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「なぜ傷を消毒しているのか」を考えたことのある医者どれほどいるか?
新しい創傷治療から抜粋
消毒は必要なのか?
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医療現場で最も日常的に行われているのが消毒だ。医者の第一歩は「傷を消毒」することを学ぶことから始まるし,外科病棟の一日は「傷を消毒」することで始まる。まさに病院と消毒は切っても切れない間柄だ。
だが,消毒している医者に問うてみたい。あなたは何のために消毒しているのか,どんな効果を期待して消毒しているのか・・・と。
恐らく医者からは,次のような答えが返ってくるはずだ。
傷が化膿しないように消毒している。
傷が化膿しているから消毒している。
傷は消毒するものと決まっていて,疑問を持つ方がおかしい。
昔,先輩の医者に消毒しろといわれたので,それを守っているだけ。
断言してもいいが,これ以外の答えは返ってこないと思う。
というか,「なぜ傷を消毒しているのか」を考えたことのある医者の方が圧倒的に少ないはずだ。
しかし,本当に傷は消毒しないと化膿するのだろうか? 化膿した傷は消毒しないと治らないのだろうか?
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私がまだ駆け出しの医者だった頃,なぜ手術後に手術創を消毒するのか疑問に思ったことがある。
例えば大腸癌の術後を考えてみよう。癌は切除され,大腸同士を吻合し,腹膜や腹直筋鞘,そして皮膚を縫合して手術は終了する。次の日から毎日,回診のたびに腹部の縫合創を消毒するのが日課だ。研修医ならどうやって傷を消毒するか,先輩の医者から手取り足取り,教えてもらうはずだ。
「どういう理由で傷を消毒しているのか」については一切説明はないが,多分聞いたところで「傷が化膿しないように消毒する」という答えしか返ってこなかっただろう。
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しかし考えて欲しい。化膿されて怖いのはお腹を縫った傷ではなく,大腸吻合部だ。ここが化膿して傷が破れたら,お腹中,ウンコだらけ。重篤な腹膜炎が起こる。高齢者だったら命だって危ない。それほど危機的な情況になってしまう。
もしも,消毒が傷の化膿にそれほど重要であり,化膿防止に必要であれば,大腸吻合部をなぜ毎日消毒しないのだろうか? 消毒にそれほどの威力があったら,腹部の縫合部なんて放っておいて,大腸吻合部を消毒すべきだろう。それが科学的な医療ってもんだ。
もちろん,「そんな事言ったって,お腹の傷を毎日開くわけにいかないよ。大変だし非現実的だよ」,という反論も出るだろう。だが,大変だからしないと言うのは本末転倒。必要な医療行為だったらそれをするように工夫すべきだ・・・本当に必要だったら・・・。
しかも,この大腸吻合部は消毒していないだけでない。ウンコという大腸菌の塊が中を四六時中通っているのだ。つまり,ここは「消毒できない上に,大量の細菌が必ずいる」という「化膿」にとっては最悪(最善?)の状態にあるのだ。
しかし,通常の場合,大腸吻合部が感染(化膿)により縫合不全を起こすことは稀だ。つまり,消毒していないのに化膿しない。
じゃあ,消毒って何なんだ? 何のためにしているんだ?
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あるいは抜歯後の消毒。歯を抜いたあと,毎日のように歯科医院に通院し,口の中を消毒してもらうはずだが,消毒している歯科医たちはこの行為に空しさを感じていないだろうか?
何しろ,口の中なんて消毒したところで,消毒液なんてすぐに唾液で流されてしまう。何となく消毒しないと不安だけど,すぐ流されてしまうのがわかっていて消毒するのはすごく馬鹿らしくないだろうか?
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あるいは顔面外傷で「頬から口の中」までの長大な傷を受傷した患者がいて,苦労の末,傷を縫ったとしよう。もちろん,頬の傷は消毒できる。唇の傷も消毒できる。しかし,それがもっと奥(それこそ喉の奥まで)まで連続している場合はどうするのだろう? そこまで深い傷はどう頑張ってももう消毒できない。
この場合も,「頬は消毒できるが,口の中の奥にある傷は消毒できない」からという理由で,前者は消毒し,後者は消毒しないというのは論理的に不合理だ。
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要するに上記の例でわかる通り,術後の傷は消毒しても,消毒しなくても同じように治るのだ。ということは,消毒しなくても傷は治るということを意味している。しなくていいなら止めてしまったほうがいい。そっちの方が合理的で科学的だ。
つまり,消毒という行為とそれがもたらす結果についてちょっと考えてみると,「消毒の意味」がわからなくなってくる。消毒は昔から行われている行為であるが,「昔からしているから」以外にその意味を説明できなくなってしまう。
リスターはなぜ,消毒で創感染率を下げられたのか?
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次のような質問を受けた。
「外傷の消毒は不要」「消毒しても感染予防にはならない」と言うが,19世紀の半ば,手術創を消毒する事で感染率を劇的に下げたと言う事実と矛盾するのではないか?
もっともな疑問だと思う。この「消毒による術後敗血症の克服」の経緯については,かの名著『外科の夜明け』に詳しく書かれていて,私も何度も取り上げている。産婦人科医のゼンメルワイスが分娩の前に消毒薬で手を洗っただけで産褥熱が劇的に減少し,リスターが手術創や外傷の創を消毒薬の石炭酸で処置し,術後の敗血症による死亡が劇的に下がったのは紛れもない事実である。確かにこれだけ見ると,私の主張と矛盾しているように見える。
『外科の夜明け』を素直に読めば,「傷を消毒する事で感染率が下がった」となるはずだ。だが,事実はそれほど単純ではない。
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消毒薬として石炭酸は決して強力なものではなく,むしろ非力な消毒薬剤に過ぎない。だから現在,石炭酸は消毒薬業界の表舞台から姿を消している(現時点で石炭酸は,「陥入爪治療のフェノール法」で使われるくらいだろう。この場合の石炭酸は,消毒薬としてではなく,爪母を破壊する「組織破壊薬」として使われている)。
また,リスターの時代から,石炭酸で死なない細菌が多数いることは実験的にも証明されていて,より強力な消毒薬が開発されたのも,歴史的事実である。要するに,リスターの時代から石炭酸は殺菌力の弱い消毒薬として知られていたのである。
となると,たいして殺菌力のない石炭酸なのに,なぜ創感染率を下げる事ができたのか,と言う疑問が生じないだろうか。殺菌力の弱い消毒薬が劇的に創感染が低下させたという方がおかしくないだろうか。
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実は,感染率が下がったのは「石炭酸の殺菌効果」によるものではないのである。創感染率を下げたのは「石炭酸の殺菌力」ではなく,石炭酸で「洗った」ことによるのである。つまり,「傷を洗った」事が重要であり,洗うものは石炭酸でも水道水でも生理食塩水でもよかったのである。
これと同じ勘違いは「強酸性水による褥瘡洗浄の有効性」とか「カテキン水による褥瘡洗浄は効果的」と言う形で,今日でも健在である。いずれも「洗った」事が重要なのに,なぜか,強酸性水とかカテキンとか,「洗ったもの」にばかり興味が集中するのである。
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なぜこのような勘違いが生まれるかと言うと,医療関係者は基本的に薬とか薬効成分に弱いからである。薬効成分が明記されていると,それを盲目的に信じてしまうからである。
つまり,なにか治療上の効果が得られたら,それは薬の成分が含まれていたからと考えてしまうのだ。逆の言い方をすると,薬効成分を含まないものに治療効果があるはずない,と考えてしまうのだ。
だから,「石炭酸で洗ったから」効果があった,「強酸性水で洗ったから」効果があった,「消毒したから」治った,と考えてしまい,「石炭酸で洗った」から効果があるのであり,「普通の水で洗う」のは効果がないと考えてしまう。つまり「何で」洗ったらいいのか,ということしか考えなくなるのだ。
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これが「消毒による感染率の劇的低下」の真相ではないかと思っている。
(2003/10/30)
消毒薬の組織障害性 −消毒薬は毒!−
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まず,下の表を見て欲しい。消毒薬ポビドン・ヨード(商品名イソジン,ネオヨジン,マイクロシールド)のうち,イソジンの殺菌力と,細胞毒性を濃度ごとにまとめたものだ。なおこのデータは岩沢篤郎ほか. ポビドンヨード製剤の使用上の留意点. Infection Control, 11, 2002, 18-24 を参照した。
この論文ではポビドンヨード製剤間の殺菌効果の違い,細胞毒性の違いについて論じているが,最も日常的に多く使われているであろうイソジンのデータに着目してみた。
イソジンの濃度 細胞毒性 組織障害性
10% + +++
1% + +++
0.1% ++ ++
0.01% − +
イソジンの殺菌作用はヨウ素の酸化力によるものである。従ってその殺菌力は細菌にだけ有効なのではなく,生体細胞全般に分け隔てなく作用するのだ。従って,細菌を殺すことができれば,人間の細胞も殺すことができる。それが消毒薬だ。
また酸化作用がメインの機能であるだけに,細菌と何かの有機物が共存していれば,酸化力はその有機物にも発揮されることになり,この場合は当然,殺菌力は低下する(なお,クロルヘキシジンではこのような低下は起こらないようだ)。
ポビドンヨードの殺菌力は遊離ヨウ素の濃度に依存するため,最もヨウ素濃度が高くなる0.1%で最強の殺菌力を持つことになる。しかしこれはあくまでも試験管内のデータであり,上述のように有機物の存在で効力が失われるため,臨床の場では7.5〜10%の製剤が使われている(http://www.yoshida-pharm.com/text/05/5_2_2_1.html)。
また,上記の論文によると,ポビドンヨード製剤の細胞毒性ではヨウ素そのものの毒性とともに,添加されている界面活性剤などによる毒性も大きく関与しているらしい。
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と言うのを前提に,上述の表を見て欲しい。殺菌力のない0.01%のイソジンでも組織障害性を有していることがわかる。そして,通常使われている濃度では,非常に強い組織障害性を有していることもわかる。
これを踏まえ,「化膿している傷をイソジンで消毒」するという行為をもう一度考えてみる。当然,化膿している傷だから有機物だらけである。イソジンにとっては殺菌力を低下させるものばかりである。となると,膿だらけの傷,出血している傷では殺菌力はかなり低下していると考えざるを得ない。
しかし,殺菌力がなくなっても,添加物による細胞毒性は残存している。
となると,傷を消毒すると言う行為は,下手をすると,「味方を援護射撃しようとして,味方だけを選んで撃ち殺し,敵だけが残った」ということになりかねないのだ。これははっきり言って,かなり間抜けな状況であるし,本末転倒である。
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もちろん,傷は消毒しても治ることは治る(・・・消毒しないより時間はかかるが・・・)が,それは,「消毒という医者の妨害行動」を乗り越えて,なけなしの力で何とか治っているだけだ。医者の妨害にもめげず,生き残った細胞が健気に頑張った結果として治っただけだ。
創面を消毒するだけで,創面の大事な細胞は死んでしまうが,下手すると細菌だけは残っている」ことを医師は銘記すべきだと思う。
ここではイソジンを例に出したが(何しろ,日本で一番たくさん使われている消毒薬ですから,代表例として例に出すのは当然でしょう),その他の消毒薬でも事情は恐らく同じだろう。「細菌だけ殺すが,創面の人間の細胞だけは殺さない」という消毒薬があれば理想かもしれないが,その作用機序から考えてもまず無理だろう。
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「そんなことを言ったって,傷にばい菌がいたら化膿するんじゃないの? 組織障害性があろうとあるまいと,ばい菌が除去できればいいんじゃないの?」という反論も当然あると思う。しかしこれが大間違い。創面に細菌がいるだけでは化膿しないのである。
すなわち,創感染にとって細菌の存在は必要条件であるが十分条件ではないのだ。創感染が成立するためには,細菌と異物・壊死組織が混在していることが必要なのである。
(2002/08/30)
クロルヘキシジンによるアナフィラキシーショック
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日本形成外科学会雑誌にクロルヘキシジン(ヒビテンとかマスキンなどですね)によるアナフィラキシーショックの症例報告が掲載されていました。
今沢 隆ら:グルコン酸クロルヘキシジン使用後にアナフィラキシーショックを起こした1症例. 日形会誌, 23; 582-588, 2003
局所麻酔で手術をしていて,閉創前に0.05%グルコン酸クロルヘキシジンで創面の消毒を行なったところ,その20〜30秒後に心拍数が低化し,血圧は測定不能,呼吸停止をきたしたが,アンビューバッグによる呼吸補助と酸素投与により,3分後に自発呼吸を認め,意識が戻ったという報告です。そして,次のように書かれています。
グルコン酸クロルヘキシジンは市販の歯磨き,軟膏,薬用クリーム,うがい剤に使用されているため,この症例は過去に何らかの薬剤から感作を受けていた可能性があり,今回のアナフィラキシーが発症したものと思われる。
国内では過去21年間に32例のアナフィラキシーショックなどのアレルギー症例の報告がある。
1980年,厚生省はオキシドールを発癌性の問題から口腔内での使用は行なわないようにとの情報を出しているが,まだ多くの施設で使われている。さらに,医薬品としては粘膜での使用が禁止されているグルコン酸クロルヘキシジンが医薬部外品としては粘膜での使用が認められ,最近では予防歯科の観点から日常生活での使用が奨励されている。
また論文では多数のクロルヘキシジンに関連する論文が引用されていて,それだけでも読む価値があります。
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もっとも私に言わせりゃ,「傷を消毒」なんてしていること自体が,そもそも間違っているのです。傷は消毒しちゃいけないのに,しちゃいけないことをしているから,こんな怖い目にあうのです。さっさと「傷の消毒」を止めましょう。
そしてこういう症例から,「傷を消毒」されているとアナフィラキシーショックを起こす危険性がある,という事実に気が付くはずです。つまり,ちょっとした傷で病院を受診し,2回以上,クロルヘキシジンで消毒されたとたん,血圧低下,呼吸停止をきたす可能性はゼロではありません。こうなったら,その医者が緊急処置の知識があり,外来診察室に緊急処置のための設備があることを祈るしかありません。万一,緊急時の処置ができなければ,命が危ないのは言うまでもありません。
何しろ創面を消毒すると,皮膚の消毒より直接的に生体に作用します。いずれにしても,「傷を消毒」する医者にかかるのは命がけの行為になる可能性があることは覚えておいた方がいいでしょう。
(2003/09/24)
手術後に傷をガーゼで覆う必要はあるのか?
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外科にしろ整形外科にしろ耳鼻科にしろ,手術後の縫合創はガーゼで覆っている。大抵は滅菌されているガーゼである。手術後,傷を消毒した後,その滅菌ガーゼを,滅菌ピンセットでうやうやしくつまみ,傷の上を覆うのが,いわば儀式と化している。
こういうのを医学では「清潔操作」と呼んでいる。
消毒した傷口に患者の手が触れようものなら,「触るんじゃない! 傷が不潔になって化膿するだろ!」と烈火の如く怒られたりするのだ。もちろん,そのガーゼを素手で扱うなんて御法度中の御法度。
とにかく,外科の手術の後は,「傷が化膿しないように」厳密な清潔操作をするのが常識となっている。
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だがよくよく考えると,これらの医学的根拠は希薄になってくる。よく考えてみると,どれもが嘘じゃないかという気がしてくる。
術後の「清潔操作」って,本当に必要なんだろうか?
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滅菌されたガーゼを使う意味はあるのか?
皮膚には常在菌(表皮ブドウ球菌など)が必ずいる。常在菌がいる状態が,健康な皮膚だ。そしてこれらの常在菌は,毛穴の奥深くまで棲みついている。
ということは,手術して縫合した傷周囲の皮膚にも,傷からちょっと離れた皮膚にも,常在菌は必ずいる。
皮膚をいくら消毒したところで,これらの常在菌を完全に死滅させることは不可能。一時的に全て除去できたところで,ちょっと時間がたてば,毛穴の奥からまた,細菌が増殖するのは当たり前だ。
つまり,皮膚を消毒するのは,大腸粘膜を消毒して大腸菌を全て取り去ろうとするのと同様,不毛の努力である。
ということは,傷の周囲を消毒しても皮膚常在菌を除去できるわけではない。
つまり,「傷の周りを消毒」しても,医学で言う「清潔な皮膚(=細菌のいない皮膚)」は作り出せるはずがない。皮膚に関する限り「清潔(=無菌)」というのは根拠のない幻想である。
以上の理由から,「消毒されてはいるが,常在菌だらけの傷(とその周囲の皮膚)」を「滅菌されたガーゼ」で覆うのが医学常識であるが,これは全く,意味がない行為だと結論できる。
そもそも,「滅菌ガーゼ」にしても「清潔操作」にしても,それが目的とするのは「外から細菌を持ち込まないように」というものだろう。つまり,本来「細菌がいない」臓器を扱うための操作だ。
しかし,開放創にしろ,縫合創にしろ,そこには必ず皮膚常在菌が存在する。常在菌がたくさんいるのに,「外から細菌を持ち込まないように」というのは全くナンセンスだ。まして,滅菌されているからといって,ガーゼを盲信するのは滑稽としか言いようがない。
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傷を手で触れるのはいけないことか?
前述のように,傷の周囲をいくら消毒したところで,皮膚は無菌化できない。「消毒したから無菌」というのは単なる医者・看護婦の思い込みである。
ほとんどの場合,手術創は消毒のみで,洗浄されていない。つまり,垢まみれ,汗まみれとなっている。
一方,患者さんの手は,一日に何回も洗っているはず。垢も汗もほど良く落ちている。
「消毒はしているが垢まみれ・汗まみれの手術創」と,「一日に何度も洗っている患者さんの手」とどちらがきれいだろうか?
常識的に考えれば,前者の方がより「汚い」という結果にならないだろうか?
従って,「手術した傷に患者の手が触れた」からといって,非難するのは間違っている。「消毒しかしていない」手術創よりは,手の方が比べ物にならないほど清潔なのである。
「消毒しかしていない」傷が,もっとも「不潔」である。
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ガーゼは何のため?
上述のように,たとえ滅菌されたガーゼであっても,「外からの細菌の侵入を防ぐ」効果もなければ,「創を清潔(=無菌)に保つ」ことも不可能だ。これらの目的に,ガーゼという素材は全く無力である。
ガーゼに意味があるとすれば,それは,出血を吸収し,多すぎる浸出液を吸収するためだろう。これ以外の意味をガーゼに見出すことは難しい。
となると,手術後の傷の被覆に「滅菌ガーゼ」を使う意味があるのだろうか?
手術後の傷の被覆のためだけなら,「洗濯して汚れを落としたガーゼ」で十分なんじゃないだろうか? 理論的に,「滅菌ガーゼ」でなければいけない必然性は全くないと思われる。
ちなみに私は,頭皮裂傷で縫合した場合,手術当日はガーゼをあてるが(出血を吸収するため),出血がなければ次の日からはガーゼ無しにしている(一切ドレッシングをあてない)。
「出血のためのガーゼ」と考えているので,当然である。
(2001/11/04)
術後の縫合創を消毒するのは無駄
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スイス(?)の貴族の朝は「ダバダ〜♪」というメロディーと一杯のネス○フェで始まるが,外科医の病棟回診は前日に手術した患者の傷の消毒で始まる。傷を消毒するのが外科回診であるし,それが外科医の日課である。
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しかし,外科医が毎日している「手術創の消毒」は実は,医学的に全く無意味な行為である。
今回はこの行為について論じてみる。
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なぜ毎日,手術した傷を消毒するのか,その意味を考えたことがある外科医はいるのだろうか? 恐らく,毎朝の日常業務として,惰性的にこなしているだけではないのだろうか?
私の外科研修医時代の頃を思い出すと,「なぜ手術した傷を消毒するのか?」を説明してくれた先輩医師はいなかったし,わざわざ先輩医師に訊ねる暇もなかった。
消毒そのものは一般家庭でもしている行為のため,傷は消毒するのが当たり前,消毒して当然,と思い込んでいた。「傷と消毒」の組み合わせは,「車は左,人は右」「ご飯に味噌汁,カレーに福神漬け,刺身にワサビ」くらい当たり前の組み合わせだった。
要するに「術後の傷の消毒」は,先輩医師に命じられてしている行為であり,それが毎日続くため,何の疑問も持たずにする行為となり,やがて「しなければいけない」行為と思い込むようになった。
しかし,しつこく繰り返すが,「術後の傷」は消毒する必要なんて全くないのだ。
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まず,縫合された傷の治り方(創傷治癒)の研究からすると,縫合された傷(つまり手術創)は「一時治癒」するものであり,24時間から48時間で創表面が上皮細胞で完全に覆われてしまう。つまり,手術で縫合された傷は,遅くても48時間で完全閉鎖されるのだ(縫合の巧拙で多少のずれはあるだろうが・・・)。
これは何を意味するかというと,「術後48時間以降,傷口から細菌が進入することはない」ということである。何しろ,48時間で上皮細胞がぴったりと傷口を覆ってしまうのだ(もちろん,頑丈にくっつくのはもっと先なので,傷口を開こうと思えば開いてしまうが・・・)。普通細菌は傷口から進入するが,術後48時間でこの「傷口」が閉じてしまっては,もう細菌が入り込む余地はない。
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となると,手術後の傷は,消毒しようがしまいが全く関係ない,という事になってしまう。
何しろ,術後創の消毒は「傷が化膿しないように」という理由でしているのだ。それなのに,傷がぴったりと閉鎖されているのでは「傷を化膿させる細菌」が入り込む余地はない。となると当然,何のために消毒しているのかという事になり,術後の傷の消毒は全く意味を失う。
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もちろん,「そうかもしれないけど,縫合している糸の脇とかから細菌が入るんじゃないの。糸の穴から細菌が入らないように消毒しているんじゃないの」と反論される人もいると思う。こういう考えは根強いものがある。要するに,傷周囲の皮膚を消毒することで無菌化し,感染を防いでいるはずだ,という考えだ。
もしもこの考えが正しく,消毒で傷周囲の皮膚を全く無菌化できたと仮定しよう。
この「消毒による無菌状態」がずっと維持されているのなら問題はない。上記のような反論をする医者は「一度消毒すると,ずっと皮膚は無菌化状態になっている」と考えているはずだ。
しかし考えてみて欲しい。皮膚には常在菌が必ずいる。毛穴の奥にまで潜んで,そこで生活している。いくら皮膚表面を消毒したところで,こういう常在菌を全滅させることはできないのだ。
事実,外科医や看護婦は手術前,長い時間をかけて消毒薬でブラッシングや手洗いをして滅菌手袋をはめるが,数十分して手袋をはずしてみると,ほとんど元通りの細菌叢に戻っていたというデータがあったはずだ。
まして,「傷の消毒」と言ったって,実際のところは消毒薬でちょっと湿らせた綿球で傷の周りとちょっとなでる程度のものであり,それが何時間にもわたって消毒効果を維持し,皮膚常在菌を完全に根絶やししているとは,到底考えられない(イソジンを完全に自然乾燥させると,1時間くらいは滅菌状態を保っていられる,というデータはあるようだが・・・)。
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また手術後の傷の消毒は通常,毎朝一回しか行っていないはずだ。つまりこれは地球の自転の時間,すなわち「一日」というお天道様(そして人間)の生活(?)サイクルにあわせているだけだ。
しかし,消毒の対象となっている細菌は24時間のサイクルで分裂・増殖しているわけではない。通常の細菌の生活サイクルは24時間よりはかなり短い。つまり,人間の都合で「一日一回」の消毒をしていたところで,それ以上のスピードで細菌が増えているので,「一日一回の消毒」はそもそも全くナンセンスなのである。
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このように考えると,術後の傷を「清潔操作」する意味もわからなくなってくる。通常,術後の傷は化膿しないようにということで,滅菌ピンセットで滅菌ガーゼを摘まみ,手術した傷の上に乗せているわけだが,これって本当に意味があるのだろうか?
この「滅菌したガーゼ」に患者さんの手が触れると,さも一大事のように「不潔になります!」と叱りつける医者・看護婦がいるけれど,これは正しい態度なのだろうか? たかがガーゼで,「傷を清潔に」保っておけるのだろうか?
というわけで,この清潔操作についてもその欺瞞性を論破する予定である。
(2001/10/30)
術後の縫合創を消毒するのは無駄
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スイス(?)の貴族の朝は「ダバダ〜♪」というメロディーと一杯のネス○フェで始まるが,外科医の病棟回診は前日に手術した患者の傷の消毒で始まる。傷を消毒するのが外科回診であるし,それが外科医の日課である。
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しかし,外科医が毎日している「手術創の消毒」は実は,医学的に全く無意味な行為である。
今回はこの行為について論じてみる。
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なぜ毎日,手術した傷を消毒するのか,その意味を考えたことがある外科医はいるのだろうか? 恐らく,毎朝の日常業務として,惰性的にこなしているだけではないのだろうか?
私の外科研修医時代の頃を思い出すと,「なぜ手術した傷を消毒するのか?」を説明してくれた先輩医師はいなかったし,わざわざ先輩医師に訊ねる暇もなかった。
消毒そのものは一般家庭でもしている行為のため,傷は消毒するのが当たり前,消毒して当然,と思い込んでいた。「傷と消毒」の組み合わせは,「車は左,人は右」「ご飯に味噌汁,カレーに福神漬け,刺身にワサビ」くらい当たり前の組み合わせだった。
要するに「術後の傷の消毒」は,先輩医師に命じられてしている行為であり,それが毎日続くため,何の疑問も持たずにする行為となり,やがて「しなければいけない」行為と思い込むようになった。
しかし,しつこく繰り返すが,「術後の傷」は消毒する必要なんて全くないのだ。
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まず,縫合された傷の治り方(創傷治癒)の研究からすると,縫合された傷(つまり手術創)は「一時治癒」するものであり,24時間から48時間で創表面が上皮細胞で完全に覆われてしまう。つまり,手術で縫合された傷は,遅くても48時間で完全閉鎖されるのだ(縫合の巧拙で多少のずれはあるだろうが・・・)。
これは何を意味するかというと,「術後48時間以降,傷口から細菌が進入することはない」ということである。何しろ,48時間で上皮細胞がぴったりと傷口を覆ってしまうのだ(もちろん,頑丈にくっつくのはもっと先なので,傷口を開こうと思えば開いてしまうが・・・)。普通細菌は傷口から進入するが,術後48時間でこの「傷口」が閉じてしまっては,もう細菌が入り込む余地はない。
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となると,手術後の傷は,消毒しようがしまいが全く関係ない,という事になってしまう。
何しろ,術後創の消毒は「傷が化膿しないように」という理由でしているのだ。それなのに,傷がぴったりと閉鎖されているのでは「傷を化膿させる細菌」が入り込む余地はない。となると当然,何のために消毒しているのかという事になり,術後の傷の消毒は全く意味を失う。
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もちろん,「そうかもしれないけど,縫合している糸の脇とかから細菌が入るんじゃないの。糸の穴から細菌が入らないように消毒しているんじゃないの」と反論される人もいると思う。こういう考えは根強いものがある。要するに,傷周囲の皮膚を消毒することで無菌化し,感染を防いでいるはずだ,という考えだ。
もしもこの考えが正しく,消毒で傷周囲の皮膚を全く無菌化できたと仮定しよう。
この「消毒による無菌状態」がずっと維持されているのなら問題はない。上記のような反論をする医者は「一度消毒すると,ずっと皮膚は無菌化状態になっている」と考えているはずだ。
しかし考えてみて欲しい。皮膚には常在菌が必ずいる。毛穴の奥にまで潜んで,そこで生活している。いくら皮膚表面を消毒したところで,こういう常在菌を全滅させることはできないのだ。
事実,外科医や看護婦は手術前,長い時間をかけて消毒薬でブラッシングや手洗いをして滅菌手袋をはめるが,数十分して手袋をはずしてみると,ほとんど元通りの細菌叢に戻っていたというデータがあったはずだ。
まして,「傷の消毒」と言ったって,実際のところは消毒薬でちょっと湿らせた綿球で傷の周りとちょっとなでる程度のものであり,それが何時間にもわたって消毒効果を維持し,皮膚常在菌を完全に根絶やししているとは,到底考えられない(イソジンを完全に自然乾燥させると,1時間くらいは滅菌状態を保っていられる,というデータはあるようだが・・・)。
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また手術後の傷の消毒は通常,毎朝一回しか行っていないはずだ。つまりこれは地球の自転の時間,すなわち「一日」というお天道様(そして人間)の生活(?)サイクルにあわせているだけだ。
しかし,消毒の対象となっている細菌は24時間のサイクルで分裂・増殖しているわけではない。通常の細菌の生活サイクルは24時間よりはかなり短い。つまり,人間の都合で「一日一回」の消毒をしていたところで,それ以上のスピードで細菌が増えているので,「一日一回の消毒」はそもそも全くナンセンスなのである。
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このように考えると,術後の傷を「清潔操作」する意味もわからなくなってくる。通常,術後の傷は化膿しないようにということで,滅菌ピンセットで滅菌ガーゼを摘まみ,手術した傷の上に乗せているわけだが,これって本当に意味があるのだろうか?
この「滅菌したガーゼ」に患者さんの手が触れると,さも一大事のように「不潔になります!」と叱りつける医者・看護婦がいるけれど,これは正しい態度なのだろうか? たかがガーゼで,「傷を清潔に」保っておけるのだろうか?
というわけで,この清潔操作についてもその欺瞞性を論破する予定である。
(2001/10/30)
創縫合前後の消毒は危険だ!
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外科系の診療科の皆様,手術が終わり,最後の仕上げの皮膚縫合の直前,あるいは縫合直後に「傷を消毒」していないでしょうか? 私の見たところ,かなりの医者,診療科,病院で,皮膚縫合の前後に消毒をしているようです。半ばルーチンワークとして行われているようです。
しかしこれは無意味というならまだしも,「傷が治らないように」「術後,傷がくっつかないように」「傷が開くように」としている行為です。それは医療行為の名前を借りた傷害行為です。
術後,縫合創が時々開いて困っている,と思っている外科系医師の皆様。もしも皮膚縫合の前後に傷を消毒しているのでしたら,直ちにお止めください。恐らく,「創離開」の数はぐんと減るはずです。
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「消毒薬は毒」で解説したように,イソジンを例に取ると,殺菌効果をもつのは10%イソジン溶液のみで,1%に希釈されると殺菌力はほとんど期待できなくなる。しかし,0.1%に希釈されたイソジンは,創治癒に最も重要な細胞(線維芽細胞,上皮細胞,好中球など)全てを全滅させることが可能なのだ。
まして,血液や浸出液などの有機物があると,イソジンの遊離ヨード(これが殺菌力を作り出している)は急速に減少し失活する。
従って,創面をイソジンで消毒した場合,「細菌は殺せない程度に失活しているのに,傷が治癒するのに必要な細胞だけを選択的に殺しまくっている」ということになっているのだ。これでは縫合した傷がくっつくことを期待するほうが無理である。
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創縫合の前後に「傷を消毒」している医者は,その消毒という行為によって「術後,傷が治らずに,早く開くように」しているわけである。医者がいくら無知とはいえ,実に恐ろしい行為をしている,としか言いようがない。
恐らくこういうお医者様は,一生かかっても自分が間違ったことをしているなんて,気が付かないんだろうな。こういう医者にかかった患者さんは,不幸と諦めるしかないんだろうな。
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「消毒しなければ傷が化膿する」というのは単なる思い込みである。傷が化膿するには,細菌の存在は必要条件であるが十分条件ではないのだ。細菌がいくらいても,異物や壊死組織がなければ化膿なんて起きないのである。
(2001/12/01
消毒,必要? 不必要?
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これまで,新鮮外傷,あるいは縫合後の手術創などで消毒が無意味で不必要で有害な医療行為であることを論証してきた。だが,すべての「消毒」が必要ないと言っているわけではない。必要な局面では必要であり,それを厳密に行うべき局面では,厳密に消毒すべきだ。
どんな場合に必要で,どんな場合は必要ないか,私の考えをまとめてみる。
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消毒,あるいは無菌操作は,その操作が感染を起こす危険性がある場合には絶対に必要となる。それは何かというと,「本来無菌の部位に異物を残す操作」をする場合と「細菌が侵入したらそれを排除できない臓器を操作」する場合である。
まず後者としては,関節腔であり,目の水晶体もそうだろう。これらの臓器はその機能的特質から血管があっては困る臓器であり(関節軟骨に血管があったら運動のたびに出血するだろうし,水晶体に血管があったら光が十分に通れない),そのため白血球による細菌排除がうまく働かず,細菌が侵入したら感染が必発。だから関節穿刺などの操作をするのであれば皮膚は十分に消毒した方がいいだろうし,無菌操作は厳密に守るべきだろう。
前者としては,手術全般(血管結紮の絹糸や人工物を体内に残す操作が付きもの),IVHカテーテル,硬膜外カテーテル挿入などが相当する。手術創や外傷の創感染が異物の存在下でのみ起こることは既に説明した通りだが,異物を体内に残す操作をする予定や可能性があれば,やはり外から持ちこむ細菌は少ないに越したことはないだろう。その意味で,手術の際に切開する部位の皮膚を消毒するのは必要な操作だし(ドレープで覆うのも同様),使用する器具は滅菌処理したものを使うべきだ。
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私は以前,採血や注射の前に酒精綿で皮膚を消毒するのは無意味だと断じたが,これは採血や注射が基本的に「異物を体内に残さない」操作だからだ。炭疽菌のような特殊な細菌ならいざ知らず,皮膚常在菌が注射でもたらされる量で感染を起こすことは,事実上不可能だ。
同様に手術で縫合した創を消毒するのも無意味だし,IVHカテーテルにしても一旦挿入してしまえば,刺入部の皮膚を消毒することは無駄な行為だ。
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「そうは言っても,医療行為と言うのは普段からの心がけが大切だから,清潔操作の儀式として酒精綿で消毒するのは意味があるはずだ」という考えもあるだろう。しかし,消毒せずに採血による皮下組織の感染の確率は,空から隕石が降ってきて直撃される確率みたいなものではないだろうか(理論的に考えるとそんなものだと思う)。そのような起こりえない危険性に対処するために酒精綿で皮膚を拭くのは,隕石直撃を恐れて外を歩かないように注意するようなものだと思うが,如何だろうか?
日本全体の病院で使われている酒精綿用のアルコールの総量はとんでもないものだろう。同様に,術後の消毒に使われるイソジンやヒビテンの量だって,日本全体では莫大なものになっているはずだ。これがすべて,無駄なものだとしたら,それを見逃していいのだろうか? やはり,無駄なものだったらやめるべきだろう。それが「科学としての医学」の原点ではないだろうか。
(2002/01/15)
破傷風と消毒
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「傷は消毒しない方がいいというのはわかったが,破傷風の存在を忘れているのではないか。破傷風の事を考えたら,やはり消毒は必要ではないか」
このような質問を時々いただくので,それへの回答を書く事にする。
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まず破傷風についての基礎知識については次のサイトで十分だろう・・・というか,これだけ知っていたら専門家でしょうね。
http://idsc.nih.go.jp/kansen/k02_g1/k02_15/k02_15.html
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要するに破傷風は,破傷風菌が体内に入って神経毒素を産生し,強直性痙攣を引き起こし,呼吸障害を起こすなどして死に至る疾患である。現在,国内では年間30〜50例が発症し,死亡率は20%〜50%と極めて高い。一旦発症してしまったら筋痙攣に対する対処療法を行なうしかなく,受傷直後に破傷風ヒト免疫グロブリンを投与するのが最も効果的である。
破傷風菌は土壌中に存在する嫌気性菌であり,通常は芽胞という状態で休眠状態にあるが,これが土などと一緒に傷の中に侵入して目を覚まし,活動を始めることで発症する。要するに外でケガをしたら破傷風を考慮しろ,と,どんな教科書にも書いてある通りである。
よく,古釘を踏みぬくと破傷風になる,と言われるが,これは釘と一緒に破傷風菌が創内に侵入し,そこが閉鎖腔になって嫌気性の条件になるからだろう。
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さて,このように恐ろしい疾患であり,発症してしまったら根本的治療は存在しないのが破傷風である。現在でも治療としては上記のごとく,先手必勝で発症を防ぐしかない。
となると,やはり「土が入り込んだ傷は,消毒して破傷風を防ぐべきではないか」ということになりそうだが,実はそうならないのである。
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破傷風菌は通常「芽胞」の形態で地中に存在している。問題は「芽胞」という存在形態である。この芽胞,生半可なことでは死んでくれないのである。たとえば,80度の熱湯で煮るとほとんどの生物は死んでしまうが,芽胞はびくともしない。沸騰している水中で15分以上加熱を続けても,まだ芽胞は死なない。紫外線照射にも強く,たいていの微生物が死滅するくらいでもまだ大丈夫だ。
芽胞を殺そうと思ったら120℃で15分間加熱するか,人間には危なくて使えないような強烈な毒性を有する消毒薬を長時間作用させるしかない。要するに,普通に使われている消毒薬でちょっと消毒したくらいでは芽胞は死なないのである。消毒薬で芽胞を死滅させるためには,人間が死ぬくらい(・・・ちょっと大袈裟)にしないといけない。
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従って,土が入り込んだ傷だからといって,それを消毒しても破傷風の予防にはならないのである。
つまり破傷風の恐れがある傷の局所処置であるが,積極的に外科的デブリードマンするか,大量の水で洗い流すくらいしかない,ということになる。いずれにしても,通常の消毒薬に効果がないことは明らかだ。
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ちなみに,破傷風菌を発見したのはあの有名な北里柴三郎。彼は100年前に既に,土中に存在する破傷風菌芽胞の分布が地表10センチまでで,10センチより深い土にはほとんどいないことを明らかにしているそうである。
(2003/06/19)
「なぜ傷を消毒しているのか」を考えたことのある医者どれほどいるか?
医療現場で最も日常的に行われているのが消毒だ。医者の第一歩は「傷を消毒」することを学ぶことから始まるし,外科病棟の一日は「傷を消毒」することで始まる。まさに病院と消毒は切っても切れない間柄だ。
だが,消毒している医者に問うてみたい。あなたは何のために消毒しているのか,どんな効果を期待して消毒しているのか・・・と。
恐らく医者からは,次のような答えが返ってくるはずだ。
断言してもいいが,これ以外の答えは返ってこないと思う。
というか,「なぜ傷を消毒しているのか」を考えたことのある医者の方が圧倒的に少ないはずだ。
しかし,本当に傷は消毒しないと化膿するのだろうか? 化膿した傷は消毒しないと治らないのだろうか?
私がまだ駆け出しの医者だった頃,なぜ手術後に手術創を消毒するのか疑問に思ったことがある。
例えば大腸癌の術後を考えてみよう。癌は切除され,大腸同士を吻合し,腹膜や腹直筋鞘,そして皮膚を縫合して手術は終了する。次の日から毎日,回診のたびに腹部の縫合創を消毒するのが日課だ。研修医ならどうやって傷を消毒するか,先輩の医者から手取り足取り,教えてもらうはずだ。
「どういう理由で傷を消毒しているのか」については一切説明はないが,多分聞いたところで「傷が化膿しないように消毒する」という答えしか返ってこなかっただろう。
しかし考えて欲しい。化膿されて怖いのはお腹を縫った傷ではなく,大腸吻合部だ。ここが化膿して傷が破れたら,お腹中,ウンコだらけ。重篤な腹膜炎が起こる。高齢者だったら命だって危ない。それほど危機的な情況になってしまう。
もしも,消毒が傷の化膿にそれほど重要であり,化膿防止に必要であれば,大腸吻合部をなぜ毎日消毒しないのだろうか? 消毒にそれほどの威力があったら,腹部の縫合部なんて放っておいて,大腸吻合部を消毒すべきだろう。それが科学的な医療ってもんだ。
もちろん,「そんな事言ったって,お腹の傷を毎日開くわけにいかないよ。大変だし非現実的だよ」,という反論も出るだろう。だが,大変だからしないと言うのは本末転倒。必要な医療行為だったらそれをするように工夫すべきだ・・・本当に必要だったら・・・。
しかも,この大腸吻合部は消毒していないだけでない。ウンコという大腸菌の塊が中を四六時中通っているのだ。つまり,ここは「消毒できない上に,大量の細菌が必ずいる」という「化膿」にとっては最悪(最善?)の状態にあるのだ。
しかし,通常の場合,大腸吻合部が感染(化膿)により縫合不全を起こすことは稀だ。つまり,消毒していないのに化膿しない。
じゃあ,消毒って何なんだ? 何のためにしているんだ?
あるいは抜歯後の消毒。歯を抜いたあと,毎日のように歯科医院に通院し,口の中を消毒してもらうはずだが,消毒している歯科医たちはこの行為に空しさを感じていないだろうか?
何しろ,口の中なんて消毒したところで,消毒液なんてすぐに唾液で流されてしまう。何となく消毒しないと不安だけど,すぐ流されてしまうのがわかっていて消毒するのはすごく馬鹿らしくないだろうか?
あるいは顔面外傷で「頬から口の中」までの長大な傷を受傷した患者がいて,苦労の末,傷を縫ったとしよう。もちろん,頬の傷は消毒できる。唇の傷も消毒できる。しかし,それがもっと奥(それこそ喉の奥まで)まで連続している場合はどうするのだろう? そこまで深い傷はどう頑張ってももう消毒できない。
この場合も,「頬は消毒できるが,口の中の奥にある傷は消毒できない」からという理由で,前者は消毒し,後者は消毒しないというのは論理的に不合理だ。
要するに上記の例でわかる通り,術後の傷は消毒しても,消毒しなくても同じように治るのだ。ということは,消毒しなくても傷は治るということを意味している。しなくていいなら止めてしまったほうがいい。そっちの方が合理的で科学的だ。
つまり,消毒という行為とそれがもたらす結果についてちょっと考えてみると,「消毒の意味」がわからなくなってくる。消毒は昔から行われている行為であるが,「昔からしているから」以外にその意味を説明できなくなってしまう。
次のような質問を受けた。
color=green> 「外傷の消毒は不要」「消毒しても感染予防にはならない」と言うが,19世紀の半ば,手術創を消毒する事で感染率を劇的に下げたと言う事実と矛盾するのではないか?
もっともな疑問だと思う。この「消毒による術後敗血症の克服」の経緯については,かの名著http://www.wound-treatment.jp/wound157.htm">『外科の夜明け』に詳しく書かれていて,私も何度も取り上げている。産婦人科医のゼンメルワイスが分娩の前に消毒薬で手を洗っただけで産褥熱が劇的に減少し,リスターが手術創や外傷の創を消毒薬の石炭酸で処置し,術後の敗血症による死亡が劇的に下がったのは紛れもない事実である。確かにこれだけ見ると,私の主張と矛盾しているように見える。
『外科の夜明け』を素直に読めば,「傷を消毒する事で感染率が下がった」となるはずだ。だが,事実はそれほど単純ではない。
消毒薬として石炭酸は決して強力なものではなく,むしろ非力な消毒薬剤に過ぎない。だから現在,石炭酸は消毒薬業界の表舞台から姿を消している(現時点で石炭酸は,「陥入爪治療のフェノール法」で使われるくらいだろう。この場合の石炭酸は,消毒薬としてではなく,爪母を破壊する「組織破壊薬」として使われている)。
また,リスターの時代から,石炭酸で死なない細菌が多数いることは実験的にも証明されていて,より強力な消毒薬が開発されたのも,歴史的事実である。要するに,リスターの時代から石炭酸は殺菌力の弱い消毒薬として知られていたのである。
となると,たいして殺菌力のない石炭酸なのに,なぜ創感染率を下げる事ができたのか,と言う疑問が生じないだろうか。殺菌力の弱い消毒薬が劇的に創感染が低下させたという方がおかしくないだろうか。
実は,感染率が下がったのは「石炭酸の殺菌効果」によるものではないのである。創感染率を下げたのは「石炭酸の殺菌力」ではなく,石炭酸で「洗った」ことによるのである。つまり,「傷を洗った」事が重要であり,洗うものは石炭酸でも水道水でも生理食塩水でもよかったのである。
これと同じ勘違いは「強酸性水による褥瘡洗浄の有効性」とか「カテキン水による褥瘡洗浄は効果的」と言う形で,今日でも健在である。いずれも「洗った」事が重要なのに,なぜか,強酸性水とかカテキンとか,「洗ったもの」にばかり興味が集中するのである。
なぜこのような勘違いが生まれるかと言うと,医療関係者は基本的に薬とか薬効成分に弱いからである。薬効成分が明記されていると,それを盲目的に信じてしまうからである。
つまり,なにか治療上の効果が得られたら,それは薬の成分が含まれていたからと考えてしまうのだ。逆の言い方をすると,薬効成分を含まないものに治療効果があるはずない,と考えてしまうのだ。
だから,「石炭酸で洗ったから」効果があった,「強酸性水で洗ったから」効果があった,「消毒したから」治った,と考えてしまい,「石炭酸で洗った」から効果があるのであり,「普通の水で洗う」のは効果がないと考えてしまう。つまり「何で」洗ったらいいのか,ということしか考えなくなるのだ。
これが「消毒による感染率の劇的低下」の真相ではないかと思っている。
(2003/10/30)
まず,下の表を見て欲しい。消毒薬ポビドン・ヨード(商品名イソジン,ネオヨジン,マイクロシールド)のうち,イソジンの殺菌力と,細胞毒性を濃度ごとにまとめたものだ。なおこのデータは岩沢篤郎ほか.
ポビドンヨード製剤の使用上の留意点. Infection Control, 11, 2002, 18-24
を参照した。
この論文ではポビドンヨード製剤間の殺菌効果の違い,細胞毒性の違いについて論じているが,最も日常的に多く使われているであろうイソジンのデータに着目してみた。
イソジンの濃度 | 細胞毒性 | 組織障害性 |
10% | + | +++ |
1% | + | +++ |
0.1% | ++ | ++ |
0.01% | − | + |
イソジンの殺菌作用はヨウ素の酸化力によるものである。従ってその殺菌力は細菌にだけ有効なのではなく,生体細胞全般に分け隔てなく作用するのだ。従って,細菌を殺すことができれば,人間の細胞も殺すことができる。それが消毒薬だ。
また酸化作用がメインの機能であるだけに,細菌と何かの有機物が共存していれば,酸化力はその有機物にも発揮されることになり,この場合は当然,殺菌力は低下する(なお,クロルヘキシジンではこのような低下は起こらないようだ)。
ポビドンヨードの殺菌力は遊離ヨウ素の濃度に依存するため,最もヨウ素濃度が高くなる0.1%で最強の殺菌力を持つことになる。しかしこれはあくまでも試験管内のデータであり,上述のように有機物の存在で効力が失われるため,臨床の場では7.5〜10%の製剤が使われている(http://www.yoshida-pharm.com/text/05/5_2_2_1.html" target="_top">http://www.yoshida-pharm.com/text/05/5_2_2_1.html)。
また,上記の論文によると,ポビドンヨード製剤の細胞毒性ではヨウ素そのものの毒性とともに,添加されている界面活性剤などによる毒性も大きく関与しているらしい。
と言うのを前提に,上述の表を見て欲しい。殺菌力のない0.01%のイソジンでも組織障害性を有していることがわかる。そして,通常使われている濃度では,非常に強い組織障害性を有していることもわかる。
これを踏まえ,「化膿している傷をイソジンで消毒」するという行為をもう一度考えてみる。当然,化膿している傷だから有機物だらけである。イソジンにとっては殺菌力を低下させるものばかりである。となると,膿だらけの傷,出血している傷では殺菌力はかなり低下していると考えざるを得ない。
しかし,殺菌力がなくなっても,添加物による細胞毒性は残存している。
となると,傷を消毒すると言う行為は,下手をすると,「味方を援護射撃しようとして,味方だけを選んで撃ち殺し,敵だけが残った」ということになりかねないのだ。これははっきり言って,かなり間抜けな状況であるし,本末転倒である。
もちろん,傷は消毒しても治ることは治る(・・・消毒しないより時間はかかるが・・・)が,それは,「消毒という医者の妨害行動」を乗り越えて,なけなしの力で何とか治っているだけだ。医者の妨害にもめげず,生き残った細胞が健気に頑張った結果として治っただけだ。
創面を消毒するだけで,創面の大事な細胞は死んでしまうが,下手すると細菌だけは残っている」ことを医師は銘記すべきだと思う。
ここではイソジンを例に出したが(何しろ,日本で一番たくさん使われている消毒薬ですから,代表例として例に出すのは当然でしょう),その他の消毒薬でも事情は恐らく同じだろう。「細菌だけ殺すが,創面の人間の細胞だけは殺さない」という消毒薬があれば理想かもしれないが,その作用機序から考えてもまず無理だろう。
「そんなことを言ったって,傷にばい菌がいたら化膿するんじゃないの? 組織障害性があろうとあるまいと,ばい菌が除去できればいいんじゃないの?」という反論も当然あると思う。しかしこれが大間違い。http://www.wound-treatment.jp/wound015.htm">創面に細菌がいるだけでは化膿しないのである。
すなわち,創感染にとって細菌の存在は必要条件であるが十分条件ではないのだ。創感染が成立するためには,細菌と異物・壊死組織が混在していることが必要なのである。
(2002/08/30)
日本形成外科学会雑誌にクロルヘキシジン(ヒビテンとかマスキンなどですね)によるアナフィラキシーショックの症例報告が掲載されていました。
今沢 隆ら:グルコン酸クロルヘキシジン使用後にアナフィラキシーショックを起こした1症例.
日形会誌, 23; 582-588, 2003
局所麻酔で手術をしていて,閉創前に0.05%グルコン酸クロルヘキシジンで創面の消毒を行なったところ,その20〜30秒後に心拍数が低化し,血圧は測定不能,呼吸停止をきたしたが,アンビューバッグによる呼吸補助と酸素投与により,3分後に自発呼吸を認め,意識が戻ったという報告です。そして,次のように書かれています。
color=blue> グルコン酸クロルヘキシジンは市販の歯磨き,軟膏,薬用クリーム,うがい剤に使用されているため,この症例は過去に何らかの薬剤から感作を受けていた可能性があり,今回のアナフィラキシーが発症したものと思われる。
国内では過去21年間に32例のアナフィラキシーショックなどのアレルギー症例の報告がある。
1980年,厚生省はオキシドールを発癌性の問題から口腔内での使用は行なわないようにとの情報を出しているが,まだ多くの施設で使われている。さらに,医薬品としては粘膜での使用が禁止されているグルコン酸クロルヘキシジンが医薬部外品としては粘膜での使用が認められ,最近では予防歯科の観点から日常生活での使用が奨励されている。
また論文では多数のクロルヘキシジンに関連する論文が引用されていて,それだけでも読む価値があります。
もっとも私に言わせりゃ,「傷を消毒」なんてしていること自体が,そもそも間違っているのです。傷は消毒しちゃいけないのに,しちゃいけないことをしているから,こんな怖い目にあうのです。さっさと「傷の消毒」を止めましょう。
そしてこういう症例から,「傷を消毒」されているとアナフィラキシーショックを起こす危険性がある,という事実に気が付くはずです。つまり,ちょっとした傷で病院を受診し,2回以上,クロルヘキシジンで消毒されたとたん,血圧低下,呼吸停止をきたす可能性はゼロではありません。こうなったら,その医者が緊急処置の知識があり,外来診察室に緊急処置のための設備があることを祈るしかありません。万一,緊急時の処置ができなければ,命が危ないのは言うまでもありません。
何しろ創面を消毒すると,皮膚の消毒より直接的に生体に作用します。いずれにしても,「傷を消毒」する医者にかかるのは命がけの行為になる可能性があることは覚えておいた方がいいでしょう。
(2003/09/24)
外科にしろ整形外科にしろ耳鼻科にしろ,手術後の縫合創はガーゼで覆っている。大抵は滅菌されているガーゼである。手術後,傷を消毒した後,その滅菌ガーゼを,滅菌ピンセットでうやうやしくつまみ,傷の上を覆うのが,いわば儀式と化している。
こういうのを医学では「清潔操作」と呼んでいる。
消毒した傷口に患者の手が触れようものなら,「触るんじゃない! 傷が不潔になって化膿するだろ!」と烈火の如く怒られたりするのだ。もちろん,そのガーゼを素手で扱うなんて御法度中の御法度。
とにかく,外科の手術の後は,「傷が化膿しないように」厳密な清潔操作をするのが常識となっている。
だがよくよく考えると,これらの医学的根拠は希薄になってくる。よく考えてみると,どれもが嘘じゃないかという気がしてくる。
術後の「清潔操作」って,本当に必要なんだろうか?
滅菌されたガーゼを使う意味はあるのか?
そもそも,「滅菌ガーゼ」にしても「清潔操作」にしても,それが目的とするのは「外から細菌を持ち込まないように」というものだろう。つまり,本来「細菌がいない」臓器を扱うための操作だ。
しかし,開放創にしろ,縫合創にしろ,そこには必ず皮膚常在菌が存在する。常在菌がたくさんいるのに,「外から細菌を持ち込まないように」というのは全くナンセンスだ。まして,滅菌されているからといって,ガーゼを盲信するのは滑稽としか言いようがない。
傷を手で触れるのはいけないことか?
ガーゼは何のため?
(2001/11/04)
スイス(?)の貴族の朝は「ダバダ〜♪」というメロディーと一杯のネス○フェで始まるが,外科医の病棟回診は前日に手術した患者の傷の消毒で始まる。傷を消毒するのが外科回診であるし,それが外科医の日課である。
しかし,外科医が毎日している「手術創の消毒」は実は,医学的に全く無意味な行為である。
今回はこの行為について論じてみる。
なぜ毎日,手術した傷を消毒するのか,その意味を考えたことがある外科医はいるのだろうか? 恐らく,毎朝の日常業務として,惰性的にこなしているだけではないのだろうか?
私の外科研修医時代の頃を思い出すと,「なぜ手術した傷を消毒するのか?」を説明してくれた先輩医師はいなかったし,わざわざ先輩医師に訊ねる暇もなかった。
消毒そのものは一般家庭でもしている行為のため,傷は消毒するのが当たり前,消毒して当然,と思い込んでいた。「傷と消毒」の組み合わせは,「車は左,人は右」「ご飯に味噌汁,カレーに福神漬け,刺身にワサビ」くらい当たり前の組み合わせだった。
要するに「術後の傷の消毒」は,先輩医師に命じられてしている行為であり,それが毎日続くため,何の疑問も持たずにする行為となり,やがて「しなければいけない」行為と思い込むようになった。
しかし,しつこく繰り返すが,「術後の傷」は消毒する必要なんて全くないのだ。
まず,縫合された傷の治り方(創傷治癒)の研究からすると,縫合された傷(つまり手術創)は「一時治癒」するものであり,24時間から48時間で創表面が上皮細胞で完全に覆われてしまう。つまり,手術で縫合された傷は,遅くても48時間で完全閉鎖されるのだ(縫合の巧拙で多少のずれはあるだろうが・・・)。
これは何を意味するかというと,「術後48時間以降,傷口から細菌が進入することはない」ということである。何しろ,48時間で上皮細胞がぴったりと傷口を覆ってしまうのだ(もちろん,頑丈にくっつくのはもっと先なので,傷口を開こうと思えば開いてしまうが・・・)。普通細菌は傷口から進入するが,術後48時間でこの「傷口」が閉じてしまっては,もう細菌が入り込む余地はない。
となると,手術後の傷は,消毒しようがしまいが全く関係ない,という事になってしまう。
何しろ,術後創の消毒は「傷が化膿しないように」という理由でしているのだ。それなのに,傷がぴったりと閉鎖されているのでは「傷を化膿させる細菌」が入り込む余地はない。となると当然,何のために消毒しているのかという事になり,術後の傷の消毒は全く意味を失う。
もちろん,「そうかもしれないけど,縫合している糸の脇とかから細菌が入るんじゃないの。糸の穴から細菌が入らないように消毒しているんじゃないの」と反論される人もいると思う。こういう考えは根強いものがある。要するに,傷周囲の皮膚を消毒することで無菌化し,感染を防いでいるはずだ,という考えだ。
もしもこの考えが正しく,消毒で傷周囲の皮膚を全く無菌化できたと仮定しよう。
この「消毒による無菌状態」がずっと維持されているのなら問題はない。上記のような反論をする医者は「一度消毒すると,ずっと皮膚は無菌化状態になっている」と考えているはずだ。
しかし考えてみて欲しい。皮膚には常在菌が必ずいる。毛穴の奥にまで潜んで,そこで生活している。いくら皮膚表面を消毒したところで,こういう常在菌を全滅させることはできないのだ。
事実,外科医や看護婦は手術前,長い時間をかけて消毒薬でブラッシングや手洗いをして滅菌手袋をはめるが,数十分して手袋をはずしてみると,ほとんど元通りの細菌叢に戻っていたというデータがあったはずだ。
まして,「傷の消毒」と言ったって,実際のところは消毒薬でちょっと湿らせた綿球で傷の周りとちょっとなでる程度のものであり,それが何時間にもわたって消毒効果を維持し,皮膚常在菌を完全に根絶やししているとは,到底考えられない(イソジンを完全に自然乾燥させると,1時間くらいは滅菌状態を保っていられる,というデータはあるようだが・・・)。
また手術後の傷の消毒は通常,毎朝一回しか行っていないはずだ。つまりこれは地球の自転の時間,すなわち「一日」というお天道様(そして人間)の生活(?)サイクルにあわせているだけだ。
しかし,消毒の対象となっている細菌は24時間のサイクルで分裂・増殖しているわけではない。通常の細菌の生活サイクルは24時間よりはかなり短い。つまり,人間の都合で「一日一回」の消毒をしていたところで,それ以上のスピードで細菌が増えているので,「一日一回の消毒」はそもそも全くナンセンスなのである。
このように考えると,術後の傷を「清潔操作」する意味もわからなくなってくる。通常,術後の傷は化膿しないようにということで,滅菌ピンセットで滅菌ガーゼを摘まみ,手術した傷の上に乗せているわけだが,これって本当に意味があるのだろうか?
この「滅菌したガーゼ」に患者さんの手が触れると,さも一大事のように「不潔になります!」と叱りつける医者・看護婦がいるけれど,これは正しい態度なのだろうか? たかがガーゼで,「傷を清潔に」保っておけるのだろうか?
というわけで,この清潔操作についてもその欺瞞性を論破する予定である。
(2001/10/30)
スイス(?)の貴族の朝は「ダバダ〜♪」というメロディーと一杯のネス○フェで始まるが,外科医の病棟回診は前日に手術した患者の傷の消毒で始まる。傷を消毒するのが外科回診であるし,それが外科医の日課である。
しかし,外科医が毎日している「手術創の消毒」は実は,医学的に全く無意味な行為である。
今回はこの行為について論じてみる。
なぜ毎日,手術した傷を消毒するのか,その意味を考えたことがある外科医はいるのだろうか? 恐らく,毎朝の日常業務として,惰性的にこなしているだけではないのだろうか?
私の外科研修医時代の頃を思い出すと,「なぜ手術した傷を消毒するのか?」を説明してくれた先輩医師はいなかったし,わざわざ先輩医師に訊ねる暇もなかった。
消毒そのものは一般家庭でもしている行為のため,傷は消毒するのが当たり前,消毒して当然,と思い込んでいた。「傷と消毒」の組み合わせは,「車は左,人は右」「ご飯に味噌汁,カレーに福神漬け,刺身にワサビ」くらい当たり前の組み合わせだった。
要するに「術後の傷の消毒」は,先輩医師に命じられてしている行為であり,それが毎日続くため,何の疑問も持たずにする行為となり,やがて「しなければいけない」行為と思い込むようになった。
しかし,しつこく繰り返すが,「術後の傷」は消毒する必要なんて全くないのだ。
まず,縫合された傷の治り方(創傷治癒)の研究からすると,縫合された傷(つまり手術創)は「一時治癒」するものであり,24時間から48時間で創表面が上皮細胞で完全に覆われてしまう。つまり,手術で縫合された傷は,遅くても48時間で完全閉鎖されるのだ(縫合の巧拙で多少のずれはあるだろうが・・・)。
これは何を意味するかというと,「術後48時間以降,傷口から細菌が進入することはない」ということである。何しろ,48時間で上皮細胞がぴったりと傷口を覆ってしまうのだ(もちろん,頑丈にくっつくのはもっと先なので,傷口を開こうと思えば開いてしまうが・・・)。普通細菌は傷口から進入するが,術後48時間でこの「傷口」が閉じてしまっては,もう細菌が入り込む余地はない。
となると,手術後の傷は,消毒しようがしまいが全く関係ない,という事になってしまう。
何しろ,術後創の消毒は「傷が化膿しないように」という理由でしているのだ。それなのに,傷がぴったりと閉鎖されているのでは「傷を化膿させる細菌」が入り込む余地はない。となると当然,何のために消毒しているのかという事になり,術後の傷の消毒は全く意味を失う。
もちろん,「そうかもしれないけど,縫合している糸の脇とかから細菌が入るんじゃないの。糸の穴から細菌が入らないように消毒しているんじゃないの」と反論される人もいると思う。こういう考えは根強いものがある。要するに,傷周囲の皮膚を消毒することで無菌化し,感染を防いでいるはずだ,という考えだ。
もしもこの考えが正しく,消毒で傷周囲の皮膚を全く無菌化できたと仮定しよう。
この「消毒による無菌状態」がずっと維持されているのなら問題はない。上記のような反論をする医者は「一度消毒すると,ずっと皮膚は無菌化状態になっている」と考えているはずだ。
しかし考えてみて欲しい。皮膚には常在菌が必ずいる。毛穴の奥にまで潜んで,そこで生活している。いくら皮膚表面を消毒したところで,こういう常在菌を全滅させることはできないのだ。
事実,外科医や看護婦は手術前,長い時間をかけて消毒薬でブラッシングや手洗いをして滅菌手袋をはめるが,数十分して手袋をはずしてみると,ほとんど元通りの細菌叢に戻っていたというデータがあったはずだ。
まして,「傷の消毒」と言ったって,実際のところは消毒薬でちょっと湿らせた綿球で傷の周りとちょっとなでる程度のものであり,それが何時間にもわたって消毒効果を維持し,皮膚常在菌を完全に根絶やししているとは,到底考えられない(イソジンを完全に自然乾燥させると,1時間くらいは滅菌状態を保っていられる,というデータはあるようだが・・・)。
また手術後の傷の消毒は通常,毎朝一回しか行っていないはずだ。つまりこれは地球の自転の時間,すなわち「一日」というお天道様(そして人間)の生活(?)サイクルにあわせているだけだ。
しかし,消毒の対象となっている細菌は24時間のサイクルで分裂・増殖しているわけではない。通常の細菌の生活サイクルは24時間よりはかなり短い。つまり,人間の都合で「一日一回」の消毒をしていたところで,それ以上のスピードで細菌が増えているので,「一日一回の消毒」はそもそも全くナンセンスなのである。
このように考えると,術後の傷を「清潔操作」する意味もわからなくなってくる。通常,術後の傷は化膿しないようにということで,滅菌ピンセットで滅菌ガーゼを摘まみ,手術した傷の上に乗せているわけだが,これって本当に意味があるのだろうか?
この「滅菌したガーゼ」に患者さんの手が触れると,さも一大事のように「不潔になります!」と叱りつける医者・看護婦がいるけれど,これは正しい態度なのだろうか? たかがガーゼで,「傷を清潔に」保っておけるのだろうか?
というわけで,この清潔操作についてもその欺瞞性を論破する予定である。
(2001/10/30)
外科系の診療科の皆様,手術が終わり,最後の仕上げの皮膚縫合の直前,あるいは縫合直後に「傷を消毒」していないでしょうか? 私の見たところ,かなりの医者,診療科,病院で,皮膚縫合の前後に消毒をしているようです。半ばルーチンワークとして行われているようです。
しかしこれは無意味というならまだしも,「傷が治らないように」「術後,傷がくっつかないように」「傷が開くように」としている行為です。それは医療行為の名前を借りた傷害行為です。
術後,縫合創が時々開いて困っている,と思っている外科系医師の皆様。もしも皮膚縫合の前後に傷を消毒しているのでしたら,直ちにお止めください。恐らく,「創離開」の数はぐんと減るはずです。
http://www.wound-treatment.jp/wound012.htm">「消毒薬は毒」で解説したように,イソジンを例に取ると,殺菌効果をもつのは10%イソジン溶液のみで,1%に希釈されると殺菌力はほとんど期待できなくなる。しかし,0.1%に希釈されたイソジンは,創治癒に最も重要な細胞(線維芽細胞,上皮細胞,好中球など)全てを全滅させることが可能なのだ。
まして,血液や浸出液などの有機物があると,イソジンの遊離ヨード(これが殺菌力を作り出している)は急速に減少し失活する。
従って,創面をイソジンで消毒した場合,「細菌は殺せない程度に失活しているのに,傷が治癒するのに必要な細胞だけを選択的に殺しまくっている」ということになっているのだ。これでは縫合した傷がくっつくことを期待するほうが無理である。
創縫合の前後に「傷を消毒」している医者は,その消毒という行為によって「術後,傷が治らずに,早く開くように」しているわけである。医者がいくら無知とはいえ,実に恐ろしい行為をしている,としか言いようがない。
恐らくこういうお医者様は,一生かかっても自分が間違ったことをしているなんて,気が付かないんだろうな。こういう医者にかかった患者さんは,不幸と諦めるしかないんだろうな。
「消毒しなければ傷が化膿する」というのは単なる思い込みである。傷が化膿するには,細菌の存在は必要条件であるが十分条件ではないのだ。細菌がいくらいても,異物や壊死組織がなければ化膿なんて起きないのである。
(2001/12/01http://www.wound-treatment.jp/title_shoudoku.htm" target="_top">
これまで,新鮮外傷,あるいは縫合後の手術創などで消毒が無意味で不必要で有害な医療行為であることを論証してきた。だが,すべての「消毒」が必要ないと言っているわけではない。必要な局面では必要であり,それを厳密に行うべき局面では,厳密に消毒すべきだ。
どんな場合に必要で,どんな場合は必要ないか,私の考えをまとめてみる。
消毒,あるいは無菌操作は,その操作が感染を起こす危険性がある場合には絶対に必要となる。それは何かというと,「本来無菌の部位に異物を残す操作」をする場合と「細菌が侵入したらそれを排除できない臓器を操作」する場合である。
まず後者としては,関節腔であり,目の水晶体もそうだろう。これらの臓器はその機能的特質から血管があっては困る臓器であり(関節軟骨に血管があったら運動のたびに出血するだろうし,水晶体に血管があったら光が十分に通れない),そのため白血球による細菌排除がうまく働かず,細菌が侵入したら感染が必発。だからhttp://www.wound-treatment.jp/wound053.htm">関節穿刺などの操作をするのであれば皮膚は十分に消毒した方がいいだろうし,無菌操作は厳密に守るべきだろう。
前者としては,手術全般(血管結紮の絹糸や人工物を体内に残す操作が付きもの),IVHカテーテル,硬膜外カテーテル挿入などが相当する。手術創や外傷の創感染が異物の存在下でのみ起こることは既に説明した通りだが,異物を体内に残す操作をする予定や可能性があれば,やはり外から持ちこむ細菌は少ないに越したことはないだろう。その意味で,手術の際に切開する部位の皮膚を消毒するのは必要な操作だし(ドレープで覆うのも同様),使用する器具は滅菌処理したものを使うべきだ。
私は以前,http://www.wound-treatment.jp/wound048.htm">採血や注射の前に酒精綿で皮膚を消毒するのは無意味だと断じたが,これは採血や注射が基本的に「異物を体内に残さない」操作だからだ。炭疽菌のような特殊な細菌ならいざ知らず,皮膚常在菌が注射でもたらされる量で感染を起こすことは,事実上不可能だ。
同様にhttp://www.wound-treatment.jp/wound029.htm">手術で縫合した創を消毒するのも無意味だし,http://www.wound-treatment.jp/wound030.htm">IVHカテーテルにしても一旦挿入してしまえば,刺入部の皮膚を消毒することは無駄な行為だ。
「そうは言っても,医療行為と言うのは普段からの心がけが大切だから,清潔操作の儀式として酒精綿で消毒するのは意味があるはずだ」という考えもあるだろう。しかし,消毒せずに採血による皮下組織の感染の確率は,空から隕石が降ってきて直撃される確率みたいなものではないだろうか(理論的に考えるとそんなものだと思う)。そのような起こりえない危険性に対処するために酒精綿で皮膚を拭くのは,隕石直撃を恐れて外を歩かないように注意するようなものだと思うが,如何だろうか?
日本全体の病院で使われている酒精綿用のアルコールの総量はとんでもないものだろう。同様に,術後の消毒に使われるイソジンやヒビテンの量だって,日本全体では莫大なものになっているはずだ。これがすべて,無駄なものだとしたら,それを見逃していいのだろうか? やはり,無駄なものだったらやめるべきだろう。それが「科学としての医学」の原点ではないだろうか。
(2002/01/15)
「傷は消毒しない方がいいというのはわかったが,破傷風の存在を忘れているのではないか。破傷風の事を考えたら,やはり消毒は必要ではないか」
このような質問を時々いただくので,それへの回答を書く事にする。
まず破傷風についての基礎知識については次のサイトで十分だろう・・・というか,これだけ知っていたら専門家でしょうね。
要するに破傷風は,破傷風菌が体内に入って神経毒素を産生し,強直性痙攣を引き起こし,呼吸障害を起こすなどして死に至る疾患である。現在,国内では年間30〜50例が発症し,死亡率は20%〜50%と極めて高い。一旦発症してしまったら筋痙攣に対する対処療法を行なうしかなく,受傷直後に破傷風ヒト免疫グロブリンを投与するのが最も効果的である。
破傷風菌は土壌中に存在する嫌気性菌であり,通常は芽胞という状態で休眠状態にあるが,これが土などと一緒に傷の中に侵入して目を覚まし,活動を始めることで発症する。要するに外でケガをしたら破傷風を考慮しろ,と,どんな教科書にも書いてある通りである。
よく,古釘を踏みぬくと破傷風になる,と言われるが,これは釘と一緒に破傷風菌が創内に侵入し,そこが閉鎖腔になって嫌気性の条件になるからだろう。
さて,このように恐ろしい疾患であり,発症してしまったら根本的治療は存在しないのが破傷風である。現在でも治療としては上記のごとく,先手必勝で発症を防ぐしかない。
となると,やはり「土が入り込んだ傷は,消毒して破傷風を防ぐべきではないか」ということになりそうだが,実はそうならないのである。
破傷風菌は通常「芽胞」の形態で地中に存在している。問題は「芽胞」という存在形態である。この芽胞,生半可なことでは死んでくれないのである。たとえば,80度の熱湯で煮るとほとんどの生物は死んでしまうが,芽胞はびくともしない。沸騰している水中で15分以上加熱を続けても,まだ芽胞は死なない。紫外線照射にも強く,たいていの微生物が死滅するくらいでもまだ大丈夫だ。
芽胞を殺そうと思ったら120℃で15分間加熱するか,人間には危なくて使えないような強烈な毒性を有する消毒薬を長時間作用させるしかない。要するに,普通に使われている消毒薬でちょっと消毒したくらいでは芽胞は死なないのである。消毒薬で芽胞を死滅させるためには,人間が死ぬくらい(・・・ちょっと大袈裟)にしないといけない。
従って,土が入り込んだ傷だからといって,それを消毒しても破傷風の予防にはならないのである。
つまり破傷風の恐れがある傷の局所処置であるが,積極的に外科的デブリードマンするか,大量の水で洗い流すくらいしかない,ということになる。いずれにしても,通常の消毒薬に効果がないことは明らかだ。
ちなみに,破傷風菌を発見したのはあの有名な北里柴三郎。彼は100年前に既に,http://tag.ahs.kitasato-u.ac.jp/tag-wada/noframe/l263.htm">土中に存在する破傷風菌芽胞の分布が地表10センチまでで,10センチより深い土にはほとんどいないことを明らかにしているそうである。
(2003/06/19)
http://www.wound-treatment.jp/title_shoudoku.htm" target="_top">