政権と戦ってきたからだ」


◇大規模派遣恐れる市民

  第2のイラクになるのでは… 
    部族均衡崩す海外介入 国内の民主化見守れ

 二十一年間に及ぶ内戦は双方が決定的な力を欠く「弱さの均衡」から、一月の包括和平合意で終結した。合意には、南部の石油収入の等分配分、現在のバシル大統領の決定への拒否権を持つ副大統領ポストにSPLMのジョン・ガラン大佐が就任すること、南部地域の自決権をめぐる二〇一一年の住民投票の実施、などが盛り込まれた。

 栗田氏はこの和平合意について「現政権とSPLMの二者間の手打ちで、現政権への抵抗運動をSPLMと担ってきた他の諸勢力には不満がある。さらに今後は南北で、両者がそれぞれ独裁化していく懸念もある」と問題点を指摘する。

 しかし、その一方で「戦闘の中核だった政府とSPLMが政権をつくる以上、紛争再燃の危険性は短期的には薄い。実際、和平合意でも多人数のPKF派遣は求めておらず、モニタリング程度で十分」とみる。

 南部紛争の沈静化の一方で、深刻なのは国連のアナン事務総長が「地獄に近いことが起きてきた」と形容する西部ダルフール地方の紛争だ。同紛争では、これまでに約三十万人が死亡、二百五十万人が難民化しているという。安保理は先月三十一日、住民虐殺など残虐行為を行った政府系民兵(ジャンジャウィード、「カラシニコフ銃で武装した悪魔の騎兵」の意)ら関係者を国際刑事裁判所に訴追する決議案を採択した。

 スーダン政府は「アラブ系遊牧民と黒人農民の対立」と説いているが、栗田氏は「これは問題のすり替えで、本質は地域の経済格差にある」とし、低開発周辺部の反発を政府が弾圧しているのが現実とみる。

■南部の和平が紛争激化招く

 国軍が直接ではなく、民兵を支援する形で反政府派を弾圧する背景には、国軍には多くの同地方出身者がいるからだという。ただ、この紛争の激化には皮肉にも南部の和平機運が刺激した側面もあったという。

 「南部紛争では、油田が絡むこともあって国際社会が注目し、それが最終的に政府が譲歩して南部へ富や権力を分配する形で決着した。そうならば、われわれも、という意識がダルフールの反政府派にはある」

 低開発地域の住民の権利要求が活発化し、これを政府が弾圧するという現象は最近、同国東部(紅海沿岸部)でも起きた。同様の火種は国内全域に存在する。

 それゆえ、栗田氏は「海外からの介入よりも、スーダン人自身による民主化の流れの中でしか問題は解決されない」と強調する。和平合意を政府とSPLMだけでなく、全政治勢力が加わる包括的プロセスに発展させる必要があるという。

 栗田氏は今回、ことし一月下旬から約一カ月間、同国を再訪したが、大規模PKF派遣に対し、北部の一般市民の間では歓迎よりも不安が色濃かったという。

 「あまりに大規模で、何の脅威から守るのかという素朴な不信があった。スーダンが(外国軍の占領下にある)第二のイラクにされるのではないか、再び植民地化されまいか、といった不安の声すら出ていた」

 さらに南部側でも、SPLMの中核であるディンカ族に反発する諸部族から「SPLMに味方するPKF」という解釈で、部族の均衡を崩しかねないとの懸念が漏れていたという。

 こうした現状から、栗田氏は「南部紛争でのPKF派遣の必要性は薄く、むしろ有害。自衛隊も行くことはない」と判断する。「スーダンとイラクでは、状況が異なる。南部紛争では、すでに当事者が新政府をつくることで合意している」

■地雷撤去など資金援助先決

 それより、必要なのはインフラ整備や医療、地雷除去などへの資金援助だという。日本政府も本年度から九二年以来、原則停止してきた対スーダン政府開発援助(ODA)を再開する。

 「二、三年、資金投入すれば、あとは石油もあり、自ら軌道に乗るはずだ。何回もの革命も、スーダン人の民度の高さを示している。彼らの自己回復力を見くびってはいけない」

 ◇メモ <スーダン>

 面積は日本の約7倍でアフリカ最大。人口は3700万人。言語は主要なものだけで30を数える。1956年の独立後も政府転覆、内戦が繰り返されてきたが、ことし1月、二つの内戦のうち、南部紛争の内戦が終結した。現状は貧しいが、2005年末には日量50万バレルの生産が見込まれている原油をはじめ、鉄、銅、金など鉱物資源は豊富。肥よくな大地も広がっており、かつては「アフリカのパンかご」とも呼ばれた。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050403/mng_____tokuho__000.shtml


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