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(回答先: アウシュビッツ「ガス室の嘘」維持によってパレスチナの悲劇が続くのである。 投稿者 木村愛二 日時 2005 年 1 月 25 日 14:36:02)
欧州における反ユダヤ主義とイスラエルの関係を、
’風が吹けば桶屋が・・’式に論じた左派アクティビスト、
ユダヤ系カナダ人ナオミ・クライン氏の寄稿。
転載開始
http://www.k2.dion.ne.jp/~rur55/J/Others/klein-sharon.htm
パレスチナの国際連帯運動には、ジョゼ・ボヴェなどいわゆる反グローバリゼーション運動の活動家たちが多く参加していました。この人々が「人間の盾」として命がけで派手な行動をとったことがメディアの注目を引き、占領の現実を世界の人々に知らしめるのに大いに貢献しました。今年4月20日にワシントンDCで合衆国では9.11以降最大の反戦デモが開催され、「パレスチナ民衆との連帯」が中心に据えられるという画期的な事件が起こったことにも繋がっています。
しかし、同時期にフランス大統領選挙で極右ファシストのルペンが左派のジョスパン首相を抜いて第二位に浮上したことが「激震」として報道されました。これはアラブ系を中心とした大量移民流入への反感の高まりを背景にネオナチが台頭したもので、反ユダヤ主義の再燃というよりは反アラブ偏見のたかまりという色彩の濃いものです。にもかかわらず、ネオナチ政党の躍進は世界のユダヤ人の不安をかきたてるに十分な材料であり、シャロンは着実にそれを利用して反ユダヤ主義の台頭を喧伝しています。ユダヤ人のあいだに根強くのこる反ユダヤ主義再燃への恐怖がシャロンの最強の武器であると、ナオミ・クラインは論じています。
クラインは、ウォーデン・ベローも絶賛したベストセラー『NoLogo』(邦訳『ブランドなんかいらない』 はまの書店)によって一躍反グローバリゼーション運動のホープと目されるようになった人物です。彼女については、公共空間の縮小やカウンターカルチャーの後退という文脈でとりあげようと思っていたのですが、はからずもネオナチと反グローバリゼーション運動の関係で登場することになってしまいました。ユダヤ系カナダ人である彼女の発言は、このねじれた関係を考えてみる格好の材料と思われるからです。
反グローバリゼーション運動の行動主義は注目に値しますが、インターネットを通じた脱中心的な連帯の形式は画期的であると同時に多くの矛盾もはらんでいるようです。それを端的に示す例が、このファシスト勢力との関係です。ルペンの選挙での主張は、資本や労働力の自由な移動に反対し、フランスは欧州連合から離脱すべきだ、フランス文化をアメリカの侵略から守るべきだというものです。表面の主張だけみれば、反グローバリゼーション運動と同じです。通貨統合への参加の是非をめぐって国論が二分してきたイギリスでは、じっさいにファシストとグリーンが同じサイドに立つという現象がおこっています。中心教義のない行動中心主義の運動が、このような勢力とどのように自らを区別していくのでしょうか。
シャロンの最強兵器
Sharon's Best Weapon
ナオミ・クライン The Globe and Mail 2002年4月24日
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Eメールでの通信によって、先週末ワシントンDCで、これまでにない事態が起こっていたことを知った[注1]。世界銀行と国際通貨基金(IMF)に反対するデモと反戦デモが合流し、さらにそこにイスラエルのパレスチナ占領に反対する運動が加わった。これら全てが合体した結果、主催者側の表現によれば、パレスチナ人との連帯を掲げるデモとしては合衆国で過去最大のものが実現した。参加者は警察発表で7万5千人である。
日曜の晩、この歴史的な大衆抗議行動を一目見ようとテレビをつけると、そこには別のものが映っていた。ジャンマリー・ルペンが、フランスで二番目に人気のある政治家になったことを誇らしげに祝っている[注2]。街頭行動で示された新しい連帯は、この新たな脅威にも立ち向かうことができるのだろうかという疑問が、その時から頭を離れない。
イスラエルの占領も企業主導のグローバリゼーションも共に批判対象としてきたわたしにとっては、先週末ワシントンで実現したようなことはとっくの昔に起こってしかるべきだった。「反グローバリゼーション」というような安易なレッテルを貼られてはいるが、過去3年続いてきた通商貿易に関する抗議運動はすべて自己決定にかかわるものだった。世界中の人々がみな、自分たちが一番良いと思ったように社会や経済の仕組みを決めていく権利である。ここには、ブラジルでの土地改革も、インドでの安価なAIDS治療薬の生産も、パレスチナで占領に抵抗することも含まれる。何百人ものグローバリゼーション活動家がラーマッラーに結集し、「人間の盾」としてイスラエルの戦車とパレスチナ人のあいだに割って入ったのは、通商サミットの外側で発達した理論を具体的な行動に移したものであった。その果敢な精神を、中東政策の多くが決定されるワシントンDCに持ち帰ることは、次のステップとして当然のことだった。
だが、勝ち誇って両手を掲げるルペンをテレビで見たとき、わたしの高揚した気持ちには冷水が浴びせられた。フランスのファシズムとワシントンの「パレスチナ解放」行進のあいだには何の関係もない(実際、ルペン支持者がユダヤ人より嫌っている唯一の民族はアラブだろう)。それでも、わたしは最近のできごとをふり返ってみざるをえなかった。わたしが参加した場で、ムスリムへの反感による暴行が非難されたり(正当なことだ)、アリエル・シャロンが攻撃されたり(当然の報い)するような場面はあったが、そこではユダヤ人のシナゴーグや墓地やコミュニティー・センターへの攻撃についての言及はなかった。あるいは、「オープン・パブリッシング」を行なっているIndymedia.orgのようなアクティビストのニュース・サイトにログオンすれば、必ずと言っていいほど、9.11事件がユダヤ人の陰謀だったとする説や『シオン長老の議定書』[注3]の抜粋などに出くわすことになる。
グローバリゼーション運動は反ユダヤ主義ではない。ただ、中東紛争に飛び込むことがどういう影響をもたらすかについて、まだはっきり自覚していないだけなのだ。左派の大多数はどちらに与するかを選んでいるだけである。中東においては、一方が占領下におかれ、他方は合衆国の軍事的な後押しを受けていることから、どちらを選択するかはおのずと決まってくる。しかし、反ユダヤ主義を強く非難しながら、同時にイスラエルも批判することは可能である。また同様に、「親パレスチナ・反イスラエル」という単純な二項対立(ジョージ・W・ブッシュ大統領が大好きな「善と悪」の公式のミラー・イメージだ)に走ることなく、パレスチナの独立を支持することは不可能ではない。
ジェニーンでは今も遺体が掘り出されているというのに、なにゆえ今このような微妙な点にこだわるというのか?それは、ルペン流のファシズムやシャロン流の残忍さに対抗しようとする者はみな、反ユダヤ主義の現実に正面から向き合わざるをえないからである。
ユダヤ人への憎しみはヨーロッパの右派にとってもイスラエルの右派にとっても効果的な政治上の道具である。ルペン氏にとって、反ユダヤ主義はまさに棚ぼたで、このおかげで支持率を一週間のうちに10パーセントから17パーセントまで引き上げることができた。
アリエル・シャロンにとっては、現実のものも想像のものも含め、反ユダヤ主義こそが武器である。シャロン氏は、テロリストには毅然と立ち向かい、恐れてなどいないことを示すのだと、好んで発言する。だが実際には、彼の政策は恐怖によって突き動かされている。彼の素晴らしい才能は、ユダヤ人がホロコーストの再現に抱く根源的な恐怖の強さをじゅうぶんに理解していることだ。ユダヤ人が抱く反ユダヤ主義への不安と、アメリカ人が抱くテロリズムへの不安を、同じものとして並べる術を彼は知っている。そして、こうしたものを自己の政治目的のために利用することにおいては熟練家である。シャロン氏が拠り所にしている恐怖(侵略行使を防衛措置だと言い張ることと可能にするもの)とは、イスラエルの隣人たちがユダヤ人を追い込んで海に放り出したがっているという恐怖である。シャロン氏が手玉に取る第二の恐怖は、イスラエル国外に離散しているユダヤ人が抱く、いずれイスラエルに避難場所を求めねばならぬ時がくるかもしれないという恐怖である。この恐怖が、世界に散在する数百万のユダヤ人を(その多くはイスラエルの侵略に食傷しているのだが)沈黙させ、さらには将来の避難所を確保するための手付金としてイスラエルに送金させるのである。
方程式は単純だ。ユダヤ人が恐怖感にとらわれていればいるほど、シャロンの権力は増大する。「安全を通じた和平」という公約を掲げて当選したシャロン政権は、ルペンの大躍進に喜んでいることを丸出にして、ただちにフランスのユダヤ人に対し、荷物をまとめて約束の地(イスラエル)へ来るようにと呼びかけた。
シャロンにとって、ユダヤ人の恐怖は野放しの権力を保証するものである。これによって彼は、パレスチナ自治政府の教育省に軍隊を派遣して記録を盗み、破壊し、子供たちを家屋の中で生き埋めにし、瀕死の患者の所に向かう救急車を差し止めるなど、およそ想像を超えた行為を、罪に問われることなく、やりおおせる。
イスラエルの外に住むユダヤ人たちは、自分たちの将来の安全を保証してくれるはずの国家に現在の安全を脅かされているという困った状況に置かれている。シャロンは自分の戦いはイスラエルの領土のためではなく、ユダヤ人の存続のためだと主張して、「ユダヤ人」という言葉と「イスラエル」というの言葉の区別を意図的に消し去ろうとする。少なくとも部分的には彼の行為の結果として反ユダヤ主義が台頭したとしても、それによって政治的な利益を得るのはシャロンなのである。
効果はてきめんで、たいていのユダヤ人は怯えるあまり、イスラエルの政策を擁護するためなら何でもするつもりになっている。わたしの近所のシナゴーグでは、最近不審火によってひどく外観が損なわれたが、その入り口の標識には、「シャロンの役立たず」と書くかわりに、「イスラエルに支援を…今こそ、いっそうの」と書いてある。
抜け道はある。なにものも反ユダヤ主義を根絶させることはできないだろうが、様々な立場のあるユダヤ人とイスラエル国家の行為とあいだに区別を設けよというキャンペーンを行なえば、ユダヤ人はイスラエルの中でも外でも少しは安全になるだろう。ここにおいて、国際連帯運動が重要な役割を担うことができる。すでに、グローバリゼーション活動家とイスラエルの「拒否者」たち(占領地での兵役義務を拒絶している人々)との同盟は成立している。また、土曜日[4月20日]の抗議行動でもっとも強烈な印象を与えたシーンは、ラビ(ユダヤ教指導者)たちがパレスチナ人と並んで行進しているところだった。
でも、それだけでは不充分だ。社会正義をめざす活動家には、ユダヤ人たちはすでに合衆国政府とイスラエル政府に強力な支持者を得ているのだから、反ユダヤ主義は当面の闘争目標に含める必要はないと判断することは容易だろう。だが、それはすでに間違いだ。反ユダヤ主義がシャロン氏のような人々に利用されているからこそ、それに反対する運動も復活させなければならない。
反ユダヤ主義が、もはや一般のユダヤ人の知ったことではなく、イスラエルやシオニスト・ロビーが引き受けるべきものだと扱われるようになれば、シャロン氏は、次第に暴虐となり弁解の余地のない占領継続において、最強の武器を失うことになる。しかも、それにはおまけがついてくる。ユダヤ人への憎悪が退潮したときには常に、ジャンマリー・ルペンのような人物もそれと一緒に力を失うものである。 (2002年7月20日翻訳)
(初出はThe Globe and Mail.だが、その後GardianやIn These Times などにも掲載された)
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注1 2002年4月20日のワシントンにおける反戦平和行動のこと。ANSWERとUWM連合という二大反戦グループが合流したことで大規模なものになった。反戦、反グローバリゼーション運動とパレスチナとの連帯運動が結びついたことで、画期的な歴史的意義をもった。詳細はここ http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Palestine/AntiOccupation16.htm <戻る>
注2 4月21日のフランス大統領選挙で、極右政党「国民戦線」のルペン党首が社会党のジョスパン首相を破り、第一位の保守派現職大統領シラクの対立候補として決選投票に望むことになった <戻る>
注3 ユダヤ人が世界征服のための陰謀をしるした秘密文書として流布されたが、実際はロシア秘密警察によって捏造された反ユダヤ文書 <戻る>
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