近代日本絵画の巨匠、岸田劉生。その名を高めたのが、愛娘、麗子の肖像シリーズでした。いわゆる「麗子像」によって、劉生芸術は開花します。 「麗子の肖像をかいてから、僕は又一段或る進み方をした事を自覚する。今迄のものはこれ以後にくらべると唯物的な美が主で、これより以後のものはより唯心的な域が多くなつてゐる。」(「個人展覧会開催に際して」『白樺』第10年第4号) 自身でこう語っているように、徹底して写実をつきつめようとしていた劉生は、麗子像を機に、目に見える形の美しさだけでなく、目には見えない内面的な美しさを自覚的に追求するようになります。 なかでも本作品は、劉生自身が「肖像の中ではやはり一番いいものの気がする。」と当時の日記に記すほどの自信作であり、翌年に手掛けた《麗子微笑(青果持テル)》(東京国立博物館蔵・重要文化財)とともに、最高傑作の一つに数えられる作品でしょう。 |