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『ミスター』依存症 巨人を診断
昨年三月に脳梗塞(こうそく)で倒れ、リハビリ中の長嶋茂雄・巨人終身名誉監督(69)が、来月三日東京ドームで行われる巨人対広島戦を観戦、ファンの前に復帰を果たす。一年四カ月ぶりに姿を見せることに、球界からは歓迎と期待の声が聞こえてくる。だが長嶋氏の復帰は、低迷する巨人のてこ入れ策との思惑も見え隠れする。球界改革が叫ばれるなか、いまだに「ミスター」に頼る巨人の“重症度”は−。
「野球は長嶋、王、プロレスは力道山の時代から巨人ファン一筋、だが今年は裏切られっぱなし。チームがのらりくらりで上昇機運が見えない」
■「ここぞの時に凡打やエラー」
長嶋氏復帰が伝わった翌二十八日の巨人対ヤクルト戦、東京ドームの右翼スタンドで観戦していた会社員(61)は試合序盤からため息をついた。リーグ戦再開後もパッとしない巨人に嘆き節もでる。
母娘で巨人を応援していた主婦(57)は「正直がっかり。ここぞという時に凡打やエラーでチームがまとまらない。長嶋さんが顔だけでも見せれば、ファンは活気づくかな」と期待が膨らむのも無理はない。
巨人は人気、成績とも低空飛行だ。開幕ダッシュに出遅れ、挽回(ばんかい)を期待されたセ・パ交流戦でも四位に終わった。セ・リーグのなかでも阪神(三位)の後塵(こうじん)を拝した。
巨人戦のテレビ視聴率も同様だ。ビデオリサーチによれば、関東地区の月平均視聴率は、四月が12・9%、五月が13・0%。交流戦も、巨人戦初カードの楽天戦(五月六日)こそ17・3%を記録したが、その後は伸び悩み、今月八日のロッテ戦は6・1%と低調だ。交流戦三十六試合のうち、10%を割った日も八日間もあった。
交流戦後も、女子バレーボールワールドグランプリに押され、今月二十六日のブラジル戦が、21・8%と高視聴率だったのに対し、同日の伝統の一戦である阪神戦は8・0%と振るわなかった。
■「延長戦放映のカットもされ」
視聴率の低迷で、巨人戦の放映権料も下がっているといわれる。放映権料はホームチームが、放映するテレビ局側と交渉するが、放送評論家の志賀信夫氏は「巨人戦の放映権料は、以前は平均一億円といわれたが、今はとうていいかない。以前の巨人戦ナイターは、奪い合いだったが、今はナイターの延長戦放映のカットや、値引き交渉が行われている。これから、さらに下がることは間違いない」と話す。
それだけに読売グループ、巨人軍サイドとすれば「長嶋復帰」への期待は大きい。読売巨人軍によれば、観戦当日、長嶋氏は、バックネット後方の来賓席(バルコニー席)から観戦する予定だ。「長嶋氏サイドとまだ話ができておらず、もろもろのことが決まっていない」(巨人軍)とするが、スポーツ各紙は、復帰姿が「オーロラビジョンに映りそうだ」「ファンに直接“あいさつ”することも検討されている」(いずれも報知新聞)、「当日は選手へ直接言葉をかけることも考えられる」(スポーツニッポン)などと報道し、期待をあおっている。
当日は午後五時試合開始予定だ。中継する日本テレビは「あくまでもプライベートな観戦ですので、放送時間の変更などは考えておりません」としながらも、「長嶋終身名誉監督の体調に配慮しながら、ファンの皆さまの期待に応えられるような中継にしたい」と「ミスター効果」をあてにしている。
中継は午後六時半からだが、同五時半からの「真相報道バンキシャ!&ナイター」の中で、「これまでどおり中継で随時、お送りする予定」という。
さらに、全日本アマチュア野球連盟が今月、北京五輪の日本代表監督候補に長嶋氏の名前を挙げたのをはじめ、復帰させたいとの動きはなくならない。
スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は、巨人球団会長として球団運営に復帰した渡辺恒雄氏が、長嶋氏復帰にこだわる理由の一つが、アテネ五輪当時のように長嶋氏を旗印にした全日本チームをつくり、その人気を巨人に還元させることだとみる。
「どうしようもなく『巨人軍』のブランド価値が落ちてきている。それを引き上げる手だてが国内にはない。各チームの四番とエースをごそっと獲得してきたが成績も人気も伸びない現実がある。渡辺氏は『長嶋復帰』を一時の興行で終わらせるつもりはなく、全日本の旗印にすることをはじめ、将来どう利用するかすでに考えているだろう」
だが「現場の選手たちに『長嶋さんがいるから頑張る』という意識はほとんどないだろう。球団内部にも『長嶋復帰』に必ずしも乗り気でなかった意見があったと伝え聞く。渡辺氏やメディアの騒ぎと現場との間にはギャップがあるのではないか」ともいう。
実際、ファンからも疑問の声があがる。東京ドームで観戦していた会社員(30)は「報道された長嶋さん直筆の字を見ても、本当に治っているとは思えない。相撲の貴乃花親方が激やせしたように、容ぼうまで変わっていたら、ファンとしてはそんな姿を見たくない」と話す。
■「もっと自前の若い人育てろ」
さらに「なにも長嶋さんを引っ張り出さなくても、もっとほかにやることがある。もう少し自前の若い人を育てろといいたい。今回の『長嶋復帰』だけでなく、誰が方針を決めているのかがわからない。ファンは置き去りにされている」と不満を話す。
スポーツドクターの富家孝氏も、この時期の復帰に違和感を持った。「あれっと思った。脳梗塞の後遺症がまだ残っているのであれば、復帰を急ぐ必要はない」と体調を気遣いながら、「以前、お会いした時に華のある人だと感じたが、世間が元気だった長嶋さんに求める100%のイメージには戻ってないだろう」と効果そのものを疑問視する。
その上で「出てくることに意味があるのだろう。そこまでして長嶋氏が出てこなければいけないのは、プロ野球界の人材と魅力の不足。イチローや松井をはじめ後継者は大リーグへ行ってしまう現状から明らかで、長嶋氏に依存していても後がない」と話す。
■ゆっくりながら進みだした改革
今年はプロ野球改革元年といわれ、生き残りをかけ抜本的な議論や取り組みが求められている。交流戦でもセ・リーグは四球団で観客動員をリーグ戦より減らしたものの、全体でみれば一試合平均観客数はリーグ戦に比べ約3%増やした。共同通信の交流戦後の世論調査でも63・9%が交流戦を「面白い」と評価、「ミスターなし」でも改革はゆっくりだが、進みだした。
谷口氏は「視聴率優先で長嶋人気を利用しようとするのはメディアが球団を所有することの弊害だ。回復する姿を見て、ファンは『よかった』とは思っても、それ以上何を期待できるのか。『長嶋復帰』で人気が回復するほど安易な状況ではない」と指摘、こう批判する。
「長嶋氏の功績をたたえることは大切だが、それは球団人気回復への窮余の一策として引っ張り出すことではない。多くのファンは人寄せパンダ的な利用を望んでいないはずだ」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050629/mng_____tokuho__000.shtml