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(幸せ大国を目指して:14)急増する「孤老族」 家族以外の安全網を
高松市街を見下ろす山の斜面にある市営峰山墓地。真新しい花が供えられた墓にまじって、名前が消えかかり、雑草に埋もれた墓がいくつもある。
市が10年前から実施している市営墓地11カ所での調査で、約2万4千の墓の3割、約7400が「無縁墓」になっていることが分かった。
市は対策として今春、合葬式の墓を整備した。使用料は1人10万円。遺骨は20年間は個別の納骨壇に納められ、その後はほかの骨と一緒に合葬室に移される。6月から募集を始めたところ応募が殺到し、2週間で540人分の納骨壇の半数近くが埋まった。
地方の自治体がこうした墓を整備するのは珍しい。後継ぎが途絶えた、都会に住む息子に迷惑をかけたくない、そんな高齢者が多いという。
少子高齢化などの社会の構造変化が「家族の形」も変えている。市の久利泰夫市民生活課長は「無縁墓はこれからも増えるだろう。合葬式墓地は新しい時代の選択肢の一つになるのかもしれない」と話す。
●センサーで確認
「09時BBDB……」。東京都杉並区に住む主婦Aさん(44)は毎朝、携帯電話メールで滋賀県に住む独り暮らしの父親(76)の様子を確認する。Dは居間、Bは寝室。取り付けたセンサーで親の居場所が分かる仕組みだ。
昨年、万が一の事故を不安がる父親の希望で松下電工の「みまもりネット」サービスに申し込んだ。Aさんは「規則正しく動き回っていることが分かるだけでも安心できる」という。
65歳以上の人が子と同居している世帯は80年に約7割あった。それが99年に初めて5割を切った。田舎に年老いた親を残して都市で働く人、介護のために遠距離を行き来している人も少なくない。
東京都府中市に住む会社員Bさん(51)には鳥取県米子市に要介護の父(83)と心臓に持病がある母(76)がいる。両親は住み慣れた地元を離れたがらず、東京に呼び寄せることは難しい。自らが地元にUターンしようと思っても、家族を養える職はすぐには見つかりそうもない。
日本の平均的な家族像は戦前の3世代以上が同居する「大家族」から、高度成長期を経て、親と子の2世代、あるいは夫婦だけ、の「核家族」に変わっていった。
今や1世帯の平均人数は2・67人、核家族は2730万世帯(いずれも00年)にのぼる。高度成長期の40年前に比べ、同居家族はほぼ1・5人減り、核家族は2倍以上になった。
●核家族が再分裂
最近は未婚率、離婚率が上昇し、核家族がさらに分裂。東京では全世帯の3分の1が独り暮らし世帯だ。とりわけ65歳以上の「孤老族」が03年には全国で約340万人にも膨らんだ。
コンビニ大手のローソンの子会社が東京都品川区の住宅街に出店した「STORE100」。若い主婦に交じってお年寄りの来店が目立つ。ほとんどの商品が100円。小分けされた野菜や総菜が豊富に並び、これまでコンビニを敬遠してきた高齢者も取り込もうと意識した店づくりだ。来年2月までには都市部を中心に100店を出す計画だ。
エックスヴィン(東京)は高齢者専門の宅配弁当チェーンを運営する。栄養バランスに配慮したメニューで1食577円。設立後5年半で店舗数は330店、固定客は10万世帯を数える。同社は「子供が独立すれば食事に手間をかけなくなるので、需要はもっと増える」と見る。
今後確実にマス市場となる「孤老族」の需要にこたえるビジネスが広がりつつある。とはいえ、1人で暮らすということは、家族というセーフティーネット(安全網)を失うことでもある。ビジネスでは簡単に代替できない機能が少なくない。
千葉県松戸市の常盤平団地では、毎年10人近いお年寄りが誰にもみとられずに亡くなっていく。団地の約5千世帯のうち300世帯超が65歳以上の独り暮らしだ。「同じ棟の住人にも知らない人が増えてきた。何かあっても誰も気づかない」と独り暮らしの女性(78)は不安を漏らす。
団地では3年前から「孤独死ゼロ作戦」を始めた。緊急時の連絡網を作り、隣近所の異変に気づいた時に連絡しあうよう呼びかけている。お年寄りにはかかりつけの医師や血液型、緊急時の連絡先を登録してもらう。近所の人の通報が、餓死寸前のお年寄りを救ったこともある。
●地域も支えに
国は、家族が担ってきた介護負担を減らすために00年に介護保険制度を導入した。40歳以上の国民から保険料を徴収し、原則65歳以上の高齢者に対して一定の自己負担で介護サービスを提供する制度だ。
サービスの利用者数はすでに当初予想を上回り、今後、団塊の世代が対象年齢になってくれば給付費はさらに膨らむ。保険料を引き上げていかなければ制度は維持できない。それもいずれ限界に達する、との悲観論も出ている。
ほかに補完手段はないのか。一つの試みが「グループリビング」だ。健康状態に問題のないお年寄りが、一つ屋根の下に集まって食事や家事をともにする暮らし方だ。北欧で普及しているが、日本での実践例はまだ少ない。
NPO「新しいホームをつくる会」が東京都杉並区で運営するグループリビングでは70〜80代の6人が暮らしている。門岡涼子理事は「住み慣れた地域で人間らしい老後を全うするのが高齢者の願い。家族だけに負担させるのでなく、地域の中で支える動きを広げたい」と話す。
かつてのように安全網としての機能を果たせなくなった「家族」。政府や地域社会、市場がどこまで、どうやって、それを補完していくかが問われている。(立松真文)
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