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特報
2005.01.20
NHKの『政治報道』姿勢とは
NHKの特集番組への「政治の介入」問題は、それを報道した朝日新聞とNHKとの“バトル”になってきた。NHKは政治報道に力を入れている。その取材力では定評がある。海老沢勝二会長をはじめ、幹部にも政治部出身がそろう。だが、今回の騒動は、メディアの政治との「距離」が問われている。政治と正面から向き合うNHK「政治報道」の姿勢とは−。
「とにかく政治家のどんな取材にも同行する。担当した政治家の『一番の側近』を目指すのが、NHK政治部記者」
大手紙のある政治部記者は、NHKの記者をこう評した。NHKの政治報道への意気込みは相当なものだ。選挙報道や国会中継をはじめ政府、各省庁、政治家の動向を細大漏らさず取材している。
それだけの態勢で集めた情報だが、それを視聴者に伝える報道となると事情は変わってくるようだ。
「取材した一部しか報道していないんじゃないか。報道のためというよりNHKの組織維持のためだ」と話すのはあるNHK記者だ。
■特殊法人として特別な情報集め
「新聞と違い、NHKは総務省の放送許認可が必要で、さらに国会の予算承認を得なければならない。そこに政治圧力に弱い体質がでてくる。最後は多数決の国会だから、必然的に与党の自民に近づこうとする」
実際ある全国紙政治部記者は「NHKの政治部記者はその予算時期になると、総務省でわれわれとは違う種類の情報を集めている。大変だねえと話しかけたら『うちは特殊法人だからしょうがない』と言っていた」と振り返る。
大手紙の別の政治部記者も「政治家の取材は早朝から、深夜十二時を回っても続く。そうした現場で最も取材しているのがNHKの記者」と評価しながら、一方で「最も書かないのもNHKの記者ではないか。観測記事は出さないと思っているから、政治家もNHKに対しては気を許して情報を出しやすい」と話す。
政治家寄りどころか、一心同体ではないかという事件も発覚した。五年前、森喜朗首相(当時)の「神の国」発言をめぐり、その釈明会見の「指南書」が内閣記者会で見つかった。NHK側は否定しているが、NHK記者が書いたのではとうわさされた。
前出のNHK記者はこうあきれる。「政治部の同僚が『われわれはある意味、議員や派閥と一緒になって権力闘争に参加している。そうでなければ政治部記者ではない』と話したのを聞いて、がく然とした」
元NHK政治部記者で椙山女学園大学の川崎泰資教授(ジャーナリズム論)は「一部の政治部記者は、自民党の政治家と一心同体という姿勢をとっている」と全体ではないと指摘するが、その一部記者は「情報を得ながら報道せず、“身内”に成り下がっている。その方が、海老沢体制では組織内で出世できるからだ。そんな出世構造を変えない限り、ジャーナリストではない“記者”がはびこる」と構造的な問題を指摘する。
元NHK番組審議員で夙川学院短期大学の河内厚郎教授は「NHKの政治記者を個々にみると、朝日新聞と似たリベラルな記者が多い。ところが、上部の政治判断で(組織が求める方向に)軌道修正される」と組織体質を問題視する。
立教大学の服部孝章教授(メディア法)も「NHKは政治部閥が主導権を握っている。政治部と他部署間には大きな壁があり、人事交流もない。政治部OBの海老沢会長が仕切ることで、政治部が大きな力を持っている」と同意見だ。
大手紙のベテラン政治部記者は「自民党一党支配の時代には、NHKの政治部記者は主要議員の言うことをいかに聞き、NHKの意向をいかに聞かせるか、という関係づくりにいそしんだ。いわば政治家のお守り役が大事な仕事という印象だった」とNHKを見る周りの認識は一致している。
一心同体ぶりが度を過ぎると問題も起こる。先のNHK記者は「消費税が導入された直後の一九八九年参院選で、街頭インタビューしたら政府批判ばかりで、それ以降、選挙前の街頭インタビューは禁止された。ロッキード事件裁判で、田中角栄氏への一審判決が出た八三年には、この問題を追及していた三木武夫氏への取材も企画されたが、政治部側の意向で中止になったと聞いた」と明かす。
■多数政党に近いニュースばかり
こういった姿勢は画面にも現れる。服部教授は「政治部のニュースは多数政党(自民党)に近い立場の内容ばかりだ。自民党政権を維持することで、NHK組織の安泰を図る意図が見える」と分析する。さらに今回の問題でも、「NHK番組では朝日新聞の主張を伝えず、NHKだけ見ていると、事件の全体像が見えない。報道姿勢が一般国民に向いていないからだ。公共放送を標ぼうする説得力がない」と分析する。
NHKは日本放送協会番組基準で「政治上の諸問題は公正に取り扱う」と表明している。これも先のNHK記者は「与党など特定勢力を批判しない理由にすり替えている」と憤る。
前出のベテラン政治部記者も「だから、自民党議員にとっても、NHKは自分たちのメディアだと受け止めているフシがある。一心同体の関係だから、番組への政治介入問題にしても、政治家は圧力をかけたとは思っていないはず」と説明する。
政治家側にも問題はあるようだ。ある民主党議員は、「NHKに対しては、政治の側も甘いのが現状だ」と打ち明ける。
「例えば、国会での国対委員長会談などではNHKが冒頭撮影に必ず入ってくれる。与野党問わず出席者の顔を一通り画面に映す。政治家にとっては、全国に流れるニュースに映ったことで格好の地元PRになる。NHKに映ってこそ政治家はなんぼだと、ある年代以上の議員は思っている」
同議員によると、NHKによる政治家へのサービスはこれにとどまらない。NHKのど自慢を地元選挙区に誘致したり、支援者向けに各種の歌謡ショーの入場券を確保する場合も、「政治部記者に言えば、融通してもらえることが多い」。
独自に情報を得ようと政治家に食い込む努力は、どのメディアでもしているだろう。人間関係から、知っても書けないこともある。その報道姿勢に疑問を持ったら新聞なら購読をやめられる。だが、NHKは「みなさまの受信料」で成り立っている。
川崎教授は「今回、政治介入を受けて番組内容を変えたとしたら、『自民党からお金を出してもらいなさいよ』という声が高まるだろう。こんな報道姿勢が続くなら、受信料不払いはより拡大する」と批判する。
放送評論家の志賀信夫氏はこう警鐘を鳴らす。
「現状ではNHKは、自主規制した結果、政治ニュースで何を伝えるべきか、という主体性が生まれない。政府・与党との強い関係は、長い間の習慣で出来上がったものだから、トップが辞めてもすぐ変わるものではないだろう。だが、受信料は番組の対価として視聴者が払っていることを自覚することが大事だ。政治家の顔ではなく、視聴者に向き合うことからしか政治報道も変われない」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050120/mng_____tokuho__000.shtml