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第2期ブッシュ政権を読む
要職固め、増すタカ派色
二期目に入ったブッシュ米大統領の初外遊として準備された欧州歴訪が二十六日、終わった。ライス国務長官の欧州・中東歴訪と併せ、米欧関係を悪化させた一期目の単独行動主義から「協調路線への転換」との評価がある。だが、第二期政権の人事、機構改革を検証すると、ブッシュ政権のタカ派色は一段と増しているようだ。 (田原拓治)
■欧州と関係修復 大統領らが訴え
「(米欧関係の)新たな一章を開くべきだ」。今月八日、パリ政治学院での講演で、ライス国務長官はフランスの要人たちにこう呼びかけた。イラク戦争をめぐり対立を深めた米国とフランス。第一期政権の大統領補佐官当時、「フランスを罰し、ドイツは無視…」と攻撃した当人の言葉だけに関心を集めた。
ブッシュ大統領も歴訪中の二十一日、ブリュッセルでの外交演説で、欧州に「過去の論争は消え去り…結束の新たな時代を迎えよう」と語りかけた。就任演説では、第一期政権で使った「悪の枢軸」を「圧政国家」に言い換えるなど、単独行動主義からの転換をうかがわせた。
フランス、ドイツを「古い欧州」とやゆしたラムズフェルド国防長官も負けていない。最近「あれは古いラムズフェルドの口から出た言葉」と弁明した。
欧州との関係修復を前面に出すブッシュ政権。世界は戸惑いつつ、歓迎している。では、先制攻撃戦略を掲げるネオコン(新保守主義派)や宗教右派といったタカ派が、孤立を懸念したパウエル前国務長官やアーミテージ前国務副長官を圧倒した第一期政権の強硬路線は捨て去られたのか。
それを測る一つの尺度は新政権の人事だ。
ネオコンの牙城である国防総省は、イラク政策を切り回したとされるファイス次官が今夏、辞任の意向とされる一方、軍事強硬派のラムズフェルド長官、ネオコンのウルフォウィッツ副長官ら重鎮は留任した。
■幹部総替え、国務省は強硬派就任
問題は幹部が総入れ替えした国務省だ。長官、副長官のほか、ナンバー3だったネオコンのボルトン次官が辞任。同次官の辞任でハト派化が期待できるとの指摘はあるが、副長官にロバート・ゼーリック氏、次官にはロバート・ジョセフ氏が就任している。
ライス長官について「優等生で、自らのポリシーは薄い」(米国研究者)という評価が根強い。そのせいか、もともと現実主義だったが、ブッシュ政権ではタカ派に変身している。
一方、ゼーリック氏はネオコンに近いタカ派だ。共和党の軍事強硬派とネオコンのタカ派集団である「アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)」の一員として一九九八年、当時のクリントン政権にフセイン政権排除の書簡を出した。
ジョセフ氏はネオコンの一人。二〇〇三年一月の大統領一般教書演説に「英政府はサダム・フセインが最近、アフリカから相当量のウランを入手しようとした事実を突き止めた」(後にでっち上げと判明)を書き加えさせた。ネオコン系シンクタンク「国家公共政策研究所(NIPP)」のメンバーとして「使える小型核兵器」導入の推進を訴えていることでも知られる。
差し引き計算すると、国務省は「パウエルチーム」に比べ、タカ派色が増すことは人事面で疑いない。
その傾向はほかでもみられる。司法長官には二月、宗教右派でタカ派のアシュクロフト氏の後任に、アルベルト・ゴンザレス氏が就任した。アフガン戦争の捕虜などを収容したグアンタナモ刑務所での人権侵害問題で「(米国の)戦争犯罪法、(戦争捕虜の扱いなどを定めた)ジュネーブ条約など無視できる」と大統領に具申した人物だ。
ホワイトハウスでも、イスラエルのシャロン右派政権と一心同体で生粋のネオコン、エリオット・エーブラムス国家安全保障会議上級部長(中東・北アフリカ担当)が、大統領副補佐官(国際民主化戦略担当)に昇進した。
エーブラムス氏を有名にしたのは、八〇年代米国最大の政治スキャンダル「イラン・コントラ事件」への関与だ。ネオコンが裏工作に奔走した事件だったが、同氏は偽証罪で有罪判決を受け、その後、父ブッシュ大統領に恩赦された。
同事件に関与したネオコン系人物が、昨年十二月に新設された国家情報長官の初代長官に指名された。ジョン・ネグロポンテ氏(前駐イラク大使)だ。この事件当時は、ニカラグア左翼政権への攻撃拠点だった隣国ホンジュラスの米国大使で、ニカラグアの右派ゲリラ支援、国内で拷問や虐殺を繰り返したホンジュラス秘密部隊の訓練、支援を根回ししていた。
■機構改革、強まる統制
国家情報長官は十五の情報機関を統括するポスト。表向き「縦割りの壁をなくす」目的の大改革だが、中央情報局(CIA)に二十七年間在籍した元幹部レイ・マクギャバン氏はネット上で、こう懸念する。
「市民的自由を守り、情報の精度を保つ観点から、情報機関は相互に独立していた方がよい。現に連邦捜査局(FBI)がグアンタナモ事件を報告したのは、憲法上の人権保護に抵触しかねないためだった。今回の改革によって、そうした面が失われかねない」
■秘密情報機関や徴兵制復活論も
文民統制の欠如、情報操作の問題はすでに浮上している。一月二十二日付の米紙ワシントン・ポストは、二年前から国防総省に「戦略支援局(SSB)」という新情報機関が秘密裏に新設されていたと報じた。狙いは議会の監視下にあるCIAへの全面依存をぬぐうため、と指摘されている。
また、米誌ニューヨーカーの著名記者シーモア・ハーシュ氏はイラン核疑惑問題で「米軍特殊部隊は昨夏以来、イランに潜入している。CIAの海外秘密活動を制限する法を回避するため、大統領は軍事作戦の一環としてこれを認めた」と報告している。
加えて、七三年に廃止された徴兵制復活の動きも始まった。昨年暮れにイラクに派遣された退役陸軍将校の「兵員は酷使され、壊れかけている」という報告に基づき、前出のPNACは一月二十八日、「陸軍、海兵隊は今後、数年にわたって年間二万五千人ずつ兵力を増強する必要がある」と下院に提言書を出した。
米軍は志願制だが、募集数割れが続いており、増強策は間接的に徴兵制復活を意味する。ブレジンスキー元大統領補佐官(カーター政権)らは「イラクに民主主義と安定をもたらし、米国の信用を回復するには、たぶん徴兵制復活も必要」と後押しする。議会では法案提出の動きもある。
二〇〇三年初頭にも似た動きがあったが、当時は米軍のハイテク化を進めるラムズフェルド国防長官自ら「必要なし」と拒んだ。だが、同長官が後見人を務めているPNACの提言だけに、今回は重みが違う。
一連の人事、機構改革をみると、第二期政権がみせる「協調」は「ハト派化」と同義語ではないとみておくのがよさそうだ。
事実、ライス長官の歴訪でも、米国は温暖化防止の京都議定書、戦争犯罪人を裁く国際刑事裁判所(ICC)には背を向けた。中東訪問では、パレスチナ自治政府に対する治安部隊の訓練や政治改革面の協力は語ったが、肝心の領土や国家には言及せず、懸案事項への対応は不変だ。レーガン政権の対ソ姿勢にみられた第一期と第二期の様変わりは、期待薄のようだ。
<メモ>イラン・コントラ事件
米国が85年から86年にかけて、イスラエルの要請を受け、イラクと戦争中のイランへ違法売却した武器の代金を、中米ニカラグアの反政府武装組織コントラへの秘密援助資金にしていた事件。ニカラグアでは79年、サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)がソモサ独裁政権を打倒、82年にホンジュラス国境から反FSLNのコントラが政権転覆の攻撃を始め、当時は内戦化していた。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050301/mng_____tokuho__000.shtml