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天木直人・メディア裏読み ( 2月3日) 「武士道」をありがたがる風潮
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投稿者 天木ファン 日時 2005 年 2 月 03 日 15:00:00: 2nLReFHhGZ7P6

2月3日 05年第24号 ◆ 「武士道」をありがたがる風潮
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◆ 「武士道」をありがたがる風潮
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◇◆ 「武士道」をありがたがる風潮 ◆◇
 
サマワに行った自衛隊の隊長が、正確な表現は忘れたが、日出ずる国から来たサムライが暗闇のイラクを照らしに来ました、などという意味のセリフを吐いたことが報じられていた事があった。この例を持ち出すまでもなく、最近の日本の風潮は、日本人の心のよりどころとして、「武士道」の教えがもてはやされている。そして巷の書店には、新渡戸稲造著の「武士道」の解説本が積まれている。私もそれを手にしてあらためて読んでみた。
「武士道」が教えるところ、すなわち「勇」、「仁」、「礼」、「誠」、「名誉」、「忠義」などの価値を掲げそれに向かって自己抑制や克己心を説くことは、一見すればもっともな様に見える。混迷の中で無信仰に生きる今の日本人の多くにとっては心のよりどころになるかもしれない。私自身もどちらかというと、物心がついたころからそのようなストイックな生き方に惹かれて自らを鍛えようと考えたりもした。

しかしである。「武士道」なるものが本当に日本人の総意としての価値になって定着しているのであろうか。いくら武家に育ったといえども武士でもない新渡戸稲造の書いた「武士道」とはなにか。(この点については、新渡戸自身が、ベルギーの法学者ラブレーに聞かれて、「日本人には宗教が無い」と即答した自分に愕然とし、それにかわる日本人の倫を、家庭内で交わした会話の中から整理したに過ぎないと認めている)。「武士道」にいう教えは何も日本に限ったものではなく普遍的なものではないのか。そして何よりもその「武士道」が、昨今の軍事を重視する風潮の再来の中で指導者が国民を誘導する道具に使われる恐れは無いのか。

そう思っていた矢先に、2月2日付の朝日新聞夕刊に、わが意を得たり、という記事があった。「武士の逆襲」(講談社現代新書)を書いた東京大学教授(倫理学・日本倫理思想)の菅野覚明氏(49)が次のように述べているのである。

「新渡戸稲造の語る武士道精神なるものは、武士の思想とは本質的に何の関係も無い」、「当事者としての武士を全く無視」、「新渡戸は近代を生きたキリスト者。明治維新によって武士の時代は終わり、武士は既にいない・・・キリスト教思想と同一である西欧の普遍的思想と日本をつなぐものとして、新渡戸は『武士道』の名を借りたのです・・・」。

では、本当の武士道とはどのようなものか。菅野さんは、「私」、「戦闘者」、「共同体」の三つのキーワードで説明する。古代律令国家による国家の軍事力の時代が終わり、10世紀に私的な戦闘者集団として組織されたのが武士の源流。明治維新まで続いた私兵らを支えた思想が武士道である。「近代国家のなかでの市民という考えに親しんでいる私たちには、ほとんど理解不能な思想だと思いますよ」

ではその武士道がなぜ今も私たちの心をとらえるのか。それは国民道徳思想の一つとして言い立てられた経緯があるからだ。明治15年(1882年)に発布された「軍人勅諭」の成立の検証で、菅野さんは、武士道が巧みに換骨奪胎される過程を見て取る。すなわち帝国軍隊の指導者たちは、本来の武士道の精神をたくみに排除し、国家の軍隊の統制を図る為、「本来の武士道」に代わる「大和心」を生み出したというのだ。
「・・・もし旧日本軍に武士道が正しく伝承されていたら、先の大戦のような壊滅的敗北は無かったと思う。武士道には戦争を終わらせる知恵も含まれていましたから・・・」
我々は本来の「武士道」の教えを今一度自らの手で考えてみるべきなのだ。

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